第1313話 第2回競争クエスト、終了


 予想外の形で異形の個体への仮の名前と、霧の森やジャングルなどは除外っぽい……旧エリア? いや、旧エリアと言うのも微妙だし、各地に群集拠点種がいるんだから拠点エリアとでも言うべきなのか? ともかく、その辺の地域の命名クエストが始まった。

 いつも通りの競争クエストの勝利報酬である、この霧の森での命名クエストも並行して始まったし、その辺をやっていこう!


「ある程度休んだら、この湖の跡地からは離れていけよ。まだ、ここの真の姿は見れてないからな」

「……へ? あ、まだ湖の水が戻ってない!?」


 そういやミズキの進化の演出で、水を戻すのは待つって言ってたっけ。ベスタの言うように、そのままここでのんびりし過ぎるのも駄目か。……でも、正直動くのが面倒くさい。


「アル、移動は任せたー」

「これくらいは自分で動け」

「そういうアルこそ、墜落したまま動く気ないよな?」

「どんだけ無茶な移動を繰り返したと思ってんだ。疲れてねぇはずがないだろ」

「……そりゃそうだ」

「ケイさんもアルさんも、突っ伏したままってそういう事なの!?」

「あはは、まぁ気持ちは分かるけどね」


 そうそう、元気いっぱいな様子で駆け回りながらスクショを撮りまくってるハーレさんみたいに動き回る気力は残ってはいない! ……最後の最後で、弥生さんからの宣戦布告を受けたのがトドメな気もするけど。


「アルはともかく、ケイは弟子の前なのに、それでいいのかな?」

「あー、いいの、いいの。そういうところでカッコつけないと駄目な訳じゃないし。フーリエさん、別に気にしないよな?」

「あ、はい! ケイさん、ご苦労様です!」

「フーリエさんもなー。って事で、サヤは納得?」

「まぁケイがそれでいいのなら、いいのかな?」


 俺がいいなら、それでいい! 流石に他の群集の人達が大々的にいる前では起き上がってはいたけども、今はもう完全に力を抜いてダウン。あー、マジで疲れたー。この場に残ってワイワイ騒いでる人もいるけど、元気っすなー。

 というか、フーリエさんはそうでもないけどシリウスさんとかは……あぁこれは纏浄での浄化魔法の反動で動けない状態になってるのか。……俺とは違った理由で力尽きてるけど、これは言っとこう!


「シリウスさんも、フェルスさん達も、他の浄化班の人達も、ミズキの浄化と最後の突破は助かった!」

「はい! 最後にあんな大役があるとは思ってなかったです!」

「そうっすよね! 反動で動けない状態っすけど、それでも満足っす!」

「勝利の決め手に参加出来たのはいいよね! フェルス、レイン!」

「ミドリの言う通りだな。この状況に居合わせられたのは大きいぜ!」


 あー、そういやフェルスさん達って戦闘にはあんまり自信は無さそうだったもんな。それでも最後は大事な突破の為の鍵にはなってくれてたし、ありがたいもんだ。


「流石に疲れているだろうからすぐに動けとは言わんが、適度な所で動けよ? そうでないと、湖の中のミズキのスクショが撮れないとレナ辺りに蹴飛ばされても知らんぞ」

「およ!? ベスタさん、わたしはそんな事はしないよ!?」

「そうか? 偶にダイク相手にしているのを見るが……」

「それは否定しないけど、暴走してる時の弥生じゃないんだから、無差別に蹴っ飛ばしたりはしないよ?」


 ダイクさんだけには乱暴な扱いになってるもんな、レナさん。まぁあれは一種の特別扱いなんだろうけど……スクショが撮れないって問題は確かにあるのかも。

 仕方ない。みんなの邪魔になるのは不本意だし、他のみんなも疲れた様子の人も動き出しているから、俺らも――


「ん? アル、運んでくれるのか?」


 さっきは面倒そうに墜落したままのアルだったけど……今は根を伸ばして、俺を根で持ち上げていってくれてる。みんなもそれに合わせて、アルのクジラに乗っていってるね。

 他に疲れて突っ伏してる人達は、シアンさん達海エリア勢が運んでくれ始めたのか。……灰のサファリ同盟の人が結構動いてるから、さっさと退けって意思を感じる! うん、大人しく運ばれとこ。


