第1304話 巨大レンコン、討伐戦 その5


 巨大レンコンが周囲を覆っていた魔法産の海水を取り込み、海属性への纏属進化を行なっている。エリアボスでこの進化が発生するかどうかは、ぶっちゃけ賭けだったけど……発生するもんなんだなー。

 まぁ発生するように設定されているボスとされていないボスの両方がいそうな気がするけど、明確に海水が弱点だったからこそってのはありそうだ。何はともあれ、海水自体は効きにくくなっても、より雷属性は効きやすくなったはず。


「あ、進化が終わったかな!」

「ケイ、俺らで行動パターンの変化は確認しておくから、今のうちに説明しとけ」

「ほいよっと! 少しの間、アルに任せた!」

「おうよ!」


 この纏属進化を行う事そのものが7割まで削った時点での行動パターンの変化の可能性もあるけど、その辺は少し観察してみないと分からない部分。その辺のパターンの洗い出しは、正直何戦もしないと判明しないだろうから、そこまで今は重要じゃない!

 考えている作戦の実行はまだもう少し先の話だけど、必要になる直前に伝えたんじゃ遅過ぎる。だから、敵の状況が大きく変わったこのタイミングが、伝えるのにはいいタイミングだろ。


「手短に説明していくけど、この後も継続して海水で包んでいく予定にしてる。そこに電気魔法を流してダメージを稼いでいくのが1つの狙いだけど、こっちはおまけ」

「ケイさんが電気魔法持ちを集めてたのは、それが狙いなんだよな? それがおまけなのか?」

「ぶっちゃけ、海水で周りを覆う為の口実みたいなもんだな。初めは毒魔法をメインのつもりだったけど、合わせて電気魔法持ちを条件に入れててよかったよ」

「……ケイさん、トドメの横槍を届かせないのが目的ですね?」

「オリガミさん、正解! ただ、灰の群集以外の人からの電気魔法が流れる可能性もあるから――」

「その時はレンコンの一部に触れている海水と、そうでない海水を切り離すという訳か。毒だとそういう訳にはいかんしな」

「そういう事!」


 なんか俺は半分くらいしか言ってないけど、オリガミさんとベスタからほぼ答えが出ちゃったなー。まぁこれだけ言えば、分かる人には分かるか。

 でも、決して問題点がない訳でもない。レンコンを海水で覆い続けて攻撃を防ぐ事にはなるけど、それを貫通するほどの威力の攻撃は防ぎ切れないんだよなー。あと、俺ら側の攻撃手段も乏しくなるのが問題。


「ケイ、その分離指示は俺の方で出すぞ。トドメの妨害はこっちが主体の方がいい。その直後、ケイ達でトドメに動く方がやりやすいだろう?」

「そうしてもらえると助かる!」

「流れとしては、ベスタさんの合図でトドメの妨害に動いて、そのすぐ後にケイさんの合図でトドメを刺すって事でいいんだな? 海エリアの人達には、レンコンに触れている海水は解除してもらうのでいいか?」

「あぁ、それでいいだろう。桜花、その内容で通達を頼む」

「俺の方も問題なし! あ、トドメはその時のメインの攻撃役の人達にするつもりって伝えといてくれ!」

「おう、了解だ!」


 おし、これでトドメの頃の作戦の伝達は終了! 具体的にどういう形で仕留める事にはなるかは、その時になるまで分からないけどね。まぁそこは臨機応変にいきますか!


