第1358話 過剰な力
ジェイさんの思惑で色々と試されてたっぽいけど、それはもう知らん! 『勝負勘』とか『直感』とか『ゾーン』とか、これまで全く意識した事はないし、どうでもいい!
ともかく、シュウさんとジェイさんで『刻浄石』の生成を終えたんだから、検証を次の段階に進めるべきだよな! 今回の共同検証の目的は俺の動き方の分析じゃなくて、『刻浄石』と『刻瘴石』の使用方法だから!
「ジェイ、とりあえずPTに戻しとくぞ」
「ありがとうございます、斬雨。さて、オマケはこれくらいにしておいて、『刻浄石』の使用をやって――」
「俺のはオマケかい!」
「……当然でしょう? 元々、『刻瘴石』と『刻浄石』の検証の為に来ているんですしね。まぁオマケではありましたが、2個連続の生成が不可なのはかなり有益な情報でしょう?」
「それは……そうだけど!」
なんだろう、この釈然としない気持ち! 言ってる事はその通りなんだけど……くっ、やっぱりジェイさんはこういう部分があるから油断ならないな!?
この話題を続けても碌な事がなさそうだし、今は気分を切り替えていこう。ジェイさんのカニはHP1だし、コケもほんの僅かしか残ってないし……浄化魔法の反動はやっぱり厳しいな。『過剰浄化・重度』のシュウさんはHPこそ減ってないけど、下手にスキルは使え……って、あれ?
「シュウさん、HPが減ってないけど……アブソーブ系のスキルは使った事にはなってない? というか、発動する素振りすらなかったとか?」
「全くの無反応だったから、そういう事になるね。何の仕様によってそうなっているかが気になるところではあるけども……」
「……吸収する余地がなくなっているとかかな? ほら、魔力値……というか魔力って精神生命体の力だけど、それがまともに制御出来なくなってる状態だよね?」
「それはあるかもしれないね、サヤさん。過剰に異物を取り込み過ぎて、機能不全を起こしているのかもね」
ふむふむ、これって何気にシステム的な理由ではなく、世界観的な理由で使えなくなってるのか? どちらも偏り過ぎると駄目なものだという話は色々と出てきてたし、バランスが崩れた状態では異常があってもおかしくはないよな。
「確かにそれは考えられる可能性ですね。そもそも『纏瘴』も『纏浄』もデメリットを内包している纏属進化ですし、そこからの悪化状態だという事を考えれば、他の精神生命体の力を取り込む余地はなくても不思議ではありません」
「……ちょっとした疑問だが、その状態に瘴気魔法を撃ち込めばどうなる?」
「……私はHP的に死にますが、シュウさんは『過剰浄化・重度』が軽減するかもしれませんね。試してみますか?」
「あ、それなら試さなくても大丈夫! 『過剰浄化・重度』の状態で『纏瘴』を使ったら回復するのは……およ? 言ってて思ったけど、これ、瘴気魔法じゃないね?」
「確かにそれはそうですが……その件は、灰の群集でも検証済みでしたか」
「およ? 青の群集でも試し済み?」
「えぇ、纏属進化での打ち消しについては、模擬戦で条件は満たせられますからね。分かっていないのは、先ほど言った件になります」
ん? なんでそこは分かってないって事に……あ、そうか。模擬戦だと1対1しか出来ないから、『浄化魔法』を使った人が更に『瘴気魔法』まで使うって芸当が出来ないからか! 『浄化の輝晶』と『瘴気の凝晶』は、3時間ほど空けなきゃ使わせてくれない仕様だもんなー。そりゃ模擬戦じゃ検証は出来ないよね。
「えーと、ケイ? これ、検証出来ないのってなんでだ?」
「模擬戦だから」
「いやいや、だからそれでなんでだって話なんだけど!?」
フラム、理由を理解してないんかい! そもそもそこでなぜ俺に聞く? あー、面倒くさいし、スルーして……って、アーサーもこっちを見てる? あ、アーサーも地味に分かってないのか!?
