第1357話 刻浄石の生成
考えろ! とにかく、必死で考えろ! 2個目の生成が根本的に不可能だという可能性に賭ける事も出来るけど、そもそも弥生さんに襲われるという状況自体の可能性を無くしてしまいたい!
スリムさんに役割を変わって……いや、それじゃ自分が嫌な事を他の人に押し付けてるだけだ! 何か、いい手段は――
「あー、ケイ?」
「フラムはちょっと黙ってろ!」
「これは聞けって!」
「また余計な事でも言う気か!?」
「いやいや、真面目に聞くけどよ、ジェイさんが生成するのじゃ駄目なのか?」
「そんなの駄目に……はい? え、今、なんて言った?」
「いや、だから、シュウさんじゃなくて、ジェイさんが生成するのじゃ駄目なのかって疑問なんだけど……」
落ち着け、俺! 今のフラムの提案なら……ジェイさんならアブソーブ・アースは使えるし、俺とシュウさんが土の昇華は使えるから……複数個の生成を試す事自体は出来るよな? よし、これだ!
「フラムにしては、珍しく役立つ事を言ったな! その案、いただき!」
「おい!? 俺の扱い、ひでぇな!?」
「それは日頃の行いが原因なのでは?」
「俺もそう思うよ、フラム兄」
「水月もアーサーも酷いな!?」
ふぅ……まさかフラムに助け舟を出されるとは思ってなかったけど、これならジェイさんが却下する理由はないはず! 弥生さんが誰かを襲う状況を作るのはよくないしな!
「……冷静さを欠けば、その可能性はスルー出来るかと思っていたんですけどね。余計な事をしてくれましたね、フラムさん」
「……へ?」
「おいこら、ジェイさん!? 気付いててわざとか!?」
「ここで弥生さんを、ケイさんへのリベンジ狙いから外そうかと思っていたんですが……」
「……ふん、何か企んでいると思っていたら、そういう事か」
何やってくれてんの、ジェイさん!? あ、でも、シュウさんの方がそれほど拘りそうにないし、ここであっさりと弥生さんに仕留められてた方が後々では楽になった可能性も……!? くっ、そのまま狙われていた方がマシだったのかも!?
「はぁ……ジェイさんの思惑に乗っていこうかと思ったら、こうなったか」
「あはは、確かにそれで満足してた可能性は否定出来ないかも?」
「……マジっすか」
くっ、アルも分かった上で死なないようには手を打ってくれていて、弥生さん自身もそれで満足してた可能性はあったのかよ! ……これ、フラムの一言は、結果的に助けになってるのか微妙じゃない?
「まぁこういう流れになった以上は、私が生成した方がいいでしょうね。シュウさん、それで構いませんか?」
「僕は構わないけども……それはケイさんに聞くべきじゃないかい?」
「という事ですが、ケイさん、いかがですか?」
「すごい2択を選ばせてくるんだな!?」
別に初めにジェイさんが提案した通りにする選択肢も無くなった訳じゃないし、大人しく弥生さんに殺されるというのも可能ではあるはず。……流れを把握したからといって止められるなら、そもそも事故的にシュウさんが死んだとしても平気なはずだろうしさ。
ただ、この状況でその選択肢は選びにくいよな……。他の選択肢がある上で、シュウさんが死ぬ可能性を選ぶ訳だし……いや、あえてそれを選んで、弥生さんに殺された方が楽なのかも?
あー、ジェイさんに生成を任せた場合に何か問題点はあるのか? 根本的に共同調査の内容にはなるし、『刻浄石』の生成やその際に『過剰浄化・重度』になるのを知られるのは問題ないし、もう内容自体は知ってるはず。
死ぬ可能性があるのはジェイさんも同じだけど……暴走する弥生さんに相当する危険性はない。でも、この流れでジェイさんに任せるのは……なんか後が怖いなー。何か他にも企んでそうなのが……。
「おー、なんか葛藤してんな、ケイ!」
なんかまた鬱陶しい声が聞こえてきたけど、これはスルーで! 助け舟かと思ったら、結局は泥舟じゃねぇか! 見えている地雷を踏みにいくか、見えていない地雷源の中に突っ込むか、そういう2択になっただけじゃん!?
「あの、ケイさん? 私は特に何も企んではいませんからね?」
「ついさっきまで企んでたのに、それを信用しろと!?」
「ははっ! 今のジェイには、説得力がねぇな!」
「……そう言われると、否定出来ない部分ですね。確かにそれは、私も絶対に疑いますし……」
むしろ、何も企んでない発言で余計疑わしくなったんだけど!? あー、もう気構えが出来る地雷に突っ込んでいった方がマシな気がする。いっそ、無惨に弥生さんに殺されて、スッキリと終わらせるか! 死んだら死んだで、浄化魔法での『過剰浄化』はリセットになるだろうし、デメリットでもないよな! よし、決めた!
