第36章 色々と検証を
第1315話 用事を済ませて
無事……無事か? まぁ周囲から変に敵意のある視線を受けつつも、一応は実害もなく、授業は終わって放課後になった。……ヒソヒソとこっちを見ながら話しているのは鳴りを潜めたけど、露骨に舌打ちしてくる奴はなんなんだよ!
「あー、新着メッセージ……母さんからか」
このタイミングなら何かの買い出しだろうね。えーと、春巻きの皮とその中身になりそうなものだから、今日の晩飯は春巻きで決定だな。どっちにしても今朝約束した晴香へのアイスの土産は確定だから、スーパーに行かなきゃならないしね。夏休みのシフトの件は……まだ連絡は来てないから、もう少し後かな?
それにしても……周りの連中、そんなに相沢さんと話していたのが気に入らないってのなら、eスポーツ部にでも入って堂々と話にいってこいや! どう考えても面倒なだけだから、直接それは言わないけど……。
「なんか圭吾、機嫌悪いな?」
「……今日のこの様子で、機嫌が良くなる要素がどこかにあるとでも?」
「そりゃねぇな!」
「分かってて聞いてるよな!?」
「まぁなー。てか、昼休み以降は俺まで睨まれてる気がするし……」
「ほんと、面倒くさい……」
どうもそういう奴が幅を利かせてるから、いまいち今のクラスには仲が良い奴がいないんだよな……。去年は慎也以外にも普通に会話が出来る奴は何人かいたのに、今年はさっぱり。あー、うざー。
「まぁいいや、さっさと――」
「あ、まだいた! 吉崎くん、ちょっといい?」
「げっ!?」
「その反応、酷くない!?」
「あー、すまん」
思わず本音の反応が出たけど……相沢さん自身が悪い訳じゃないけど、この状況の原因だもんなー。冗談抜きで俺が何したよ!?
部活に勧誘されて、ゲームまで追いかけてこられて、夏休みのアルバイトも一緒になって……客観的に見てみれば、好かれて追いかけられてる状況か? いや、絶対にそういう動機では動いてないだろ、相沢さん。
「それで……わざわざ何か用?」
「えっと、連絡先を教えてもらえない? ほら、アルバイトの件もあるし、妹さんともね! グループメッセージを用意しようかと!」
用件自体は分かったし、理由も分かったけど、今、ここでそれをやらないで!? 視線が、視線が痛いから! 敵意を向けるな、敵意を! 相沢さん、周囲からの視線には鈍感なのか!? いや、むしろ日常茶飯事で気にもしてない感じか!?
「……吉崎くん? どうかした?」
「あー、それは明日の放課後辺りでいいか? 妹の分を勝手に教えるのもあれだしな」
「あ、それもそだね! ごめん、ごめん! それじゃまた明日って事で、部活行ってくるね!」
「……ほいよー」
元気よく手を振ってくるな、余計に目立つ! 相沢さんには悪気も何もないんだろうし、実際悪い事はしてないだけど……変な誤解が盛大に流れた当日だって事は考慮して!? さっきよりも、更に視線が痛いから!
「圭吾、今日は買い出しってなんかある?」
「……あるにはあるなー」
「おし! なら、付き合ってやるから、なんか奢れ!」
「断る!」
なんというか、この慎也のいつもの調子が逆に気楽でいいな。今日は本当に教室での居心地が悪過ぎるし、その辺をどうにかせねば……。
◇ ◇ ◇
居心地の悪い教室を脱出し、スーパーへと歩いて行っている途中。あー、今年の夏も凶悪に暑い……。
「……本当に付いてきてんのな、慎也」
「まだ金はあるからな! こうも暑いとアイスでも食いたいとこだし……単純に鬱陶しかったのがあるから、ちょっと愚痴でもなー。クラスの奴ら、流石に今日のは鬱陶しくね?」
「あー、それは分かる……」
昨日から今朝にかけての変な誤解は……100歩譲って仕方ないとしても、昼休み以降は本気で鬱陶しかった。
「……相沢さんって、あんなに人気あるのな? その割にはeスポーツ部の勧誘になんで俺ら?」
「ん? あー、それなら相沢さん目当てで群がった事があるらしいぜ? その後から、本当に興味を持ちそうな人以外は勧誘してないんだと」
「へぇ? ……それで、なんで俺ら?」
「そこは知らん!」
「知らないのかよ!」
あー、でもずっと同級生だったみたいだし、向こうは俺の事を知ってたし、その辺はありそうな気がする?
「というか、そういう事なら圭吾の方こそ心当たりがあるんじゃねぇの?」
「……なんで俺?」
「いや、だってずっと小学校から同級生だって言ってたぜ? むしろ、なんで圭吾が人気あるのを知らねぇの?」
「……あー、まぁ俺の中学は色々あったしなー」
付き合ってると誤解されて、勝手に周りが盛り上がって、告白して玉砕したあいつの件もあるけども……それを見て、面白がって偽告白なんてのをやり出した集団もいたからなー。
何度か標的にされて、ウンザリしきってるからその手の話題からは距離を取ってたけど……なんで慎也とそういう話になってんの?
