第1355話 狂った予定
「ちょ、ルストさん!? 『刻浄石』を使うなら生成からしないといけないのに、まだ早いって!?」
「そうなのですか!?」
「そうなんだよ!」
もう戦闘が始まってしまってるし……思った以上にデカいな、ヒラメ! ルストさんが尾びれを根で巻きつけて上に吊り上げてる状態だけど、ビチビチと跳ねてて、1メートルくらいはあるじゃん!?
「すみません! それでしたら、このヒラメはどうすればよろしいでしょうか!?」
「そんなもん、ぶっ殺して仕切り直し――」
「フラム、電気魔法は撃つなよ!? これ以上、状況を混乱させるな!」
「おいおい、ケイ! 水の中から出てる魚に警戒し過ぎ――」
「海水が滴り落ちてて、普通に海に繋がってるのが見えんのか!?」
「……あ、マジだ。悪い、悪い!」
「だー! コイツは!?」
ルストさんが先走って動いてしまったのもだけど、そこからフラムまで余計な事をしようとするって無茶苦茶じゃん!? あー、ギリギリだけどなんとか止められてよかった。危うく、大量の敵を相手にする状況になるところだったよ。
「……すまないね、ケイさん。ルスト、先走り過ぎだよ」
「……申し訳ありません、シュウさん。ケイさんも、これは本当に申し訳無い事を――」
「気持ちは分かったから、その状況で土下座するのはやめて!? そのままでいいから、ヒラメを捕まえといてくれる方が助かるから!」
「そうですか! 了解しました!」
この状況は本当に焦るな!? とにかく、今は……どうするのが正解だ? えぇい、予想外の方向から変に調子が乱されていかん!
「ケイ、落ち着いてかな! 識別はしたけど、このヒラメはLv15だから、検証の対象としては不適格だよ」
「マジか!? サヤ、助かる!」
ふぅ……サヤから識別情報を聞いて少し落ち着いた。このエリアには入ったばかりの場所だから、まだ最低でも必要だと考えているLv 16を下回っていたんだな。……よし、そうと分かればやる事は1つ!
「とりあえずこのヒラメは検証には使えないから、すぐに仕留める! サヤ、物理型と魔法型のどっちだ!?」
「属性は無かったから、物理型で確定かな! 特性に『斬撃』と『打撃』を持ってた!」
「ほいよっと! あー、折角だから実験も兼ねる! ハーレさん、水月さん、スミ! とりあえず単発で魔法弾の準備!」
「おぉ、早速やるんだ! それじゃ一旦、アルさんの上に戻るのさー! ケイさんの魔法でやるんだよね!?」
「あー、そりゃそうか。アル、ハーレさんの引き上げを頼んだ」
「おうよ。『根の操作』!」
「ふっふっふ、いっくのさー! 『魔力集中』『魔法弾』!」
即座に倒すとしても、この機会を逃すのは勿体無いからな。フィールドボスに相当する何かになった時にぶっつけ本番で試すのじゃなくて、事前に1回は使う機会があった方がいいだろ! さて、ハーレさんの準備は済んだけど、水月さんとスミに魔法を提供するのを誰にするかだけど……。
「ジャックさん、暴風魔法はいけるか!? この際だから、『風属性強化Ⅲ』の効果がかかった最大威力の『ゲイルスラッシュ』を魔法弾にした状態を見てみたい!」
「……いいだろう。その代わりと言ったらなんだが、ケイさんの方も『ウォーターハンマー』を、単体で見せてくれ」
「おし! それは了解!」
2人で応用魔法スキルを使えば、格上とはいえ雑魚敵相手だからオーバーキルになる可能性もあるけど、まぁそうなったらそうなった時だ。どの程度の威力かを確認したいって側面もあるし……おっと、すぐにジャックさんも上がってきたね。
「ふん、半端な威力はいらん。ジャック、白の刻印で増幅をしろ。確か、ここに来る前に切り替えてただろ?」
「……オーバーキルになっても知らんぞ?」
「それなら、そういう結果が出るだけの事だ。『魔力集中』『魔法弾』!」
「……それもそうか。ケイさん、それでいいか?」
「まぁオーバーキルの可能性は考えてたから、そこは問題なし! 俺も最大威力にしとくか」
よく考えたらLv10の俺的には格上だけど、ジャックさんはLv14だからそれほど格上でもないんだよな。まぁこのヒラメに役目はないんだし、ササっと終わらせよう。人数が人数だから、格上でも雑魚敵だと経験値はあんまり期待出来ないだろうしさ。
「ケイさん、水月さんには僕が魔法を出すのでいいかい?」
「頼んだ、シュウさん!」
「私への魔法の提供はシュウさんですね。了解しました! 『魔力集中』『魔法弾』!」
「頼まれたよ。さて、それじゃ一旦降りて……折角だし少しこれを試してみようか。『魔法砲撃』『アースクラスター』!」
「……へ? あ、そういうのもあり!?」
「試しにやってみたけど……これは流石に無理みたいだね」
「どうやらそのようですね」
流石に内容的に焦ったけど……クラスター系の魔法は魔法弾には出来ないみたいだね。いや、これは既に魔法砲撃を使っているから不可能になってるとか?
