第1312話 命名のワールドクエスト


 この霧の森の命名クエストが始まると思ってたら、なんか全く違うワールドクエストが始まったんだけど、本気でこれは何!?


「わー!? なんかワールドクエストが始まったのさー!?」

「このタイミングで始まるのは命名クエストじゃないのかな?」

「……新しい……ワールドクエスト?」

「ワールドクエストなら、全プレイヤーが対象だよね?」

「そうだろうが……どういう内容だ? 『地域の命名・降り立った地』って、どこを指し示している?」

「分からん!」


 俺もこの流れには驚いてるけど、他のみんなも困惑してる様子だな!? というか、ワールドクエストなら他の群集の人がまだ残っている今のうちに状況を確認しとこう!


「ジェイさん、シュウさん、そっちの方でもワールドクエストは発生してる!?」

「……えぇ、発生しています。まさか、このタイミングでワールドクエストが始まるとは思いませんでしたけども……」

「これは、競争クエストが全て終わったから発生したのかもしれないね。逆に僕から聞きたいんだけど……その様子だと、灰の群集にはまだこの霧の森の命名は発生してないのかい?」

「あー、それはまだ発生してない。……これの演出が終わってから?」

「おやおや、これは面白い事になっているね。僕ら、無所属にまで発生するとはね」

「げっ!? ライブラリ!?」


 どこから出てきた、この神出鬼没なインクアイリーのクラゲの人!? ここで即座に敵対する理由もなくなったし、元々それほど攻撃的ではなかったから追い払いはしないけど……何を考えているのか、一番分からない人だから警戒しないと!


「……そのまま黙っているのかと思っていましたが、このタイミングで顔を出すのですね、ライブラリさん」

「興味深い状況ではあるし、顔見知りもいるんだから情報を聞くチャンスだとは思わないかい、『博士』? いや、ここでは普通にオリガミさんと呼んだ方がいいんだったね」

「……今回の敵側として動いたあなたが、この場にいて不快感を与えないとでも?」

「僕は誰の味方もしてはいないんだけどね。そんな事よりも、この続きはまだなのかい?」

「……相変わらずマイペースですね」


 うーん、確かに誰の味方をしてたのかすら怪しい動きだったけど、ここで誰の味方もしてないと言い切るか、この人! オリガミさんも呆れている様子だし、本当にインクアイリーって集団は――


[……グレイ、全員に伝えるにはこうでいいのか?]

『あぁ、そうだ。既に伝わり始めているから、余計な事は言わない方がいいぞ』

『その辺、もう流れてんぞ、クオーツ!』

[なに!? 本当か、セキ!?]

『……まったく、重要な話だというのに何をしているのですか、あなた達は』

[す、すまぬ、サイアン! あぁ、急な連絡となってすまないが、群集から外れた者達にも伝えておくべき事がある為、我からこの星へと降り立った者達の全員へと連絡させてもらっている]


 なんか出てきたと思ったら、クオーツと群集の長の3人が勢揃いか。この言い方からすると、無所属をも含めた全てのプレイヤーが対象だからこそワールドクエストが発生しているっぽい。

 えーと……一気にみんなが静まり返ってるし、今は演出を見ていく事に集中しようっと。どういう話なのか、気になるしね。


『なぁ、群集を離れて好きに動いている連中まで含めて連絡する意味ってあんのかよ?』

『不本意ですがセキのその意見に同意ではありますが、そこはクオーツからの要望の部分ですよ。この星の主とも言える存在を、決して無視する事は出来ません』

[サイアン、その言い方はやめてくれ。我はそのような大した存在ではない。ただ、必要性があったからこその意見だ]

『……話が逸れ過ぎだし、私の方で進めるぞ。無所属の者へも連絡をしているのは、『異形』とも言える姿へと変貌したモノとの接触が一番大きな形で出ているからになる。……それがどういう存在となるのかはこれから調査をしていく事になるが、差し当たって便宜上の呼称を決めたので通達しておこうという話だ』


 あ、あのスケルトンやゾンビの異形の名称の決定か! そういや、まだ色々と『???』のままだし、そこの確定はあるのは当然だよな!


