第1346話 河口域を進んで


 赤の群集のメンバーが陸地を進んで、俺らが川の水面を進み、青の群集のメンバーが俺らの少し後ろの空中を進んでいくという状況になっている。まぁ警戒し過ぎて進めばシンドいだけだから、ここのエリアくらいは適度に気を抜きながら進んでいこう。


「ケイさん、どの程度の敵は相手にしていくんだい? 獲物察知には山ほど敵の反応はあるけども」

「フィールドボス以外は、襲ってくるやつだけで! 流石に見つけるの全てを倒してたらキリがないし」

「まぁそれもそうだね。それじゃ、そこのバナナに擬態しているカマキリはスルーしていこうか」

「……はい?」


 バナナの木は確かにちょいちょい植ってるし、思いっきりバナナが並んで生ってるけど……そこに擬態したカマキリ!? え、どこ!? どのバナナの木にいるんだ!?


「はっ!? 黄色くなってるバナナ、初めて見たのさー! 前に来た時は、まだ緑だったのです! ケイさん、ちょっと採集してきていいですか!?」

「あ、そうか! バナナも採集出来るはずだよな!」


 前に来た時はそこまでしっかりとは見れていなかったというか……割とすぐに敵への警戒態勢になってた覚えがあるし、そういう観察をする余裕はなかったような? というか、バナナが生ってないと、いまいちバナナの木っていうのが分からん!


「あー、でもいきなり脱線もどうなんだ? てか、冗談抜きでカマキリってどこ?」

「少しくらいの採集であれば、私達は構いませんが……斬雨、擬態したカマキリがどこにいるか分かりますか?」

「俺にもさっぱりだっての!」

「およ? みんな、見つけられてない感じ?」

「私は見つけたかな! これは……うん、まぁ擬態かな!」

「ふっふっふ、私も当然見つけているのです!」

「……ふん、あれか。なるほどな……」


 見つけられる人と見つけられない人の差が明確に出てきてるけど……大真面目に、この状況はどうしよう? 前にヤシの木がフィールドボスだった事もあるし、バナナの木も要警戒な気も……?


「およ? そもそもこの擬態のカマキリ、フィールドボスの可能性はどうなの? 擬態してるフィールドボスっている可能性はあるよね?」

「……そういえば、それは失念していたね。ケイさん、看破だけでも使っておくかい?」


 あー、今レナさんが言うまで完全に考えてなかった内容だな。確かにフィールドボスの判別が出来るのは、黒いカーソルが表示になっていてこそ。そのカーソルの上に王冠マークがあれば一目瞭然で分かるけど……根本的に、カーソルが表示されていない状況は想定してなかったよ。


「シュウさん、看破は任せた! 俺じゃ、どこにいるのかさっぱりだ! みんな、一応そのままフィールドボス戦に突入する気構えでいてくれ!」

「はーい!」

「あはは、まぁ状況的にそうなる可能性はあるよね」

「でも、油断は禁物かな!」

「わっはっは! やってやろうじゃねぇか、フィールドボス戦! なぁ、水月、アーサー!」

「うん!」

「必ずしもフィールドボスだとも限りませんけどね」

「……ふむ、擬態する自然発生のフィールドボスですか? 今まで見た事がありませんが……いないという根拠もありませんね」

「ホホウ! 性質上、見つかりにくい個体なら知られていないのも不思議ではないので!」


 反応的に、青の群集での擬態するフィールドボスの目撃情報っていうのも全然ないっぽい。自分達で進化させる場合は根本的に別物だから、自然発生のフィールドボスに限ればそういう事もあるか。

 でも、そういう敵っていた事もあるような……? 確かミズキの森林で……って、あれは未成体の時に出てきてた格上の成熟体の徘徊種か! うん、あれはフィールドボスじゃないわ。


「そういえばそういうフィールドボス、自然発生のでは私も見た事ないなー? シュウさん、ルスト、見た事ある?」

「いえ、ないですね! 一度、進化させた個体でなら見た事はありますが!」

「あぁ、そういえばルストが珍しく呼びかけてきた時があったね。見た事があるのは、あの時の葉っぱに擬態した蝶くらいだね」

「およ? そんな事があったの?」

「えぇ、ありましたとも! 『氷樹の森』で、木々の葉っぱに擬態した個体がいましてね! 誕生させたPTが壊滅していく際に、偶然居合わせまして! レナさん、その際のスクショをご覧になりますか!? 徐々に雪に覆われた葉の中に溶け込んでいく様子を連写でとっていますが!」

「あ、それは普通に興味ある! 興味はあるけど、後でね! これ以上は流石に脱線し過ぎ!」

「……それもそうですね。シュウさん、サクッと済ませてしまいましょう!」

「それもそうだね。それじゃ……いいかい?」


 シュウさんが俺らを見渡しながら確認を取ってきたから頷いておく。さて……どれが擬態した個体なのかが分からないままだけど、どうなる事やら?

