第1334話 ケイと紅焔の模擬戦 その4
さっきの津波攻撃が危機察知を回避する攻撃になっていたかどうかを知りたいけど、今は紅焔さんの返答待ち。まぁもし断られたら、対戦が終わってから聞くという事にしよう。
「ケイさん、湖面まで上がってきて欲しいそうです! 中断でいいから、直接話がしたいってー!」
「ほいよっと! すぐに上がる!」
よし、まだどういう内容かは伝えてないけど、紅焔さんとしても直接話しておきたい内容なのかもね。もし、危機察知の攻撃になっていたとしたら……紅焔さん自身も驚いている内容のはず。とりあえず普通に声が届くように、湖面まで急いで跳ねていけー!
「おし、見えてきた!」
何度か跳ねていけば、あっという間に湖面まで上がってきた。ふぅ、あまり普段は意識する事もないけど、こうして動いてみるとロブスターが海の種族だって事を実感しますなー。淡水で平気なのはコケの水属性の効果だけど、水中での移動は楽なもんだよ。
「おっ、出てきたな、ケイさん」
「中断させちゃって悪いね、紅焔さん」
近くの小島……あー、俺が津波で押し流して木々や草が折れまくってるとこに紅焔さんは降りてる状態だな。うん、あの津波……俺自身も流されて実感はしたけど、思った以上の破壊規模だね。ただ、ピンポイントで当てるのは難しそう。
「気になっても仕方ない内容だとは思うから、いいって事よ! あれだろ? さっきの津波、危機察知の回避になってた可能性に気付いたんだろ?」
「まぁなー。そういう事を言ってくるって事は、やっぱりそうなってた?」
「おう、なってたぜ!」
「やっぱりかー」
思っていた通り、さっきの津波攻撃では危機察知は働かないので正解だったな。危機察知で反応が出るのは直接的に攻撃を狙った時だから、さっきみたいな間接的な攻撃ではすり抜けてくる訳だ。
「これはどういう事だー!? 対戦が中断になったかと思えば、先ほどの津波攻撃では危機察知が発動していなかったという話になってきたようです!?」
「これの中断理由ってそういう事か! てか、危機察知回避の攻撃ってどういう事だよ!?」
「……どういう理屈なんだろうね?」
「ケイさん、紅焔さん、状況の説明をお願いできますでしょうか!?」
「おう、いいぜ! いいよな、ケイさん?」
「もちろん問題なし!」
対戦の方がお互いに逃げに徹したら打つ手なしに近い状況になってたんだし……まぁ水の操作以外もどんどん使えば手がない訳でもないけど、そこは後でいいや。
とりあえず今は、やってみた時には考えてなかったけど、結果的に危機察知を回避する攻撃になった津波攻撃の話をしていこう。
「えーと、まず初めに言っとくけど……危機察知の回避になる可能性があるのに気付いたの、攻撃した後だから」
「おい!? ケイさん、狙ってやってた訳じゃないのかよ! あれ、結構焦ったんだが!?」
「いやー、その反応で妙だなーと思って? それでよく考えてみたら、ある意味では狙いはつけてないし、もしかするとって感じだぞ」
「あー、そういう事か……」
紅焔さん的には、初めからそういう狙いで俺が攻撃したと思ってたっぽいねー。そう出来てればよかったんだけど、実際に気付いたのが使った後なんだから仕方ない!
