第1352話 目的地まであと少し


 脱線し過ぎていたので、移動方法を変えてペースアップ。根で跳びまくって移動するルストさんだけは非常に気になるけど、それを除けば特に問題なくマングローブがよく見える場所までやってきた。

 俺は移動に水の操作を使用中だから、獲物察知はシュウさんと弥生さんとジェイさんの3人で交代で! ……ぶっちゃけ、シュウさんと弥生さんに獲物察知が本当に必要なのかは疑問の余地はあるけども! いや、完全に見えてない敵へは有効なのか?


「おー! マングローブがいっぱい生えてるのさー! オフライン版にはなかった景色なのです!」

「南国風の植物は、オフライン版にはなかったもんね」

「なんだか新鮮な感じかな!」


 サヤ達の反応が真っ当な部分なんだろうけど……意外とルストさんは突っ込んでいかないな? てっきり、珍しい光景を目にしたらすっ飛んでいくものとばかり……あ、そもそもルストさんからこの先のエリアの話が出たんだし、単純に初見じゃないのか。


 まぁそれはいいとして……とりあえずもう少し進めばここのエリアから次のエリアへと切り替わる! マングローブの様子は気になるけど、脱線しまくってたからこその移動手段の変更だから今はスルーで!

 もし検証が終わった後に時間があれば、その時に見に来れば――


「ふむ、この時間帯は浅瀬ではありますが、どんどん満ちてきてはいるのですね?」

「ジェイさん? あー、そうか。潮汐か!」

「えぇ、潮の満ち引きの様子は、前回来た時には調査し切れませんでしたからね。まぁ移動の邪魔はしないので、ケイさん達はそのまま進んで下さい」

「ほいよっと。今だと、どの程度の潮汐?」

「7月8日からが大潮で、今日がまだ11日なので、まだ大潮ですね。18時頃に来ていればもっと水量は少なかったでしょう。……まぁこの新エリアが『黎明の地』と比べてどのくらい離れた位置するかにもよりますが」

「んー、舞台が惑星丸ごとだけど、昼夜が変わらないからそこまで遠くじゃないんじゃない? まぁゲーム内だから、どこまで反映されるか分からないけどね」

「確かにそのレナさんの意見には同意ではありますが……ある程度は現実に即していると考えればどう考えます?」

「およ? んー、それなら……こっちの方が全体的に植生が熱帯になってるから、『黎明の地』よりは南かな? 東西に関しては昼夜の変化がないから、大して変わらないはず」

「まぁそんなところでしょうね。ただし、北半球と南半球のどちらにあるかでも大きく変わってきますけども」

「あ、それはそだねー。南半球に『黎明の地』があるなら、暖かくなるのは北だね!」


 なんか時差やら植生の違いから、新エリアのある位置を推測し始めてる!? あー、でも確かにリアルに設定していけばそういう部分から分かるよな。……どの程度、その辺は設定があるんだろ?


「ふっふっふ、そういう事なら北極星か北斗七星を探すのです! どこにありますか!?」

「あ、ハーレ。それはやるだけ無駄かな」

「あぅ!? 即座に却下されたのさー!? え、なんでー!?」

「ここは地球じゃないからかな。星座って、あくまで地球から見た配置だから……地球以外では絶対に同じにはならないよ?」

「はっ!? よく考えればそうでした!?」


 よく考えなくてもそこは言う前に気付けー。てか、そうなると太陽の上る方向もあてに……いや、そうでもない? マップでは普通に東西南北で設定されてるし、陽が沈むのも西だから……その辺はリアルと同じはず。

 あ、でも北半球と南半球ではその辺は逆転してるはずだから……いや、違う違う! 方角自体は同じだけど、見てる感覚が違うだけだったはず。どっちかというと昼間に太陽が北にあるか南にあるかの差だ! ……ちょっと自信ないけど、そうだったはず!


「北半球か南半球かは分かりませんが、陽の上り方は同じなのでこの新エリアと『黎明の地』は同じ側にあるのは間違いないですね! なので、どこかで陸続きになっているとは思うのですが、これが中々に苦戦中でして!」

「ルストさんって、ここら辺と『黎明の地』の繋がりを探してるのか?」

「えぇ、そうでもすとも、ケイさん! 今はこの先の海岸から西に向けて海沿いをずっと進んでいるのですが、敵が強くて厳しいですね! ですが、海に沿っていけばエリアが解放されてさえいれば必ずどこかで繋がるはずです! おそらく場所としては赤の群集の森林深部の南部を少し進んだ先でループになっている部分へ繋がるかと予測していますね! そちら側の海岸沿いでループが解除になっているのは確認しましたので!」

「え、マジか!?」


 ルストさんのテンションが上がってる時によくある早口での語りだけど、割と大真面目に重要な情報が出てきたよ!? 『黎明の地』側でそれ以上先に進めずにループになってる場所はあるとは聞いたことがあるけど……まさかそこが解除になってたとは!