あー、色々と可能性を考えるのもありだけど、溜め時間がかかるんだし、先にこっちをやっていこう。
<行動値を5消費して『白の刻印:増幅』を発動します> 行動値 119/124(上限値使用:1)
これで俺のHP表示の下に白い杖のマークが表示された。これ、本体のどこかにも同じマークが刻まれてると思うんだけど……どこにあるんだろ? あー、コケの方だと自分じゃ見えないのかも? まぁそれはいいや。
<行動値30と魔力値76消費して『清水魔法Lv1:ウォーターハンマー』を発動します> 行動値 91/124(上限値使用:1): 魔力値 234/310
<『ウォーターハンマー』の魔力凝縮を開始します>
目の前に水球の生成と凝縮が始まったし、白の刻印の効果が出て白光にも光り出したね。これであとは溜めが終わるのを待てばいい。
「おし、俺もやるか。『白の刻印:増幅』『ゲイルスラッシュ』!」
さてと、属性違いではあるけどジャックさんの方も魔力凝縮が始まったから、少し待機だな。えーと、ヒラメを捕まえているルストさんの方は?
「中々暴れるではありませんか、このヒラメは! ですが、私がその程度で離すとでもお思いなのでしょうか!?」
うっわー。なんかヒラメが暴れ回って、銀光を放つヒレで切りかかっていってるのを、ルストさんは上にジャンプして躱してる。ヒラメの尾びれを掴んでいる根の位置だけは一切変えずに、ヒラメの攻撃する方向とは逆側に移動って……やってる事がとんでもないな!?
「うー、やらかしたくせに調子に乗ってるルストを思いっきりしばき倒したい! でも、今それをしたら迷惑になるし……」
「弥生、今は任せてのんびりしてよう?」
「……そだねー、レナ。シュウさん、水月さん、ルストごと思いっきりやっちゃって!」
「いえ、ルストさんは倒せませんけども……」
「あれはそういう気持ちでという事だよ、水月さん。まぁ後でお仕置きが必要なのは確実だけどね」
「シュウさん!? このヒラメは責任を持って捕獲し切りますので、それでご勘弁願えませんでしょうか!?」
「だそうだけど……ケイさん、どうだい?」
「そこで俺に振ってくる!?」
いやまぁ、今回の指揮は俺って事になってるからなんだろうけどさ。……うーん、ルストさんの独断専行ではあったけど、ぶっちゃけ結果的にはやる事自体は変わらないんだよな。
フラムが大量に敵を呼び寄せてたら問題だったけど……このままルストさんがしっかりと捕獲しといてくれるなら、責任を取ったとは言えるか。なんだかんだで、ルストさんの案内が全く役に立ってない訳じゃないしさ。
「……次はないって事でよければ、今回は不問にしといてくれ!」
「ケイさんがそれでいいなら、僕はそうしようか。よかったね、ルスト」
「ケイさん、ありがとうございます! えぇ、意地でもこのヒラメは捕まえ続けてみせましょうとも!」
「おー、頑張ってくれ!」
うん、更に動きのキレがました気がするし、この様子ならルストさんがヒラメを逃す事はないだろ。というか、ルストさんの根の操作って地味にLv7なんてもんじゃなく、もっと高Lvになってない? それこそLv10になってても不思議じゃないくらいの動きなんだけど……。
「なぁ、マムシ。ルストさんに攻撃を当てられる気はするか?」
「……いや、正直に言えば1人では無理だな。最低でも2人で行動を誘導したいとこだが……そういう斬雨はどうだ?」
「……俺も同感だ。以前、サヤさんやレナさんに凌がれた事はあったが、あの時以上に当てられる気がしねぇ」
「私、あそこまで無茶苦茶な動きはしてないかな!?」
「およ? あの奇妙な動きと同じは心外だね?」
「いやいや、躱される方からしたら似たようなもんだぜ?」
うんうん、確かにサヤの動きもレナさんの動きも、人並外れて結構おかしな動きはしてるもんなー。まぁ絶対にこれは口には出さないけど――
「ケイさん……それ、既に遅いけど?」
「……へ? あ、ヤバっ!?」
「ケーイー!?」
くっ、こんな時に悪癖は出なくていいのに!? でも、これを溜めてる最中って動け……動けるわ! あ、これってウォーターフォールを使った時と同じで、『水属性強化Ⅲ』の効果が出てるのか! よし、これなら!
「あ、ケイさんが逃げたのさー!」
「逃がさないかな! 『略:突撃』!」
「おいこら!? ケイもサヤも、人の上で走り回るな!」
くっ! 今の状況でサヤに捕まると駄目な気がする! アルが何か言ってるけど、木を盾にしつつ、クジラの上を走って逃げるのみ!
