第1335話 ケイと紅焔の模擬戦 その5


 紅焔さんを水の中に閉じ込めたけど……それですんなり勝ちになるとは思えない。さて、逃がさないように全力で留めていくぞ! 黒の刻印は使ってきたばっかだから、1分間は次は使えないはずだけど……いや、もう1分も残ってはないか。

 もし使えるようになったらまず間違いなく使ってくるだろうから、そのタイミングはしっかり見ておかないとね。剥奪したからって、逃す気はない!


「っ!」


 おっと、すぐに消えてはいってるけど、紅焔さんの全身から火が放たれてるね。これ、多分だけど拡散魔法だな。でも、水中ではすぐに掻き消されるっぽい。……回数で補おうとしてるっぽいけど、そもそも水中での火魔法の使用は相当分が悪いみたい?


「紅焔選手がファイアディヒュースを連発し、水の拘束を突破しようとしていくー! しかし、無情にも水の中では火はまともに力を発揮する事が出来ていないー!?」

「属性的な相性は最悪だもんな! でも、多少は操作時間を削る事は出来るんじゃねぇの? 窒息でくたばる前なら、十分な悪足掻きだと思うぜ!」

「まぁまだ窒息にはなっていないから、悪足掻きをするならここだろうね。でも、水の操作Lv10ともなれば……操作時間を削るだけでも難儀だろうけどさ」

「手厳しい意見をありがとうございます! 圧倒的に不利な状況に陥った紅焔選手! まだ窒息の状態異常にはなってはいませんが、もはや時間の問題かー!?」


 流石はLv10の操作系スキルなだけはあって、ソラさんの言ってるようにあっさりと破られそうな様子はない。……でも、意外とすぐには窒息にはならないもんだな。まぁ即座に窒息になり過ぎると凶悪過ぎるし、プレイヤー相手だとこんなもんか。

 おっと、悠長に捕まえているだけでは終わりそうにもないな。ははっ、徹底的に抗ってはくるか!


「おぉーっと!? ここで紅焔選手、サイズを元に戻したー!? そして翼を畳んで、泳いで脱出を狙っていくー!」

「泳いでいく方に向かって、水を動かしていくのが地味にエゲツないな!? 水の動きが早いし、元々泳げる種族じゃないと無理だろ、これ!?」

「水量がとんでもないからね。普通の水の昇華の範囲なら十分に逃げ出せる範囲だろうけど……」

「ここで、遂に状態異常『窒息』に入ったー! 紅焔選手のHPが、凄まじい勢いで減り始めていくー! ただの窒息よりもダメージ量が多いのは、火属性ゆえなのかー!?」


 よし、流石に少し時間が経てば呼吸が出来なくなってきたな。俺の場合はこういう閉じ込め方をされても平気だけど、この辺は種族や属性の相性の問題――


「ぷはっ!」


 ちっ、やっぱり黒の刻印が使えるようになったら、それで脱出は狙ってくるか。落ちていく水の中でなんとか頭だけ出して『窒息』が解除になったけど……逃すかよ! 俺の足場にしてた水も落下になってるけど、そこはいい! 大急ぎでこれだ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を2消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります>  行動値 107/125

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります>  行動値 103/125

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 紅焔さんを覆っていた水は天然産のものだから、落下中だけど空中にまだ存在が残っている。だから、それを再び操作して包み込む!


「なっ!? おわっ!?」


 おし、捉えた! それに追加で、落下してる先の湖からも水を持ってきて、紅焔さんを包んでいる水を、更に覆うように操作! わっはっは! 黒の刻印で剥奪して逃げ出すのは想定済み! そんなに簡単に逃がさないっての!


「紅焔選手、一度は操作を破ったものの、再び水に呑み込まれてしまったー!? 更にその周りに水が追加され、より強固な捕縛態勢へと変わってしまっているー!?」

「こりゃケイさん、狙ってたなー。あれ、逃げるの無理じゃね?」

「あはは、まぁそうだろうね。でも――」


 って、おわっ!? え、ヤバ!? 俺のコケとロブスターが火に包まれて……って、紅焔さん、捕まるのは覚悟の上か!? 俺の意識をそっちに逸らすのが目的!? くそっ、完全に魔力視での兆候の確認をし忘れた!

 ヤバい、ヤバい、ヤバい! 外側に使ってる水を、俺の方に持ってきて火を消さないと! 水属性があるから多少は火への耐性はあるけど、それでもコケは燃えるからヤバい!?