「この様子だと、さっさと動いて休憩した方が楽っぽいしな」

「そうみたいだなー。とりあえず、運んでくれてサンキュー!」

「それで……時間が時間だが、ケイ達も今日は命名クエストが終わるまでいるんだろ?」

「あー、まぁ今のタイミングでログアウトは流石になー。ハーレさん、その方がいいよな?」

「もちろんなのさー! でも、ケイさんの方が明日の寝坊は心配なのです?」

「あ、確かにこの状態だとそうかも?」

「……疲れたら……休憩は……大事!」

「ケイ、寝坊はしないようにかな!」

「その辺は分かってるって!?」


 俺の方が明日の寝坊を心配される日が来るとは思わなかったわ! でも、これは本格的に寝坊対策をしておかないと明日の朝がヤバそう。……ログアウトしたら、そこの対策を真っ先にやってしまわないとな。


 あ、ミズキの周りにいた人が湖から全員離れたら、その時点で水が満ち始めてきた。上から見下ろしてる状態だから分かるけど、一度排水した湖の水を、ミズキが吸収して、それが戻されていってるっぽいね。

 どこから水が出てきてるのかは分からないけど、ミズキの根が排水先の下の部分まで伸びているのは見えるもんな。あそこから吸ってるのは間違いない!


「おぉ! 湖に沈んでいくミズキを撮り逃す訳にはいかないのさー!」

「これは今しか撮れないやつだしね! どんどん撮っていくよー!」

「あ、ハーレ、レナさん、抜け駆けだー!?」

「ラックも早く来るのさー!」

「撮影チャンスはわたし達を待ってはくれないからね!」

「それはそうだけど、放り出しては行けないんだよー!」


 あー、ラックさんは灰のサファリ同盟でも結構仕切り側の人だもんなー。どこにも所属してないレナさんや、特にする事が無い俺らと違って、放置してスクショの撮影には動けないのか。

 いやー、人が多い共同体だとそういう部分はあるよね。俺らは少人数の共同体だし、その辺は気楽ですなー。


 そういや、いつの間にか富岳さんはどこかに行ったっぽい。ジンベエさんやソウさん達は、シアンさん達と合流してる感じだな。オリガミさんはどこかに飛んでいったけど、マルイさん達と合流なのかも? 風雷コンビは……あぁ、湖の畔で何か言い合いをしてるけど、まぁそれもよくある光景か。

 フーリエさん達は、アルの上には乗らずに地上で動けるようになるまで待機中にしたっぽい。あ、ハーレさんは撮り終えてひとまずは満足したみたいだな。


 ミズキも湖のど真ん中に生えている木になって、すごい神秘感のある場所になったね。本体の木の元まで足場になるように、水の中から繋がるように何本か根の橋が出来てるのも凄いもんだ。


「ハーレさん、もうスクショの撮影はいいのか?」

「湖の水が満たしていくまでの光景はちゃんと撮れたから、問題ないのさー! だから戻ってきたのです!」

「なるほどなー」


 さっきまでしか撮れないスクショは撮り終えた後か。あ、そういやいつの間にか地味に灰の刻印が消滅してるけど……視界が悪くなってる気配はないな。

 もしかして占拠が終わった時点でその辺は切り替わった? あー、赤の群集や青の群集の人達が手早く退去していったのって、その辺の影響もありそうだね。今度会った時に、覚えてたら聞いてみるか。


「それじゃ命名クエストの選択肢を選んでいくかな!」

「はい! 制限時間の短い霧の森の方をやっていきたいです!」

「それもそだね。えーと、選択肢は『白霧の樹海』と『ネーベル・ヴァルト』と『フォッグ・サバイバル』と『五里霧林』だね。2つ目の『ネーベル・ヴァルト』ってどういう意味なんだろ?」

「『ネーベル』はドイツ語で『霧』になるな。『ヴァルト』もドイツ語で――」

「……『森』……になる。……だから……意味としては……霧の森?」

「ま、日本語ではないだけで、意味的にはそのままではあるな」

「あー、なるほど。そういう感じになるのか」


 この辺の意味解説はアルのいつもの事だけど、そこに風音さんが加わってくるとは思わなかったね。『ネーベル・ヴァルト』はドイツ語での『霧の森』か。シンプルだけど、他の言語に変えるだけで印象は随分変わるよなー。


