第1303話 巨大レンコン、討伐戦 その4


 ジワジワと地道に海水で巨大レンコンのHPを削れている。時折、異形のサツキが海水の中に突っ込んでいって勝手に弱っているけど、そこは無視で!

 異形のサツキは、死にさえしなければ放置でいい! 巨大レンコンへの攻撃が海エリア勢の海水の操作の邪魔にはなってるけど……まぁそこは仕方ない。また地中に潜る可能性もあるんだから、引っ張り出す役目には残っていてもらわないと困るもんな。


「あと少しで8割を切るから、攻撃パターンの変化には要注意で! いきなり攻撃が激しくなるかもしれないからな!」

「うん、分かってる! みんな、レンコンの根での攻撃に注意!」

「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」


 事前に行動パターンを把握している訳じゃないんだから、その場その場で臨機応変に対応していくしかないからな。……あー、赤の群集も青の群集も、エリアボス戦を完全に押しつけてくれてんな!?

 青の群集はちょいちょい妨害してきてるし、ベスタ達に任せてはいるけど、警戒は怠らないように――


「……レンコンって正確には茎じゃなかったかな?」

「あ、それはよくある勘違いだよね」

「あれは地下茎だが、まぁ本当の根に限ると攻撃範囲が相当狭まるからな。ゲーム的にはそういう扱いなんだろうよ」

「ぶっちゃけ、そこはどうでもよくね!?」

「あはは、ちょっと気になっちゃったかな?」

「いやまぁ、気持ちは分かるけどさ」


 レンコンは漢字で書けば『蓮根』なのに、実際は茎っていうのはズルい気もする。まぁゲーム的には、茎じゃなくて根扱いっぽいけどさ!


「……そろそろ……8割を……切るよ?」

「おし、レンコンが実は茎の話題は終了で! 変化があるかどうか、見落とさないように!」

「任せてかな!」

「はーい!」

「了解!」

「さて、どうなるか?」


 この状況でサヤが変な事を言い出したけど……あー、ちょっと気を張り過ぎてた気もするし、その辺を緩める為だったのかも。よし、緩め過ぎないようにはしつつ、気は引き締め直していこう!

 あ、そういえば確認するつもりで、全然確認してなかった事があるじゃん!? ……確認しようとしてたのに、すっかり忘れ切っててどうする!?


「8割を切ったけど、特に変化は無さそう?」

「どうもそんな感じだけど……それならこのまま攻撃は続行で! あ、ハーレさん。さっき思い出したんだけど、なんでもいいから投擲攻撃を試してもらっていい?」

「え!? 何も言われないから、必要ないのかと思ってたのさー!?」

「いや、すまん……。それは単純に忘れてただけ」

「そうなの!?」


 アルに頼むつもりだった海流の操作をぶつける件を海エリアの人達に任せようとしたり、オリガミさんの色々と衝撃な事実の発覚とかですっかりと流してしまってただけだから! ……言い訳にしかならないから、それは言わないけども!


「あー、ケイさん? それはシンプルに必要か?」

「地味に物理攻撃の効きって試してないからさー。そういう意味では必要なはず。富岳さんも、葉に物理攻撃は当てられてないままじゃん?」

「……まぁ、それは確かにな。あー、さっき突っ込んだ時に、一発殴ってくれば良かったか」


 予想外の動きが多くて物理攻撃をまともに試せていないのは、失策だよなー。近寄ったら土の中に逃げたんだし、弱点は意外と物理攻撃だという可能性もあるのにさ。


「そういう事なら、少し試してみるのです! 『魔力集中』! どこか攻撃のしやすい葉っぱを解放して下さい!」

「シアンさん、ハスの葉のどれかを海水から解放してくれ! 投擲攻撃を試す!」

「うん、分かった! えっと、今、葉っぱを包んでる人は誰になる?」

「あ、私がそうだよ! ちょっと退ければいい感じ?」

「セリアなんだ!? うん、それでよろしく!」

「はいはい、了解っと」


 おし、1ヶ所だけだけど海水が退いたハスの葉が出てきたな。というか、改めて見てみると、この葉っぱだけでも相当デカいね。直径で1メートルくらいはあるんじゃね?

 まぁそれはいいとして、確認忘れの部分をやっていこ。……正直、今回のエリアボス戦でそれほど有効な気はしないけど、やってみなければ分からない!


「ハーレさん、任せた!」

「任されました! 『連速投擲』!」


 チャージはせずに、連続で銀光を放つ投擲をハスの葉に目掛けて投げつけていく。さて、これでどうなるか……。


「わっ!? 葉が形を変えてきた!?」

「半分に折れて、蝶みたいなってるかな!?」

「……ハーレ、この状態に当てられる?」

「やってみるのさー!」


 あー、まさかの姿の変化があったっぽい。というか、レンコン本体以外にもそういう分身体の作り方ってあり!? いや、分身体なのか、これ? ただ、避け方が蝶っぽくなってるだけのような気もする。

 動きとしては、投擲をギリギリで避けてる様子か。……いや、いくらなんでも当たらなさ過ぎじゃない? これ、どういう行動パターンだ?