「おーっと!? 一転、ケイ選手が火に包まれたー!? それも盛大に火が広がっていっているー!」

「あー、紅焔さん、やるな! 肉を切らせて骨を断つってか!」

「これはケイさんが湖に落ちるか、水の操作を解除しないと危険なやつじゃないかい?」

「コケが燃えて本体が危険なケイ選手、どうするのかー!? おぉーっと!? 少しの隙を付き、攻勢へと転じた紅焔選手、再び『窒息』の状態異常へと舞い戻るー! さぁ、この攻防、どちらが耐え切るのでしょうか!?」


 どっちが先に死ぬかの完全にチキンレース化してしまったけど、無理にそれに付き合う必要もないだろ! てか、多分このままじゃ俺の方が先に死ぬ! 


「……仕方ないか」


 今はコケを回復させて、次の一手で仕留める! その為に、水の操作は解除!


<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 93/125 : 魔力値 270/310


 俺を中心に水を生成すれば、操作なしでも火は消し止められた。ははっ、無茶苦茶な生成量だな、おい! 


<行動値を5消費して『増殖Lv5』を発動します>  行動値 88/125


 ふぅ、とりあえずこれでヤバかったコケは回復して、そのまま湖に着水っと。……でも、ロブスターの弱り方もヤバいな。残りHP、3割かよ。


「ちっ、仕留め損なったか! てか、炎の操作を強引に押し切って操作時間を使い潰させるって、無茶な生成量だな!」

「そりゃどうも!」


 落下中の水の中から抜け出して、余裕で飛んでいってるな、紅焔さん。でも、窒息で8割くらいのHPは削れてるし……お互いに満身創痍か。

 ふぅ、ともかくさっきの状態から追撃されずに済んで助かった。紅焔さんも水から離れるので精一杯ってとこだったか。あー、追撃が無かったのは、炎の操作で俺を攻撃してたのもあるのかもね。


「ケイ選手、再び湖の中へと戻っていったー! 紅焔選手、ケイ選手のコケの撃破はならずとも、水の拘束からの脱出には成功だー!」

「うへぇ……。今の、ギリギリもギリギリだな!」

「……今の一連の攻防で決まるかと思ったけど、まだ続くみたいだね」

「そのようですね! ですが、お互いにもう満身創痍! ここから、決着に向けてどう攻撃を仕掛けていくのかー!?」


 さーて、ここで距離を取って脱皮で回復をしてって手段もあるけど……それが出来るのは紅焔さんも同じ。それをお互いにやったら振り出しに戻るだけだから、そんな時間の猶予は与えないし、与えてくれないだろ。

 10分間で使える黒の刻印は3回までだから、少なくともあと1回は使えるはず。剥奪されるのを前提で……いや、それくらいは普通に読んでくるか。だとすると、下手に水の操作に頼らない方がいいね。


 よし、どこまでいけるか分からないけど、とりあえずこれでやってみるか!


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 125/125 → 124/124(上限値使用:1)


 行動値の回復、本当に早いな!? ちょっとの間でもう全快してるよ! まぁそこはいいや。さーて、これにも影響は大きく出てるはずだから、盛大に使っていきますか!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値10と魔力値60消費して『半自動制御Lv1:登録枠2』は並列発動の待機になります>  行動値 114/124(上限値使用:1): 魔力値 250/310 再使用時間 90秒

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値20消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』を発動します> 行動値 94/124(上限値使用:1): 魔力値 230/310

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 湖面まで跳ねて、顔と両方のハサミを突き出して魔法砲撃で発射開始! 右のハサミからはアクアクラスターで、操作数の4倍の弾数だから24発! そして、左のハサミからはアクアボール15連で、1連当たり6発に増えてるから、合計で90発!


「ちょ!? ケイさん、待て、待て、待て!?」

「待つかっての!」


 水の操作の同時操作数が増えた事で、水魔法そのものの攻撃弾数も段違いに増えている! わははははは! いくら魔法砲撃になってて狙いが分かりやすくなってるとはいえ、これだけの連射だと回避で精一杯だろ!


「ケイ選手、大量の水弾を放ちまくっていくー!? 紅焔選手、思わず逃げの一手を取って……おぉーっと!? 魔法砲撃だけではなく、時折通常でのアクアボールが迫っていき、回避が難しい!? 回避し切れず、紅焔選手にアクアクラスターの目印の水滴が数発当たったー!」

「通常発動と魔法砲撃が混ざって飛んでくるって、やべぇな!? てか、弾数自体がおかしな事になってんな!?」

「そういえば、操作系スキルの同時操作数が魔法の一部の攻撃回数に影響を及ぼしていたね。……水の操作の強化、こういう怖さもあるって事かい」

「今、その効果を存分に発揮していくケイ選手! 『水属性強化Ⅲ』の効果もあってなのか、アクアボールでも痛いダメージが入っているー!」


 アクアボールの6連射は躱されて問題ないから、そこからの通常発動の6発同時のアクアボールで体勢を崩して、着実にアクアクラスターの最後の照準指定になる水滴を当てていく。ははっ! こりゃいいな!