「およ? そっちの方向ってループが解除になってるの?」

「えぇ、なっていますよ、レナさん! レナさんがその辺を把握していないのは正直不思議でなりませんが!」

「そっか、繋がってるのはそっちなんだねー。わたしは競争イベントの方で色々動いてたから、出遅れちゃったなー」

「なるほど、そういう事でしたか! 私は競争クエストには興味はありませんからね! ですが、全て回ってみましたが、ループになっていた部分は全てが最低でも1エリア分は解除になっていますので、まだ確実には言い難いですよ。何よりも、敵が強いですので!」

「ルストさんが強いって言うくらいだから相当なんだろうけど……具体的にはどんなもんなんだ? あ、シュウさん、これって聞いちゃって大丈夫?」

「別に隠し立てする気もないから構わないよ。ケイさんがやらかした分の埋め合わせ情報として話そうと思ってた内容でもあるしね」

「あ、そういう……」


 いや、あのやらかしの件は共同で掘り下げて検証するって事になったんだし、ここで聞くのはマズいのでは? あ、でも俺が見つけたからこそだから、そこは気にしなくていいか。むしろ、そこを気にするべきは青の群集の人達な気がする?


「……分かっていますよ、ケイさん。私達の方からも後でエリアの繋がりに関しては知っている事をお伝えしますので……話を続けて下さい」

「ま、色々と無茶な動きをしまくってるルストさんが強いって言う相手は気になるしな!」

「だよな、斬雨さん! って事で、ルストさん、続きを頼む!」

「えぇ、了解しました!」


 移動をしながらの雑談だけど、まぁ何気に重要な情報だし、もうあと少しで次のエリアに辿り着くんだ。このくらいなら脱線って内容でもないし、聞いておいて損はないはず! まぁ群集内でも聞けばこの辺の情報ってありそうな気もするけどね。ベスタ辺りが今頃調べてそうな予感!


「単純にLvが格上の成熟体が出てくるのは当然ですが、フィールドボスや徘徊している完全体などが厄介ですね! あ、全てスクショには撮っていますので、後でご覧になりますか?」

「おぉ! それは見たいのさー!」

「……ルストさん、それって自分から苦戦しに行ってない?」

「徘徊してる格上の敵って、スクショを撮るだけでもアウトで襲ってきてた気がするかな?」

「おや? 遭遇すれば必ず襲ってくるものではなかったのですか!? 毎回襲われていますので、それは知りませんでしたね!」

「毎回襲われてるんかい!」


 いやまぁ、毎回スクショを撮ってるから襲われるんだろうけど! うん、ルストさんらしい理由ではあるか。襲われずにやり過ごす事よりも、死んでも意地でもスクショを撮る方に専念しそう。


「あぁ! そういえば以前、皆さんと一緒に望海砂漠で巨大なクラゲに襲われた事がありましたね! あれはスクショを撮ったからですか!」

「そう、それ! てか、ああいう状況がよくあるんだな」

「えぇ、そうなりますね! ランダムリスポーンで先に進もうとするんですが、あちこちに目移りして、死んでの繰り返しで中々先に進めませんで……」

「だろうなー!」


 ただでさえ新エリアって事でスクショを撮りまくってる状況で、襲われればほぼ死亡確定な相手のスクショも撮ってたら、そりゃ進まないよ。


「そういえば、他の赤のサファリ同盟の方々はどうしているんです? 競争クエストにはほぼ参加していませんよね?」

「それぞれ、好きな場所に向かってスクショを撮りに行っているよ。まぁルストほどではないけど、みんな死んで戻ってくる事が多いけどね」

「近いうちに、みんなで揃って新エリアの探索に行く予定! だよね、シュウさん!」

「まぁそうなるね。その時にフラム君は、色々と鍛えておこうか」

「うげっ!? またスパルタ特訓!?」

「シュウさん、心がへし折れるくらいにスパルタでよろしく! 強くならなくてもいいから、心が折れる方を重視で!」

「ケイ、酷くねぇ!?」

「ははっ、それは中々難しそうではあるけどね。既に結構厳しくしているはずなんだけども……」


 あっさりと流されたけど……赤のサファリ同盟の人達にスパルタで鍛えられた上で、今の状況のフラムって……弱くね? 勝手なイメージだけど赤のサファリ同盟の人達って個性が強い印象だから、実は人に教えるのは向いてない?

 いや、ガストさんとかもいるんだし、リバイバルの存在も考えれば単純にフラムが下手なだけかも。アーサーは確実に強くなってるしなー。


「まぁ僕らの事はこれくらいでいいとして……ジェイさんの方はどんな話があるんだい?」

「正直、赤のサファリ同盟の方が持っている情報を超えられそうなものはある気がしませんが……このくらいの話ならどうでしょう? 新しいエリア……ここでは競争クエストの対象であった5ヶ所に限定しますが、それぞれにどの位置に配置されているかという話です」

「およ? 青の群集、それはもう探り終えたんだ? 私、それをやってた途中なんだけどなー」

「まだ完全ではありませんけどね。レナさん、今日こちらに来たのは……この北側に海溝エリアがあるかどうかの確認なのでは?」

「あ、正解! それが分かるって事は、他の3方向は埋まってる?」

「えぇ、そうなりますね」


 ほほう、それは興味深い内容だな! というか、それが分かっているという事は……意外と競争クエストで奪い合ったエリアの位置はそれほど遠くはない?