「あぅ……地味に当たらないのです……」

「……ヒラリと……躱される?」

「これは、躱さないと有効打になってマズいのか……? ハーレさん、白の刻印の増幅を使って拡散投擲を確実に当ててみてくれ」

「了解です! 『白の刻印:増加』『拡散投擲』!」


 予想外にも投擲が有効打になるのなら、少し戦法の組み立てを変える事も考えた方が良さそうだし……って、当たったけど思ったほど劇的な効果は出てないような?


「あれ!? 当たったのに、思ったほどダメージはないのです!?」

「本体に一応のダメージは入ってるみたいだが、弱点というほどの減り方はしてないな。ケイ、これはどう見る?」

「今のに何の意味も無いとは思えないけど……」


 うーん? 特別ダメージが多い訳でもないのに、風音さんの火魔法の時にはレンコン製の4足歩行の分身体を盾のしてたのと動きが違うのはなんでだ?

 ダメージの入り方的に投擲なら本体狙いもいけそうだし、レンコン本体からの攻撃が無いのはありがたいけど……あぁ、そうか。流石にスキルの同時使用までは、エリアボスでもある程度の制限があるはず!


「もしかすると投擲は巨大レンコンの行動パターンの抑制用かも? あれで回避させている間は、本体の動きが鈍る可能性があるかもしれないぞ。あの蝶っぽい動き方、回避用のスキルなのかも」

「……なるほど、そういう可能性はあり得るか。ケイ、それを確認するなら、同時攻撃が必要じゃねぇか?」

「そうなんだよなー。どの行動パターンが優先的に働くかの確認が必要だし……」


 狙いが明確に分かる状態の攻撃に対する4足歩行の分身体での防御行動、近接攻撃を受けそうになった場合のレンコン本体からの草花魔法、弱点属性の操作系スキルの黒の刻印での剥奪、投擲に対する回避行動、これらがどういう優先順位で動いていくかが重要にはなってくるよな。


 うーん、でもこれらの確認をするには時間も手間もかかる。確認の為に時間を割いてやるべきか、ぶっつけ本番で試しながらやるか……。少人数でやるならまだしも、この大人数で方針を何度も変えるのはやめた方が無難かも。

 そもそもずっと同じとは限らないから、無駄になる可能性もあるし……様子を見ながら、出来そうならにしよう。


「海エリア勢、このまま引き続き海水で覆うのを頼む!」

「了解! セリア、元に戻して!」

「聞こえてるし、やってるよー!」


 なんというか、無駄に手間を取らせてすまん、セリアさん! 変化があるのは分かったけど、ただでさえ時間がかかっているこの状況で戦略の変更と、それに伴う戦力の組み直しは出来そうにない!


「……ケイさん、いいのですか? 確認を全てしなくても?」

「青の群集が邪魔しに動いてきてる中で、そんなに変に時間はかけてられないからなー。時間に余裕のある検証ならやるけど……ダイクさん、青の群集のカズキの動向はどんなもん?」

「あー、赤の群集がカズキの足止めに動いたって目撃情報が出てきたところ! 今、そこよりちょっと北の方で赤の群集と青の群集が戦ってる状態だ!」

「おっ、潰し合ってくれてるのか! そりゃいいや!」

「ただ、あんまり近寄ると巻き込まれて死にかねないから、遠巻きからの観察情報になってて精度はちょっと悪い感じだな」

「まぁざっくりでも分かれば十分! フーリエさん、ミズキの正常化の具合は?」

「もうあと1割くらいです!」

「おし、あと1割か!」


 思った以上にミズキの正常化に時間がかかって……いや、巨大レンコンのHPの減り方が悪いから体感的に時間を長く感じてるだけか? ともかくミズキが元に戻るまでの間に、倒すとこまでやってしまいたいね。


「……まぁ状況的には、臨機応変に対応するしかありませんしね。ベスタさん、遊撃班の私達はまだ動かない方がよろしいですか?」

「あぁ、今はまだいい。ケイ、危機察知回避の狙撃を使う奴は、スミを筆頭に数人は俺らの方で仕留めておいたからな」

「あれ、本当に危ないもんねー!」

「それは助かる!」


 ベスタやレナさん達で、厄介な危機察知回避の狙撃をする敵は排除してくれたか! このタイミングで仕留められたなら、もう決着が付くまでに戻ってこれる可能性は低いよな! まぁ連続爆破をすれば可能性はない訳じゃないけど、目立つ手段以外でここまで来るのは難しいはず!


