第1345話 河口域の進み方


<『群雄の密林』から『名も無き未開の河口域』に移動しました>


 ふぅ、なんだかんだとありつつも、なんとか無事にジャングルを抜けてやってきた! あー、これで多少は気が抜ける。さっきまでは俺らの責任として立ち入りを許可してもらってた状況だから、そういう意味では一安心。……ルストさんの暴走っぷり、とんでもなかったし!


「ルスト、一旦止まって!」

「はい、分かりました!」

「アル、ストップ!」

「分かってるっての!」

「ホホウ、ここから先は戦闘があるはずなので!」

「……ふん、役割分担は決めておかないと、バラバラに動けば邪魔になるからな」


 一旦ルストさんの動きが止まって、樹洞の中にいたメンバーが全員出てきた。ここから先は普通に雑魚戦……とは言っても、Lv差はほとんどないくらいだからなー。

 スミも言ってるけどその辺の役割分担も含めて、どう進んでいくかを決めていかないとね。蛇行している川沿いに進むか、それとも真っ直ぐ突き進んでいくか……。


「おや、まだここの命名クエストは終わっていないのですね?」

「ま、流石に仕方ないんじゃねぇか?」

「斬雨、私は別に不満を言ってる訳ではありませんよ」

「ははっ、それにしちゃ随分と残念そうに聞こえたがな?」

「……色々と動きはあったので、てっきり終わってるものかと思いましてね?」

「ジェイさん、なんでこっちを見ながら言ってんの!? いや、確かにここのフィールドボスとは戦ったけど、あれが全てじゃないぞ!?」


 そういう風に言われても、ここの命名クエストはまだ終わってないのは見ての通りだし……。というか、ここの敵のLv、今でこそそう差はないけど、普通に高いから!? 人も全くいない訳じゃないけど、それほど多くはないから、進出してる人はまだまだ少ないっぽいし!


「まぁここの敵のLvは高めですし、大々的な進出はこれからでしょうか」

「そうなるだろうねー! 色々と回ってみたけど、どうもどこの安全圏とも隣接してない位置にあるエリアが成熟体Lv10超えの高めの場所になるみたいだし? 他の方向はLv1〜5程度の範囲だよ」

「おぉ、そうなんだ!? レナさん、ナイス情報なのです!」

「色々と回っていってる最中だからねー。弥生、その辺の情報の交換をしない? ジェイさんもよければどう?」

「レナ、その案、乗った!」

「折角なので、ここは便乗させていただきましょうか。ですが、その前にどういうルートで進むかを決めておいた方がいいのでは? あと、『獲物察知』の分担も決めておきましょう」

「あ、それもそうだね! とりあえず、獲物察知を使える人は挙手!」


 レナさんが仕切ってくれるみたいだし、今は任せとこうっと。とりあえず俺は獲物察知を使えるから……挙手って、ハサミを上げればいいのか? ……これ、挙手? あ、弥生さんとシュウさんが座って招き猫みたいに前脚の片方を上げてる!? ジェイさんのカニもハサミを上げてるな!?


「えーと、使えるのは弥生とシュウさんと、ケイさんと、ジェイさんの4人だね! それじゃ赤の群集、青の群集、灰の群集って順番で交代して獲物察知を使っていこー!」

「それじゃまずは僕から使っていこうか。『獲物察知』! 弥生、僕らは交互でやっていくのでいいね?」

「うん、問題ないよ!」

「これに関しては、意識して発声で使っていきましょうか。効果が切れたら、その時点で交代という事で」

「それで了解っと!」


 何気にネコ夫婦が獲物察知を使えるのは初めて知ったけど……恐ろしいな、この2人が使える事実!? いや、逆に観察力がとんでもないんだし、そこまで重要性は高くもないか?

 まぁそこは気にしても仕方ないとして……順番に使っていくので問題はないはず。ジェイさんのカニが獲物察知を使えるのは……まぁ俺のロブスターが持ってるんだし、不思議でもなんでもないね。


「……ふむ、どうやらこの辺りに王冠マーク付きの反応はないね」

「んー、反応なしは残念……。さてと、レナ、どういう経路で進んでいくの?」

「そこはケイさんに仕切りを譲るねー。あとはお任せ!」

「ほいよっと」


 さっきの挙手は、俺が該当に1人だったから敢えてレナさんがやったってところなんだろうな。まぁ今回のレナさんは俺らのPTの臨時メンバーって立ち位置だし、リーダーの俺を押し退けてっていうのもあんまり良くないって判断なんだろうね。……そこを気にする人はこの場にはいない気もするけどさ。