「……当たり前のように走り回っていますけど、これは地味に脅威ですね? ジャック、動けますか?」
「今気付いたが、溜めている間でも動けるな。なるほど、『風属性強化Ⅲ』ってのはそういう効果もあるとは思わなかったぞ」
げっ!? 俺も知ったばかりだったけど、ジェイさんとジャックさんに余計な情報を与えてしまったか!?
「『根の操作』! いい加減、止まれ!」
「ちょ、アル!?」
「アル、ナイスかな!」
ヤバっ!? 他の事に気を取られてたら、アルの根に捕まった!? くっ、ここから振り解く手段は――
「捕まえたよ、ケイ?」
「サヤ、待った!? さっきのはつい弾みで……怒ってるよな?」
「ううん、怒ってはないよ? でも……」
「……でも?」
「今度、ケイは徹底的に近接での特訓!」
「へ? え、そうくる!?」
「そもそも大概おかしいのはケイの操作の方だよね? あれだけ細かく動かせるなら、キャラの方も出来るはずかな!」
「……ですよねー」
流石に余計な事を言ってしまった自覚はあるし、今は大人しくしておこう。てか、理屈としてはそうなんだろうけど……近接と遠距離からの操作だと、見える範囲が違ってくるからなー。感覚的な違いがあるのは間違いないし……一回、サヤの全力で鍛えてもらうのも真面目にあり――
「およ? そういう事なら、明日にでもサヤさんとケイさんで模擬戦でもやってみる? やるなら、わたしの方で色々手配するよ」
「おー! レナさん、私は実況に立候補します!」
「「……え?」」
「たまにはそういうのも、いいんじゃねぇか?」
「そだね。サヤとケイさんの全力勝負、興味はあるかも?」
なんか特訓じゃなくて、模擬戦をする事になってきてる!? しかも近接限定でも無くなってる気がするんだけど!?
「……ケイ、どうするかな? 私は、やるの自体は別にいいけど……」
「サヤと模擬戦で対戦した事って何気にないし、ありっちゃあり?」
「それじゃそれで決定! いつやるかの相談は後にするとして……ケイさん、そろそろ魔力凝縮も終わりじゃない?」
あー、レナさんは強引に割り込む形で、今の状況を収めてくれたのか。俺の変な失言が原因ではあったけど、サヤとの模擬戦ね。意外といい機会なのかもなー。
<『ウォーターハンマー』の発動が可能になりました>
「あ、丁度終わったとこだな」
「よーし、それじゃ再開! サヤさん、それで大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫かな!」
「それならよし!」
ふぅ、これで変な流れになっていたのは完全に終了! てか、この反応のサヤなら変に逃げなくてもよかった気がするし、そもそも俺が余計な事を言ったせいだよなー。なんか、すみませんでした!
よし、とりあえずこれで切り替え! 今は目の前の事に集中していこう!
「この場合、ハーレはどの投擲がいいんだろうね?」
「爆散投擲では発動したから、貫通狙撃で発動するかを試したいのさー!」
「なら、それでいくか。いくぞ、ハーレさん!」
「はーい!」
という事で、ハーレさんが構えている手に向けてウォーターハンマーを撃ち出していく! おー、やっぱり綺麗に魔法弾に変わるもんだな。てか、今回は白く光る水球になってるし、白の刻印の効果もしっかり反映されたままっぽいね。
「ジャック、そっちも終わっただろう。魔法をよこせ」
「ほらよ、スミ!」
「……さて、これだとどの投擲がいいものか?」
球状に凝縮された風の球って、なんか見た目が凄いな。白く光ってるのもあるから、雷が迸っている嵐を手の平の上に圧縮して閉じ込めたような感じ。
というか、俺が言うのは変だけど……魔法Lv10と操作系スキルLv10の両方所持で手に入る『◯◯属性強化Ⅲ』が、思った以上にヤバいかも? 同じ属性の応用魔法スキルへの影響がかなり大きいぞ!?
「ケイさん、倒し切れなかった場合に僕らで対処するから、とりあえずそれを試してくれるかい?」
「だなー。ハーレさん、頼んだ!」
「了解です! 『貫通狙撃』! わっ!? やっぱりすぐに発動なのさー!? えいや!」
少し慌てた様子になりつつも、ハーレさんが手に持つ俺の清水魔法を投げ放っていく。銀光が既に放たれているのは変わらずだけど、これでどんな風に……って、そうなるか!?
「へぇ、まるで槍だね?」
「水だと知らないと、水には見えないかもねー」
シュウさんと弥生さんの印象と同じで、確かに水の槍が投げ放たれたっぽい感じ。それがヒラメに突き刺さって、あっさりと貫通し……って、ちょっと待った!?
<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>
<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
えぇ……2発でオーバーキルになるとは思ってたけど、まさかの俺とハーレさんだけで終わり!? ちょ、これ、思った以上に威力がありませんかねー!?
あー、スミとジャックさんの方で用意した分はどうしよ? 流石に格上とはいえ、魔法に弱い物理型の雑魚敵相手に白の刻印まではやり過ぎた?
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