はぁ……フラムが言った事で聞きにくそうな感じだし、ここは流れ的に説明しとくか。ただ、少しは自分で考える方がいいだろうから、こうしよう。
「……ジェイさんが今、『纏瘴』を使えると思うか?」
「……へ? そんなもん使えないに決まって……あ、模擬戦でもそうなるのか! あー、なるほど! だから試せてないんだな!」
フラムは今ので分かったみたいだけど、アーサーは……おっ、なんか納得するように頷いてるから、今ので通じたっぽいね。よかった、よかった。
「その件は確かに僕らも試した事はないけども……スミさん、それを試す意味があるのかい? それが成立する時は、敵を回復させる状況だよ?」
「ふん、それくらいは分かっている。だが、こっちならどうだ? ジェイ、その状態でアブソーブ・アースは展開可能だな?」
「……なるほど、シュウさんではなく、私の方で試してみる訳ですか。スミ、もし失敗すれば死ぬのですが……?」
「それくらいは承知の上でやれ。ケイを間接的にとはいえ、殺そうと画策していたんだからな」
「……それもそうですね。そういう事でしたら、いっそケイさんに瘴気魔法の発動をやっていただきましょうか」
「へ? え、そういう流れでこっちにくる!?」
スミからの提案というのがなんとも微妙な気分になるけど……内容的には興味はあるよね。『過剰浄化』の状態でアブソーブ・アースで瘴気魔法を吸収すればどうなるか……か。ちょっと瘴気の方が多くなる気はするけど、それでも今までとは何か違う事が発生しそうではあるよな。
「ケイ、試してみる価値はあるんじゃねぇか? 瘴気と浄化の力を合わせれば何かありそうだというのは、前から推測はされているとこだからな」
「確かにそれはそうだよねー。赤の群集でもその辺は全然不明なとこだけど、競争クエストでの勝利演出を見る限り、併せ持った時に力が増大してる感じだし?」
「あ、死んでもすぐに戻ってこれるように、ここに転移の種を設置しておきますので、その間にどうするか決めて下さいね」
「シュウさんがこの状態で『纏瘴』を使っても、『過剰浄化・重度』が回復するだけで解除になっちゃうからねー! 青の群集の人には出来ないし、今の状況だと実行可能なのはケイさんだけかも?」
「……あー、そうなるのか」
条件的にジェイさんが吸収出来る土の瘴気魔法を撃てるのは俺だけなんだな。うーん、シレッと色々と企んでたジェイさんだけど……まぁ、今回のは本当に気になる部分なのは間違いない。どうやっても、他の群集の人と協力しないと実行は不可能なんだし、ここでやってしまうのがいいかもね。
「おし、分かった! そういう事なら、やってみるか!」
「それでは決まりですね。『纏瘴』をお願いしますよ、ケイさん」
「ほいよっと」
元々の予定にはなかった検証内容だけど、今だからこそ実行の条件が整っているとも言える。下手すりゃジェイさんが死ぬけど、まぁ転移の種を植えて戻ってこれるようにしてるんだから、そこは問題なし! よし、それじゃ始めるか!
<『瘴気の凝晶』を使用して、纏属進化を行います>
インベントリの中から、纏瘴にする為のアイテムを使用! さーて、これで纏属進化が始まって、禍々しい瘴気に包まれていくね。コケもロブスターも両方が瘴気属性を帯びるから、結構見た目は変わるんだよな。
<『同調激魔ゴケ』から『同調激魔ゴケ・纏瘴』へと纏属進化しました>
<『同調激強ロブスター』から『同調激強ロブスター・纏瘴』へと纏属進化しました>
<『瘴気制御』『瘴気収束』が一時スキルとして付与されます>
よし、纏属進化はこれで完了。ま、これで瘴気魔法を使えば俺は『瘴気汚染・重度』になってしまうけど、そこはまぁ仕方ない。てか、浄化魔法よりも瘴気魔法の方がデメリットは大きいんだな? 浄化魔法は撃っても、過剰負荷で纏浄の強制解除としばらくの移動制限だし……って、十分大きなデメリットか。てか、意識してなかっただけで、そのデメリット状態が『過剰浄化』になるんだな。まぁその辺はいいや。
「おし! それじゃ――」
「ケイさん! PTから抜けないと意味ないよー!?」
「あ、そういやそうだった」
危ない、危ない。ジェイさんは既に連結PT内に戻ってきてるんだから、俺かジェイさんがPTを抜けなきゃいけない状況だったよ。ハーレさんに言われなきゃ、そのまま使って無駄撃ちにするところだった。
<ケイ様がPTを脱退しました>
という事で、一旦PTから抜けておいて……よし、始めるか!
「それでは始めましょうか。『アブソーブ・アース』! くっ、少し回復したカニのHPもコケの群体も、1つを残して消し飛びましたか!?」
あー、やっぱりこれでもスキルの使用にはなるから、しっかりとデメリットは発生しているっぽいね。冗談抜きでこれから使う瘴気魔法の発動の吸収に失敗すれば、そのまま死亡か。
でも、アブソーブ・アースの展開は出来ているんだし、吸収が出来ないって事はないはず!
「……これで、どうなるのかな?」
「何か新しい他のアイテムが生成されるとか、ありそうかも?」
「ワクワク! どんな事になるのか期待なのさー!」
今回はハイテンションになりそうなルストさんは声的には静かだけど……空中に生成してる石に根でぶら下がって、木を揺らしながらスクショを撮ってるから、見た目的には全然落ち着かないわ! うん、もうそっちは見なかった事にして進めていこう。
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 123/124(上限値使用:1): 魔力値 307/310
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を2消費して『瘴気収束Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 121/124(上限値使用:1)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
狙うは、アブソーブ・アースを展開しているジェイさん! 生成した小石と、収束している瘴気が重なって……。
<『瘴気魔法:ミアズマ・アース』が発動しました>
よし、ちゃんと禍々しい土がジェイさんの方へ向かって進んでいるし、しっかりと吸収もされている! ……さて、ここまでは狙った通りに動けているけど、ここからどうなるか!?
