第1353話 目的地に到着
<『名も無き未開の河口域』から『名も無き未開の海岸』に移動しました>
両岸がマングローブに覆われていた河口を通り過ぎ、エリアが切り替われば一気に視界が広がっていく。遠浅の海とは聞いてたけど……うん、普通に海。月はかなり欠けてるし、そこそこ雲が出てるから、夜としてもかなり暗めだな。夜目でなんとか見える範囲ではあるけどさ。
「……少し暗いし、明かりを用意しておくぞ。『発光』『移動操作制御』!」
「助かります、スミ」
コケを光らせて、生成した石にコケを増殖させて、更に石と光を同時に操作して動かすって……これ、俺の飛行鎧と登録内容が一緒なんじゃ!? いや、コケで光源を確保しようと思えば、この手順になるのか?
「……ふん、実際に使ってみれば便利なもんだな、灰の暴走種のこの手段」
「って、俺のパクリかよ!」
「便利そうなものを真似て、何が悪い? システム上、禁止されている行為でもなければ、何を組み合わせて使っているかも自分で分析した結果だが?」
「いやまぁ、何も悪くはないんだけど……それなら俺の手段って言わなくてもよくね!?」
「何をどう呼ぼうが、俺の勝手だろう。指図される筋合いはない」
「んー、それじゃスミさんの事は、青の模倣種とでも呼ぼうかなー?」
「おい、ふざけるな! 何の真似だ、渡りリス!?」
「え、どう呼ぼうがわたしの勝手じゃない? スミさんのさっきの言い分、こういう事だよね?」
「……ちっ!」
おぉ、レナさん! 今のはナイス攻撃! なんでここで一緒に検証しようという相手と言い争いになってるのか謎だけど……仕掛けてきたのはスミからだし、ここは俺も全力でレナさんの方に乗っかる!
「そうだぞ、青の模倣種! レナさん、これは広めよう!」
「……ケイとレナさんの反撃が酷いかな」
「あはは、まぁケイさん的にはずっと否定してた部分だしね」
「最近は『ビックリ情報箱』って呼ばれる事も少なくなってきてるしね!」
そうそう、あの不名誉な呼び名がほぼ消えたっていうのに、ここで『灰の暴走種』なんて呼ばれ続ける状況にしてたまるか! その辺の事情を知ってるからこそ、レナさんがこうやって味方をしてくれてるんだろうしさ!
「……それ、想像を遥かに超えてイラつくな。……あぁ、分かったよ。今後はケイでいいか?」
「おう、それならいいぞ!」
青の群集内部で呼ぶだけなら好きに呼んでくれていいけど、こうやって協力して動こうって時には控えてもらいたいしね。なんとかごり押しで、『灰の暴走種』呼びは排除成功だ!
「まったく、無茶をしますね、レナさん。あなたの顔の広さを考えたら、下手に敵には回せませんよ?」
「およ? それを言うなら、ここにいるみんながそうでしょ? 各群集の代表に近い立ち位置なんだし、そういう人の呼び方は定着しちゃうよ?」
「……そりゃ違いねぇな。スミは後から加わった戦力だが……競争クエストで色々と目立ち始めているから、その辺はもっと意識的にしておいた方がいいかもしれん」
「……そういう意識はなかったが、ジャックさんの言う通りかもしれんな」
終わったばかりの一連の競争クエストで、明確に頭角を現してきた筆頭がスミだもんなー。青の群集のリーダーをしてるジャックさんや作戦参謀のジェイさんと、今みたいに動いていれば必然的に影響力は増していくのは確実。それに危機察知回避の狙撃の第一人者でもあるからなー。
何気にスミには、その辺の自覚がなかったのか。まぁここ数日の話だし、実感しろっていう方が無茶ではある?
「そろそろ言い争いは終わりでいいかい?」
「あ、問題ないぞ、シュウさん!」
「……あぁ、大丈夫だ」
「本当に問題はなさそうだね。さて、スミさんの明かりで進めそうではあるけど……ケイさん、スリムさん、操作時間は平気かい? 一度も再発動はしていないけども……」
「あー、まだまだ平気。半分くらいだし」
「ホホウ! 同じくなので!」
もの凄く飛ばしまくった訳じゃないから負荷は少なめ。少なめではあったんだけど……根本的な操作時間の延長が凄まじいな! 河口域はそこそこ広かった上に川の上を通ったから遠回りだったのに、あの距離の移動でまだ半分くらいしか減ってないってビックリだよ!
