第1354話 検証用の敵探し
スミの苦情とも言えないなんとも微妙な声が聞こえて、サファリ系プレイヤーの面々が転移してくるのを待ち構えている状況。まぁ気持ちは分からなくもないけど、そういうもんだしなー。
「……あー、転移を始めるぞ」
「おぉ! 海底から芽が出て、花が咲いていくのです! わっ!? ハスの花みたいなのさー!」
「この海底から伸びていく様子が面白いのですよね! この海の浅瀬という場所でありながら、海水の中を伸びていく茎と、その先で開く花! そして、その中から現れてくる黒いリスという、割と珍しい姿! 転移の種や実だからこそ、海水であっても大きく演出は変わらず、このように咲き誇るのも素晴らしい! 私としましては、次のスクショのコンテストの時のアイデアとして――」
「あ、ルスト!? それ、言っちゃ駄目!」
「ぐふっ! な、何をするんですか、弥生さん!? あ、この角度からのスクショは新鮮ですね!」
「……ルスト、改めて言っておくけども、その案は本命だからまだ変に情報を外に出さないようにね?」
「はっ!? そう言えばそうでした! 今のは失礼致しました!」
「およ? その案、気になるねー?」
「転移の種や実を使った演出、気になるのです!」
「おい、ケイ! 戻ったから、さっさと話を戻せ! このノリ、どうも合わん!」
「へいへいっと」
まぁスミの気持ちも分からなくはないし、また脱線し過ぎても困るから話を先に進めるとして……その前に、これだけは絶対にやっておこう。ここじゃ冗談抜きで死にかねないし……。
「フラム、攻撃していいって言うまで絶対に何もするなよ」
「ちょ!? いきなり名指しでなんで!?」
「……言われた理由、説明しないと分からないのか? 途中で既にやらかしてるのに?」
「へっ? ………………あっ! 電気魔法か!」
「今の妙な間が、注意した理由だよ! 全然考えてなかっただろ、お前!」
「わっはっは! まぁ誰でもド忘れの1つや2つ、あるもんだろ!」
よし! もしそうなったら、こいつだけ置いて他のみんなは俺の水で包み込んで退避しよう。フラム自身の言葉は信用出来ないから、行動を見てから判断で!
「えーと、とりあえずこれで全員が海中で戦えるようにはなっただろうから、適応が必要な人はもうやっといてくれー! 今が22時だし、今日中は効果が切れる事もないだろ」
「うん、分かったかな!」
「いきなり使用か。まぁこの為に『特性の種:海中適応』を交換したんだが……ジェイ、これで合ってるよな?」
「えぇ、海水適応の種や海水適応の実と言ったりはしますが、指し示すのはそれですからね。効果時間は2時間ありますし、何度も使えるので便利ですよ」
「……間違ってはいなかったんだな。それなら、いい」
あっ、普通に海水への適応の種のつもりで言っちゃったけど、纏海やお茶で適応してる人は……特にいなさそうだね。そういや、そもそもそも海水への適応が可能なお茶ってあるのか? ……ない気がするね?
「そういや、スミって海には全然進出してないのか?」
「土台がロブスターなやつと違って、俺は陸地育ちだっての! リスとコケで、海に行く奴がどこにいる!?」
「いや、割といる気がするけど……?」
俺らが進出した時とか1stだけの頃だから、コケ、クマ、木、リス、ハチの5人だもんなー。スミの構成種族の2種類が、その中には含まれている! というか、適応さえすれば今は誰でも行けるしなー。でも、いつもと戦い方の勝手は違ってくるか。
「海だろうが、どこだろうが、どこへでも行くまでですよ! 撮影用に2ndを作ろうかとも思いましたが、木でもその気になればどこへでも進出は可能! オフライン版の頃には種族による制限というのも大きかったですが、オンライン版では様々な手段が取れますのでね! 馴染んだ1種族で手段を増やしていくというのが、安定したスクショの撮影方法として良いものではあると、私は確信して――」
「いちいち、話が長い! あっ!」
「おっと! いつまでも攻撃を受けている私ではあり――」
「避けるんじゃない!」
「ぐふっ!」
おー、弥生さんの一撃を小型化して躱したと思ったら、続く二撃目であっさり叩き落とされた。……今の鋭い一撃を躱したルストさんもすごいけど、躱されたのが分かってからの二撃目までの速度もとんでもなく速いな。
まぁもう今日何度も見た光景だから、そこはスルーするとして……。
「えーと、陸の小型種族の人はアルのクジラの上に乗ってもらって、それ以外の人は海水の中を進んでいくのでいい? 出来るだけ、大型の人は下を進む感じで!」
「はい! ケイさん、私はどっちになりますか!?」
「あー、ハーレさんは好きな方でいいぞ」
「はーい! ヨッシ! サヤの上に乗っていくのさー!」
「え、あ、うん。サヤ、いい?」
