第1342話 群雄の密林に戻って


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『群雄の密林』に移動しました>


 ふぅ、変なタイミングで遭遇したアイルさんとはすぐに離れて、マサキの元まで戻ってきた。てか、改めて来ても人が多いな!?

 こうして見てみると、何気に大きな樹木系の種族の人が結構歩いてるし、不動種の移動をやってる真っ最中か。


「ケイ、桜花さんの方から通達はしてもらい終わったけど……大丈夫かな? 誰かいたみたいだけど、様子がなんか変だよ?」

「あー、なんでもないから大丈夫」

「大丈夫なら、俺の方にPTリーダーをもらえるか? 目の前にレナさんがいるんだが」

「え、マジか!?」


 あ、確かにPTメンバーの表示としては同じエリアにいる状態になってるよ。というか、今の声の聞こえ方はPT会話ではなく、普通に聞こえてたような? それも上から――


「およ? あ、ケイさん発見! アルマースさん、下! 真下!」

「……真下にいたのかよ、ケイ」

「今さっき転移してきたとこだけど……アルの方が高い場所過ぎるだけじゃね?」

「あー、まぁそれは確かにな。とりあえず上がって来れるか?」

「ほいよっと! すぐ行く!」


 どこにいるのかさえ分かれば、飛んでいくのは飛行鎧で楽勝! ……ぶっちゃけ、見えてるのはアルのクジラの腹部分と、ヒレの上に乗って下を覗こきんできてるレナさんのリスの顔くらいだからなー。まぁ今はそれで十分だけどね。


 という事で、手早く飛び上がってアルのクジラの背の上に移動! それに合わせてレナさんもヒレの上から背の上に移動してきてるね。他には誰もいないから、レナさん1人だけって予想は当たりだったっぽい?


「やっほー、ケイさん! アルマースさんから聞いたけど、PT加入は問題ないみたいだし、今日はよろしくねー!」

「あ、既に聞いてるんだな。それじゃこれ!」

「うん、ありがと!」


<レナ様がPTに加入しました>


 ササっとレナさんにPTを申請して、今日の臨時メンバーは決定。最近は風音さんが臨時メンバーでいる事が多かったけど、まぁそこは日によるか。……ちょっとその辺も聞いとこ。色々とみんなが喋ってるから、会話に加わってない内容は全部を把握し切れてないんだよな。


「サヤ、ちょっと確認なんだけど……桜花さんのとこに風音さんっている? エニシのとこに行く途中ですれ違ったんだけど」

「あ、うん。すぐ隣にいるかな! 風音さんに何か用事があるなら伝えておくよ?」

「あー、特別用事があるって訳でもないんだけど……」

「最近一緒に動く事が多かったから、風音さんを今日の検証のメンバーとして気にしてる?」

「……まぁそれで正解だ、ヨッシさん」


 全て言わなくても、状況的に大体の察しは付きますよねー。というか、この反応だと既に話は済んでそうな気がする?


「およ? ケイさん、わたしより風音さんに来てほしかった感じ?」

「……その聞き方って意地悪じゃね?」

「あはは、冗談、冗談! というか、別に人数の上限はないんだし、風音さんさえ良ければ一緒に来れば……あ、でも赤の群集と青の群集に人数制限をかけたんだから、そういう訳にもいかない?」

「別にそこは私は気にしませんが? 風音さんでしたら、アブソーブ系スキルをお持ちですしね」

「僕もそこは特に反対はしないよ? ただ、戦闘が少しややこしくはなるかもしれないね……」

「んー、戦闘の人数的な部分が微妙になってくるのは、確かにあるよねー」

「そうなんだよなー」


 18人よりも多くなれば1つの連結PTでは収まらなくなるし、そうなると必然的に戦闘に参加出来ずに溢れる人も出てくる。出来ればそういう事態は避けたい……あぁ、この手があった!


「よし、フラムを追い出そう!」

「おいこら、待てよ、ケイ!?」

「……お前、検証が目的じゃなくて、『共闘殲滅を行うモノ』の取得をしたいんだろ? ここで出ていって、そっちのPTを募集すれば? 今ならレナさんの伝手で募集をかけてもらうのも可能だぞ」

「およ? あー、あの称号ね! んー、そういう目的なら呼びかけてみよっか? 多分、灰の群集でも取りたい人って結構いると思うし」

「え、マジで!? くっ!? でも、ここで乗るのはケイの思惑通りになる気がする!?」

「……それに何か問題でも?」

「いやいや、明確に追い出そうって言われて、追い出されたくはねぇからな!?」


 ちっ、折角レナさんが大真面目に話に乗ってくれたんだから、大人しく追い出されてくれればいいものを……! 最初に言い方を間違えたか。


「えっと、風音さんに聞いてみたら、今日はパスだって。なんか疲れちゃってるみたいで、戦闘は今日はしたくないみたい」

「あー、そういう事なら仕方ないか。……はぁ、いてもいいぞ、フラム」

「なんでそんなに諦めた風な様子なんだよ! 昼の件――」

「それ以上言ったら、冗談抜きで追い出すぞ」

「お、おう……」


 ここに転移してくるまでの間でも余計な事を言いかけていたからこそ、追い出してしまいたい気分なのは……分かってないんだろうなー。てか、冗談抜きでリアルの話を許可なしで出すな!