『あくまで、これは仮の名となりますが【黒の異形種】と呼称する事で決定しました。分かっている情報を精査した結果、この【黒の異形種】特有の性質には属性として【侵食】と仮ではありますが、分類したいと思います』


 なるほど、あの異形の名前は『黒の異形種』で、属性として『侵食』で決定なんだな。ゾンビとスケルトンで名称が分かれる訳ではないっぽい? まぁこれまで種族でその辺の区別はなかったし、当然といえば当然の区分か。


『……その仮って前置き、必要か?』

[あれらには何かの意思を感じると言ったであろう? それが正しく対話が出来たとすれば、状況次第では変わるかもしれん]

『そりゃ聞いたが……俺らの力の残滓から、新たな意志が生まれたってか? そりゃいくらなんでも……』

『あり得ないと言いたいのか、セキ?』

『当たり前だ! 生命の創造なんて芸当、それこそ神の仕業じゃねぇか!』

『……セキ、私達は十全に力を振るえば、それに値する力を有する事を忘れないようにして下さい。それが本意ではないとしても、事実としては受け入れるべきです』

『この力を【神の力】などと呼ぶ気はないが、起きている現象は無視は出来んからな』

『……ちっ! 分かったよ!』


 あー、そういやそもそも滅んで精神生命体になった経緯が経緯だから、どれだけの力を持っていてもそれを『神の力』としては認めないって考えだっけ。

 というか、新たな生命の創造かー。クオーツも元は惑星浄化機構って機械だったけど、長年に渡って瘴気と浄化の力の扱い続けたから生命として定義出来るようになったんだっけ。


[伝えるべき内容は以上ではあるが……我からここで1つ提案がある]

『提案だと? それは何も聞いていないが……』

『クオーツ、そりゃどういう提案だ? 全員が揃っている時でねぇと駄目な事ってか?』

『……とりあえず、内容を伺いましょう』

[なに、簡単な話よ。汝らの新たな地での活動拠点という縄張り争いは、これで一旦は落ち着いたとこであろう? そこでだ、汝らが最初に降り立った地域に名付けを行ってはどうかと思ってな]

『……なるほど、そういう事ですか』

『ちっ、その命名の権利はどこか1つには委ねねぇって事かよ!』

『このタイミングを狙っていたな、クオーツ?』

[あぁ、否定はせんぞ、セキ、グレイ。汝らだけに委ねると、また争いになるであろうからな。我としては争い合っていたとしても汝ら全てがこの星の新たな住人だ。だからこそ、全員の意見で決めてもらいたい]


 そういう流れが来るんかい! あー、だからこそワールドクエストで『地域の命名・降り立った地』か! ははっ、今までで最大規模の命名クエストって事になるんだな!


<命名クエスト『命名せよ:降り立った地』を開始します>

<本クエストはログイン中の全プレイヤーが対象になります>

<以下の選択肢より、1時間以内に好きなものを選んでください。一番多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:黎明の地

 2:トライデント・フロウ

 3:ルオーゴ・イニーツィオ

 4:トリコロール・ケイブシステム


 あ、色々と範囲が違うだけで、仕組み自体はいつもの命名クエストと大差はないんだな。普段の命名クエストは30分だけど、今回のは1時間かー。

 ん? そういえばよく覚えてないけど、初めから命名クエストって30分だっけ? あー、まぁそこはいいや! たまに知らない間に仕様が変わってたりするけど、今のは気のせいな気もする!


[さて、後は汝らの決定に委ねよう]

『……半ば強引ではあるが、まぁ意図は分かる。今回は皆、それで進めてくれ』

『強引な事をしやがるな、クオーツ!』

『まぁこうでもしないと、争いかねないのは事実なので仕方ないですか』


<ワールドクエスト《地域の命名・降り立った地》が完了しました>

<種族『???』で表記されていた種族が『黒の異形種』の表記へと切り替わります。それに伴い、識別内容の表記の変更が行われます>


 あ、ワールドクエストとしてはここまでで終わりなんだな。今回の競争クエストで新たに行けるようになる前の地域を対象にした命名クエストがさっきので始まったし、こっちは『???』の名称の正式な変更が目的のクエストだったんだな。


「ふむふむ、『黒の異形種』は新たな生命の誕生の片鱗……これは、僕も黒の統率種の占拠を手伝った方が面白い結果だったのかもしれないね」

「……怖い事を言いますね、ライブラリさん」

「オリガミさんは興味はないのかい?」

「……全くない訳ではないですが、多くの方を敵に回してまで強引にやる気はありませんよ。やるなら、どこかの群集か……もしくは全ての群集を味方に付けてからやります」

「おやおや、それはそれで無茶を言うものだね」


 なんかシレッとオリガミさんが無茶苦茶な事を言ってる!? てか、ライブラリが興味を持つのが終わった後でよかったのかも……。本格的に敵に回ると怖そうだぞ、この人!