「まぁ今のはあくまで前置きで……ここからは大真面目な話。危機察知が発動する条件は……明確に狙われた時だよな?」
「おう、そうなるぜ! 範囲攻撃も、元々の攻撃範囲として設定された中に入れば、PTメンバーまでの攻撃には反応するからな! ただ、その例外になるのが狙いがつけられていない流れ弾だ!」
「より正確にいえば、スキルそのもので照準をつけられていない状態の攻撃ってとこだよな? 青の群集でいた、危機察知を回避する狙撃はそういう性質を掻い潜って使ってたやつ」
「そうそう! ケイさんがさっき使ったのは……ぶっちゃけ、津波自体は操作してないよな? 黒の刻印で操作を剥奪されないように、操作してない水で押し流すのを狙ったか?」
「そうしたら、結果的に危機察知を回避する攻撃になった感じになるなー!」
「サラッと恐ろしい事をしてくるもんだな!?」
いやはや、初めからそういう可能性に気付いてたら、もっと有用な使い方もあったんだけどねー。あの津波を気を引く為の攻撃にして、本命は津波の後ろから……なんて事も出来るはず。
よし、対戦が再開したらそれでやってみよう。2回目に使った時みたいに少し操作時間が残るようにして、実際に攻撃するように見せかければかなり効果もある気がする。
「意図しない流れではあったようですが、結果として危機察知を回避する事が可能な攻撃手段が誕生だー!? ですが、規模が大きい為、不意打ちに使えるかどうかは怪しいものかと思われます! 必要なスキルLvも高いですしね!」
「まぁ見てて丸分かりだしな、あの攻撃! あ、見えないとこからならありじゃね?」
「今回は湖でやっていたけども、土の操作Lv10で川の水を堰き止めて……という事は出来そうじゃないかい?」
「確かにそのままでは丸分かりですが、活用方法はありそうです! 皆さんのアイデア次第で、どんどん化ける可能性が潜んでいるー!」
ふむふむ、今のソラさんの言った川の堰き止めは確かにありだな。土の操作Lv10になってる人は既にいるんだし……川を堰き止めなくても、俺の水の操作で大量の水そのものを持ち運ぶ事は可能ではある。
自然に流れていく方向さえ把握しておけば、危機察知には反応しない奇襲なんて事も出来そうだよな。実際にやってみないと分からないけど、この手の手段ってちょっとした仕様の抜け穴みたいな感じだね。
「さて、それでケイさん、どうするよ? まだ19時にはちょっとだけ時間はあるといえばあるが……決着は付けるか? 正直、お互いに決定打が欠ける気もするし、中断したならこのまま終わりでもいいんだが……」
「いやいや、このまま終われないって! 判定負けとかはないけど、状況的には俺の方が負けてるじゃん!?」
「だよなー? まぁ判定勝ちってのはないけど、ここは引き分けにしといてもいいぜ?」
「それは断る!」
これ、ここで終わりにしようって提案の見せかけた、紅焔さんの勝ち宣言じゃん! 確かに決定打に欠けていたのは事実だけど、あくまでそれは水の操作Lv10の実戦での運用を想定して動いていたからであって……まだ全力で仕留めに動いてた訳じゃない!
「おぉーっと!? このまま中断で引き分けになるのかと思いきや、睨み合いが始まったー!? これは実況も再開という事でよろしいでしょうか!?」
「紅焔さんの実質的な判定勝ちにはさせないっての!」
「俺としても、勝つなら全力でのケイさんにしておきたいしな!」
紅焔さんめ、俺が水の操作に絞って戦ってたのが不満だったっぽい? あー、さっきの言葉は水の操作だけじゃなく全力でやれと発破をかけてきてたな。……よし、その案に乗ってやろうじゃん!
「両選手から再開の同意を得られたので、ここから仕切り直しといきましょう! 10からカウントダウンを行いますので、その間にお互いに移動を行ってください! 攻撃は無しでお願いします!」
「ほいよっと!」
「おう!」
「それではカウントダウンを始めます! 10……9……」
お互いに戦闘状態から脱していたから、このカウントダウンの間に戦闘可能な状況に戻せって事だな。とりあえずこのまま湖面にいたら光の操作で狙われるだけだし、湖の中へと跳ねて潜る!
紅焔さんも空へと飛び上がっていたから、まずはお互いに距離を取った状態に戻すとこからか。……さーて、ここからはもう持ってる手札を全て使った全力といこう!
「……2……1……模擬戦、再開です!」
よし、ハーレさんのカウントダウンが終わったから、ここから戦闘を再開だ! とりあえず、一発、ぶっ放しとけ! その為にも、紅焔さんの位置を把握!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 120/125
これで紅焔さんの位置は……って、全力で離れていってる!? ちっ、さっきの津波が絶対に届かない位置に移動してるのか! まぁそりゃさっきの今だし、俺があの手段を使う事は想定してくるよなー。でも、その縛りはもう今はいらない!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『光の操作Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 101/125
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『閃光Lv3』は並列発動の待機になります> 行動値 95/125
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
光の操作での攻撃、俺だって使えるんだよ! てか、日光だけでこれと同等の威力がよく出せたな? そもそもの操作Lvが違う可能性もあるし、光源に使った火の球の規模も見てないから、その辺は分かりにくいんだよな。……てか、使ったはいいけど、当たったかどうかが分からん!
「おぉーと!? 湖の中から、紅焔選手に向かって光が迸ったー! しかし、危機察知で反応したのか、ギリギリで旋回して紅焔選手はレーザー攻撃を回避ー!」
「あ、そうか! そういやレーザー攻撃って、元々はケイさんが出してきたやつか!」
「使ってなかっただけで、使えて当然ではあるね」
「このまま、光の操作の撃ち合いになるのかー!?」
おっと、紅焔さんの位置を示す矢印が下がってきて……光の操作での攻撃が始まったか。跳ねて動きまくって、回避っと! あんまり深く潜り過ぎたらまた膠着状態になるだけだけど……中々攻撃を当てるのが難しいもんだね。
でも、攻撃はしないと意味がないから……よし、あっという間に行動値が全快したから、次の一手でいきますか! 水の操作、剥奪し切れるなら、してみればいいさ!
