第1351話 脱線のし過ぎ


 応用魔法スキルの運用方法を大きく変える可能性を、赤の群集や青の群集がいる前で盛大に見つけてしまうって思いっきりやらかしてしまった……。くっ! フラムだけは、ここでどうにかして殺す! 八つ当たりだとしても――


「ケイ、ストップかな!」

「サヤ、止めるな! その馬鹿だけでも、川に沈めて仕留めてやる!」


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 64/124(上限値使用:1): 魔力値 138/310

<行動値を2消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 62/124(上限値使用:1)


 直接、俺が窒息にする事は出来ないだろうけど、川の水を生成した水で覆って完全に塞いでしまえばいい! 川には雑魚敵もいるし、フラムと一緒に――


「ちょ、ケイ!? ガボッ!?」

「やり過ぎだ、ケイ! ちょっと頭を冷やしてこい! 『根の操作』!」

「おわっ!? ちょ、アル!?」

「アル、それは流石にやり過ぎかな! 『略:突撃』!」


 げっ!? ロブスターの尻尾が根で巻きつかれて、勢いよく振りかぶって、川が目の前に迫ってる!? これ、思いっきり水面に叩きつけられ――って、あれ? サヤが、回り込んで受け止めて、川岸の方に着地した。

 ふぅ……焦ったわ! 今のアルがやろうとしたのは……うん、俺が悪いな。ただでさえやらかした自覚があったタイミングで、フラムがあんな事を言ってくるから、つい……。


「……はぁ、サヤが止めたか。ケイ、ちょっとは落ち着いたか?」

「……落ち着いたけど、ちょっとショック療法過ぎない?」

「そうでもしないと、今のは止まらんだろ。というか、まだ止まってないよな?」

「あっ!」


 しまった。フラムを水の中に閉じ込めて、川の中に放り込んだままだ。改めて冷静に考えてみても、フラムはやっぱり殺してでもこの場に居なくさせる方が色々と楽じゃね?


 というか、赤のサファリ同盟のメンバー、誰もフラムを助けに出てこないという状況はどうなんだ? 冗談抜きで、あいつは普段からどういう扱いになってる?


「……ふん、やはり『灰の暴走種』か」

「ちょ、スミ! 納得したように言わないでくれるか!?」

「ケイさん、そこに文句を言うのであれば、水の操作を解除した方がいいのでは? アルマースさんが強引に横槍を入れたので生成した水の中に閉じ込めた程度で済んでますが……川の水の中に、敵と一緒に隔離して殺す気でしたでしょう?」

「うぐっ!?」


 ジェイさんに、冷静に手段を分析されてるんですけどー。あ、よく見たらフラムがいるのは、まだ俺が生成した水の中か。同じ連結PTだから、ダメージ判定が出てなくて窒息にはなってない状況で止まってるんだな。


 水の中で思いっきり暴れてるけど……全然、操作時間は削れないな! 流石は水の操作Lv10! あ、全然場所が変わらないと思ったら、かなり反発力が高めに設定してたよ。うん、まぁ閉じ込めるつもりでやってたしなー。


「はーい、ケイさん、そこまでね! 気持ちは分からなくもないけど、脱線し過ぎ! すぐフラムさんを解放する事!」

「……ですよねー」


 我ながら、流石に色々とやらかし過ぎた上に、ちょっと冷静さを欠き過ぎた。とりあえず他の敵を水の操作で押し潰してる状態なのがマズいけど……フラムだけを外に出すように流れを作って、敵はそのまま抑え込んでおこう。

 俺の水で本来の川の水が押し出されて、川底が見えてる状態だけど……発見報酬は出ないんだな? あ、でも獲物察知の矢印が少し薄い黒だし、俺が抑えてる魚の群れは残滓か。全く誰にも倒されてない訳ではないんだな。


「ぷはっ! おい、ケイ!? 今の、どう考えてもやり過ぎだろ!」

「まぁそれには同感ではあるんだけど……今のはフラム君も煽り過ぎだよ?」

「そうですね。少し私達の方も悪ふざけが過ぎましたが……色々と普段から余計な事を言われていれば、ケイさんの気持ちも分からなくもありませんし」

「集まってる最中の話を考えると、その辺は違いねぇな!」


 ジェイさんと斬雨さんから同意を得られるのはいいとしても、その理由がなんか嫌!? 確かに今回の検証の為に集合するまでの間に、色々あったけども! てか、みんな揃って頷いてるよ!?


「ちょ、俺の味方が全然いねぇ!?」

「……フラム兄の自業自得だと思う」

「ケイさんも今回のは自業自得な気はしますが、フラムも確実に自業自得ですね。ここはお互い様という事で流すのでは駄目ですか?」

「……まぁ、俺のは自業自得だしな。水月さんの言う通りだ……」

「ちょ!? 俺ってなんか変な事をした!?」


 こいつ、まだ煽り足りないってか!? よし、やっぱり殺そう。素直に非を認めて謝ろうと思ったけど、こいつはやっぱり殺しておくべき――


「ケイ、ダメかな!」

「……ほいよっと」


 あー、なんだか色々と取り乱すたびにサヤにこうやって引き戻されてる気がする。ともかく落ち着け、俺! なんというか、サヤのクマに抱えられた状態って、1番最初にサヤと2人で小石にコケを移して運ばれてた時を思い出すなー。うん、そう考えたらちょっと落ち着いてきた。


「フラム君の事は置いておくとして……ケイさん、さっきの情報に見合う何かは後から僕の方で提供するよ。あれは色々と精査はした方がいいだろうけど……かなりの可能性は秘めているからね」

「それに関しては、青の群集の方からも何か情報を出しましょう。いっその事、あれも共同で検証をするのもありではないですか?」

「……へ?」


 思いっきりやらかしたと思ったけど、あれを共同でこれからもっと詳しく検証していくって事か? あー、フィールドボス戦をする事を考えたら、実戦運用をしながらも出来るよな。


 この場にいる全員で協力してやるなら、俺のやらかしではなく共同の検証の結果になるし……決して悪い話ではない。むしろ、ちゃんと考えてみたら普通にありな提案な気がする。

 ジェイさん的にはシュウさんと違って新たに情報を出す必要もなく、その上で新たに情報を得るチャンスだと考えてそうな気もするけど!


「なるほど、それは良い案かもしれないね、ジェイさん。僕らのところなら……確か水月さんが魔法弾は使えたね?」

「えぇ、フラムの電気魔法を代わりに投げる用に取得しているのがありますよ」

「青の群集でなら、俺が使えるから問題はねぇ」

「応用魔法スキルの所持者は多いでしょうし、ケイさん、これでいかがです?」


 赤の群集では水月さんが、青の群集ではスミが、同じ手段を実行する条件を持っているか。シュウさんやジェイさんは間違いなく応用魔法スキルを持っているだろうし、他のメンバーも持っていると考えた方がいい。


「ケイ、この提案は悪くないと思うが……どうする? 実戦の中で試すのはありだと思うぜ」

「だよなー。よし、シュウさん、ジェイさん、それで頼む!」

「了解しました。まぁ、その前に目的へ辿り着く方が先ですけどね」

「それはそうだね。折角、ケイさんが水の操作Lv10を展開しているんだし、水に入れてもらって速度を更に上げるかい?」

「およ? 確かにそれにありかも?」

「今のペースだと、中々目的地に辿り着かないので賛成です!」


 あー、俺が言えた事じゃなくなったけど……確かにここまでの移動で脱線しまくってるもんなー。自然発生のフィールドボスを探す事も目的にしてはいたけど、あくまでそれはおまけだったんだし……必ずいるとも限らないままだしね。

 これ以上脱線しないように、ここで一気にペースを上げるのもありか。スリムさんもいるんだし、この人数でも一気に川下りは出来るはず!


「アル、その辺はどう? そろそろ浅くなってくるだろうし、スリムさんに土台を作ってもらって、みんながアルの上に乗って、俺の水の中を泳いで移動するのはありだと思うけど」

「俺は別に構わんが……スリムさんはどうだ?」

「ホホウ! そういう事なら引き受けますので!」

「よし、ならそれで決定で!」


 俺が流れを作ってアルを流すのじゃなく、広い水場を作ってアルにそこを泳いでいってもらう形にしよう! それなら下からの攻撃も防げるだろうし、水流の操作よりも速度調整はしやすいだろ!


「おし、なら一旦スリムの土から全員降りろ! 再生成してから乗り込むぞ。スリム、それでいいな?」

「ホホウ! ジャックさん、それで問題ないので!」


 という事で、スリムさんの生成していた土の上から青の群集のメンバーが川岸へと降りてきている。ふぅ、これでなんか変になってた流れは元通りになりそうだけど……その前にこれか。


「サヤ、そろそろ離してくれね?」

「……え? あ、抱えたままだったかな!?」

「ちょ!? 放り投げなくても!?」

「あ、ごめんかな!」


 慌てた風に投げられたけど……なんでそんなに慌てた? うーん、まぁいいや。とりあえず水中に落ちそうだから、水球を追加生成して、その中に着水。

 いいね、この水の操作Lv10。咄嗟に使ってみて思うけど、大量に生成する状態だからか、生成速度自体がもの凄く早くなってるぞ。しかも操作数を増やす形での追加生成なら、最低限の馬鹿げた量でなくても少量で生成出来るっぽい。


