第1305話 巨大レンコン、討伐戦 その6


 赤の群集へ少し挑発を入れて、異形のサツキへの回復を進めているけども……特に目立った反応はなし。ビックリするほど何もないな?


「迅雷さん、疾風さん、今のうちに剥奪を使い切らせておきますよ。どこかのタイミングでまた復活するでしょうけども、少しでも無くしておいた方が楽でしょう。『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」

「「承知した! 『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」」


 普通にオリガミさんと風雷コンビが弱点の確認をしてくれて、剥奪の回数まで削ってくれている状況。それに異形のサツキも半分を切っていたHPは6割くらいまで回復してるし、まだまだ回復は出来そうだな。


 それにしても……赤の群集から反応らしい反応が皆無? 異形のサツキを助け出す気はないのか? いや、それだとこの巨大レンコンのトドメを取るのがほぼ必須になるけど……その自信がある?

 もしくは、エリアボス戦が終わってからサツキを仕留める気でいる? もしそうなら、そのタイミングでミズキも殺しに来るよな? そうじゃないと、ここで全く動かない意味が分からない。 


「……ベスタ、赤の群集から何も動きがないのが逆に怖いんだけど?」

「気持ちは分かるが、気にし過ぎていてもどうにもならん。だが、こっちの警戒度を引き上げておく。……何か盛大に企んでいそうなのが分かったのは、それはそれで助かるからな」

「かなり大掛かりな事を考えてそうだよねー? ダイク、青の群集のカズキはどんな状況?」

「あー、よく分からん! 赤の群集と青の群集が盛大に戦ってるけど、なんかカズキの動きが止まってるっぽい?」

「およ? 赤の群集が足止めに成功してる感じなの?」

「いや、そういう訳でもないみたいだけど……なんつーか、観測してる連中を仕留めまくってきてるみたいで、情報があんまり入ってこない!」

「……なんか怪しいねー?」

「カズキを乗っ取ってるの、赤の群集の傭兵の可能性がありそうじゃねぇか? 下手に近付き過ぎると制御から外れるし、青の群集を誘き寄せる餌にしてるとか?」

「アルマースの意見が、この状況では可能性が高いだろうな。そして、灰の群集にはそれを知られたくないようだが……まぁいい。ケイ、本格的にエリアボスの討伐に……いや、まだ桜花の情報待ちか」

「あ、悪い! 今、丁度その確認が終わったとこだ!」

「お、待ってました!」


 赤の群集が何を狙っているかが非常に気になるけど、今は青の群集の邪魔をしてくれているって事で済ませておこう。……あえて灰の群集の人達を倒して、そっちに無駄に意識を割かせるって作戦の可能性もあるしね。

 エリアボス戦の担当の俺は、撃破の方に集中で! 出来れば、桜花さんからの情報で討伐速度を上げられればいいんだけど……。


「待たせたな、ケイさん。レンコンのハスの葉は、基本的には自由に葉を展開出来るが、戦闘で失った後は本体のHPの1割を消費して全部再生って感じだそうだ。不動種や特性『旗頭』持ちの今回の巨大レンコンだと多少条件は違うだろうが、基本的な性質はそう変わらないはずだろう」

「あー、そういう条件で全部再生か……。1割を切ってる状態での発動は? 枚数が少なめでも5%で半分再生とかは?」

「それは無理だそうだな。HPが1割を切ってたら再生用のスキルの『花の再生』は発動出来んらしい。普通なら水分吸収で回復するそうだが、それは封じてるから大丈夫だろ」

「……なるほど、1割を切った状態で葉を全て無くしてしまえば本体だけになるって認識で問題なし?」

「多分な。それと、ハスの場合は葉を展開している状態が必須らしいけど、自由に花を咲かせる『花の操作』っていう、木の『枝の操作』に相当する応用スキルがある! 草花の種類によって効果が変わるんだが、それでハスだと花粉で朦朧を発生させるそうだ!」

「それ、嫌な手段だな!?」


 木の『枝の操作』に相当する『花の操作』なんてのもあるんかい! まぁ木でも種類によって効果が違うからその辺の性質は分かるんだけど、その効果って睡蓮とかから効果の由来がきてない!? 睡眠って状態異常はないから、朦朧が代わりに用意されてる気がする!