「おぉ!? 禍々しい瘴気を纏う土を吸収していますが、ジェイさんのカニとコケからも浄化の光が溢れ出てきていますね!? これは今までに見たことのない光景!」
流石にこの光景を前にして黙っていられなくなったか、ルストさん。でもまぁ、俺の方からは向き的に瘴気魔法の禍々しい様子ばかり見える状態だから、そういう意味では状況の説明は助かる!
<瘴気の過剰使用により、『瘴気汚染・重度』の状態異常になりました>
<HPの回復が不可になり、行動値と魔力値の回復速度が大幅に低下します>
<『瘴気汚染・重度』により、効果時間切れ以外での纏属進化・纏瘴の解除が不可になります>
くっ! 発動が終わったら、やっぱりそうなるよなー! あー、これでしばらくは俺もまともに行動不可になっちゃったか。まぁこれは分かってた事だからいいとして……。
「ジェイさん、どうなった!? 吸収自体は出来てたし、死んではいないっぽいけど――」
「……『過剰浄化』が回復したのもあるのですが、『瘴気結晶』とやらが生成出来ましたね」
「『瘴気結晶』? え、どういうアイテム?」
「効果はまだ分かりませんが、とりあえず実物を出してみますね」
「……どれどれ?」
てか、普通にジェイさんが動けるようになってるから、本当に『過剰浄化』は回復したみたいだし、瘴気に汚染された様子もない。……それらは生成されたっていう『瘴気結晶』とやらの材料になった?
「およ? なんか色は禍々しいけど、処理済みの瘴気石や瘴気珠っぽい感じだね? それを大きな結晶にした感じ?」
「これ、もしかしたら完全体用の瘴気石のシリーズのアイテムじゃない? レナも言ってるけど、どうも瘴気石や瘴気珠の系統にあるものな気がするよ?」
「えぇ、私もそれは思っていたところなので弥生さんに同意なのですが……」
うーん、アブソーブ系スキル自体がまだ入手が早過ぎる感じのするスキルだし、『瘴気石』や『瘴気珠』自体が纏瘴と纏浄を駆使して強化していく代物だから、他の生成手順がこれという可能性はある。あるけども……。
「もし、そうだとすると……効果の試しようがないんですよね」
「ですよねー。成熟体の上限Lvの個体とか、進化させる以前に死ぬわ!」
「まぁそれもそうですし、これまでの経験則から行けば更にこれを強化して初めてフィールドボスの誕生に使えるようになるので……現状では無意味ですね。再戦用だとしても、そもそものボスがいませんし……。これ、どうしましょうか?」
生成したのはいいけども……どう考えても現状では扱い切れない代物っぽいのは、本当にどうしよう? いや、まだこの『瘴気結晶』が『瘴気珠』の上位版と決まった訳じゃない! 何か別の用途があったとしてもおかしくはない……けど、その用途そのものが今の段階で使えるかどうかが怪しい!?
あー、どう考えてもまだ普通に気軽に手に入る段階じゃないのだけは確かだよな。どれだけいるんだよ、アブソーブ系スキルを持ってる人。それなり人数は増えてきてるだろうけど、それでも気軽にホイホイと生成出来るものじゃないよな、これ。
「ひとまず、それはジェイさんが保管していてくれればいいんじゃないかい?」
「私が預かるのは構いませんが……ケイさん、よろしいですか?」
「俺もいいぞー。ジェイさんの事だから、絶対に他の使い道を探るだろうし、その成果報告があるならって条件付きにはしとくけど!」
「……まぁそれくらいの条件なら引き受けましょうか。それではこれは私が預かっておきますので、本来の検証に戻りましょうか」
「だなー。さて、検証用の敵を――」
「それでしたら、少し先にウミガメが泳いでいますので、そちらでいかがでしょうか? 識別はしておきましたので、Lv17だと確認は取れていますよ!」
「ちょ、ルストさん、いつの間に!?」
盛大にスクショを撮りまくってたと思ってたのに、しっかりと敵を見つけて識別までしてるとか!? いや、もう識別済みって戦闘は大丈夫か? あー、でも襲ってくるタイプならもう襲ってきてるし、大丈夫なんだろうね。
「よし、それじゃそのウミガメに『刻浄石』を使うところからやっていくか! シュウさん、使用するのは任せてもいける?」
「……今は下手にスキルが使えないし、使用は誰かに任せたいところだね。弥生、頼めるかい?」
「任せて、シュウさん!」
『瘴気結晶』の生成は条件的に今だから出来た事だけど、その効果の予測内容を考えると……脱線なのか微妙なところだよなー。まぁそこは気にし過ぎても仕方ないし、とにかく本題へ戻っていこう!
そういや、キャラの移動制限がかかるのは『過剰浄化』の効果ではないっぽい? あれは浄化魔法の使用に対するデメリットになるのかもね。
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