「そういや圭吾と同じ中学出身の奴って、妙に恋愛話に乗らない奴が多いんだっけか?」
「……偽告白で、それに引っかかった奴を晒し上げしまくるのが流行ってたりもしたからな。幸い、その元凶は成績が足りず、別の高校だけど……」
「うげっ!? なんというトラウマ製造機……」
「って事で、その辺の話題にこれ以上触れたらぶん殴る」
「ちょ、それは勘弁!? てか、理不尽過ぎねぇ!?」
「知るか!」
余計な事をしまくるのに定評のあるコイツに、余計な事を喋りすぎた! あー、思った以上に地味に苛立ってる感じだし、少し落ち着こう……。
「話題は変わるけど、今日からゲームの方はどうすんの? 例の共同での検証は除いてで!」
「あー、まだ未定。多分、今日は例の検証がメインにはなりそうだけど……そういや弥生さんやシュウさんって、夕方はいたりする? 検証をする時間の相談をしたいけど、都合のいい時間帯っていつ頃?」
「その辺は日によるなー。弥生さんとシュウさんは自営業って言ってたから、その時々で時間はバラバラだぜ? あ、でも20時以降ならどっちかは大体いるな!」
「……なるほど、20時以降か。そこは了解」
てか、弥生さんとシュウさんって自営業なんだ。夫婦なんだし、一緒に何か店でも経営してるとかなのかも? そこに下宿しているルストさんって事にもなるのか。
「あ、そういや昨日動いてたインクアイリーが、あの後どうなったかとか知らね? 一応、動いてたのがほんの一部の連中って事は把握してるんだけど……」
「それなら……ん? 圭吾、これは言ってもいいやつか……?」
「オリガミって人から、インクアイリーの実態ならある程度は聞いたぞ。それに彼岸花って人が、弥生さんとシュウさんへのリベンジを狙ってたのもなー」
「そこまで把握してんのかよ!? あー、オリガミっていうと、シュウさんが言ってた『博士』って人か! そりゃ納得!」
少し探りを入れてみたけど……これは思った以上に慎也が赤のサファリ同盟からインクアイリーの事を聞いてるな? まぁオリガミさんとレナさん以外に、そこに繋がる情報を持っていそうなのは赤のサファリ同盟しか心当たりがないし、聞けそうなら内容を聞いとこ。
「無理なら無理でも構わんぞー」
「あー、そこまで知ってるならほぼ全体像を知ってるようなもんだから問題ねぇ! あれだ! 傭兵に来てたインクアイリーのメンバーと、大暴れしてた無所属のインクアイリーの間で潰し合いだな!」
「潰し合い!? え、そんな事になってたのか!?」
「正確に言えば、ここぞとばかりにお互いに実力試し? あと、悪名を使ってた連中がいたろ? あっちは、次の大型アップデートで新規サーバーへの移動に向けて、色々調整中だってよ」
「あー、なるほど。それなら、もう下手に大暴れしてくる事はないのか?」
「少なくとも同じ手段は無理じゃね? シュウさんは『インクアイリーが協力を持ちかけてくる可能性があるから、そういう事があったら相談を!』って言ってたしなー!」
「……ほほう? 赤のサファリ同盟に協力をねぇ?」
「……余分な事まで言った気がする!?」
「あー、心配すんな。それっぽい事はオリガミさんと、よく分からないライブラリって人が言ってたし」
「マジか!?」
黒の統率種で占拠を狙うなら全群集の協力を得てとか言ってたもんな、オリガミさん。ライブラリってクラゲの人は謎のままだったけど、黒の統率種での占拠には興味を示してたし……このまま、今後何も無しって事はないだろ。
「おし、そうしてる間にスーパーに到着だ! アイス……いや、惣菜も捨てがたい!? ここのコロッケは美味いし、夏休みに入る前に食べ納めを――」
「おー、勝手に悩んどけ。俺はとりあえず、頼まれたもんを買ってくる」
「おう!」
買い物をさっさと済ませて、出来るだけ早く家に帰りたいとこではあるしなー。今は変な視線からは解放されて気楽にはなったけど、明日からその辺もなんとかしないと面倒な状況が続きそう。
あー、そもそも明日の放課後にって連絡先を伝えるのは誤魔化したけど……その辺はどうすっかな。晴香が嫌がりそうだけど、アルバイト絡みなら聞いてみない訳にもいかない……って、なんでまた相沢さんの方からアルバイト用のグループメッセージの提案? うーん、謎?