 あー、まぁとりあえずそこはいいや。花粉なら洗い流せばどうにかなるし、そうなる前に花を排除すればいいだけ!


「桜花さん、ここまでの話的にハスの葉は破壊可能って認識で問題ないかな?」

「おう、サヤさんのその認識でいいぜ! 多分、本体を削っていくより、葉を再生成させる方が削れるのは早いと思うぞ」

「だそうかな、ケイ!」

「だったら、そこを戦略の要にした方が良さそうだな!」


 よし、思った以上に良い情報が手に入った! 問題はハスの葉そのものがどの程度の耐久性を持っているか……いや、ハスの葉は本体と同じくらいの耐久性はあるな。でも、ハーレさんの投擲を避けまくっていたのは意味がある!


「なるほど、魔法砲撃にして狙いを分かりやすくすれば4足歩行の分身体を誘き出しやすいのですね」

「本体に近付けば直接、本体で攻撃して狙ってくるようだな! なぁ、疾風の!」

「歩いてようが、飛んでようが、距離の問題みたいだな! なぁ、迅雷の!」

「どうやら本体に最も近い位置にいる相手を執拗に狙うようですね。そして、本体で襲いかかってくる間は分身体は出てこないと……」


 風雷コンビとオリガミさんはカエルでの剥奪は使い潰させて、なんかここぞとばかりに色々試してるっぽい! あー、オリガミさんと風雷コンビの位置関係が離れれば異形のサツキに狙いが移ってる? これは終盤になったら、異形のサツキを巨大レンコン諸共、同時に倒した方がいいのかも。


 あれ? もしかして、赤の群集はそれを狙っている? エリアボスを倒した後、占拠までの間に異形のサツキが邪魔になるのは分かり切ってる話だし……あー、この可能性はありそうだな。よし、もう少しオリガミさんと風雷コンビに任せておいて、この可能性を考えよう。


「ベスタ、レナさん、ちょっと意見をくれ! 赤の群集の動きについての推測!」

「あぁ、その件か。今、俺も丁度話そうと思っていたとこだが……レンコンと異形のサツキの同時撃破を狙うというとこか?」

「あ、気付いてたんだ」

「まぁそうなるよねー! どっちも植物だから、まとめて葬るのが早そうだしさー! もし、それが狙いなら使うのはシュウさんの光魔法かも?」

「その発動を隠すのが、弥生の役目といったところか。……もしくはシュウと弥生は、ボスではなくミズキの撃破狙いかもしれん」

「およ? あ、そっか。両方撃破したとしても、ミズキを残しておいたら意味ないもんね」

「……エリアボスのトドメとサツキの撃破と同時に、俺らも狙われる? いやまぁ、元々狙ってるだろうけどさ」

「あぁ、同時に襲ってくる可能性が上がってきたな。……それこそ、同じタイミングを狙う青の群集も一緒に葬る気かもしれん。失敗しても、ケイ達の方は動きを止められればそれで構わんからな」

「ちょ!? それ、ヤバくね!?」


 ミズキを狙ってくる事自体は想定済みではあるけど、まさかの俺らも含めた同時撃破狙い!? ただでさえトドメを取られる事そのものも警戒しなければいけないのに、そこにミズキの撃破にまで意識を割く必要があるとか……あー、敵からしてみれば当然の狙いか。

 うん、俺が敵側なら、余裕を与えないようにそういう事はやるわー。むしろ、さっきの状況で手を出さなかったのは、こうして色々と警戒させる事こそ狙いになるよな。


「何度も言っているが、トドメの方は俺らの方で対処する。万が一の時には、ケイ達はミズキの防衛だけを考えろ」

「もうわたし達が潜んで、隠れてる人達を仕留めて回ってるのは気付かれてるだろうから、向こうも油断は出来ないはずだしねー!」

「……ほいよっと」


 あー、エリアボスの方に集中しろと何度も言われるけど、本当にそれだけに集中するのが難しいな!?


