第1326話 人との繋がり


 宝探し感覚で新たな群集支援種のナギサを見つけて、『スキル強化の種』を無事ゲット! 急に現れてあっという間にトレードして立ち去っていったレナさんもいたけど、今は紅焔さんとソラさんがトレード中。他の人が一斉に押しかけてきてるけど、間に合うかな?


「新しい群集支援種は、多分あそこだ!」

「グリーズ・リベルテと飛翔連隊が一緒に探してるってのはマジか!?」

「くっ、あの2つの共同体が協力してるのは痛い!」

「空に上がったって目撃情報、マジ情報か!」

「レナさんが何か閃いたようにいきなり去っていったけど、探すだけのヒントがあったのかよ!」

「だー! 空の方にいるのは盲点だった!?」

「貰うのは俺だ!」

「邪魔すんな、この野郎!」

「お先に! 『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」

「うぉ!?」

「おいこら、待てや!」

「わわっ!? 強制解除になった!?」

「先に行かせるか! 『アースプリズン』!」

「よっ! ほっ!」

「今、踏みつけていったの誰だ!?」


 迫ってきてる人達の一部で醜い争いが発生しているっぽいけど……ハーレさんが提案してた妨害工作を実際にやるとこういう感じかー。自分の移動も兼ねてはいるんだろうけど、移動操作制御で空を飛んでる人がかなりの数が落ちていってるよ。

 でも、そういう乱戦から抜け出てきた人が先に辿り着きそうだね。変に巻き込んだらその分だけ狙われるし、やり返している間に出遅れるか。こういう時は完全にスルーして移動に専念した方が良さそうだ。


「紅焔さん、ソラさん、急げよー。凄い事になってるぞ?」

「声は聞こえてるから、そうっぽいのはよく分かるぜ! おし、確保完了!」

「僕もトレードは終わったけど……凄い有様だね」

「味方同士でも遠慮は皆無かな?」

「あはは、そこは味方同士だからじゃない?」

「競争する事を楽しんでるような気もするのです!」

「あー、それはありそうかもなー」


 トレードする権利が得られる、妨害ありの障害物競争って感じか。確かに語気を荒げている人はいるけど、それで本気で切れてるって雰囲気はないしね。というか、俺らがここにいる事でナギサを見つけたみたいだし、自力で見つけられなかったんだから、そこからは早い者勝ちになるのも当然か。


「……何やら騒がしいが、何事だ?」

「あー、トレード狙いの争奪戦? でも、そもそも何が何個あるかって知らないだろうし……って、十六夜さん!?」


 思いっきり普通に話しかけてきてたけど、まさかの岩に乗って上がってきた十六夜さんのヤドカリだったよ! レナさんも同じように下から来たし、何か下にも目印があるのか?


「……なるほど、『スキル強化の種』は残り1つか。貰っておくとしよう」

「おぉ! これで在庫は全て無くなったのです!」

「ハーレ、それはあっちのみんなには聞こえないようにね?」

「はーい!」


 競ってトレードしに来てるとこで悪いけど、一番の目玉は十六夜さんが今最後の1個を持っていったからなー。競ってる最中にそれを伝えるとどうなるか気になるけど……まぁ流石にそこまで気にしなくていいや。というか、このままこの場に残り続けても囲まれるだけな気がする。


「みんな、もう用事は済んだし一旦下に降りるぞ! このまま残ってたら、絶対に囲まれる!」

「おっ、確かにそりゃそうだ!」

「用事は済んだし、撤退なのさー! それにもう少しで18時なのです!」

「あ、ホントだね。サヤと私はここまでみたい?」

「あはは、なんとか間に合ってよかったかな?」

「僕や紅焔も含めて、みんなが手に入れられてよかったよ」


 という事で、水のカーペットの高度を下げて霧の中へと戻っていこう! 紅焔さんとソラさんはそのまま普通に自分で飛んでくれてるしね。あ、十六夜さんは……あれ? 普段なら特に用事がなければ普通に去っていきそうだけど、一緒に付いてきてる?


「……ケイ、この後に時間はあるか? ……ここで会ったのは都合がいいし、少し話がある」

「へ? 十六夜さんが俺に話? まぁ時間はあるから別にいいけど……」

「……それほど時間は取らせん」

「ほいよっと。それじゃ下に降りて、少し落ち着いたらで!」

「……あぁ、それでいい」


 十六夜さんからこうやって面と向かって話があるって言われるのは珍しい気もするけど、とりあえず今は視界の悪い霧の切り替え部分に入るからそっちに集中! ここで水のカーペットを木の枝にでも当てて強制解除になったら困るしな!



 ◇ ◇ ◇



 なんとか強制解除にはならないように避けて、森の中へと戻ってきた! へぇ、ここって湖の畔にある高い木だったのか。ハスの花が咲き乱れてるし、湖の印象が強い場所かも?

