第1320話 対戦後の変化
五里霧林の中を移動してきて、あちこちに点在している湖の1つの畔までやってきた。総力戦の真っ最中に水を持ち上げた場所とは違うけど……あー、これは雰囲気がまるで別物だな。
「わっ!? なんか一気に良く見えるようになったのさー!?」
「なんだか、濃い霧に入ったら視界が良くなるように調整されてないか?」
「確かにそんな感じはするね」
「でも、遠くがあまり見渡せないのは変わってなさそうかな?」
「あー、まぁそれはなー。近く限定で、霧の中が見えやすくなってるのか」
エリア全体に効果がかかってる訳じゃなく、灰の群集のプレイヤーに灰の刻印みたいな特殊なバフがかかってるような状態なのかも? まぁ霧を消したら、霧の森という最大の特徴が消えるもんなー。
「それはそうとして、ハスの葉と花が凄いのです! わー! こんなにあるんだ!」
「……ハーレさん、飛び移るなよ? 戦闘になっても――」
「えいや! わっ! わわっ!? 沈んで進めないのです!?」
「おいこら! 止めろと行った直後に実行する……って、あれ? 戦闘状態にならない?」
「というか、カーソルが緑の表示かな?」
「緑って一般生物だよね? これ、ただの一般生物のハスの葉で、敵じゃなくなってる?」
「どうもそうみたいなのさー!? わっ! わわっ! だから、リスでもちゃんと乗れないのです!? わー!?」
目の前に溢れている大量のハスの葉は、一般生物になってるからこそ、ハーレさんのリスの重みでさえ耐え切れずに沈んでいるっぽい。なるほど、この状況では足場にならないんだな。慌てて沈まないようにあちこち跳び移っているのは自業自得って事で放置でいいや。
そういや森林深部の隣接の湿地エリア……エリア名は泥濘みの地だっけな。あそこで、レンコンを採集した事はあったっけ。……確か経験値が多めにもらえるようになる特殊なアイテムの1つに変わってたやつを。
経験値増加のアイテム、まだ持ってる……というか、使い道が地味になくてそのまま残ったままなんだよなー。安定してLv上げを出来るようになった時に、その辺も使っていかないとね。
「ヨッシさん、ここでレンコンを掘り出していくのもありか?」
「あ、うん。確かにそれはありだね」
言ってて色々と思い出してきたけど、オフライン版ではレンコンは回復量の多い回復アイテムとして存在していた。丸々食べないと効果を発揮しないし、そもそも採集が面倒だけど……。
他にもっと便利なアイテムや回復用のスキルは普通に存在してたから、最初の頃の方に使ったくらいしか覚えてねぇ! 全部丸齧りとか、流石にキツい……!
「そういえば、オフライン版みたいに掘り出す必要はあるのかな?」
「……泥濘みの地じゃ、確か切って採集してなかったっけ? 今思うと、あの時は完全にオフライン版のレンコンを忘れ去ってた気がする……」
「あはは、アイテムとしてのレンコンは意図して採集しないと全然手に入らないし、そういう事もあるよ。敵の場合は、問答無用で襲ってくるけどさ」
「まぁ確かになー」
オフライン版をやり込んでたとはいえ、全ての要素をしっかりと覚えてる訳じゃないしなー。レンコンは敵としての印象はあっても、アイテムとして使う印象はほぼ皆無!
というか、オフライン版は火への適応進化を発生させるか、元々火を扱える種族じゃないと、根本的に何も焼けなかったしな。その為だけに適応進化を発生させるには、火への適応進化は色々と条件が面倒過ぎた覚えもある……。
「わっ! わわっ! もう流石に無理なのさー!」
おー、盛大にバシャーンと音を立てて湖に落ちたね、ハーレさん。ハスの葉が大量にあるとはいっても、ぎっしりと敷き詰められてる訳じゃないから、跳び移る場所がなかったっぽい。……空に飛べばいいだけだとは思うけど。
「ぷはっ! あ、結構深いのさー! ちょっとレンコンを掘ってきます!」
あ、言うだけ言って思いっきり潜っていった。今日のハーレさん、いつにも増してマイペースだな!? ……こういう時って何かを隠そうとかしてる場合があるっぽいけど、その辺は大丈夫か?
「……ケイ、ハーレのあの調子はいいのかな?」
「あー、その辺は俺よりヨッシさんの方がよく知ってると思うけど……ぶっちゃけ、どうなんだ? なんか空元気だった時の雰囲気を思い出すんだけど……」
「あ、それなら大丈夫。今回のはこっちに遊びにくる日程が決まって、新幹線の予約も取れてシンプルにテンションが上がってるだけだからね。ケイさん、その辺の話は聞いてる?」
「素でテンションが上がった場合がこれかー。旅行の件なら、ログインしてくる前に少し聞いたぞ」
「あ、やっぱりね。報告したそうにずっと昼休みはソワソワしてた割に、ログインした後はそんな感じが無くなってたしさ」
「あー、なるほど」
結果的には俺から聞く形にはなってたけど、俺から聞いていなくてもハーレさんから話してきてた内容だったんだな。何気に1人での初の遠出の旅行だろうし、久しぶりにヨッシさんとリアルで会う予定の決定なんだから、それだけテンションも上がるか。
泊まるのはサヤの家でヨッシさんも含めて泊まるって話だった気がするけど……サヤの家ってどんなもんなんだろう? いやまぁ、そこは俺が行く訳じゃないんだから気にする必要も――
「ケイ、ジッと見てきてどうかしたのかな?」
「あー、ハーレさんがサヤの家に泊まりに行くんだなって思ってなー。なんか迷惑かけるかもしれないけど、遊びに行ってる間はよろしく頼む」
「そこは任せてかな! やっぱりそういう部分は、ケイがお兄さんかな?」
「実際、兄だしなー」
親しき仲にも礼儀ありだし、こういうところはしっかりしとかないと! 多分、母さん辺りが直接連絡してそうではあるけども。
あ、ハーレさんが浮き上がってきた。……意外と早かったし、掘るのは諦めたか? いや、ただ会話に加わりに来ただけなのかも。なんか汚れを落としてる感じもするけど……。
「ふっふっふ、2日目か3日目には漁港の朝市に行く予定なのです!」
「寝坊は……あー、遊びに行く時にはその心配いらないか」
「そうなのさー! というか、今日だけは寝坊に関してどうこう言われたくはないのです!」
「……そりゃ反論の余地がないなー」
むしろ、今日は俺の方が危なかったくらいだし……。漁港の朝一とか、行った事ないなー。そういやサヤとヨッシさんも、夏休みはサヤの伝手で漁港でアルバイトだっけ。まぁフルダイブの時間制限もあるし、時間は有効活用で!
ともかく、今のハーレさんのマイペース状態が空元気からくるものじゃなくてよかったもんだ。ヨッシさんがそう判断して、理由もしっかり分かってるなら大丈夫だろ。
「そして、レンコンが採れたのです!」
「なんか洗ってると思ったら、しっかり掘ってたんかい!」
「ふっふっふ、この通り!」
思いっきりレンコンを両手……じゃないな。クラゲの触手でグルグル巻きにして、それでリスの頭上に持ち上げてるよ。てか、掘り出すの早いな!?
「あ、綺麗に掘れてるかな!」
「ヨッシ、これでレンコンの挟み揚げとか出来ますか!?」
「オリーブオイルはあるし、ハンバーグは作れたから肉種は作れるけど……小麦粉は、そろそろ誰かが完成させてるかも? うん、多分やろうと思えば出来ると思うよ」
「おぉ、やったー!」
何気にモンエボ内での料理技術がどんどん上がっていっている! そういや宣伝用の試食データに置き換わる仕様が判明した辺りで、一気にその辺の情報が出てきてたっけ。
「……今ふと思ったんだけどさ」
「どうしたの、ケイさん?」
「いや、塩釜焼きやハンバーグで試食データになるってあったじゃん? あの後、一気に色々情報が出てきてたりしてたけど……その情報はどこかからの集団が提供したって話があったじゃん?」
「あ、そういえばあったね」
「あれ、インクアイリーの一部なんじゃね?」
「はっ!? そういう可能性もあるの!?」
「……否定が出来る気がしないかな」
「その辺、どうなんだろうね? オリガミさんでも全体像を把握し切れてないって言ってたし、気にするだけ無駄な気もするよ?」
「あー、そういう考え方もあるか」
うーん、内部にいる人ですら全貌が把握出来ていないんだから、そもそもどこまでがインクアイリーだという定義自体が無意味なのか? というか、どれだけの規模なのかが本気で分からないな!
「あ、ケイさん、ケイさん! 話は変わるんだけど、ちょっと獲物察知を使ってみてもらっていいですか!?」
「ん? 別にそれはいいけど……なんでだ?」
「湖の中に、レンコンの残滓が1体いたのさー! 他にもいるか、確認してほしいのです!」
「あー、一般生物以外にもレンコンはいるにはいるのか。具体的にどのくらいいるかの確認だな?」
「そういう事なのさー!」
「それなら任せとけ!」
ハーレさんが潜って目視で確認していく事も出来るだろうけど、それよりも俺が獲物察知で見たほうが早いのは確かだもんな。どの程度の数がいるかが分かれば、後々便利に使える可能性もあるから確認しておく価値はある!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 109/114(上限値使用:7)
さてと、これで反応はどうだ? えーと、確かに湖の中に1つだけ黒い矢印が……って、1つだけ? ん? それはそれで妙じゃないか? ここまで生物感がないのも違和感があるよな。
「ハーレさん、水中に何か他の敵はいたか?」
「おかしなくらい、全く他のはいませんでした! そう聞くって事は、レンコン以外に反応はないんだよね!?」
「まぁなー。昨日の戦闘中じゃあるまいし、この湖の中での生物感の無さは異常だろ!」
「……何か異常事態?」
「そういえば、あの巨大レンコンへの再戦ってどうなってるのかな?」
「あー、もしかしてここがそれか?」
「うん、その可能性はあり得るんじゃないかな? 少なくとも、ミズキのいるあの場所では再戦は無理だよ?」
「それは……うん、確かにそうだね」
「それは間違いないのさー!」
「確かになー」
どう考えても、ミズキが植わっているあの湖で再戦出来るような状況ではない。でも、ジャングルでの城塞ガメは再戦可能にはなってるんだし、あの巨大レンコンも再戦可能になっているものと考えるべきか。
とはいっても、再戦には瘴気石の上位版の『瘴気珠』が必要になるんだよなー。……確か、『瘴気珠』は持ってたよな?
「はっ!? そういえば、あの巨大レンコンは『瘴気珠』は落としてなかったのです!?」
「言われてみればそうだな? あの時、手に入ったのって『刻印石』の方か!」
「え、でも城塞ガメの時は……あ、あれはハチの方だっけ!」
「……もしかして、特性『拠点』やオオヤドレンコンの『ヤド』要素が無かったせいかな? ほら、元々あの近くにいたはずの何かがいなかったとか?」
「あり得そうだから困るな、それ!?」
俺らが辿り着いた時に本来の形とはかけ離れた状態になってたんだし、何か知らない要素があってもおかしくない。……むしろ、その近くにいた何かを倒した時に『瘴気珠』を手に入れて、あそこにエリアボスがいると確信してた可能性すらあるのかも。
『ヤド』要素は必ずしもレンコンそのものとは限らないし、他の種族がいる可能性もあるんだよな。獲物察知に引っかからないって事は、湖の底の泥の中に潜って、隠れている何かという可能性もあるか。
「……『瘴気珠』はあるし、再戦してみるか? 城塞ガメはPT向けにアレンジされて、規模はオリジナルよりかなり抑えてるって話だったし、倒せなくはないはず」
「今は戦闘をする気分ではないのです! まだまだ探索は途中なのさー!」
「ごめん、私も今は戦闘する気分じゃないかも?」
「とりあえず場所と再戦の可能性を、情報共有板へ報告でもいいんじゃないかな?」
「それもそうだなー。そうしとくかー!」
ぶっちゃけ、俺も今は再戦で戦う気分でもないからなー。今はまったりとのんびり探索していきたい気分。
それに……再戦と言っても、あの巨大レンコンって競争クエストで大人数で倒すべきボスだったからこそ硬かっただけで、それをPT単位で戦える規模まで抑えたら、Lv的には適正じゃないんだよな。
確かあの巨大レンコンはLv6だったはずだから……4人だと多少倒すのに手間取った上で、経験値が思ったほど良くないという可能性は否定出来ない!
「それじゃ軽く報告してくるから、ハーレさんは上がってこいよ。次は新たな群集支援種の方を探すからなー!」
「はーい! あ、レンコンが採れる事の報告もお願いします!」
「ほいよっと」
「間違っても群集支援種の情報は聞いてこないでねー!」
「分かってるっての!」
とはいえ、情報共有板を見たタイミングでそれを話題にしてたら、避けられない可能性もあるけども! うーん、でもここまでの視界の悪さと、群集支援種ではレアなアイテムトレードが可能という事を考えれば、見つけていても誰も教えないという状況も考えられるのか?
「あ、ついでになんか聞いておいた方がいい内容ってある?」
「他の湖がどうなってるかが気になるけど……それは自分達で見に行くのさー!」
「いや、別にそれはいいんだけど……今言う必要あった?」
「特にないです!」
「だよなー!? あー、サヤとヨッシさんは何かある?」
「……私は特にないかな?」
「あ、小麦粉が作れるようになってるか、その確認をお願い出来る? あとオリーブオイルの量産も」
「小麦粉とオリーブオイルの生産状態についてだな。それは了解っと。それじゃちょっと報告と情報収集をしてくるわ!」
「……ふと思ったんだけど、今はケイだけで行く必要もないかな?」
「あ、流れで誰か1人が確認って形にしてたけど、よく考えたらそうだよね」
「だったら、みんなで見に行くのさー!」
「あー、そういやそう……いや、ハーレさんは先にこっちに戻ってきてからだからな!」
「あぅ……そうでした……。『略:傘展開』『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
まだ湖の中にいて、レンコンを掴んだ状態は流石にな!? まぁ今の状況で俺だけで行く必要は確かにないのも事実だよなー。うん、そういう形が続いてたから、ついその流れにしてたよ。周囲への警戒は特に必要ないんだし、今は全員でも見に行っても問題なし!
とりあえずハーレさんがクラゲで空を飛んで戻ってきてるから、戻ってきたら全員で情報共有板を見にいきますか!
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