「ケイ、巨大レンコンと異形のサツキは最後には一緒にしてもいいんじゃないかな?」

「え? サヤ、それはなんでだ? わざわざ狙い通りに一緒にするような――」

「だからこそかな! まとめて倒すのが狙いなら、そうさせたらいいよ。その分、対処も1ヶ所に集中出来るかな!」

「……あ、そりゃそうだ」

「それに、大事なのは巨大レンコンや異形のサツキを倒させない事かな?」

「……違うな。大事なのは、その後のミズキでの占拠だ!」

「うん、そういう事かな!」


 狙い通りに動くのが嫌で分散させようかと考えていたけど、別にここはサヤの言うように狙い通りになってしまっても構わないのか。はぁ、ちょっとエリアボスを倒す事や、異形のサツキを仕留めさせない事に固執し過ぎてたかも……。

 最終目的は、あくまでもこの競争クエストの攻略条件になる占拠をミズキにさせる事。一度、ジャングルでエリアボスのトドメを取られた事が思った以上に心理的な足枷になってたか。目的を見誤るなよ、俺! 最重要なのは、エリアボスのトドメを取らせない事でも、異形のサツキを倒されない事でもないからな!


「サヤ、サンキュー!」

「どういたしましてかな?」

「おし、エリアボスの撃破を再開していくぞ! 風雷コンビ、ハスの葉へ近接攻撃! 色々と次の戦法を確立する為に、確認をする!」

「「了解だ! 『爪刃双閃舞』!」」


 何度も他の群集からの動きを気にするのはここまでだ! ベスタに言われたように、今はしっかりと目の前の事に集中! 


「おぉ!? 風雷コンビの攻撃をヒラヒラと躱しているのです!?」

「……躱し……きれては……いない?」

「でも、ダメージは微妙そう? 魔法型の龍だからかな?」

「かなりハスの葉自体が丈夫な感じもするけど、単純に風雷コンビの育成方向の問題はありそうだね」

「こりゃ投擲に限らず、葉への物理攻撃は避ける仕様みたいじゃねぇか?」

「どうもそうっぽいなー」


 ふむふむ、投擲だけに反応するのかと思ったけど、近接攻撃でも大々的に躱す動きが出てくるのか。流石に風雷コンビの連携攻撃だと避け切れてはいないけど、この様子は十分ヒントになる。

 風雷コンビの攻撃を避けるハスの葉を見てて分かったけど、当然ながら回避の幅には限度がある。葉の回避に合わせて茎も当然動くけど、その動く範囲を特定してしまえば切れるはず!


「オリガミさん、何か斬撃系のスキルはあるか!? その太いレンコン本体と葉を繋ぐ茎を切れるやつ! 駄目そうならこっちで用意するけど――」

「それならこれでいきましょうか。『白の刻印:増幅』『ゲイルスラッシュ』!」

「暴風魔法か! なら、それで任せる!」

「えぇ、お任せ下さい」


 オリガミさんの目の前で風が渦巻いて圧縮されている状況だし、あの風の斬撃なら威力としては申し分ないだろ。もしこれでハスの葉が切り落とせるなら、それを主軸にして攻勢を変えていくまで! 一応、別のパターンを試してみるか。


 そういやハスの葉は、結局何枚あるんだ? ザッと眺めただけで数えてなかったんだけど……えーと、10枚はあるのか。葉を動かす事自体は操作系スキルではないみたいだから、多分剥奪しても意味はないな。となると、やるべきはこれ!