 ふむふむ、ハスの葉をよく見れば緑のカーソルと黒いカーソルが入り混じってるから、これがこの森の湖の標準状態か! 割としっかりとした足場になってるし、霧の影響も少ないから、ここは湖面と畔がセットで霧に覆われてる判定になるっぽいね。


 あぁ、そういう場所にある高い木だから、怪しいと睨んで登ってみたのかも? 森の上からだけじゃ霧より上の高い木以上の絞り切れなかったけど、森の中の様子も含めたら場所が断定出来るようにはなってたっぽいね。


「さてと、私とサヤはここで一旦、晩御飯で離れるね」

「後で話の内容を教えてかな?」

「そりゃ当然!」

「2人とも、いってらっしゃーい!」


 という事で、サヤとヨッシさんはここで離脱。まぁ晩飯時にこうなるのはいつもの事だし、そこは特に問題なし。


「さーて、十六夜さんの話ってのを聞かせてもらおうか!」

「なんでそこで紅焔が聞いているんだい? 話はケイさんに対してのものじゃ――」

「……別に代表としてケイの名を出しただけだから、そこは構わん。……2人にも全く関係ない話ではないしな」

「あ、そうなのかい?」

「だとよ、ソラ!」

「結果的にそうだったって話だけどね?」

「私には関係ありますか!?」

「……あぁ」


 ふむふむ、俺ら全員に関係ある話って事か。それならサヤとヨッシさんにも関係ありそうだけど……まぁそれは後で伝えればいい事か。別に大急ぎで伝えなきゃいけない事でもなさそうだしさ。

 それにしても、十六夜さんが周囲を見回しまくってるけど……俺ら以外には聞かれたくない話っぽい? まぁ真上は煩い状態だけど、下には俺ら以外には人がいないから大丈夫な気がするけどさ。


「それで十六夜さん、本当にどういう話?」

「……インクアイリーの件だ」

「はい!? え、なんで十六夜さんがその名前を出して……もしかしてメンバーの一員だったり!?」


 待て、待て、待て! 確かにインクアイリーは1つの群集に依存した集団ではないって事だったけど、実は知り合いの中に所属メンバーがいた!? いや、でも十六夜さんってソロじゃ……? あ、所属共同体が『縁の下の力持ち』ってなってる!? 一体、いつの間に!? 前に見た時は、どこにも所属してなかった気がするんだけど……。


「……少なからず、関係はあると言っておこう」

「はっ!? もしかして共同体『縁の下の力持ち』がインクアイリーの一部ですか!?」

「……見方次第では一部になるだろう。……関係性の説明は放っておいてもいいという意見が多かったが、変に邪推されたくもなかったからな。……機会があれば顔見知りには説明をしておこうと思っていたところで遭遇したから、話をしておこうかと思ったまでだ」

「あー、そういう事か」


 確か、共同体『縁の下の力持ち』はソロプレイヤーの互助会的な集団だって話だったよな。そこがインクアイリーの一部ってのは……よく考えてみたら不自然な事ではないのか。桜花さんが独自のネットワークを持ってる共同体だとは言ってたし、そのネットワークこそがインクアイリーとの繋がりになってくる?


「……ハッキリと言っておくが、昨日の件はインクアイリーの一部、より正確には赤の群集の『インクアイリー』という共同体の中にいる数人の暴走と、それに乗っかった連中が起こした事に過ぎん。……少なくとも俺は自分達で見つけた情報以外、他の群集に流すような真似はしていない」

「あー、邪推ってそういう意味か! 十六夜さんの持ってきた情報は自分で見つけたものだし、群集のまとめで見た情報は不用意に喋ったりはしてないんだな?」


 なるほど、一部の人がやった事なのはオリガミさんからも聞いたけど、その辺は地味に大事な内容なのか。まぁ自分が関係しているのが悪い集団みたいに思われるのは嫌だって気持ちは分かる!

 十六夜さん的には、俺らや桜花さん経由で色々と情報の提供をしてくれてる情報はインクアイリーで得たものではないって事も言っておきたいんだな。……自分で見つけた情報なら共有してるとも言ってる気がするから、あの水準の情報がゴロゴロありそうなのが地味に怖いけども!