「生成は、シュウさんに頼んだ!」
「……万が一の時は、いいんだね?」
「問題なし! むしろ、死んで『過剰浄化』をリセットしてくるつもりでやる!」
「あぁ、そういう手もありましたか。ケイさん、順番代わります?」
「ちょ!? そこで、そうくる!?」
「えぇ、シンプルに見落としていた部分なので。死ぬのを前提にするのは、普通にありですね」
「……へ?」
さっきまで俺が悩んでた意味は!? 順番は変わらないという前提で考えてたのに、そこがあっさり覆されたんだけど!?
「……もう面倒だ。時間の無駄だし、今の順番でさっさとやれ」
「まぁそれもそうですね。斬雨、PTリーダーは渡しておきますよ」
「おうよ」
今のスミの一言でもう役割は確定になったっぽい。……まぁ今のを言いたくなる気持ちは、正直分かる! なんか変に混乱させてすみませんでした! でも、原因はジェイさんになると思うんだけどね!
あ、ジェイさんが連結PTの中から抜けていったか。まぁ同じPTや連結PT内ではダメージが発生しなくなるし、『刻浄石』の生成の為にはこうしなきゃいけないもんな。だからこそ、死亡云々がある訳だけど……。
「では、始めましょうか、シュウさん。『纏属進化・纏浄』!」
「そうだね、それじゃいくよ。『アブソーブ・アース』!」
ジェイさんは浄化の光を纏うように纏属進化を行なっていき、シュウさんは自身の周囲に土属性の魔法を吸収する砂の膜を展開していく。……1回目の生成は、特にこれといって問題は何もないはず。
「『刻浄石』の生成は初めて見ますし、これは是非ともスクショに収めなければなりませんね! 前回は海溝を撮りに行くのを優先していましたし、是非ともここで――ぐふっ!」
「ねぇ、シュウさん? 今度から共同で検証する時は、ルストは置いてこよっか」
「流石に脱線が多いし、その方がいいかもしれないね」
「あ、わっ!?」
「ちょっと待って下さい!? 前回は海溝を撮りにいくのを優先はしましたが、ケイさん達が絡む新発見の内容には興味がありますよ!? いえ、検証そのものは正直どうでもいいのですが、その結果として出てくる景色というものは他には代え難いものもあり、新たな光景へと繋がる第一歩になる事も――」
「だーかーらー! 静かにしてなさい!」
「ぐふっ!」
今のルストさん、盛大に『検証には興味ない』って言い切ってたなー。というか、こうやって止めてる弥生さんに、この後で殺される可能性があるのかー。
うん、なんだか釈然としない気分。いやまぁ、弥生さんの暴走って自発的にやってる訳じゃないし、抑えようとはしてるもんね。……多分、今回止めれそうにないってのは、シュウさんを殺してしまう可能性以上に……俺が勝ち越してる状況が大きい気がする。霧の森ではギリギリではあるけど逃げ切ったし、峡谷エリアでは本当に倒しちゃってるもんな。……我ながらよく倒せたね、あの時。
「はいはい、2人共もそこまで! それ以上やるならスクショを撮るのは禁止で、敵の確保に行ってきてもらうよー?」
「っ!? それは困りますし、黙っておきます!」
「私までレナに怒られた……」
レナさんの一言で、すんなり収まったな!? あー、何気に人間関係的に一番強いのはレナさんなのか。……やっぱりとんでもないな!?
「という事で、ササっと生成は済ませちゃって! 脱線が多くて移動速度を上げてきたのに、更に脱線しまくってちゃ話にならないからねー! 場合によっては、ケイさんが死にそうだしさー」
「……レナさん、そこをどうにか止めてくれない?」
「うーん、止められるなら止めたいんだけど……暴走した弥生ってわたしでも手に余るからねー。穏便に止められるの、知ってる限りでシュウさんだけなんだけど……。特にリベンジに燃えてる時なんかだと、余計に手がつけられないんだよね」
「……マジか」
うん、もうどう足掻いてもシュウさんが死ぬ事になれば、俺が襲われるという状況は回避出来ないっぽい。……くっ、なるようにしかならないか!?