「……操作系スキルのLv10の効果は凄まじいね? うーん、模擬戦で次に操作系スキルの取得を狙っていたんだけど……ラインナップから消えたのは痛いね」
「だよねー。後から取れるつもりで、シュウさんは後回しにしてたのに……」
「まったくだっての! どこのどいつだよ、八百長をしやがったの!?」
「あー、シュウさんってそういう順番にしてたのか」
フラムが怒ってるけど、どうせほぼ確実に負けて取れる見込みがない奴が怒って意味あるのか? まぁフラムの事はどうでもいいとして……シュウさんはトーナメント戦での『スキル強化の実』入手を考慮した上でのアブソーブ系スキルの2つ取得だったのか。
ある意味、歯止めが効かなさそうなシュウさんの強化が止まってホッとすべきところ? ……運営、実はシュウさんみたいな人が出てきてるから、八百長って事にしてラインナップから消したとかない? うーん、これは流石に邪推かな?
「まぁ僕の事は置いておいて……検証をどういう手順でやっていくかだね。……見た感じ、見渡す限り海だけども」
「夜だから、海中が上手く見通せないねー? ルスト、ここってどのくらいの深さ?」
「今で弥生さんの普段のサイズでギリギリ歩ける程度ですね! まぁ潮が満ちてきているタイミングなので、どんどん深くはなっていきますし、大きくなる必要はあるかと思われます! 今のメンバーですと、フラムさん、レナさん、ハーレさん、スミさん辺りは下に降りずにアルマースさんのクジラの上か、スリムさんの生成した土の上にいた方がよろしいかと!」
「ふっふっふ! ここは海水だから、私は海中でも問題ないのさー! えいや! わっ!?」
ハーレさんが思いっきり海に飛び込んだけど……すぐに底に着いて、驚いてるよ。うん、ただ単に暗くて見えないだけであって、遠浅なんだから、飛び込めるほどの余地はないですよねー。
あ、でもリスだと足がつかないくらいではありそうだな。なんか被ってるクラゲが救命胴衣みたいな感じでリスを浮かしてるような状態だしさ。
「あぅ……浅いのを忘れてました……。でも、リスだと浅いとも言い切れないのさー!」
「よっと! うん、これはそうみたいだねー。戦闘の時は要注意かも?」
レナさんも海に飛び込んで深さを確認してるけど、思いっきり泳いでるから……冗談抜きでリスでは足はつかないっぽい。小型種族だと、ちょっと厳しい感じだな。
「はい! ルストさん、質問です!」
「ハーレさん、なんでしょうか?」
「ここの敵はどんなのが出てきますか!?」
「ここはですね! 海岸にいそうなものであれば、割と色々といますよ! 海藻の敵が漂っていたり、クラゲが流されてきたり、ヒラメやカレイが砂の中に隠れていたりですね! あぁ、ホタテやアサリなどの貝類もいますよ! 場所によっては岩場もありますので、そちらには牡蠣やサザエ……あぁ、ケイさんと同じようなロブスターがいることもありますね!」
「おぉ!? 色々といるのさー!?」
ほほう? 浅瀬ではあるけど、もうここは完全に海エリアの一角と考えた方が良さそうな出現傾向だね。まぁ河口域の方角以外は見渡す限り海なんだから、間違った認識ではないんだろうけど。
てか、砂地だったり、岩場だったり、微妙な場所による違いがありそうだ。……これ、フラムが余計な事をしないように注意しとかないと。海は淡水以上に電気を通しやすいんだから、その対策なしに攻撃させないようにしないと危険だし。
「あー、俺からも追加で確認だ。ここ、潮が引いた時は……タイドプールになるのか? それとも干潟か?」
「それは干潟の方ですね! アルマースさん、実にお目が高い! そういう時間帯ですと、ヤドカリやカニ辺りも活発に動き始めましてね! 昼の日であればカモメやウミネコなどの海鳥も出て活動していますし……あぁ、これを忘れてはいけませんね! ここに限った話ではありませんが、海にはいないような生物も少数ではありますが出現はしますね! 私が見たものであれば、大きな水色のバッタが水面を跳ねていたりしましたよ! まぁそれが完全体でして、蹴り飛ばされて殺されたりもしたのですが、それもまた貴重な経験として――」
「はい、長いから一旦そこまで!」
「ぐふっ! 弥生さん!? 普通に止めてくれればよくないですか!?」
「普通にやって止まるならねー。アルマースさん、とりあえず質問の答えは今ので問題なし?」
「あ、あぁ。どういう傾向なのかは分かったしな。ここが干潟になるなら、岩地は限定的と考えてもいいだろう」
ふむふむ、前に行った経験値が大量にもらえる状態になってた『忘れ者の岩場』ではなく、ウナギを獲った『リヴィエール・河口域』の方に近いんだな。
『リヴィエール・河口域』は河口部分が干潟になってたけど、ここが独立してるのは……マングローブの有無か? この辺はもう河口を通り越して、海って感じだしね。さて、そうなると……。
「アル、ここは下ろしても普通に泳げる?」
「あー、流石に今はまだ水深が足りないんじゃねぇか? まぁそれでも空中に浮いておけばいいから、ケイの水はなくてもいいが……」
「まぁそうなるよなー。って事で、俺は水の操作を解除するぞ」
「おう、了解だ。『空中浮遊』!」
アルが空中に浮いたのを確認してから、水の操作は解除っと! スリムさんの土の操作はしっかりとアルの移動に合わせて動かしてるし、流石だね!