「3つ目の『フォッグ・サバイバル』も捻りもなく、濃霧の中で生き残れか。4つ目の『五里霧林』がネタ選択肢?」

「『五里霧中』を少し捻ってる感じかな?」

「『グレムリン』辺りが混じってねぇか、その選択肢? 悪戯をする妖精って意味合いがあるし……」

「はっ!? 黒の統率種や黒の異形種の事ですか!?」

「あー、確かにそういうのはありそうな気がするなー」


 ネタっぽい感じではあるけど、『五里霧中』って四字熟語と『グレムリン』という悪戯をする妖精を混ぜたものか。インクアイリーの一部の動きが大きかったのはあるんだろうけど、ネタにしては意外としっくりくる選択肢かも。

 さて、どれにしたものか。単純に選ぶなら俺的にはシンプルに1つ目の『白霧の樹海』がいい気がするけども……今回のネタ選択肢は割とありな気がするよなー。むしろ面白みが一番ないのは『フォッグ・サバイバル』か。


「私は今回は4つ目の『五里霧林』にするのさー!」

「え、マジで!?」

「ふっふっふ、たまにはネタに投票したくもなるのです! 今回のは悪くないのさー!」

「……気持ちは……分かる!」

「まさかの風音さんまで!?」

「まぁどれに投票するかは自由だしな。俺は『ネーベル・ヴァルト』にしておくか。ケイはどうすんだ?」

「あー、俺は『白霧の樹海』にするつもり。無難といえば無難なとこ?」

「あ、私と同じかな!」

「おっ、サヤもそれにしたか! ヨッシさんはどうする?」

「私はどうしよう? んー、折角だし私もネタでいこうっと」

「ヨッシさんもか!?」


 いやまぁ今回のネタ選択肢はそんなに悪くないとは思うから、ありと言えばありか。でも、その理由ってアルの解釈ありきだし――


「へぇ? どういう風なネタかと思ったら、そういう解釈があるのか。アルマースさん、その解釈を広めてもいいか」

「……桜花? ……もしかして……解釈の……確認が……あった?」

「あぁ、まぁな!」

「そりゃ別にいいが……俺の解釈が合ってるかどうかは知らんぞ?」

「そこは正直、どうでもいいとこだけどなー。正解は運営しか知らないんだから、勝手に解釈しちまえばいい」

「……それもそうだな。ま、それに関しては桜花さんの自由にしてくれ」

「おう、そうさせてもらうわ!」


 連結PTを組んだままだったから、桜花さんの方にも今の会話は聞こえてたんだなー。まぁ解散させる必然性もないからこのままで別にいいけど、まさか今回のネタ選択肢へのアルの解釈が広がるとはね。

 さて、これがどう投票に影響するんだろうか? まぁとりあえず、自分の投票分は『白霧の樹海』にしとこ。結果がどうなるかは、出てみてからだなー。


「次、エリア名の命名クエストに移るのさー!」

「えっと、こっちは『黎明の地』、『トライデント・フロウ』、『ルオーゴ・イニーツィオ』、『トリコロール・ケイブシステム』の4つだね」

「はい! 3番目の選択肢の意味がさっぱり分かりません!」

「これはイタリア語だな」

「……『ルオーゴ・イニーツィオ』は……『ルオーゴ』が『居場所』……『イニーツィオ』は『始まり』……意味的に……『始まりの居場所』?」

「あー、イタリア語でそういう意味になるのか。意味的には、1つ目の『黎明の地』も似たようなもん?」

「『黎明』自体は夜明けだけど、始まりって意味合いでも使うからそうなりそうかな」


 他の言語にするとイメージが変わる事もあるけど、日本語は日本語でこういう使い方をすると雰囲気が出るよなー。おし、ピンときたし、こっちは『黎明の地』に決めた!


「『トライデント・フロウ』は……『トライデント』って三叉の槍だよね? この場合、『フロウ』はどういう意味なんだろ?」

「多分だが、フロウは流れって意味になるから、3つの群集の流れを意味してるんじゃねぇか? ……まぁ群集以外にも動きはあるけどな」

「あー、3つの流れか! あれじゃね? 常闇の洞窟が3つ存在してる部分」

「あぁ、それがあったか。確かにあれは完全に3つのみだし……『ケイブシステム』は洞窟の事だな」

「そうなの!?」

「……『トリコロール』は……『3色』の……事。……『3色の洞窟』?」

「3つの群集が色だから、そこと常闇の洞窟を繋げた感じかな?」


 まぁ思いつきで言っただけだから、正解かどうかは分からないけどなー。とはいえ、さっき桜花さんが言ってたように、正解を知っているのは運営だけなんだから、俺らの自由に解釈してしまえばいい!