「およ? リアルで何かトラブルでもあったの?」

「様子が変だけど、ケイ……本当に大丈夫かな?」

「あー、出来れば触れてほしくないとこだから、そこはスルーでお願いします……」

「……そういう事なら、分かったかな。でも、本当に困ってたらちゃんと言ってね?」

「ほいよっと。なんか頼りに出来る時は、そうさせてもらうわ」

「うん、任せてかな!」


 サヤがこう言ってくれるのは嬉しいけど……ぶっちゃけ、クラスメイトからの変な嫉妬ってどう対処すればいいのか謎過ぎる! 相沢さんが悪い訳でもないから、もう完全に無視するしかないよなー。はぁ……めんどくさ。


「ねぇねぇ、アルマースさん。ケイさんってリアルで面白い事になってるの? 昨日、未成体以下の人達を纏めてたアイルさん、なんかこの話に関係してそうじゃない?」

「……レナさん、せめてそういう内容は本人に聞こえないところでやろうぜ?」

「あ、それもそだねー。それじゃケイさん達がログアウトした後に、その辺の話を聞かせてもらおっか」

「おう、いいぜ」

「レナさん、ちょっと待って!? アルも何を言う気だ!?」

「ふっふっふ、ケイさん! 人の口には戸は立たずだよ!」

「まぁある事ない事、適当にだな」

「全く隠す気が皆無だな、レナさん!? アルも何言ってんの!?」


 実際にあった事だけでも、アルが知ってる範囲の事でさえちょっとややこしいのに、ない事まで言う気か!? てか、推測で好き勝手に言う気だな!?


「あー、ケイ? 俺が言うのもなんだけど……素直に言っちまった方がダメージ少なくね?」

「本当にフラムにだけは言われたくないけどな!」


 でも、もうその方が穏便に済みそうな気がするわ! てか、レナさん、一体どこから俺とアイルさんが同じ学校だって聞いたの!? ……うん、レナさんの顔の広さが怖いわ!


「……はぁ、もう観念して概要だけな。そのアイルさんとの関係を変に誤解されて……その誤解そのものは解けたけど、話をしてる事そのものに周囲から嫉妬されて面倒な事になっている」

「……え? ケイもそんな状態になったのかな!?」


 ん? 俺もって……あ、そういえばヨッシさんがサヤの中学時代に、変に悪目立ちしてた事があるって言ってたっけ! モテる先輩にどうこうって……あー、全部をしっかり聞いた訳じゃないけど、状況的には似ているのか。


「……サヤ、その話は内緒って言ってなかったっけ?」

「あっ!? ……ううん、似たような状況は知ってるから、ケイの大変な様子はわかるし、隠すのはなしかな! 周りが変に誤解してくるのは大変だよね……。私も中学の頃、ろくに知りもしない先輩に付きまとわれて、周りには付き合ってる事にされてウンザリしたかな! 変に嫉妬されて、嫌がらせもあったし!」

「あー、それは確かに面倒なやつ……」


 まさかここでサヤの中学時代の話が出てくるとは思わなかったけど……この感じは俺以上に面倒な状況だったっぽいね。あー、嫉妬って本当に面倒くさい。


「……あの、これは私達が聞いていてもいい内容なのでしょうか?」

「問題ないかな! むしろ、ジェイさんも打開策の意見を出してくれるとありがたいかな!」

「下手に口を挟んだのは失敗でしたか!? まぁたまにはこういう話もいいでしょう。サヤさんの方は、既に解決済みという事でよろしいのでしょうか?」

「あ、それはもう卒業した後、私の家にまで来たから全力で引っ叩いて終わりにしたから大丈夫!」

「……あはは、サヤって住んでる場所に親戚が多いから、そこから一気に誤解が解けたんだよね。あくまで中学校って閉鎖空間だからこそ起きてた事みたい」

「……そうなのですか」


 うん、思った以上に力技な解決方法だった。サヤの親戚を通じて事実が伝わってって……人脈は恐るべしだな! うん、スーパーのおばちゃん達に捕まった時も、そういう主婦ネットワークって凄まじいものがあったもんな。