 さて、それじゃ巨大レンコンの行動パターンの変化を確認していこう。まぁチラッと聞こえていた範囲では、それほど変化はないっぽいけどさ。


「みんな、巨大レンコンはどんな様子?」

「識別はしたけど、属性に『海』、特性に『汽水』が追加になったくらいかな?」

「他には名前が『オオヤドレンコン・纏海』ってなってる程度なのさー!」

「行動パターンは……異形のサツキに対して、防御用の4足歩行の分身体を出してるくらいだね」

「俺らの方が何も仕掛けてないから、特にこれといって極端な動きの変化はないぞ」

「……このレンコン……かなり……消極的」

「あー、そんな感じかー」


 思った以上に何もなかったっぽいね、今の状況! こっちから仕掛けなきゃ、全然攻撃的には動いてこないんだな。……その分だけ、耐久性が高いって事なんだろうけどさ。


「ところでケイ? 電気魔法を海水に流すのはいいけど、毒はどうするのかな?」

「ん? あー、そこは海水の操作の方で避けてもらいつつ、猛毒の操作で直接叩き込もうかと。物理毒持ちなら、直接攻撃でもいいしなー。ヨッシさん、いけるよな?」

「あ、そういう感じでやればいいんだね。うん、多分問題ないと思うよ。狙うのは本体? それとも、ハスの葉の方?」

「猛毒の操作で本体狙い、それ以外はハスの葉狙いでいくか。出来るだけ、トドメを狙える位置は減らしておきたいしさ。アル、ハスの葉の部位破壊って出来ると思う?」

「……おそらく、可能だろうな。再生される可能性もあるが、それはそれで何かしら削る事は出来るだろうよ」

「だよなー!」


 ハスの葉が生えてきた事そのものは想定外だったけど……あぁ、そう考えると投擲を避けるというのは、部位破壊を避ける為なのかも? なるほど、狙うべきは葉ではなく、本体と繋がっている茎か。

 近接攻撃に対して本体が動いたのも、ハスの葉への攻撃を避ける為? 攻撃部位としての葉だと考えていたけど、あれは俺のロブスターにとってのハサミみたいなもんか! 武器にはなるけど、失うと痛い部位! そう考えると……よし、その辺を確認してみよう。


「そういやレンコンのプレイヤーって見た覚えがないんだけど……いるのか? いるなら、確認してもらいたい事があるんだけど」

「おし、通達は完了だ。後は灰のサファリ同盟の海原支部の方から広げてくれるってよ。それと今の話だが、湿地エリアでレンコンの敵は出てくるから、レンコンのプレイヤー自体はいるぜ。ただ、不動種のレンコンは流石に聞いた覚えがねぇな」

「あ、桜花さんが知ってたか」


 オフライン版ではプレイアブルではなかったレンコンだけど、オンライン版ではしっかりプレイする種族として存在はしてるんだな。ちゃんと存在するなら色んな人と交流のある桜花さんが知っていても当然か。

 まぁかなり癖が強そうだし、初期エリアのどこからスタートになるかも問題がありそうだから、1枠目でのランダム対象からは外れてそう。


「……流石に不動種はいないよな?」

「草花系の種族で不動種をやる事自体が稀だからな。心当たりは何人かいるから連絡を取ってみるが、何を知りたい?」

「多分、不動種でなくても問題はないとは思うけど、あのハスの葉の再生手段に何を使うかが知りたい。脱皮みたいに防御力の低下があるのか、そもそもHPを消費して再生させるのか、自然回復以外での再生そのものが不可なのか、そういうところ!」

「……その手の情報はまとめの方に上がってきていた覚えはないな。桜花、心当たりがあるなら確認を任せるぞ」

「おし、任せろ! ただ、少し時間はもらうぜ!」

「そこは了解っと! 任せた、桜花さん!」


 ベスタでも知らない情報だったみたいだし、単純にレンコンは人気がない種族か。まぁオフライン版でいたレンコンとか、どう考えても移動に難ありだったもんな。ヘビみたいにウネウネ動かして進む植物をやるなら、苦手でない限り普通はヘビをやるだろうしね。


「そういう情報を集めるのなら、ハスの葉を狙うのかな?」

「まぁ再生手段にもよるけどなー。本体のHPを消費して葉を用意してるなら、そこを狙っていく」

「それで本体のHPや何かを下げるデメリットがあっての再生なら削りやすいし、再生に時間がかかるのなら本体のみに集中もしやすいか」

「そういう事!」


 可能であれば部位破壊をしていき、当分の間は再生しない状況の方がありがたい。あのハスの葉が複数の場所にある分だけ、トドメを狙える位置が増えてしまうからね。

 特性『旗頭』を持ってるボスだと通常の法則からはズレてくる部分は出てくるけど、それでも全く参考にならない訳じゃない。あー、もっと早い段階でレンコンのプレイヤーには話を聞いてもらうべきだった!