<行動値10と魔力値20消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 115/125 : 魔力値 290/310
生成量を多い状態で、水を生成! それで、次はこれ!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を2消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります> 行動値 113/125
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を4消費して『水の操作Lv10』は並列発動の待機になります> 行動値 109/125
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
わっはっは! 今回は思考操作で、さっきの津波の時の要領で生成した巨大な水のカーペットで水を掬ったように見せつつ、それは全て操作下に!
その上で、生成した水は6つに分けて、4発の巨大な水弾と、1つの俺の足場として別々に操作! これだけ同時に操作して、紅焔さんに突撃!
「ケイ選手、多量の水を操作しての強行突破を敢行だー! この動きに、紅焔選手はどう反応するのかー!?」
「あー、どれがどういう操作だ、これ? デカい水弾4つに、足場が1つに、水を掬ってるのが1つ?」
「パッと見で分かるのはそれくらいだね? でも、そんなに単純でもない気がするよ?」
「近付かれるのは嫌な気しかしないんだが!? 『高速飛翔』!」
「ここで逃すか!」
折角、決着を付けに湖の中から出てきたっていうのに、即座に逃げに動くのは……妙な動きだな? 普段の仕様ならまだしも、行動値と魔力値の回復が途轍もなく早い今でそんな事は……って、誘導されてるのか、これ!
「おーっと!? 紅焔選手を追いかけていた、巨大な水弾4発が動きを止めたー!? ケイ選手、剥奪を恐れたかー!?」
「いやー、今のは紅焔さんの罠じゃね? それを避けたんだと思うぜ?」
「おそらくそうだろうね」
「どうやら紅焔選手、何かを企んでいたようだー!?」
だろうなー。俺が攻撃の動きを止めたら、それ以上は逃げる様子は無くなったし……追いかけるように誘導されていたのは間違いない。
「ははっ! やっぱりケイさん相手には、簡単にはいかねぇか! だったら、真っ向から破るまで! 『小型化』『高速飛翔』!」
「そりゃどうも!」
ちっ、一気に速度を上げて俺の方へ突っ込んできた!? それも小さくなって、狙いが付けにくくなるようにしてる!?
「ここで紅焔選手、小型化を使用して高機動へと切り替えだー! ケイ選手の懐へ潜り込むのが目的かー!?」
大きくなる事にこだわりがあった気もするけど、その辺も状況次第ではどうとでも変えるようにしてきたか! 追わせていた水弾を反転させて迎撃……いや、それは出来るけど、そういう風に翻弄させるのが目的なのかも。
少しでも触れられる位置になれば剥奪して、その次が来る前に俺自身に接近する事が目的か! ……なら、その狙いに乗るのもありだな。って事で、水弾4発を引き戻して、紅焔さんに当てる! 操作も最大加速!
「近付けさせるか!」
「操作は早いが、構えてりゃどうとでもなる! 『黒の刻印:剥奪』!」
構えていたらどうとでもなるって部分は同意しとく。生成した水はこれで全部消え去って、俺の足場も無くなって落下に入ったし――
「もらったぜ、ケイさん!」
「いやいや、まだだって!」
「っ!? がぼっ!?」
狙ってくるのが俺自身だと分かっていて、生成した水の操作を剥奪するのが目的だったのまで分かれば、俺だって構えられる。一緒に操作していた掬った湖の水が……ただの水として落ちるように見せかけて操作するくらいの芸当は出来るさ。
その水を少し分割して、足場代わりにしとこ。まぁ生成した水じゃないから乗れないし、水中でその場に留まるように泳ぐだけだけど。……泳ぐというか、落ちそうになったら跳ねる?
「まさか、まさかの、紅焔選手が水に呑み込まれていったー!? 呑んでいったのは、ケイ選手が掬っていた湖の水だー! 紅焔選手、脱出を図ろうとするも、範囲が広く簡単には抜け出させてはもらえないー!?」
「剥奪された時は普通に落ちてなかったか!? あれ、落ちている最中に操作に指定した!?」
「……もしくは、元々操作してて、落ちたように見えるように操作していたかだろうね」
「事実関係は分かりませんが、ケイ選手が紅焔選手を水中に捕獲したのは間違いありません! さぁ、ここから紅焔選手の脱出はなるのか!? それとも、このまま脱出出来ずに窒息になって終わるのかー!?」
さてと……なんとか紅焔さんを捕らえはしたけど、盛大に暴れてるからなー。操作時間には全然余裕があるとはいえ、魔法の連発とかになれば厳しい気がする。
てか、この完全な水中に捕らえた状態で火魔法ってどの程度の発動が出来るんだろうね? その辺、具体的な事は知らないような……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます