第1317話 今日の目的を決めて


 色々とありはしたけども、とりあえずこの時間帯でのいつもメンバーは勢揃いになった。……危うく全員がログインボーナスを貰い忘れるとこだったけど、まぁそこもセーフ。

 今日はまだ何もする事を決めてないから、まずはそこから……の前に、これを使っとこ。ミズキが淡く光ってるとはいえ、夜の日には発動しとくべきやつ!


<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 125/125 → 124/124(上限値使用:1)


 よし、視界良好! まぁ元々それほど悪い視界でもなかったし、霧に満ちた森にいるって感覚はほぼ無いか。

 それにしても、成熟体Lv10でこの行動値……思い返すと相当増えたもんだよなー。最初の頃は岩の操作を手に入れても、そもそもの発動が困難だったのにね。


「はい! これから、何をしますか!?」

「とか言いつつ、既にやりたい事があったりするか?」

「はっ!? 見抜かれてるのです!?」

「やっぱりか」


 自分から言い出したからひょっとしてと思ったけど、大当たりだったみたいだな。まぁそれが悪い訳じゃないし、ハーレさんにやりたい事があるならそれでもいいだろ。……内容次第ではあるけど、まぁこういう時に無茶な提案はしてこないから大丈夫なはず。


「あ、お昼休みに言ってたやつ?」

「そう、それなのさー!」

「……昼休み?」

「えっと、その辺はさっき私は言ってた事に関係するかな? ほら、上から見たらどうなってるかって話」

「あー、なるほど」


 そういやさっき、サヤもそんな事を言ってたもんな。なるほど、元々の話題になってたから、さっきもそういう話題が出てきてたのか。


「という事で、『霧の森』改め『五里霧林』の、のんびり探索を提案します! 1時間くらいしか時間もないし、それくらいあれば丁度いいよね!?」

「なるほど、そういう提案か!」


 勝ち取って占有エリアにはなっているけども、競争クエストの真っ只中で周囲に警戒しながらでしか進んでいない場所だからなー。新エリアの探索に行くのならアルがいた方がいいし、今の時間にやるのなら確かに丁度いい。


「俺はそれで賛成だけど……元々話してたなら、サヤとヨッシさんも賛成でいいのか?」

「うん、そうなるかな!」

「それで問題なしだよ」

「なら、そうするか」

「やったー! これでラックが言ってた、このエリアのマップ完成も手伝えそうなのです!」

「そういう目的があるなら先に言えよ!?」

「言う前に決まったし、問題ないのです!」

「いやまぁ、そうだけど!」


 完全に失念してたけど、ハーレさんとラックさんは同じ学校なんだし、その状態でサヤやヨッシさんと通話しながら昼を食べてるんだっけか? 今の提案の元になった会話の中に、ラックさんが混じっててもおかしくはないよな。


 意図としては灰のサファリ同盟としては占有エリアの完全なマップを作っておきたいんだろうね。競争クエストの時に使ったのは不完全なものだったしさ。今はどの程度、完成してるかは分からないけど……。


「あー!?」

「……今度はどうした?」

「あぅ……ミズキからここの最新のマップを貰ったら、既に完成していたのです……」

「あ、そうなのかな」

「昨日の夜か、今日の昼間のうちに完成させた人でもいたのかもね」

「良いのか悪いのか、なんとも言い難いけど……探索はどうする?」

「探索自体は普通にします! あちこちにある湖がどうなってるのかが気になるのさー!」

「あー、なるほど。あれか」


 レンコン……というよりは、ハスの葉が大量にあるのが元々の光景みたいだし、1晩経った今なら再生している可能性は十分あるよな。インクアイリーがあちこち弄りまくってたみたいだけど、それがどう変化してるかは気になるとこではあるか。


「……そういや、トンネルはどうなってんだ?」

「分かりません!」

「まずはそこから見てみるのでどうかな? 出口、湖の中だけど……」

「あはは、まぁそうなるよね」

「だよなー。おし、ちょっと軽く潜って、確認してくるわ!」

「ケイ、任せたかな!」

「任された!」


 もし、トンネルがそのまま残ってたりすれば、その中を通っていくというのも面白いかも? あれだけの規模の地形改変なら、まだ再生されずに残っている可能性は十分ある!


「あ、その前にこれだ。みんな、これなー!」

「ありがとかな!」

「あ、忘れてたー!?」

「あはは、忘れちゃダメなやつだったね」


<ケイ様の率いるPTが結成されました>

<ハーレ様がPTに加入しました>

<ヨッシ様がPTに加入しました>


 よし、これで俺がリーダーの状態でPTの結成は完了! それじゃ湖の中がどうなっているか、ちょっと覗いてきますか! もしトンネルが残っててみんなで進む事になれば、まぁ水中対策はその時に考えればいいだろ。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 124/124 → 118/118(上限値使用:7)


 飛行鎧を展開して、移動開始! 水陸空、全て対応出来る手段だからいいよな、これ。飛行鎧というより、今の用途だと潜水艇か。


「それじゃちょっと行ってくる」

「……ふと思ったけど、この状態でケイさんの見ている光景を映し出す事は出来ませんか!?」

「無茶言うな!? 木じゃないんだから、そんな芸当……あれ? もしかして、纏樹を使用中なら『樹洞投影』って取得出来る?」


 ……今まで全然考えていなかった可能性だけど、纏属進化中なら使用可能になるスキルは間違いなく存在しているから、可能性はあるのか?

 記憶が少し怪しいけど、コケ単体の時に纏樹中に自己強化や魔力集中を取った覚えがあるような?

 応用複合スキルに必要な属性も纏属進化で対応出来るみたいだし……不動種の人と中継を繋ぐ事そのものは可能か?


「……えっと、とりあえずその辺を考えるのは後でもいいんじゃないかな?」

「まぁそうだよね。この場に不動種の人はいないんだしさ」

「……それもそうだな。それじゃ改めて、行ってくる!」

「行ってらっしゃーい!」


 元気よく送り出してくれてるハーレさんだけど、動きが止まってたのはハーレさんの発言のせいではあるからな!? というか、もし纏樹でそういう芸当が可能だとしても、俺がやる必要はないし……。

 いやまぁ、死蔵状態になってる樹属性の進化の輝石はあるけども! 桜花さんが場所移動を検討してるって話もあったし、今度会った時にちょっと試してみるのもありかもなー。


 まぁそれはすぐにじゃないとして、今はミズキが中央に植わっている湖の中へと突入! ここには上から見た感じではハスの葉は皆無だったけど……おー、昨日の地面に広がっていってたミズキの木の根が、湖底に広がってるのがよく見える。ふむ、レンコンはここにはなさそうだけど……。


「おっ、一般生物の魚なんかは普通に泳いでるんだな」

「それ、灰のサファリ同盟のみんなで放流したらしいかな!」

「敵が出現しないみたいだから、安全そうって言ってたよね」

「ふっふっふ、いつでも獲り放題なのです!」

「この魚達、自然発生じゃないんかい!」


 というか、用途がそのまま生け簀だな!? いや、森林深部にも俺らが作った池が拡張されまくったのが生け簀として存在してたけどさ!?

 あれ? そういう意味で考えると、トンネルの入り口は塞いでた方がよくね? 変に逃げ出す要因になりそうな気がするけど……まぁいいや。とりあえず、トンネルがあった方に向かって進んでみよう。


「……あー、そういう感じか」

「ケイ、どうしたのかな?」

「トンネル自体は残ってるみたいだけど……竹で柵が作られてて、通れないようになってる。というか、みんなはこれを知ってただろ!? これをやったの、灰のサファリ同盟だよな!?」

「ふっふっふ、もちろん知ってたのさー! それを見てほしかったのです!」

「灰のサファリ同盟は、こっちに本部を移すって話になってたかな」

「インクアイリーが大きく弄った部分は、そのまま有効活用するんだって。出口のこっち側の方が低くなってるそうだから、湖の水がトンネルを通って向こう側に流れ込む心配もないらしいよ」

「あー、なるほど」


 既に色々と話を聞いていたからこそ、俺に直接その片鱗を見に行くようにしてたって感じか。……まぁ百聞は一見に如かずとは言うし、大々的に機能をこっちに移そうとしてるのは分かった。


「これ、もしかして昨日の命名クエストの段階から動いてた? 俺、ダウンしてたけど……」


 命名クエストの選択肢を決め終えた後、ログアウトするまでの間はほぼボーッとしてたから、具体的な様子ってさっぱり覚えてねぇ! ……タイミング的に、その辺から考え始めて動き出しててもおかしくないよな。


「バーベキューをしながら、色々と話は出てたよー! 今見ている竹の柵も、昨日設置したヤツなのさー!」

「やっぱり、昨日のは疲れて聞こえてなかったみたいかな?」

「どうもそうみたいだね」

「……昨日設置してたって、マジかー」


 これだけのものの設置に気付かないって、競争クエストが終わった後、ボーッとし過ぎじゃね、俺!? よくその状態で強制ログアウトにならなかったもんだな!?


「という事で、昨日の状況説明は以上なのさー!」

「……要は、俺にこの状況を見せたかったってだけなんだな」

「そういう事なのです! でも、この森の全体を見ていきたいのは本当だから、ケイさんは水から出てきて下さい!」

「ほいよっと!」


 なんで今朝、晴香が俺を起こしにきたのかも何となく分かった。これだけ露骨にボーッとしてて、その後に完全に寝落ちしてたら、そりゃ起こしにくるわ!

 俺だってハーレさんがそんな状態なら、明確に寝坊対策はしていくしな! そういう意味では、ある意味、分かりやすく寝坊に兆候があったのはよかったのかも?


 あー、とりあえず水中からは脱出! そういや、この周囲の様子をろくに見てなかったけど……うーん、距離があるとやっぱり見通しが悪いのは変わらずっぽい?

 でも、ミズキへと転移してきている人はチラホラいるし、みんな北に向かって進んでいってるね。ここへ灰のサファリ同盟の本部を移すとしても、ミズキに近過ぎる場所は避けておくだろうから、少し北の方に場所を用意してるとか?


「そういや、なんでこの霧の森……えーと、今は『五里霧林』だっけ。こっちに本部を移す事に決まったんだ? 群雄の密林で切り拓いた場所でもよくね?」

「あっちは川だからダメなのです!」

「あ、この湖を生簀として有効活用するのが目的か!?」

「そういう事なのさー!」


 なるほど、確かに群雄の密林にある川だと普通に敵も出てくるし、生け簀としては微妙過ぎる訳か。本部の移転自体は……まぁ、桜花さんが場所移動を考えてたのと同じような理由なのかも。

 成熟体まで育成が進んだ人が、初期エリアに居座り続けると新規プレイヤーが入ってくる余地が無くなるもんな。どこかのタイミングで、必要な事なんだろうね。それが今って事か。


「そして、インクアイリーが盛大に掘ったあの湖は、戦闘用の会場となりました!」

「……はい? え、それってどういう……」

「要は、色々と逃がさない為の闘技場かな?」

「フィールドボスがこのエリアで誕生させられるなら、そこでもいいよねって感じだよ」

「あー、なるほど!」


 確かにそういう用途としては使えそうな場所だよな、あそこ! トンネルの方から敵を入れて、そこから瘴気石……じゃない。成熟体用は『瘴気珠』ってなってたから、それを放り込んで進化させればいい。


「って、成熟体のフィールドボスってLv16以上からじゃなかったっけ? あー、でも俺らももうLv10までは上がってるし、そう気が早い訳でもないのか」

「そういう事なのさー! ベスタさんはもうLv15だそうだし、決して早くはないのです!」

「……ベスタを基準にするのは間違ってる気もするけど、まぁそう遠くないのも確実だよなー」


 確か、風音さんもLv12かLv13にはなってた気がするし、相当無茶ではあったけど俺らでLv17の成熟体のフィールドボス自体は倒してもいる。

 連結PTを組んで、その上で刻印系スキルや付与魔法を上手く活用していけば、決して勝てない相手でもないもんな。あの場所に放り込んで逃げにくくするのなら尚更に。


「あれ? もしかして、それって俺らの今日の共同での検証の結果も期待されてたりする?」

「期待自体はされているとは思うけど、『刻浄石』と『刻瘴石』については謎も多いし、あそことは関係なさそうだよー! 少なくともフィールドボスへの進化はなさそうだもん!」

「あー、それは確かにそうだよな」


 結局、まだ『刻浄石』と『刻瘴石』の使い道ははっきりとは判明していないままの状況だもんな。分かっているのは、『刻浄石』は半覚醒にする効果があるという程度。

 閉じ込めておくには……いや、どうなるか分からないからこそ、閉じ込めておくって選択肢も出てくるのか。うーん、かといって他の群集の人をここに入れるのは微妙な判断になるよなー。


「ケイ、そこは検証とは離れて考えるかな! それは、今日の夜の話だしね」

「それもそうだな。それじゃ……結局、この森の探索をしたいって部分は、そのまま変わらず?」

「そうなのです! ここの湖以外の部分は聞いただけだから、実際に見に行きたいのさー!」

「上から見た光景、ハーレもサヤもかなり気にしてたよね」

「今の見え方、灰の刻印がある時となんだか違うから、どう違うかが気になるかな?」

「ラックに言われるまでは気にしてなかったけど、改めて見てみたら思った以上に暗くないのが気になるのです!」


 ふむふむ、思った以上に暗くない……か。確かに昼の日の昨日と、そう変わらないくらいの様子だもんな。夜目の影響も大きいんだろうけど、それでも曇りの日程度の暗さというのは気になるところ。

 占有エリアになった事で、霧の影響自体が薄れているという可能性はありそうだし、それを確かめる為にも上から見下ろしてみたいって話なんだろうね。ラックさんに言われてからって言ってたし、昨日はそれほど気にしてなかった部分なのかも?


「おし、そこからやっていきますか!」

「「「おー!」」」


 色々と俺に伝える目的もあったみたいだけど、探索したいという部分に変化がないなら予定通りにやっていけばいい! まずは上空に行って、今のこの森がどう見えるか確認だ!

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