 いや、過ぎた事は今はいい! 今は……情報が集まるまでは下手に削らない方がいいかも。あ、そうだ! こっちの対処も考えないと!


「ラックさん、ちょっと灰のサファリ同盟の方でやって欲しい事があるけど、人手的にいけるか!?」

「今は足場作りも湖の乾燥もほぼ終わって、手が空いてきたから大丈夫だよ!」

「それじゃ、異形のサツキの周りだけ水を戻して、回復出来るようにしてくれ! このままのペースじゃ、先にそっちが死にかねないしな」

「……え? 折角弱ってるのに回復させちゃうの!?」

「ラック、そう動いてくれ。異形のサツキは赤の群集の群集支援種だから、可能な限り正常化は遅らせた方がいい」

「そだねー! 異形のサツキが死ぬ直前まで弱れば、赤の群集が完全に仕留めに動く可能性は出てくるし、下手に弱らせ過ぎない方がいいかも?」

「あ、そっか! それなら回復させた方がいいね! 吸収した分の水が使えるから、すぐに動き出すよ!」

「任せた! 赤の群集が動き出す可能性もあるから、そこは要注意で! あ、それと全快まではさせなくていいぞ!」

「うん、了解! 適度に弱り過ぎない程度に回復だね!」


 よし、とりあえず次の動きはこれでいい。ここからどう戦況を動かすかは、桜花さんからの情報待ちで!

 赤の群集が大きく動く可能性もあるし、戦略を決め切れていないから今は焦って一斉攻撃をする必要まではないだろ。


 とはいえ、このままのんびりと待ってるだけも微妙だよなー。かといって、大々的に動かすにはちょっとまだ早い。他の群集から見れば纏属進化を見てからの作戦変更で停滞してる風には見えるだろうけど……あぁ、どうせなら赤の群集を引っ張り出してみるか。


 異形のサツキの回復は絶対に観測してるだろうし、黙って見ているかどうかの確認を含めてやっていこうっと。そうなると……戦力にはなるけど、作戦会議には大々的には参加してない人を陽動役に見せかけるのがいいかもね。適任は丁度いるし、そもそもの役割はこっちの対処だからいいだろ!


「オリガミさん、風雷コンビを連れて巨大レンコンの本体への攻撃を頼める? 電気属性がどの程度、効くようになってるかを確認しておきたい」

「我らの出番のようだぞ、疾風の!」

「そうみたいだな、迅雷の!」

「……という名目での、異形のサツキを狙う赤の群集の誘き出しですね。私達は意識を逸らす為の陽動……いえ、そのまま強襲でしょうか? それは引き受けますが、そこまで上手くいきますか?」

「「そういう狙いか!?」」

「あっさり狙いを見抜いてくるんだな!? まぁぶっちゃけウィルさんが引っかかってくれるとは思わないけど、それで少しでも足並みが崩れたらって期待も含めてで……。ベスタ、この狙いはやってもいい?」

「あぁ、構わん。もし赤の群集がこの状況で異形のサツキの撃破を狙うなら、強行突破でシュウと弥生が出てくる可能性もあるからな」

「あー、そりゃそうか。灰のサファリ同盟を筆頭にして、異形のサツキの回復をさせるんだから……それを全力で潰しにくる可能性もあるよな」

「そういう事になるな。……そこまでは想定してなかったか?」

「……正直に言えば、そうなる。誰か出てくればとは思ったけど……」


 うーん、実際にここは動かして赤の群集の動きを見ないと分からないとこか。ちっ、なんだかんだで完全にベスタ達に任せっきりで考えられないこの状況が痛いな! ボス戦だけに集中って、完全に要素が切り離せる状況じゃないから厳しいわ!