 出発して早々にフィールドボスとの戦闘になるかは……もう、実際にやってみるしか判別する手段がないよなー。でも、今の段階でそういうフィールドボスが存在する可能性に気付けたのは大きいかもね。


「始めるよ。『看破』!」


 シュウさんが看破を使えば……おわっ!? シュウさんが見てた方向にあるバナナの木の葉っぱが動き出した!?


「ちょ、えっ!? 擬態って、葉っぱの方!? バナナの実の方じゃなくて!?」

「……そうきましたか。あえて伏せましたね、シュウさん!?」

「僕はバナナとしか言ってないよ? 先入観を僕のせいにはしないでおくれ」

「くっ、それは確かにそうですが……!」


 思いっきり悔しそうなジェイさんだけど……その気持ち、よく分かる! バナナと言われたら、生ってるバナナの方に目が行くのは当然だよな!?

 でも、木だってバナナなのは間違いないし、シュウさんは決して嘘は言っていない。……先入観って恐ろしいな!? 


「サヤ、何か微妙な反応をしてたが……気付いてたな?」

「あ、うん、そうなるかな。言っていいのか悩んだのはあるけど……」

「アルさん、思い込みは駄目なのです! というか、このカマキリは普通の敵なのさー!」

「……それもそうだな。ケイ、ただの雑魚敵みたいだが……どうする?」

「あー、誰か倒したい人は?」


 葉っぱに擬態してた事の方に気を取られたけど……カーソルには黒い王冠マークはなし。黒の暴走種の発見報酬も出なかったから、残滓か瘴気強化種だな。黒の異形種でもなさそうだし、


「ただの雑魚敵なら、さっさと終わらせるだけだ。『魔力集中』『連速投擲』!」

「一気にぶっ倒すのさー! 『魔力集中』『連速投擲』!」

「おっ、リス勢で倒しちゃう? それならわたしも! 『魔力集中』『強脚撃』! よっと!」


 擬態が破られてバナナの木の上にいた大きなカマキリに向かって、スミとハーレさんが石を投げまくって、その勢いで落ち始めたところをレナさんが盛大に蹴り上げたなー。おー、そこから近くのヤシの木に飛び移って……って、ヤシの実を2つ蹴飛ばした!?


「わっ!? ヤシの実だー!?」

「……ほう?」

「流石に成熟体ともなると、HPが多いね! ハーレさん、スミさん、そのヤシの実でチャージもいっとく?」

「ふん、時間は稼いでもらうぞ。『大型化』『大型砲撃』『爆散投擲』!」

「ふっふっふ、新技いくのです! 『大型化』『大型砲撃』『爆散投擲』!」


 おー、何気に実戦では初めて見る気がするぞ、ハーレさんのリスの大型化! サイズ的には今までの2倍くらいのサイズになった気がする。まぁ大きくなってもまだヤシの実の方が大きいけど、大きなヤシの実を抱えて銀光を放ち始めたし、投げられるサイズにはなったっぽいね。

 スミの方がハーレさんの1.5倍くらいデカい気がするのは、大型化のスキルLvに差があるからか? 同じ爆散投擲を発動してるけど、そっちの明滅はハーレさんの方が早いな。さっきの連速投擲は同じくらいだったけど、同じ投擲系であっても、どれが育ってるかはそれぞれに違いが出てくるんだろうね。


「さーて、殺さない程度に時間稼ぎだねー! 『連脚撃』!」


 ふむふむ、その辺の木々を飛び移りながら、カマキリを下に落とさないように何度も上へと蹴り上げていくんだな。……ぶっちゃけ、拘束魔法か操作系スキルで捕獲すれば済むだけな気はするけど、リスだけで戦いたいみたいだし、今はこの状況を見守るか。


「……ふん。同じリスであっても、色々と違いは出てくるか」

「それは当然なのです! 狙ってやらなきゃ、同じ構成にはならないのさー!」

「そうそう、普通はそうなるよね! よっと! もう一回! 『連脚撃』!」


 レナさんの『普通は』って言葉が意味深ではあったけど……あー、灰の群集には風雷コンビっていうとんでもない例外が存在してるもんなー。多少の構成が似る事はあっても、あそこまで被りまくるのは相当珍しいよね。