「おい、ジェイ! いつになっても始まらんから、もうさっさとやれ!」
「……その方が良さそうですね。始めますよ、シュウさん」
「すまないね、色々と」
「いえ、たまにはこういう時があっても構いませんよ。何かと新鮮ではありますしね。『並列制御』『アースクリエイト』『浄化の光』!」
「さて、まずは1個目の生成だね」
スミが痺れを切らしたかのような声から、一気に動き出したなー。……なんか、脱線させまくってすみません。
今は気分を切り替えて、目の前の事に集中しよう! ジェイさんが放った浄化魔法の『ピュリフィケイション・アース』を、シュウさんのアブソーブ・アースが吸収していき……おー、これは一度見た事がある光景だけど、吸収してる状態自体はそれほど劇的な様子ではないんだよな。浄化魔法が消えていってるだけだし。
「さて、生成は終わったけども……『過剰浄化・重度』になるのは避けられないね」
「こちらも『纏浄』の強制解除と『過剰浄化』は避けようもないですね。アルマースさん、しばらく乗せていただいてもよろしいですか? 流石に海中に沈んだままはマズいでしょうし……」
「ま、そりゃそうだな。『根の操作』!」
「ありがとうございます。ここなら、安全でしょう」
それは、この後の状況次第ではジェイさんも巻き込まれるからか? よし、ジェイさんがPTに戻る機会を作らず、巻き込む方向でやってみようか。それなら――
「さて、これで2個目の生成をやってみようか。『アブソーブ・アース』!」
おし、すぐにシュウさんがアブソーブ・アースの再展開を……って、あれ? 展開……されてない?
「……シュウさん? えーと、アブソーブ・アースの発動は?」
「どうやら『過剰浄化・重度』の状態では新たに展開出来ないみたいさね」
「おや、そうなるのですか? それは、風でも無理なのでしょうか?」
「……どうだろう? 少しやってみようか。『アブソーブ・ウィンド』! ……駄目みたいだね」
「……なるほど。そういうデメリットがあるのは発見ですね」
えーと、この状態ではどうやっても2個目の『刻浄石』の生成は不可能って事か? てか、よく考えたらシュウさんは風でも吸収出来るんじゃん!? 俺以外でも、ハーレさんやジャックさんでもどうにか……あっ!? 分かってて黙ってたな、ジェイさん!?
「よかったじゃねぇか、ケイ。これで、死ぬ心配はなくなったぞ」
「そりゃそうなんだけど……ジェイさん、やっぱり俺じゃなくてもよかったんじゃね!? 風の吸収でもよかったんじゃ!?」
「……本当に、妙なところで察しが悪いところがありますよね、ケイさん。敵対して戦った時に咄嗟の判断には困らされるというのに……」
ちょ!? そういう言い方が返ってくるって事は、本当に気付いた上で伏せてたっぽい!? くっ、何か企んでそうな気はしたけど、その内容はこれか!?
「シュウさん、ケイさんのこういう反応はどう考えます? 今まで色々と驚かされる事は多々あるのですけども、偶に変な反応もあるのが気になるのですが……」
「……そうだね。ケイさんは、無意識のうちに危険なものかどうかの判断をしてるんじゃないかい? 言い方を変えるなら、勝負勘とか直感とかその辺りだね」
「その勘が働いている時は、桁違いに集中力や発想力が上がるという事ですか? それ、非常に対応が難しくなるのですが……」
「感覚的なものだけど、そういうのは確実にあるからね。今回は、襲われる事がないと直感で判断してたんじゃないかい?」
「ちょ!? え、そういう話!?」
そんな自覚、まるでないんだけど!? あ、でも戦闘中だと変に色々と思っている事を口に出す癖は出てこなくてなるみたいだし、何か自分の中でスイッチでも切り替わってたりするのか? ……うーん、分からん!
「そういう話なら、シュウさんや弥生にも近いとこはあるよねー。ほら、シュウさんは弥生が傷付けられた時はとんでもないし、弥生も暴走しちゃうしねー?」
「……あはは、まぁそういう時は妙に頭の中はスッキリとはしてるし、時間は長く感じたりはするね」
「私は何も考えずに動くようになっちゃうから、ちょっと違う気はするかも?」
「ふん、いわゆる『ゾーン』というやつか」
えーと、スミが言った『ゾーン』って集中力が極限まで高まった状態だっけ? スポーツ選手とかそういうので聞いた事はあるけど……え、そんなのになってんの、俺!?
「……相当に厄介な事をしてくれているようですね、ケイさん。本気で追い詰めれば追い詰めるだけ、逆効果になり得るとは……」
「そう言われても知らないって!? そんな事、意識してやった事ないからな!?」
あ、でも……峡谷でシュウさんと弥生さんを倒した時は、本当にそういう感じだったのかも? あの時の集中力ってとんでもなかった気がするし……?
あー、考えても分からん! てか、分かったところで意味があるとも思えないし、仮にそうだったとしても俺には損な事じゃないからどっちでもいいわ!
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