「「…………」」

「えっ!? ヨッシ!? ハーレ!? なんで降りてきて、無言でじっと見てきてるのかな!?」

「あ、ううん。なんでもないよ?」

「その話は、サヤの家に遊びに行った時なのさー!」

「……え? なんで今、私の家に来る時の話になるのかな?」

「あはは、まぁその時になったらね! スリムさん、お願いします!」

「ホホウ! 了解なので! まずは解除して……『アースクリエイト』『土の操作』!」


 何やらサヤ達の会話が気にはなるけど……まぁ今はいいか。川の少し上に浮いていた土の足場が消え去って、アルのクジラの背中へ均したグラウンドみたいな土が生成されていく。


 おー、ど真ん中にアルの柑橘の木が植わってるような感じで、クジラの様子が全然見えなくなったね。でもまぁ、クジラの視界を潰さないように頭部の付近は避けて生成してるんだな。ナイス、スリムさん!


「それでは皆さん、もう乗れますので!」

「はーい! サヤ、ヨッシ、レナさん、戻るのです!」

「あ、そだね。そもそも降りる必要もなかったし」

「本当に、なんで降りてきてたのかな!?」

「およ? ケイさんはいいの?」

「ケイさんは、多分上からじゃ分かりにくいのさー!」

「確かになー」


 高度を高めにして浮いていくなら気にしなくてもいいけど、そこまで高度を上げる気はないしね。移動速度は上げるけど、それでも周囲の確認が出来る程度には抑えておく! となれば……。


「アル、クジラの頭の上に行っていい? 位置的に、その辺が色々と把握しやすいし」

「おう、問題ないぞ」

「それじゃそっちに行くわ!」


 という事で、アルのクジラの視界を塞がないように空いてるから、俺はそこに移動! えーと、敵を抑えてる水は最小限で残しておいて、アルが泳ぐ為の水を固めて泳げるように位置調整っと。

 よし、これでアルの泳ぐ速度に合わせて水を移動させていけばいけるだろ! 他のみんなは木を中心に集まって……って、あれ?


「弥生さん、ルストさんは?」

「んー、ルストならあっち」

「……あっち?」


 呆れたような弥生さんが尻尾で指し示した先を見てみれば……あぁ、なるほど。空中に生成した石に根でぶら下がってる盆栽サイズになっているルストさんの姿が見えた。


「空中に浮かぶ巨大な水に浮かぶクジラと、その背に出来た大地! このスクショを撮らずして、何を撮るというのでしょうか!? あ、皆さん、そのまま進んでいただいて構いませんよ! 私は追いかけながら、角度を変えて色々と撮っていきますので! もちろん、周囲の観察も怠らないようにしますのでご心配なさらずに! いやー、それにしても今日は一段と面白いスクショが撮れる日ですね! 検証自体にはさほど興味はありませんが、同行を選んで正解だった――」

「もう、ここなら止めなくてもいいかなーって? なんか面倒になっちゃった……」

「……なるほど」


 今のこの間も延々と語り続けているルストさんの姿を見たら、疲れたような弥生さんの気持ちは分かる気がする。ルストさんがスクショを撮る時っていつもなんか暴走してる気がするけど、今日のは特に暴走しまくってるもんなー。

 周囲に俺らしかいない状況で、移動速度も上げていくなら……止める事そのものを諦めるって選択肢もありなんだろうね。というか、これってある意味、ルストさんが弥生さんに勝った状態か。


「えー、皆様ご乗船ありがとうございます! それでは遊覧船『アルマース号』、出航です!」

「おっしゃ! 出発だ!」


 またやってるよ、ハーレさん。本当にフラム相手にキレた俺が言ったら駄目なんだろうけど、マイペースな人が多いよな、このメンバー! それぞれに癖がある上に、実力者揃いだから、脱線し始めるととんでもないわ! ……うん、なんか盛大にブーメランになって返ってきそうだから、これ以上は考えるのをやめとこ。


「アル、スリムさん、いくぞー」

「おうよ。ケイ、速度はどの程度でいく?」

「高速遊泳だけ使うくらいでいいんじゃね?」

「おし、ならそれでいくぞ。『高速遊泳』!」

「ホホウ! そのペースに合わせていくので!」

「川の上を少し高めの位置で通っていくからなー」

「了解だ」

「ホホウ! 了解なので!」

「あ、シュウさん、獲物察知の効果が切れたから交代で!」

「了解したよ。このくらいの速度なら、適度に索敵しながら進めそうだね。『獲物察知』!」

「……ふん、フィールドボスが出てくればいいんだがな」


 という事で、移動方法を変えつつ、周囲の索敵をしながら移動! スミが言ってるようにフィールドボスが出ればいいんだけど、出なければあんまり意味ない行動ではあるんだよなー。まぁそうなったとしても、それはそれで仕方ないけどね。

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