「レナ、私達は何もいらない?」

「うん、大丈夫! ここはリスだけに任せなさーい!」

「それなら了解! シュウさん、今のうちにバナナの収穫でもしとく?」

「それはハーレさんがやりたがっていたし、後でいいんじゃないかい?」

「あ、それもそだね。それじゃそうしよっか!」


 完全にリスの3人以外は見物状態になってるけど……まぁたまにはこういうやり方でもいいか。思いっきりPT毎に分担してってのはどこかに行ってしまってるけど、今の状態自体が予定外ではあるもんな。


「ケイさん、予定とは違いますけど構わないのですか?」

「んー、まぁ攻撃を受けた時なら微妙だけど、今回はみんな止まった状態だったしなー。それに戦いたい人って言ったの、俺だしさ」

「確かにそれはそうですが……まぁ本格的な戦闘はスミが始めましたし、擬態の敵相手にはこれでいいのかもしれませんね。看破を使うまで、フィールドボスかどうか分かりませんし……」

「そうそう、擬態の敵相手はこういう感じでいこう! 看破の使用は……最初に見つけた人に任せて、そこから後は希望者で撃破で!」

「それじゃ了解しましたが……発見については青の群集が少し心許ないですね」

「ホホウ! それはスミが得意なので!」

「……あぁ、そういえばそうでしたね」


 ほほう? そういえばシュウさんが看破を使う前に、スミは見つけてた感じではあったもんな。なるほど、サファリ系プレイヤーかどうかまでは分からないけど、観察力が鋭いのは確実っぽいなー。……そうでなければ、あの危機察知回避の狙撃なんてのも難しいのかもしれないけどね。


「ジェイ、余計な情報まで喋ってんじゃねぇよ!」

「喋ったの、私ではありませんけどね!? というか、見つけていたような反応を自分でしていませんでしたか!?」

「……ちっ! ともかく、チャージ完了だ! とっとと終わらせるぞ!」

「レナさん、よろしくなのさー!」

「はいはいっと! それじゃこれで最後! 『強脚撃』!」

「吹き飛べ、カマキリが!」

「いっけー!」


 そうして赤いリスに蹴り飛ばされ、2人のリスが投げ放ったヤシの実が直撃し……破裂していく。うん、ちょっとした爆弾みたいな感じで、すげぇな。


<ケイが成熟体・瘴気強化種を討伐しました>

<成熟体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


<ケイ2ndが成熟体・瘴気強化種を討伐しました>

<成熟体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント4獲得しました>


 ふぅ、無事に撃破報酬も出て分かったけど、今のカマキリは瘴気強化種だったんだな。なんだかんだで識別はせずに戦ってたけど……まぁこれだけの人数がいて、雑魚敵であればそこまで気にしなくてもいいか。


「ふっふっふ、撃破完了! スミさん、結構やるのです!」

「……ふん、後から始めたからって追いつけねぇ訳じゃねぇからな。いつか、完全に灰の群集を負かしてやる」

「おっかないのさー!? でも、負けないのです!」


 それを俺を見ながら言わないで!? 灰の群集=俺ではないからね!? それに、昨日までの競争クエストだって、第1回の開催に比べるとかなり余裕は無くなってたんだけど!? ……ほんと、今後が怖いな、青の群集!?


「ハーレ、バナナの採集を手早く済ませるかな!」

「はーい! ヨッシ、バナナを凍らせて食べられますか!?」

「それは出来るとは思うけど……そのまま食べはしないの?」

「もちろんそのままも食べるのさー! はっ!? そもそも、アイテムとしてどういう効果ですか!?」

「およ? そういえばそこも気になる部分だよねー。えーと……あ、これいいね! 魔力値を10%回復だって!」

「おぉ! 割合回復はいいのさー!」

「いいね、それ! シュウさん、ちょっと多めに採集していこ!」

「確かにそれは魅力的だけど……ケイさん、それでいいかい?」

「問題なし! てか、普通にそれは欲しいわ!」

「それには同意ですね。このバナナ、何かと重宝しそうな感じがしますよ」


 採集した段階で魔力値の割合回復とか、相当良い性能をしてるよな! 加工すれば効果は上がるし……あー、でもゲーム内で出来るバナナの加工の幅ってそんなにないような気もする? まぁ加工についてはそれを専門にやってる人やヨッシさんとかに任せて、今は手分けして採集していくか。


 というか、バナナは群雄の密林でも生ってたりしないかな? ただ単に俺らが気付いてないだけで、普通にあってもおかしくないような……まぁそれは後で考えよ。今は採集を……って、もうサヤ達やシュウさんと弥生さん、スリムさんやスミが採りに行ってるよ!?

 あー、これ、もう俺やアルや他のみんなが採集する余地はなさそうな気がする!? 流石に連結PTの18人、全員での採集は無理ですよねー。

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