「てか、シュウさんやジェイさんは、俺の仕切りでいいのか? 別に灰の群集が主導な検証でもないけど……」

「ケイさんが仕切ってくれる状態で無理に仕切る気はないよ。そもそも、僕らはそういうのが得意という訳じゃないしね」

「……よく言いますよ、シュウさん。半ば嫌々とはいえ、中立地点で取り締まりをしていた赤のサファリ同盟の実質的なリーダーですのにね」

「あはは、まぁそれはそうなんだけど……やれるかどうかと、やりたいかどうかは別物だよ?」

「……まぁそうなんでしょうね。自分達から仕切りたがるのであれば、赤の群集の最初の騒動も、赤のサファリ同盟からリバイバルへの指揮系統の引き継ぎもある訳もないですか」


 なんか話が逸れてる気もするけど……赤のサファリ同盟が仕切るのに積極的ではないのは事実か。てか、赤のサファリ同盟のリーダーは弥生さんではあるんだよな。まぁその弥生さんに暴走癖があって、それを抑え込める人としてシュウさんが上にいるような感じだけど。

 そもそも夫婦だから、名目上のリーダーが弥生さんなだけで、弥生さんとシュウさんのどっちが上かってのはない気がする。いや、すごい今更な話ではあるけども。


「おーい、ジェイ? 思いっきり脱線してねぇか?」

「……それもそうですね、失礼しました。今回の検証、私達は後から入れてもらった形になるので、仕切りはお任せします。シュウさんがケイさんに委任するのであれば、それに異議はありませんよ」

「だそうだよ、ケイさん」

「そういう事なら、了解っと」


 という事で、今回の検証の主導権は俺が握るという形になった。まぁ強権を振りかざす気もないから、ただ単に状況の整理役を押し付けられてるだけな気もするけど……変に仕切りたがる人がここにはいなくて、そういう部分では平穏ですなー。まぁそれはいいとして……。


「それじゃ本格的に検証の為に移動を始めていくけど、途中での戦闘と移動経路についてだなー。シュウさん達は、ルストさんの樹洞から出た方が移動はしやすい? 空中を移動出来るなら、突っ切っていくのもありなんだけど……」

「僕と弥生はどうとでもなるけど、フラム君がね?」

「そういう事だな!」

「……コケのアニキ、俺もちょっと自信ない」

「……なるほど」


 なんでフラムがこの内容で偉そうな態度なのかは置いておくとしても、アーサーがイノシシでの空中移動はあんまり得意じゃなさそうだな。ルストさんの樹洞に入ったままでもいいんだろうけど……いや、流石にアーサーはそういう扱いには出来ないか。フラムだけならそんなの気にしないんだけど……。


「普通に森の中を進んでいくのでいいのでは? 地上は赤のサファリ同盟の方々に任せて、私達は森の上から進んでいくのもいいと思いますよ。違った視点から探れますしね」

「それもそうかー。あ、でも川沿いに進むのも考えたんだけど……ジェイさん、その辺はどう思う?」

「……なるほど、川沿いですか。上から見れば全体像は把握しやすいエリアですし、少し遠回りにはなりますが、フィールドボスとの遭遇も考えるならありかもしれませんね」


 今いる辺りでは西へ流れているけど、途中で東に大きく蛇行して、その先が海へと繋がってるからなー。真っ直ぐ突っ切るよりは移動距離は長くなるけど、その分だけフィールドボスとの遭遇確率は上がるはず! ……今、存在していればだけど。


「ケイ、川沿いで移動にしようぜ! 水中の敵なら、俺が倒しやすいしな!」

「……なんか逆に不安になったんだけど?」

「なんでだよ!?」


 フラムのライノコでの電気魔法に、川の水かー。無用に敵を巻き込みまくって、無駄に戦闘の規模を拡大しそうな予感……。んー、でもこのメンバーなら、多少の数ならどうにかなる?

 いざって時は、アーサーを回収して空に上がればいいか。フラムは別に死んでも問題はないし……。


「よし、それじゃ川沿いに進んでいくか。戦闘は……一番近くで接敵したPTが引き受けて、状況次第で加勢って形でいい?」

「おう、いいぜ!」

「……フラム君、僕達が一番戦う可能性が高いのは分かっているかい?」

「それくらい分かってるって、シュウさん! 出てきた敵は、ケイの手を借りずにぶっ倒すまで!」

「おー、是非ともそうしてくれ」


 無茶はさせない程度に上から俺らが支援出来るように設定したつもりだけど……フラムだけが危険な状況なら放置しようかな? まぁ弥生さんやシュウさんが、同Lv体の雑魚敵に苦戦する様子って想像も出来ないから、大丈夫だとは思うけど……。


「……まぁ移動ルートと、戦闘方針はこんなとこでいいか。ここのエリアはあくまでも途中経路だけど、油断はないように! いつでもフィールドボス戦に突入してもいいつもりでいてくれ!」

「まぁ獲物察知に引っかからない敵も存在しますしね。そういう敵の発見は、観察力に長けた方にお任せします」

「えっへん! ジェイさんに任されました!」

「頑張るかな!」

「おぉ! フィールドボスを探すという役割もあるのですね!? そういう事でしたら、ここは張り切って探させてもらいましょう! 獲物察知に引っかからない敵となれば、何かに擬態している事にはなりますし、そういうスクショもまた面白いもの! 中々お目にかかる機会のない個体になるでしょうし、是非ともここで――」

「はい、ルストは静かにしておく!」

「ぐふっ!」

「確かに擬態したフィールドボスが出てくる可能性はない訳ではないから、油断しないように進むのは重要ではあるね」


 当たり前のように、早口で語り始めたルストさんが弥生さんにぶっ飛ばされてるけど……まぁそこは置いておこう。もう何度も見た光景だし、重要なのはそこじゃない。


「出てくるかどうかは不明だけど、本当に擬態している敵には要注意で! それじゃ川沿いに川を下っていく感じで出発! アル、俺らは川の上で!」

「どうせなら着水しとくか? それなら、水中からの攻撃は俺らで引き受けられるだろ」

「あ、それもそうだな。なら、それで!」

「おう、了解だ! ハーレさん、危機察知も頼んだぞ」

「頼まれました!」


 ここの川には、フィールドボスのワニがいたんだ。それにピラニアやアナコンダなんてのもいるって……あれ? それはジャングルでの話だっけ? あー、でもあそこの下流になるんだし、同じようにいてもおかしくはないよな。

 てか、アナコンダか……。うん、それっぽい感じの大蛇、今の味方として思いっきりいるんだよなー。フラムがごちゃごちゃ言ってたけど、マムシさんの大蛇を見ても平気なんだし、アナコンダが出てきても大丈夫だろ。


「そうなると、私達が上空担当で動いた方が良さそうですね。スリム、アルマースさんの少し後方の上を着いていく形でお願いします」

「ホホウ、了解なので!」

「地味に暇そうだな、この位置」

「……ふん、そう言って油断し過ぎない事を願うぜ」

「そうですよ、斬雨。もしフィールドボスが出れば、そうも言ってられませんからね」

「あー、そりゃそうか。スミ、俺らの方も危機察知は頼むぜ?」

「……分かっている。そういうところで手抜きはしねぇよ」


 ふむふむ、俺らが空中ではなく、川の水面に移動したらこうなったか。まぁ上からもしっかりと警戒してもらえる状況なら、決して悪くない配置だよな。

 どうしても空を飛んでいる時は真下へ死角が出来るから、その辺は俺らで補えばいい! その分、ジェイさん達には上を任せる! 空を飛ぶ敵がフィールドボスとして出てくる可能性だってあるんだしなー。


「おっしゃ! それじゃ進んでいくぞ、アーサー! 『自己強化』『魔法砲撃』!」

「うん! 『自己強化』!」

「不意打ちにはこちらの方が対処しやすいですしね。『自己強化』!」

「まだ見ぬ景色を求めて進んでいきましょう! えぇ、この前は川沿いには進みませんでしたし、これはこれで良い景色が撮れそうです!」

「こら、ルスト! あんまり先行し過ぎないように!」

「弥生、しばらくは程々でいいよ。占有エリアの中でもないからね」

「それはそうだけど……もう本当に言う事を聞かないんだから!」


 なんかご苦労様です、弥生さん。ルストさんのあの動き方を見ると、ハーレさんのテンションの高い時の動き方って、大した事ないように思えてくるよ。まぁ実際、それほど困るほどでもないしなー。


 それにしても……自然とどういう配置で進んでいくか決まっていった感じだね。赤の群集のメンバーが川沿いの陸路、青の群集のメンバーが川の上の空路、俺ら灰の群集のメンバーは川の水面に降りて水路。うん、意図していなかったけど、良い感じに収まった気がする。


「はい! ここのエリアの中で、フィールドボスが出てくると思いますか!?」

「うーん、どうなのかな?」

「そればっかりは、実際に進んでみるしかないんじゃない?」

「先に分かれば楽なんだけどねー。あ、ケイさん、さっきは言い忘れてたんだけど、フィールドボスの誕生に使える『瘴気珠』だけど、わたしも持ってるからねー!」

「え、レナさん、マジで?」

「あー、そういや受け取ってたな。シュウさんが持ってるって言ったので言いそびれてたが……」

「アル、知ってたんかい! てか、受け取ってたって……誰から?」

「ベスタさん! オオヤドレンコンの再戦で個数が確保出来たからって、強化済みのとトレードしてきて渡してくれたんだよ!」

「あー、なるほど」


 ベスタ、素直にそれは助かる! てか、何気に夕方のあのレンコンとの再戦が役に立ってたんだなー。まぁいざという時はそれを使って、しっかりと情報を得てこいって言われてる気もするけど……期待に応えられるように頑張りますか!


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る