「面白そうな話をしていますね? えぇと、オリガミさんでしたか。今のは本気ですか?」

「えぇ、本気ですよ。ジェイさん、今の提案はいかがです?」

「……まぁ私の一存では決めかねますが、次回開催時に協議してみるのもありかもしれませんね。ケイさんやシュウさんはいかがです?」

「ベスタじゃなくて、俺に振ってくる!? いや、その内容は流石に一存じゃ答えられないのは俺も一緒だから! だよな、シュウさん!?」

「まぁそうだね。僕らが一存で動かせるのは、赤のサファリ同盟くらいまでだけど……それも弥生が同意したらの話だよ」

「私は、シュウさんがやりたいなら問題ないよ?」

「なんか、期待してた反応とは違うんだけど!?」


 いや、そもそもシュウさんや弥生さんは赤の群集の代表じゃないんだ! 赤のサファリ同盟が赤の群集の取りまとめを一時的にやってはいたけど、今はそれはリバイバルの方に移行しているもんな。

 聞くなら、ルアーやウィルさんに……って、今回はここにいないよ、その2人とも! どこで何やってんの、あの2人!? あー、戦闘中にはいてほしくはないけど、それが終わったならいてほしいという微妙な――


<命名クエスト『命名せよ:未開の霧の森』を開始します>

<本クエストは現在ログイン中の【競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開の霧の森』】の参加者に限定されます>

<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。最も多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:白霧の樹海

 2:ネーベル・ヴァルト

 3:フォッグ・サバイバル

 4:五里霧林


「あ、普通の命名の方も始まった。こっちの制限時間は30分かー」


 うーん、まさかの2つの命名クエストの同時進行! 終了時間が微妙に違うけど、まぁ時間的にはどっちも今日中には終わりそうだから大丈夫か。……疲れてるけど、これくらいなら何とかいけるはず。


「……ワールドクエストでタイミングが狂いましたが、改めてここは撤退させていただきますね。『刻瘴石』の共同での検証、お忘れないようにお願いします」

「あぁ、それは改めて日程を決めてやっていくとしようか。それじゃ灰の群集の人達、またの機会を楽しみにしているよ」

「ケイさん、次はそのロブスターの頭を落としてあげるからねー!」

「弥生さんに言われると物騒過ぎるんだけど!?」


 要はリベンジを覚悟しろって事なんだろうけど、ロブスターの頭と言われたら食材的なイメージが出てくるわ! うわー、今日の途中で追いかけ回されたりもしたけど……峡谷エリアで勝って、むしろ厄介な事になってません?

 まぁとりあえず、他の群集の人達は本格的に撤退していってるね。一部、残って一緒に騒ごうと許可を得てる人がちらほらいるくらいか。


「ふっふっふ、これで対戦は完全に終わりなのさー! 2つの命名クエスト、やっていくのです!」

「リベンジと言っても、普段から問答無用で襲ってきたりはしないだろうから安心してもいいんじゃないかな?」

「……あー、いや、弥生さんの場合はどうなんだ? 今回は大暴走が抑え気味になってたけど……」

「おし、その時はケイを残して全力で逃げるか」

「おいこら、アル!?」


 からかってるだけだろうけど、もし本当にそうなったらアルだけは意地でも巻き込んで逃げてやる! ……不安げに言ったものの、シュウさんが一緒にいるだろうし、その辺はそこまで心配はいらないかも?


「ケイさん、大型アップデートで群集が違っても模擬戦が出来るようになるんだし、そこで挑まれる可能性はあるんじゃない?」

「……あ、そういやそれがあった」


 まだちょっと先だけど、大型アップデートの内容でそれがあったよ!? いやいや、挑まれたとしても受けなければいいだけで……それはそれで次の対戦の機会まで狙われ続ける事になりそう!?


「……また……勝っても……狙われる?」

「そうなりますよねー!?」


 くっ、狙われない為にはどこかで負けるしかないのか!? いや、でも結局ウィルさんには警戒されてる訳だし、勝っても負けても対戦になったら狙われるのは変わらない?


「ケイ、もう狙われるのは諦めて受け入れろ。どうやっても、その警戒が解かれる事はない」

「ばっさりときたな、ベスタ!? いやまぁ、そうなんだろうけどさ……」

「むしろ、そのまま維持し続けてくれ。その方が、今後も囮として動かしやすいからな」

「そういう理由!?」


 思いっきり今後も囮に使う宣言をされたけど……どうやったって、意図しなくてもそうなるかー。今回も、エリアボスの討伐の指揮とミズキの占拠の為の動きをやったもんな。

 うん、まぁ今後の事を考えるのは、今でなくてもいいだろ! とりあえず、今は今しか出来ない2つの命名クエストをやっていくぞ! さーて、どの選択肢にしよう?



――――――


更新お休みのお知らせ


第35章が終わったタイミングで、今年の分の更新はお休みにします。

詳細は近況ノートにて!


 

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