「間に3エリア程度ですよ、ケイさん。まぁどこも2エリアほど離れればかなり強くなるので進むのが難しくはなりますがね。ジャングルが中央、西にサバンナ、東に峡谷、南に霧の森という配置になりますよ」

「あ、そうなのか」


 なるほど、なるほど。それで残った北側が、海での競争クエストの対象エリアの海溝エリアになる訳か。間に3エリア分って事は、次のエリアの更に北側のエリアから行けるんだな。……まぁそこまで行く事はないだろうけどさ。


「そうそう、そういう配置! 3エリア目はここくらいに弱めになってるし、中間の2エリア目でも流石に完全体は見かけてないけど――」

「え? 普通に出てきますよ、レナさん」

「およ!? え、そうなの!?」

「えぇ、もちろんですとも! まぁ初めは大人しくしている事も多いのですが、いつも急に襲われ……あぁ、それもスクショを撮ったからですね!」

「あ、擬態してる個体なの!? その辺はスルーしてたかも!?」

「それはなんともったいない事を!? レナさんという方が、スクショを撮り損ねるなんて事があるとは!?」

「わたしの事をどう認識してるのか、一度聞いた方がいいのかなー? 弥生、今度ちょっと一緒にリアルで問い詰めない?」

「あ、いいね! 夜は最近のレナは付き合いが悪いから……今度の週末のお昼辺りでどう?」

「うん、そうしよー! 逃げたら……どうなるか分かってるよねー?」

「逆らえない立場を利用して!? シュウさん、お助けを!?」

「……観念するんだ、ルスト。立場という意味では、僕らではどう足掻いてもレナさんに勝ち目はないよ?」

「くっ!?」


 なんかルストさんが慌ててるけど……まぁルストさんがシュウさん達のところに居候をしてるって話だったもんな。って、あれ? ルストさんがシュウさんや弥生さんに対して頭が上がらない理由は分かるけど……今の会話だと、シュウさんがレナさんに対しても頭が上がらないって事になる?


「……前々から気になっていたのですが、レナさんとシュウさんと弥生さんは、リアルでどのようなご関係なのですか? いえ、答えられないようなものであればスルーでも構いませんが……」

「およ? あ、そっか。わざわざ教えて回ってる事でもないから、その辺は知らないのよね。んー、弥生、言っちゃってもいい?」

「私はいいよー! 別に知られたからって問題がある訳じゃないし。いいよね、シュウさん?」

「まぁリアルで接点があるのは既に知られている部分だしね。構わないよ」


 おっ、ジェイさんがダメ元で聞いてみたら、どうやらその謎の部分が判明するっぽい! てか、聞けばあっさり教えてくれるんかい!


「わたし、マンションを持ってて、大家と管理人をやってるんだよねー。まぁ半分くらいはAI任せなんだけど……そのマンションの住人が、シュウさん達! ちなみに赤のサファリ同盟にも何人か住人はいるよー!」


 ちょ!? レナさんって、マンション経営者!? しかも赤のサファリ同盟の中にも住人がいる!? なんか衝撃の事実が判明なんだけど!?


「おぉ!? 何気にレナさんってお金持ちなの!?」

「ふふーん、まぁね! でもまぁ、わたしが自分で稼いで築いた資産でもないから、偉そうには出来ないけどさー」

「……なるほど、そういう繋がりでしたか。それは確かに……逆らい難いですね」

「いやいや、ジェイさん? いくらなんでも、ゲーム内で思い通りにする為に家賃を上げたりとかはしないからね」

「……では、なぜ頭が上がらないのです?」

「それ、シュウさんの借りてる部屋に居候してるルストだけだからー!」

「あぁ、なるほど。ルストさんは、家賃は払っていないという事ですか」

「そう、そういう事! そして、わたしと弥生はゲームとは関係なく、元々の友達! というか、高校の同級生!」

「だから、ルストは私には逆らえない! ……思いっきり逆らいまくってるけどねー」

「……居候の身は、辛いですよ」

「今日の光景を見ていれば、とても同意は出来ませんけどね」


 うん、ジェイさんに同意! あれだけ大暴走しておいて、居候云々は関係ない気がする。てか、レナさんと弥生さんって高校の同級生だったのか。あー、なんかレナさんの顔の広さの大元ってその辺なのかもなー。


「……ふん、雑談もいいが、そろそろ着くぞ」

「あ、それもそうだな。おし、それじゃ検証の対象エリアに突入するぞ!」

「おうよ!」

「ホホウ! ようやく到着なので!」


 マングローブが見えるようになってから、エリア移動まで思ったよりも移動に時間がかかったな。まぁ川の上を通ってたから、真っ直ぐ北のエリア切り替えに進んでた訳でもないし、こんなもんか。

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