「問題ないかな!」
なるほど、サヤの竜の上にハーレさんとヨッシさんが乗る感じで下に降りての移動か。ヨッシさんはアルの上のつもりでいたけど、まぁサヤならその状態でも問題はないだろ。
「およ? んー、まぁそこに割り込むのはなんか悪いし、弥生、シュウさん、わたし達はアルマースさんの上で待機ねー! 索敵、上からやるのでいいよね?」
「それでオッケー! シュウさん、いいよね?」
「僕も問題ないよ。フラム君も僕らと一緒に上だね」
「へいへいっと。あ、水月とアーサーは?」
「私達は、海中がいいでしょうね。いけますね、アーサー」
「うん!」
「私は海中を進んでいきましょう!」
シュウさんと弥生さんとフラムはアルのクジラの上に残り、水月さんとアーサーは下へと飛び降りてきた。バシャっと水が跳ねるけど、まぁ今はそれほど深くはないから、無事に着地は出来てるね。
「ホホウ! ケイさん、土の操作はどうしたらいいので!?」
「アルのクジラだけで乗せきれそうなら、それは解除しといてくれ! 土の操作Lv10は敵の拘束に使いたいから! スリムさんは、そのまま上で待機でよろしく!」
「ホホウ! それは了解なので!」
「まぁ、それはそうでしょうね。斬雨、私達は下に行きますよ」
「おう!」
「さて、俺らも行くぞ、マムシ」
「おうよ! 俺とジャックは行くけど、スミはこっちに残っとけよ。海中……というか、水中戦は不慣れだろ」
「……ふん、分かっている」
ジェイさんはカニとセットの状態だし、斬雨さんはタチウオなんだから海は根本的に問題はない。ジャックさんのオルトロスと、マムシさんの大蛇もサイズ的には下だよなー。そして、スミが上に残るのは自然な事か。
「ケイ自身はどうすんだ?」
「あー、どうしよう?」
他の人の配置は決まったけど……肝心の俺自身の位置が決められてないな。下に降りても全然平気だけど、今回の指揮を任せられている状況としては上から全体が見渡せる方がいい? 場合によっては電気魔法の効果範囲を制限する必要もあるし、誰がどう動くかの指示出しも必要になるから……よし、決めた。
「俺はこのまま上から、全体を見渡しながら指揮を出していく。って事で、索敵からやっていきたいけど……誰がやる?」
「そこは僕らが受け持とうかい? 道中の索敵の状況を考えると、僕と弥生が交代でやるのが一番安定していた気もするよ」
「あー、確かに? なら、シュウさんと弥生さんに任せた!」
「うん、お任せあれ! 頑張るよ、シュウさん!」
「まずは、Lv16以上の敵の確保からだね。先に僕からやるよ。『獲物察知』!」
このメンバーの中で、獲物察知と観察力を兼ね備えたこの2人以上に適役はいなかったよ。観察力だけで考えるならサヤやハーレさん、レナさん、スミ辺りが匹敵するけど……兼ね備えているのはやっぱりとんでもない。
「……明かりはどうしたらいい? というか、このネコ夫婦に明かりは必要なのか?」
「あ、スミさん、海面を照らしてもらっていい? 出来るだけ広範囲で! その方が見つけやすくはあるからねー!」
「……一応はいるんだな。アルマース、腹の下に置かせてもらうぞ」
「おう、その辺は自由にしてくれ」
そういやスミの明かりの事は全然気にしてなかったけど、弥生さんの指示通りにアルの真下から海面を照らしていく。ふむふむ、範囲が広めにしてるからか、月明かりで見える程度には海中が見える感じだね。
「シュウさん、どう? チラホラと一般生物っぽい小魚は見えてるけど……」
「流石にエリア切り替えをしたばかりの位置だと反応は少ないし、見えているのは遠い反応ばかりだけど……ここは、どうも擬態している個体が多いようだね」
「え、マジで?」
「えぇ、そういう敵ばかりではありませんが、擬態の敵が多いのは間違いないですね! そもそもとして、こういう地形の場所には砂の中や泥の中に隠れている種族が多いものです! 時折、リアルの生態を大幅に無視する個体も存在はしますが、基本的にはリアルの生態に近い種族が配置されていますからね! 逆に言えば、この場の砂を除けてしまえば、その下には大量の敵が潜んでいるという事に! そこで私からの提案なのですが、シュウさん、ケイさん、ジェイさん、スリムさんと砂の操作を大々的に扱えそうな方が4名ほど揃っているのですし、皆さんで砂の除去をしてみるというのは――」
「それ、却下!」
「何故ですか、弥生さん!? 持ち上がった大量の砂の下から出てくる、様々な生物の慌てる姿に興味はないと!?」
おっと、今度は弥生さんのルストさんの早口語りを中断させる為の攻撃を掻い潜りながら、まだ語りが続いていくよ。……なんか、今回の件でどんどんルストさんの回避精度が上がってませんかね? てか、言ってる事が無茶苦茶だぞ、ルストさん!