「サヤとハーレさんも連携して、他のハスの葉を狙ってみてくれ! ハーレさんは投擲で回避の動きを誘導して、サヤは一気に茎を断ち切るつもりで!」

「……物理でも……茎を……切ってみる?」

「そういう事! どっちが効果的かを試す!」


 地味に魔法では斬撃に使えるのは少なめだからなー。まぁ岩の操作や氷塊の操作で刃型にして斬るのでもいけるけど、物理斬撃が使いやすいならそれを主力にするまで! そっちは普通に数は多い!


「そういう事なら任せてかな! 『魔力集中』『白の刻印:剛力』『重硬爪撃』!」

「了解なのさー! 『連投擲』! ……あれ?」

「……全然避けないね?」

「あー、最低限必要な威力でもあるのか? ハーレさん、応用スキルで頼む!」

「はーい! それじゃ、もう一度これなのさー! 『連速投擲』! おぉ! 今度は避けてるのです!」

「ハーレ、投げる速度は落としてかな!? 私のチャージが終わってないよ!?」

「はっ!? サヤ、ごめんなさい!」

「ハーレさん、最大限まで発動を引き伸ばして、サヤに合わせろ! 慌てなくていいからな!」

「了解なのさー!」


 ちょっとハーレさんが慌てて動いてしまったけど、まぁこの辺はどうとでも立て直せる範囲だな。慌てず、しっかりとやっていこう! これは俺自身にも言い聞かせるつもりで!

 というか、風雷コンビの方も発動が終わって、ハスの葉の回避行動が収まってる状態か。ちっ、攻撃はしてるけど、応用スキルじゃなければ避けようともしないみたいだな。これだと大振りなチャージ攻撃はあっさり回避されかねない。


「発動準備完了です! ケイさん、いつでもいけますよ!」

「ほいよっと! 風雷コンビ、さっきと同じように2人で何か応用スキルで攻撃!」

「「了解だ! 『連閃』!」」


 何気にライオンとヒョウよりも魔法型に育ってるって話の龍なのに、物理攻撃も普通にやってるんだよな、このコンビ。まぁダメージはライオンやヒョウよりも明確に低いけど、それでも応用スキルであれば回避には反応するっぽいね。


「オリガミさん、茎を断ち切れ!」

「了解しました!」


 オリガミさんの目の前に圧縮されていた空気が解放され、複数の鋭い風の刃がハスの葉と巨大レンコンを繋ぐ茎へと当たり……なんとかギリギリではあるけども、切断に成功!


「ゲイルスラッシュでは、1ヶ所に攻撃が集中せずダメみたいですね。増幅してギリギリですか」

「いや、とりあえずそれで十分! でも、葉を切り落としただけでは、それほどダメージ自体にはなってないっぽいか」


 もっとガッツリHPが減ってくれればありがたかったんだけど、そこまで都合よくはいかないか。再生の方にHPを盛大に使ってくれればいいんだけど……。


「ケイ、こっちもいいかな!」

「私の方も最後の1発は残ってるのさー!」

「おし! 風音さん、サヤを乗せて突っ込んでくれ! ハーレさんはサヤが攻撃範囲内に入ったら、タイミングを合わせて最後の1発を投擲!」

「はーい!」

「……任せて!」

「風音さん、よろしくかな!」

「……うん! ……『高速飛翔』!」


 よし、これでサヤが風音さんの龍に乗って眩い銀光を放った状態でハスの葉へと近付いていっている。……タイミングがズレれば折角チャージした攻撃が空振りになるから、ハーレさん、頼んだぞ!


「そこなのさー! えいや!」

「ハーレ、ナイスかな! これで、真っ二つ!」

「おし! 物理でのチャージの方が効果的みたいだな!」


 後は、これを繰り返して葉を全て切り落としつつ、並行して巨大レンコンの本体を弱らせていけばいい。今のがなんだかんだでみんなにお手本を見せたような形になっただろうし、斬撃での攻撃持ちは多いからPT編成もこれからでもそう苦労はしないだろ!

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