「……ふむ、それですと問題になるのはケイさんが無用に嫉妬を受けているという点ですか。……そのアイルさんという方、ケイさんとは具体的にどのようなご関係で?」

「ただの隣のクラスの人」

「ケイ、雑な説明過ぎじゃね!?」

「いや、だって一応は個人情報だぞ!? 過剰に色々と話せるか! ペラペラと喋りまくるフラムと一緒にすんな!」

「えーと、わたしの知ってる範囲の内容だと、ケイさんをeスポーツ部に勧誘しようとして、失敗して警戒されまくってる人だね。でも、その辺は和解にはなったよね?」

「なるほど、大して深い関係ではないと」

「……そうだけど、なんでレナさんがそこまで把握してる!?」

「えっと、わたしはその場にいたんだけど?」

「俺から事情を聞き出したの、レナさんだったしな!」

「あ、そういやそうだった! ……って、フラムが偉そうにいう事じゃねぇわ! あれはお前も元凶だろうが!」

「わっはっは! もう過ぎた事だし、そこはもう流した話だろ!」

「まぁそうだけど……」


 よくよく思い出してみれば、そもそもアイルさんと揉めてた時の仲裁をしてくれたのはレナさんだったよ! あー、レナさんが首を突っ込んできてもおかしくない状況だよ、これ。あの後の話から繋がるんだから、そりゃ気にして当然だよなー。


「んー、和解になって済んだはずの話が……なんで周囲からの嫉妬って状態になってるの?」

「……あー、あの後から何かとアイルさんと話す機会が増えてなー」

「アルバイト先も同じになったしな! モテてる人だから、それで嫉妬されてんだよなー」

「だから、余計な情報を増やすな! 個人情報だって言ってるだろ!」

「お、おう。今のは悪い……」


 まったく、こうして俺が言ってるのもあんまりいい状態じゃないのに……どうしてこう、フラムは余計な事を言いまくるのか! 


「……なるほど。これはほとぼりが冷めるまで放置しかないんじゃないでしょうか?」

「……やっぱりそういう結論になる?」

「えぇ、ケイさんにも、そのアイルさんとやらにも、これといった落ち度がある訳ではないようですし、アルバイト先が一緒となればお互いに接点を無しにという訳にもいかないでしょう。そういう人達は無視で構わないと思いますよ」

「ですよねー」


 うん、他に方法は俺も思い付かないし、サヤの時みたいな強行手段を使う相手が、この場合は存在しないんだよな。当事者になる俺とアイルさんの意思とは完全に無関係だから、冗談抜きでどうしようもない。


「ねぇ、聞いてて思ったんだけど、嫉妬そのものはどうにもならないけど、状況を変える手段自体はあるにはあるんじゃない? ケイさん次第だけど」

「俺次第って……弥生さん、どういう内容?」

「わー!? 弥生さん、それは駄目なのさー!」

「え、駄目なの? 実際に付き合っちゃえば――」

「それだけは絶対に駄目なのです!」


 あー、弥生さんの言いたい事は分かった。要は嫉妬されたところで、ある意味それが当然どころか優越感に変わる手段だな、それ。……とはいえ、俺にはその気はないし、アイルさんもそんな気は欠片もないだろ。

 でも、ちょっとハーレさんが過剰反応し過ぎてじゃね? いや、確かに嫌がる理由はあるっぽいのは聞いたけど……そこまで否定するほどか?


「んー、まぁこればっかりは当人同士の事だし、妹のハーレさん的にも微妙な心境になっちゃうかもね。うん、今のは無かったことにしといて!」

「話を聞いておいて何も結論は出せずに申し訳ないけど、その嫉妬はそのうち落ち着くんじゃないかい? 学生ならそろそろ夏休みも近いし、その間に色々と状況は変わると思うよ」

「まぁそうなりますよねー」


 シュウさんの言う通り、もう夏休みまで2週間は切っている。その間はクラスメイトと会う事はないだろうし、期間が空いたところで有耶無耶になってくれればいいんだけどね。


 さーて、なんか変な話の脱線になってしまったけど、この話題はこれくらいで……あれ? なんか西の方から凄い勢いで空中に飛び出てきた……って、ルストさんの木か!?


「見えました! 見えましたよ! これが灰の群集の不動種の並木道!」

「わわっ!」

「ぐはっ!」

「ルストさん!?」

「ちょっと、ルスト!? 急に跳び上がらない!」

「あぁ、これは確かにすごいね」


 様子が見えているのがルストさんだけだけど、多分シュウさん達は樹洞の中にいるんだろうね。反応がそれぞれバラバラだけど……。てか、もう来たって早いな!?


「ちょっと待って下さい!? もうルストさんが到着したのですか!?」

「そうなるなー。思いっきり上空へ跳び上がってきたのが見えてるところ」

「いくらなんでも早すぎねぇか!? 俺らの方、まだ人員集めの途中だぞ!」

「ジェイさん、斬雨さん、そこは急がなくても問題ありません! その分だけ、スクショを撮る時間が確保出来ますので!」

「はい、そうですかと流せる訳がないでしょう!? 斬雨、急ぎますよ!」

「急ぐっつっても、ここからどう急ぐんだよ!?」


 思った以上に早いルストさんの到着だけど……さっきまでの会話って、移動中の雑談だったんだなー。丁度いい時間潰しに使われていたような気もする!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る