「……信頼している相手に疑われたくはないからな。……ただ、不用意に広めたい情報でもないから、これは他言無用で頼む」

「まぁそれはそうだろうね。紅焔、分かってるね?」

「当たり前だっての! あ、でも、PTメンバーくらいまでは話しておいてもいいよな?」

「……ライルとカステラと辛子の3人か。……桜花の所でよく会うし、あいつらなら問題ない」

「おう、了解だ!」

「はい! サヤとヨッシとアルさんも大丈夫ですか!?」

「……あぁ、構わん」

「了解です!」


 逆に、それ以上は誰にも伝えるなって事なのかもね。俺らに今の話を打ち明けてくれたのは信頼の証なんだろうから、そこはしっかりと応えていかないと! それはそうとして……。


「ちょっと気になったんだけど、十六夜さんはいつからインクアイリーのメンバー?」

「……正式なメンバーとしての区分は存在しないから、何とも言い難いな。『インクアイリー』という名はあくまでも赤の群集にある共同体の1つの名前であって、どこからをメンバーと指すかによる。……そうだな、『灰のサファリ同盟』と『モンスターズ・サバイバル』や『オオカミ組』との関係性に近いと言えば分かるか?」

「えーと、同一組織ではないけど、協力関係にはあるって感じか?」

「……あぁ、そうだ。明確に連盟で繋がっていたり、群集を跨いでそれに近しい事になっている共同体もあるがな」

「なるほど……」


 ふむふむ、まぁ結局は人と人との繋がりなんだし、システム的に繋がってるかどうかだけで判断出来る事でもないよなー。繋がりがあったとしても、それがそれぞれの共同体での方針とも限らないし……。


「……俺はつい最近、『縁の下の力持ち』に加入したが、前々から桜花を通じて伝手はあったからな。……縁を持っている事でメンバー認定とするのであれば、桜花もメンバーの1人になり得る」

「ややこしいな、それ!?」


 どこまでの関係性があればメンバーという事になるのか、それ自体が本人達にすら分かってないんかい! オリガミさんでも全体像が把握出来ないって言ってたのは、こういう事かー。

 解釈次第で桜花さんがメンバーとしてカウントされてしまうなら、それこそ桜花さんと繋がりがある俺らまでカウントされかねないよな。うん、全体像の把握は絶対無理だ、これ。


「あー、そうなると特に『インクアイリー』って集団は気にしなくていいのか? 普通に群集のメンバーとして動いてる奴も多そうな気がするんだが」

「……紅焔の言う通り、過剰に警戒する必要はない。……あの件で表立って名前が出たのが初めてなだけで、個人で見ればいくらでも動いている奴はいるからな」

「警戒しようにも、警戒する範囲すら分からなくなった気もするけどなー。まぁ昨日、大暴れしてた個人を警戒しとけば問題なし?」

「……あぁ、ケイの言う通りだ。……俺もインクアイリーの一員かというと怪しいところだし、それで警戒され過ぎるのは不本意でな。……だが、俺みたいなソロプレイヤーも多い分だけ個人での暴走が今後もあり得るし、それに乗っかって動く奴らもいるかもしれん」

「……なるほど。まぁその辺は群集でも同じようなもんだし、気にし過ぎても仕方ないか」


 要は、誰が声を上げてどういう行動を起こすかが分からないって事だよな。そういう意味では、俺らだってプレイヤー主催でのタッグ戦とか開催したし、各群集のサファリ同盟で共同開催したネス湖の調査やスクショの撮影会も似たようなもんだろ。

 その内容が、昨日までやってた競争クエストでは黒の統率種による占拠の実行だっただけ。無所属からの乱入自体がありなんだから、変な事をした訳ではないか。……一部、その目的からも外れた動きはあった気もするけどさ。


「……話の内容としては、この程度だ。……すまんな、時間を取らせて」

「いやいや、これくらい問題なし! むしろ、どこにでもいるものだと考えていいみたいで、ちょっと気楽になったくらいだしさ」

「そうなのさー! 警戒すべきは『インクアイリー』ではなく、個人なのです!」

「違いねぇな! てか、そういう話だったら、利害さえ一致すれば普通に協力も出来そうじゃね?」

「確かに、それはそうだね? 十六夜さん、その辺はどうなんだい?」

「……桜花が情報を探るのに使った伝手に、上手く情報を流せば興味を持つ奴は出てくるかもしれんな。……まぁ食いつくかどうかは、その内容次第だが」

「だそうだぜ、ケイさん?」

「へぇ、そりゃ興味深いね」


 群集のまとめ情報の扱いにはかなり注意するべき部分ではあるけど、そういう人達に興味を持たせる事が出来る内容であれば検証を一緒にやる事も可能か。興味を持たせるのが難しそうではあるけども……他の群集の手を借りる必要がある内容なら頼りに出来そうな予感。

 でも、ぶっちゃけ競争クエストが終わった今なら、無理にそこに頼る必要もないんだよな。今日の夜に予定している検証とか、普通にシュウさん達やジェイさん達とやる訳だしさ。


「……さて、俺はもう行く」

「ほいよっと! 情報サンキューな、十六夜さん!」

「……あぁ。……今の話、ベスタと桜花には話してあるからな」


 立ち去り側のそれだけ言い残して、十六夜さんは岩に乗って飛んでいった。なるほど、ベスタと桜花さんもその辺は把握済みか。レナさんはどうなんだろ? ……なんかこうなってくると顔が広過ぎるからこそ、あえて誰もレナさんにだけは教えようとしてない気もしてくるな。



――――


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