「それ、本当に大丈夫? カズキに乗って、一緒にここまで爆走してきたりはしない?」

「……その可能性の否定は、出来そうにないかな?」

「というか、ジャングルで私達がやった事なのさー!?」

「……そういえば……そうだった?」

「ケイ、警戒は緩めんなよ?」

「ですよねー!? ダイクさん、その辺の情報も追加で確認をよろしく!」

「いやいや、そこまで確認出来る距離まで行くと戦闘に巻き込まれる可能性が高いんだけど!? あー、それを承知で動くしかないってか!?」

「まぁその辺の調整は任せた!」

「そこで丸投げ!? いや、ケイさんにその調整をしろって方が無茶か! とりあえず話は出してみるわ!」

「ほいよっと!」

「レナ、俺らの方も油断はせずに動くぞ」

「そだねー。カズキに乗ってやってくる可能性もあるなら、しっかり潰しとかないと! ダイク、情報収集はしっかりお願いね!」

「分かってるって!?」


 死ぬのを覚悟してでも突っ込んでいくのは、まぁザックさんという前例がいるからね。今回の競争クエストに限れば成熟体まで進化してない人達も、その手の捨て身の情報収集はしてくれる可能性は高い。

 後は、そういう人達をどういう形で送り込むかの人員確保が重要だけど、そこは俺が今出来る事じゃないから任せよう!


「ケイさん、そろそろ7割を切るぞ! 今の情報はかなり重要だろうが、今はこっちに集中を戻してくれ!」

「了解っと!」


 富岳さんは俺らの会話の方には参加してなかったけど、その間にしっかりと巨大レンコンのHPの減り具合を把握してくれていたね。どうしても複数の事を同時に処理しないといけないから、こうやって一時的にでもフォローしてくれるのは助かる!


 ふむふむ、もう少しで確かに巨大レンコンのHPは7割を切りそうだし、ここで何か行動パターンの変化が出てくるかが重要だな。……Lv差があるんだから、もっと削れてもいい気はするんだけど、流石に海水だけで削ろうとしてるから仕方ないか。


「今はまだハスの葉を飛ばしてくる程度かー。てか、異形のサツキのHPが半分を切ってるのは、流石にちょっと弱り過ぎ?」

「海エリアの人達が異形のサツキには海水を当てないようにはしてるが、あっちから突っ込んでいってるからな。足場も、斬り倒して投げ込んだ木々を使っているし……自分から弱りに行っているぞ」

「あー、どう見てもそんな感じだもんなー」


 敵なんだからそのまま死んでくれて構わないと言いたいとこだけど、ここで死なせると赤の群集にとって有利な状況を作ってしまうもんね。

 エリアボスの巨大レンコンが姿を現していて、既に土の中へ潜る気配は無い状態にはなっている。……ちっ、死なせる訳にはいかないどころか、状況次第では赤の群集から守る必要もあるんじゃ――


「あ、HPが7割を切ったかな!」


 あー、赤の群集への対処を考えるのは後だな! というか、そこら辺はベスタ達の担当だから、基本的には任せてしまっていい部分! 今は、目の前の巨大レンコンに集中で!


「全員、行動パターンの変化に警戒! 海エリア勢、海水を一旦引き上げ――」

「わっ!? 海水が消された!?」

「7割を切ったら、剥奪が復活か!?」

「あ、こっちも!?」

「でも、カエルはどこにも見当たらないよ!?」

「ちょ、巨大レンコンが光り始めたぞ!?」


 げっ!? 一部の海水の操作が消えて、巨大レンコンから滲み出てきた瘴気が巨大レンコンを覆って卵状になっていってる!? 

 くっ、海水の中に閉じ込め過ぎたか! いや、でも元々これは想定内の動きだ。むしろ、属性的な弱点が増えてくれる方がありがたい!


「海エリア勢、一旦海水は引き上げで! 巨大レンコンが海属性への纏属進化が終わったら攻撃パターンを変えるから、今のうちに行動値を回復!」

「え、まだ俺らに出番ってあるの!?」

「そりゃなー! だから、シアンさん達は回復しててくれ!」

「了解! みんな、今のうちに回復だよ!」

「「「「「「「おう!」」」」」」」

「私達はここまでかと思ってたけど、そうでもないんだね?」

「どうやらそのようであるな!」

「ま、元々この進化は想定内みたいだし、何か策もあるんだろうよ」


 そりゃもちろん、作戦はありますとも! それもとっておきのヤツだけど……あ、その辺の通達ってどうしよう? これに関しては他の群集には聞かれたくないんだけど……。


「ケイさん、どのような作戦を用意しているのですか?」

「あー、オリガミさんやベスタやレナさんには伝えておいた方がいいか。今説明しとくから、そっち側から海エリアの方へ他の群集に知られないように通達してもらっていい?」

「なるほど、トドメを防ぐ為の手段という訳か。桜花、そっちでシアン達へ通達は頼めるか?」

「おう、その辺は任せとけ!」


 ここで手短に説明しておいて桜花さん経由で、海エリアみんなに伝えてもらっておこうっと。この手段を実行してもらうには、海エリアの人達の動きが大事だもんね。

 今は巨大レンコンの進化中だけど、その少しの間を利用して説明してしまおう! ……もう進化は終わりかけだけど。

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