「さてと、俺らのPTはレナさんとサヤ以外はそのままでも海中戦は問題ないけど……他の人達はどんなもん?」
分かってる人もいるにはいるけど、潮が満ちてどんどん深くなってくる前に確認しておくべきところだよな。明確に敵が格上だと分かってるエリアなんだから、先に進む前にどういう風に動いていくかを決めておく為にも、確認は必要!
「僕らは、水月さん以外は素ではアウトだと思ってくれていいよ。まぁそう簡単に海水へ落ちるつもりもないし、適応もするけどね」
「そういう事だぜ、ケイ! 海に来ると分かっていて、準備をしてない訳がねぇだろ!」
「……念の為の確認なんだから、黙ってろ、フラム」
「……へいへいっと」
適応手段を持ってるかどうかとか、そんなもんは普通に想定してるわ! ただ、特性の種で適応したとしても、海中での動きは多少鈍るってとこもあるからな!
「私達の方は私と斬雨はそのままでも問題ありませんが……海へ行くとは呼びかけていませんでしたので、皆さんは大丈夫でしょうか?」
「俺は問題ないぜ。海への適応用の特性の種は持っている」
「ジャックに同じだ」
「ホホウ! 同じくなので!」
「…………」
ん? スミ以外は問題ないのは分かったけど……なんでスミは黙ってる? あ、これ、もしかして――
「……少し待っていてくれ。すぐに準備をしてくる」
「おや、スミは海水への適応はないのですか?」
「海へ行く機会がなくて、用意していないのは仕方ないないだろう! そんなに待たせはしないから、少し時間をくれ」
「えぇ、了解しました。ケイさん、それでよろしいですか?」
「まぁそういう時もあるだろうし、問題なし! 急げよ、スミ!」
「……分かっている!」
焦ったような声で、スミはインベントリから取り出した転移の種……いや、少し大きめだから実の方か。それを海面に投げつけて、登録を済ませてから姿が消えていった。あ、明かりが無くなって暗くなったけど……まぁこれは仕方ないか。
それにしても、海面でも転移の実って使えるんだな。ここにすぐに戻ってこれるように登録した上で、帰還の実を使って海水への適応手段を手に入れに行ったのか。
「おー! 海底へ実が崩れて埋まっていったのさー!」
「およ? ハーレ、浅い水場で転移の実や種を見るのは初めて?」
「うん! これって、転移した時にはどうなりますか!?」
「それはですね! 海底に植った――」
「ルスト! そこは実際に見てのお楽しみだよ!」
「はっ! それは確かにそうですね! 折角の機会ですし、是非ともその光景をご覧下さい!」
「ふっふっふ、楽しみなのです!」
そういや、最近は転移の実も種も使ってなかったっけ。まぁ新エリアはすぐに転移してこれる場所だったから、使う機会もあんまりなかったしなー。
「おい、待て!? 俺が戻る時のが見せ物になるのか!?」
「ホホウ! そのくらいは別に何も問題ないので?」
「減るもんじゃねぇし、別にいいだろ?」
「正しく目的地を伝えていなかった私にも原因はありますが、海水への適応の手段を得るにはいい機会でしょう? それに、サファリ系プレイヤーの方達にスクショを撮られるのは決して損でもありませんしね」
「……ちっ、コンテスト関係か」
あー、そういやスクショのコンテストって、別に開催期間中に撮ったものって限定はなかったっけ。ハーレさんは実際に入賞したスクショも撮っているから、冗談抜きで損どころか得する可能性もある訳だ。
まぁ流石に帰還の実を使って転移してきた人のスクショがコンテストで入賞は難しい気も……いや、シュチュエーション次第か? そこは撮る人の腕次第なのかもね。
「もう、好きに撮れ! そろそろ戻るからな」
「はーい! ふっふっふ、スクショの撮影チャンスなのです!」
「撮り慣れた光景ではありますが、折角なので私も撮っていきましょうか!」
「僕らも撮っていくかい?」
「そだね! そうしよっか!」
「みんなで撮影ターイム!」
「おい、待て!? 人数が多くないか!?」
スミは一体何を言っているのやら。今回の共同の検証、一角は赤のサファリ同盟が1PTを占めているんだから、こうなるのは当然だろうにさ。ハーレさんだけが撮る状態になる訳がないよなー!
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