◇ ◇ ◇
色々考えながらも、春巻きの材料と晴香用におやつのアイスを選んで、ついでに自分で食べる分のアイスも買って支払い終了。……店員のおばちゃんには、もう夏休みにアルバイトに行くのは広まってるんだなー。兄妹揃ってってとこまで伝わり切ってたよ。
「お、戻ってきたな!」
イートインスペースでアイスを食い終わった慎也が待っていた。普段なら待ってなくてもいいんだけど、まぁ今日だけは特別だ。結局、アイスの方だけにしたのは都合がいいな。
「ほれ、昼休みの分!」
「……へ? おわっ! お、コロッケじゃん! え、なんで?」
「あれで助かったには助かったからな。その分の礼だよ」
「そういう事なら、ありがたく貰っとくぜ!」
普段は調子に乗るからこういう真似はしないけど、慎也の機転で助かったのは事実だからなー。相沢さんは感謝するか微妙な手段だったけど、それでもあれ以外に有効打があったかというとかなり怪しい……。
普段は余計な事ばかりするけど、こういう本気で助かった時にまで雑な扱いをするのは違う。余計な事をしたらその分だけ報復はするけども、感謝する時は真面目に感謝はしないとなー。
「ただし、普段から奢ると思うなよ?」
「分かってるっての!」
本当に分かってるのかどうか怪しいけど……余計な事をしなけりゃ普通に友達と呼べるんだろうけどなー。余計な事をし過ぎるせいで、友達と呼びたくないっていう変な心境だっての!
◇ ◇ ◇
スーパーでの買い物を済ませて、家へと帰ってきた。春巻きの材料は冷蔵庫の中に入れておいて……えーと、思ったより時間がかかったから、そろそろ晴香が帰ってくる頃か?
「たっだいまー! あ、兄貴も帰ってきたとこ?」
「まぁな。ほれ、アイス!」
「おぉ、やった!」
朝は本気で寝坊の危機だったから、これくらいはいいだろ。買ってきたのは1番安い棒アイスだし、まぁ金額的にはそう負担でもない。というか、母さんから『アイスでも買って食べてね』って余分にもらってた電子マネーの一部から出てるしなー。そう書いてた割に、金額が割とギリギリになったから、1番安いのじゃないと厳しかったとも言う!
「あ、そうそう。晴香、アルバイトの件なんだけどな?」
「んー? シフトの件なら、まだ未定だったよね?」
「あー、そうじゃなく……相沢さんが、俺と晴香を含めてグループメッセージを作りたいって言ってきて――」
「っ!? ゴホッ!?」
「おーい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫! でも、なんでそういう話になったの!?」
「……分からん」
思いっきりむせる程、びっくりするような内容だったか。まぁそりゃ驚くし、意味も分からないか。
「そういえば、昨日は変に悪目立ちしてたって言ってたよね!? それ、どうなってたの!?」
「……あー、思いっきり変な誤解が発生して、おかしな事になってたな。まぁ一応は解決した……解決したのか?」
「なんで疑問系なの!?」
「……説明がしにくいし、パスでいい?」
「良くないです!」
「……単純に面倒くさいんだが」
というか、妹相手に説明するような内容でもない気がするんだけど。……晴香め、昨日は面白がってた風に見えたし、またそれか!?
「うー!? それならもう1人の当事者に聞くまでなのさー! 兄貴、さっき言ってたグループメッセージを作るのは賛成で!」
「……へ? てっきり嫌がるもんかと思ってたんだけど……」
「情報共有は大事なのですよ!」
「まぁそりゃそうだけど……」
これ、グループメッセージっていうのは名目で、俺を経由して相沢さんと晴香がそれぞれ相手に連絡を取ろうとしてるだけじゃね? そこまでして今日の事を知りたがる理由が分からないけど……まぁ相沢さんが話すかどうかは別問題だし、俺としては別にいいか。
「まぁそういう事なら、伝えとくか。晴香のメッセージの送り先、教えるので問題ないな?」
「それでもいいけど、出来れば放課後に直接話がしたいのさー! 時間が取れそうならそれでもいいですか?」
「……あー、まぁそれは明日伝えとく」
「はーい!」
ふぅ、とりあえずこれでひと段落だろ。あー、今朝の件からなんか妙に疲れたわ! 昨日の総力戦とは全然違うタイプの疲労過ぎる!
それにしても……色々と変な流れで交流が出来てるからあんまり意識はしてなかったけど、よく考えたら美人なんだよな、相沢さん。人気がある事自体は分かる。……若干ポンコツ感もあるにはあるけど、まぁ話しやすくはあるよなー。
でも、話しやすさという点ではサヤとヨッシさんが遥かに上だな。警戒する必要がまるで皆無だし、周囲からも変な視線を送られる事もない! ……2人ともリアルで隣にいれば今日と同じような事がありそうだけど、別に悪い気はしないな?
特にサヤとなら……って、待て待て待て! VR空間でとはいえ、リアルの姿で会ったのは信頼あってこそのもの! 今日あった事みたいな想像は流石にサヤに失礼過ぎるわ!
あー、なんか今朝からの件で妙に調子が狂ってるなー。ともかく色々と用事は済ませたんだし、ログインしてどっかの気晴らしに行こう!
――――
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
第36章、開幕! 連載再開!
電子書籍版、第9巻も今週末の1月14日から発売なので、そちらもよろしくします。
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