「それに興味はなくはないけど、それじゃ乱戦になって検証どころじゃなくなるでしょうが!」
「あっ、そういえばそうなりますか! すみません、目的を完全に忘れてしまっていました!」
「そこ、大事なとこだから、忘れるなー!」
「今のは申し訳ありま……ぐふっ!」
「あ、やっと当たった」
今の、ルストさんが躱すのをやめたから当たったって感じだったよなー。うん、木で土下座みたいな事をしようとして、そこに弥生さんの一撃が入った感じ。
「ジェイ、今ので敵を呼び寄せたりしてねぇよな?」
「まぁ危機察知持ちがいますし、そこはなんとかなるでしょう。頼みますよ、スミ」
「……分かっている」
さて、ルストさんの暴走が収まったし、本格的にどうするかを考えていこう! とりあえずルストさんの提案は冗談抜きで却下として……。
「ケイさん、とりあえず1体、識別の為に捕まえてみるかい? Lvが分からないと、やりにくいだろう? 擬態している個体なら近くにいるよ」
「ここですね! 必要とあらば、即座に捕獲しますよ!」
「もう見つけてるのか!?」
ルストさんが根で円を描くようにしながら、砂地の海底を示しているんだけど……そこにヒラメがいるのか。うーん、さっぱり分からん!
「おー! 魚がいるのです! ヨッシ、左向きに目があるのはカレイとヒラメ、どっちですか!?」
「えっと、手に持った状態で左側に目がくるのがヒラメだね。その逆がカレイ」
「そこにいるのは……うん、ヒラメだよ!」
「おー! これはヒラメなんだー!」
当たり前のようにどこにいるのか分かってるっぽいけど、マジで分からん! 本当にどうやって見分けてんの!?
まぁ今はそれはいいや。位置が分かる人がこれだけいるなら見失う事は早々ないだろうし、今のうちにこれを決めていこう。識別だけで済ますとは限らないしさ。
「ルストさん、捕獲はまだ待ってくれ。先に決めておく事があるしさ」
「そうですか! それでは捕獲が必要になった時には言ってくださいね!」
「ほいよっと」
さーて、エリア切り替え付近で敵が少ない状態で、敵が確保出来そうな状況はありがたい。とはいえ、流石にエリア切り替えのすぐ側で試すのもあれだしなー。まぁそっちの話は後にして、こっちを先に決めよう!
「場合によってはそのまま検証にも移れる方がいいだろうから……『刻瘴石』と『刻浄石』のどっちから試す?」
「まずは『刻瘴石』の方でよろしいのでは? こちらならどういう流れでもほぼ確実に戦闘になるでしょうし、気構えはしやすいですよ」
「あ、確実に戦闘になるようにするなら、それは待った!」
「……何故です、レナさん? 何か問題でも?」
ん? ジェイさんの意見は俺もいいと思ってたとこだけど……レナさん的に気になる部位があったっぽい? でも、この状況で心配する理由って……あっ、そうか! 進化するなら、進化前の特性を引き継ぐ可能性が高いんだし、これは却下! 特に今回のは未知の部分が多過ぎる!
「ジェイさん、擬態した個体はダメだ! 格上のフィールドボス相当になった敵に隠れられたら、厄介過ぎる!」
「それくらいでしたら、見分けられる人が大勢……あっ、今回に限ってはそれでは駄目ですか!? 黒の異形種への進化だとすると、どういう見た目になるかの予想が困難ですし……」
「そう、そういう部分が懸念材料! 流石に予想が出来ない部分だし……だから、それを試すなら擬態してない個体がいいと思うよ!」
「ですよねー」
あえてそういう個体を試してみたいという気持ちもあるけど……一番最初に試す事でもないか。擬態してる個体は結構いるみたいだし、検証が上手くいった時に、改めて『刻瘴石』を生成して試してみればいい。
「そうなると……個体を変えるか、『刻浄石』を試すかの2択になりますね。どうしますか、ケイさん?」
「どっちも試すんだし、先に『刻浄石』からやってみるか。こっちなら、戦闘にならない可能性もあるしなー」
まぁまずは捕獲をして、識別をしてLvを確認してからだな。あ、その前に『刻浄石』の生成からしないと駄目か。持ってるのは『刻瘴石』だけだから、まずはそこから――
「では、捕獲ですね! 『根の操作』!」
<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
……え? ちょ、まだ開始って言ってないのに、なんでルストさんはもう動いてんの!? ちょっと待て、ルストさん! 検証に使う『刻浄石』がまだないんだけど!?
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