「近付くの、どう考えてもやべぇ!? おわっ!?」

「逃げるだけか、紅焔さん!」

「言ってくれるな、ケイさん!? 『ファイアディヒュース』! でも、実際ヤバいだろ、その攻撃! 『ファイアディヒュース』!」


 だろうなー。うん、水面から動かずに狙いをつけて撃ってるけど、紅焔さんが近付けば近付くだけ、どんどん命中精度は上がっていくもんな。飛びながら拡散魔法で防御し始めたけど、属性的な相性で防ぎ切れてないしね。


「ケイ選手の猛攻に、紅焔選手は防戦一方だー!? 既に4発ほどアクアクラスターの照準となる水滴も受けて、これは厳しいかー!?」

「わっはっは! 水魔法Lv10と水の操作Lv10の組み合わせ、凶悪過ぎるわ! 使い方次第って気はするけどよ!」

「他の群集で誰もこれをしてこなかったというのは、不思議な話だね? 参戦してなかった僕が知らないだけで、実はあったのかい?」

「いんや、俺も聞いてねぇな? Lv10の魔法を2属性持ってた相手がいたってのは聞いた程度だぜ?」

「いくら強い人でも、その条件を達成する事は容易ではないからでしょうね! 今回のケイ選手も、かなりの運に恵まれたからこそ実行に移せたものですし!」

「ははっ! まぁそりゃそうだよな!」

「まぁスキル強化の種は気軽に手に入るものでもないし、まだその領域にいる人は少ないのかもね」


 実際のところは確認のしようがないから分からないけど……ダメ元で今日の共同での検証の時にでも探ってみるか? って、実況の方に釣られて別の事を考えてる場合じゃないな。


「これで終わりだ!」

「うげっ!? ヤバい、ヤバい、ヤバい!?」


 上空へアクアクラスターの最後の1弾を撃ち出し、24発に分かれてそれぞれに設置した水滴の元へと向かっていく。最終的に紅焔さんには6つ水滴が付いたから、6発が追いかけていってるな。


「仕留められてたまるか! 『ファイアクリエイト』『炎の操作』! って、相殺出来ねぇ!?」


 わっはっは! そりゃ相性最悪の火属性の魔法で、水属性の魔法を止められてたまるかっての! 下手に止まればすぐに着弾だし、物理の応用スキルで相殺しようと思っても、連撃だと最初の方は威力足らずで多分相殺は出来ないはず。連撃数が強化出来る前に、紅焔さんのHPが先に無くなる!


「アクアクラスターの最後の1発が撃ち放たれ、紅焔選手に6つの水弾が襲いかかっていくー! 必死に逃げるが……次々と着弾し、HPが削り切られたー!」


<紅焔が生存不能になったため、模擬戦を終了します。勝者:ケイ>


 よし、結構俺も危ないとこまで追い詰められたけど、なんとか紅焔さんに勝った! ……正直、属性の相性で勝ったような気もするけど、そういう相性も含めて勝ちは勝ち!

 ふぅ、紅焔さんの龍が近くの小島に再出現してきたし、これで模擬戦は終わりだなー。あぁ、時間的にはなんとか19時までには決着になったね。


「だー! また負けたか……! ケイさん、今度やる時は勝たせてもらうからな!」

「それは受けて立つけど、次も勝たせてもらうぞ?」

「結構追い詰めたけどな!」

「それでも勝ったのは俺だけどなー」


<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 おっと、そういう言い合いをしてたらエンの前に戻された。なんだかんだで、水の操作Lv10の実戦運用を想定した模擬戦としては良かった気がするね。


「……俺も火の操作Lv10が欲しくなってきたぜ。Lv9まででも、上げとけばかなり違うか?」

「Lv9の段階でも同時操作数が5つまで増えてたし、十分ありだと思うぞ」

「だよな? おし、そうしてみるか!」


 最後の方の戦法はLv9でもそれなりに出来るだろうし、あれだけ弾数が増えればかなり違ってくるはずだもんな。Lv9止まりでも、決して上げておいて損する事はないだろ!


「以上で、水の操作Lv10の実戦運用を追求しつつの全力勝負が終了となります! 実況は私、『グリーズ・リベルテ』所属のリスとクラゲのハーレと!」

「解説は、トリカブトのザックと!」

「ゲストの『飛翔連隊』所属のタカのソラでお送りしたよ」


 さてと、実況の方も〆が終わったみたいだし、軽く挨拶してからログアウトだなー。もう19時目前だから、手早く済まさねば!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る