「こっちは『黎明の地』にするのさー! 無所属から来た風音さんがいたら、3つの群集に由来するのは選びにくいのです!」

「……気にしなくて……いいよ?」

「単純に『黎明の地』が気に入ったというのもあるのさー!」

「……それなら……いい?」

「ま、俺もこの4択なら『黎明の地』だな。3つ目と4つ目は、単純に呼びにくい気がする」

「あー、それは確かに? 特に3つ目の『ルオーゴ・イニーツィオ』は、呼び間違えそうだしなー。まぁそれとは関係なく『黎明の地』にしたいけど」

「あはは、まぁ呼びにくいのは間違いないかな? 私も『黎明の地』にしようっと」

「あれ? 今回はみんな被りそうだね。私も『黎明の地』にするけど……風音さんは?」

「……もう……『黎明の地』に……した」

「既に決定済みだったんだなー。というか、見事にみんな被ったな!?」

「そういう事もあるのさー!」

「ま、そうなるな。さて、これでしばらくは休憩でのんびりしておくか」

「それもそだなー。あー、疲れた!」


 とりあえずこれで投票は終了! 後は締め切りになるまでのんびりして、今日は終わりだな。

 おー、周囲を見回してみれば、いつの間にやら転移してきた人達でいっぱいになってるよ。祝勝会になってバーベキューが始まってるし、これは――


「はっ! バーベキューが始まってるのです! 行ってくるねー!」

「あ、ハーレ!? 待って、私も行くかな!」

「ケイさん、アルさん、風音さん、私も行ってくるね」

「ほいよっと! もう今日はこれで解散で、好きなタイミングでログアウトにしとくぞ!」

「うん、了解!」

「いっぱい食べるぞー!」

「ハーレ、なんでそんなに元気が有り余ってるのかな!?」


 予想通りの展開になったし、まぁ今日はこれで解散でいいだろ。それにしてもサヤがツッコミを入れてたけど、ハーレさんは元気だなー。

 ずっとの索敵でかなり神経は張り詰めてただろうし、疲れてないはずがないと思うけど……。


「……桜花のところに……手伝いに行って……いい?」

「おう、問題ないぞ。いいよな、ケイ?」

「いいぞー。風音さん、お疲れ様」

「……みんなも……お疲れ様! ……またね?」

「おう!」

「またな、風音さん!」


 そうして風音さんも飛び立っていった。まぁ桜花さんはここからが忙しくなりそうだし、それを風音さんが手伝いに行くのは予想外でもなんでもないな。


「さて、ケイ? 明日からはどうする?」

「それは明日集まってから考えね? 今はのんびりしたい」

「……それもそうだな。今日はもう、のんびりでいいか」


 明日からの予定を決めるとしても、サヤ達はバーベキューの方に行っちゃったしなー。多分、何個か持って戻ってきそうではあるけど、明日の事は明日決めればいいや! 命名クエストの結果だけ確認し終えたら、今日はもう終わりにしたいくらいに盛大に疲れたしね。



 ◇ ◇ ◇



 2つの命名クエストが終わって、挨拶も程々にしてログアウト。正直、強制ログアウトになりそうなくらいに眠い……。霧の森が『五里霧林』になって、これまでのエリアが『黎明の地』になったのは確認したし、後はいつも通りにログアウトすれば問題ないはず。


 えーと、いつもいったんのいるログイン場面には来たけど……あぁ、これはダメだ。命名クエストの結果に確認を終えて気を緩め過ぎたのか、眠気が凄い……。胴体部分の内容を確認するのも……無理っぽい。


「いったん、すぐにログアウトをよろしく……」

「随分と眠そうだし、急いで処理するね〜!」


 あと少しだから、寝落ちで強制ログアウトは避けろよ、俺……。あと、絶対に寝坊対策だけはしておかないと……。


「今日はお疲れ様でした〜! またのログインをお待ちしております〜」

「ほいよ……」


 いったんに見送られながら、現実へと戻っていく。意識が切り替わったら、VR機器を外して、その後に目覚ましを2重にかけて……あ、ダメだ。もう……眠過ぎる……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る