「まぁそれは俺らの方の役割だから気にしなくてもいいが……レナ、いつでも動けるようにはしておけ」

「およ? 状況次第では、わたし達が動く感じ?」

「あぁ、そのつもりでいてくれ。もしここでシュウと弥生が出てこないのであれば、トドメまでは何もないだろうがな」

「それはそうかも? んー、ここでシュウさんと弥生って切り札を使ってくるかが重要なとこだね」

「そこまでの戦力が必要でなければ、こちらで確保している人員を送り込む。ケイ、それでいいな?」

「そこの判断は任せた! 風雷コンビも頼んだぞ!」

「「任せておけ!」」


 よし、とりあえずの時間稼ぎはこれでいい。まぁ状況次第では時間稼ぎどころじゃなくなる可能性もあるけど、他の群集の動きも無視する訳にもいかないもんな。

 おっと、下の切り倒した木々の方から操作されてる水が、異形のサツキの方へと運ばれ始めたね。すぐ真横でインベントリから水を出すんじゃなくて、少し距離を取って水の操作で運ぶ形にしたんだな。


 さて、これで赤の群集がどう動くかが問題だけど……とりあえず全体に指示を出しとこ。そのまま他の群集が鵜呑みにするかは分からないけど、停滞している状態を誤魔化すような感じで!


「電気魔法の効きを確認するから、他の人達は今は動きを止めておいてくれ! その結果次第で、作戦を出し直す!」

「ケイさん、了解! みんな、伝えられた通りに動いていくよ!」

「「「「「「「「おう!」」」」」」」」


 ん? シアンさんの今の言い方には違和感があったけど……あ、『伝えられた』って今の事じゃないな!? 桜花さんが灰のサファリ同盟の海原支部を経由して伝えた作戦の方か!

 今のタイミングでそれを伝えてきたって事は、今のが本命の指示じゃないのは了承したって合図だな。海水の出番はまだあるとは伝えてるし、トドメへの対応はこれで問題なし!


 まぁどっちにしても、桜花さんからの情報次第で改めて本当に作戦指示を出す必要はあるけど、今はこれでいい! 異形のサツキは……よし、灰のサファリ同盟の人達が周囲に撒いた水を吸収してHPが少しずつだけど回復傾向が見え始めてきた。

 さて、ここからもう一手いきますか! ここで赤の群集がどう動いてくるか、かなり重要な部分だぞ!


「オリガミさん、風雷コンビ、よろしく! 具体的な手段は任せた!」

「えぇ、了解しました。それでは作戦開始と参りましょう」

「「おう!」」


 オリガミさんの号令に従って、風雷コンビとオリガミさんの3人の龍はレンコンへ向けて飛んでいく。……あえてこれは俺もオリガミさんも口にはしてなかったけど、オリガミさんと戦いたがっているという人が釣れればいいんだけどな。

 俺としてはシュウさんと弥生さんが出てくる可能性より、そっちが出てきて足並みが崩れる方に期待してるんだけど……その辺はどうなる?


「迅雷さん、疾風さん、それぞれに電気の操作でレンコンを狙っていただけますか?」

「「了解だ! 『エレクトロクリエイト』『電気の操作』!」」

「……なるほど、カエルが出てきましたか。どうやら今は雷属性は明確に弱点判定になっているようですね」

「この程度のカエルの動きなど、避ければ済むだけだ! なぁ、疾風の!」

「剥奪で消そうなんてのは、当ててからやってみろ! なぁ、迅雷の!」


 思いっきり普通に表向きの理由が上手くいってる感じで、電気の操作を消す為に黒の刻印を使ってきてるね。こりゃ、電気魔法がかなり有効な状況にはなってるっぽい。

 それに黒の刻印が再発動可能になってるんだな。状況的に考えるなら3割削ったからリセットって感じか? ……ここからはリセットの頻度が高くなる可能性も考えておいた方がよさそうな気がするな。


 その辺も普通に重要な情報なんだけど、赤の群集の動きはどうなってる? 今のところ、目立った様子はないけども……。

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