第1297話 攻略手段の模索 後編


 エリアボスである巨大レンコンに海流の操作を使えば、レンコン製のカエルを使って黒の刻印で剥奪してくる事は判明。さて、それじゃ連発してどれだけの数を打ち消せるか――


「ケイさん、先に毒を試してみていい? 連続で打ち消せるなら、使い切る前にこっちも試した方がいい気がするよ?」

「あー、確かにそりゃそうだ」


 妨害を仕掛けてくるかどうかの隙を作るのが目的ではあるけども、それとは別に有効な攻略手段を探るのも目的ではあるもんな。他に試すパターンがあるのに、変に海水魔法だけ強行すると罠だと勘付かれかねないか。


「それじゃヨッシさん、毒は任せた!」

「任せて! えっと、1番植物に効くやつでいい? 複合毒で溶解毒を2重にして、猛毒の操作で操作するやつになるけど。あ、流石にお試しだからトキシシティ・ブーストまでは無しにしておくけどね」

「……それでも十分過ぎるほどエゲツないやつだな! まぁそれでよろしく!」

「了解! 『ポイズンクリエイト』『猛毒の操作』!」


 応用毒を重ねて、更に猛毒の操作での毒性強化も重ねて、そこにヨッシさんの特性で更にパワーアップな超猛毒。まだ1段階上がるのが恐ろしい! いや、相手の毒耐性を下げる事も出来るから2段階か?

 そうでなくても猛毒の操作って操作の規模は大きくならないけど、毒性の強化が凄まじいからなー。魔法での応用の毒の生成には普通よりも魔力値を上乗せ消費してるはずだから、かなりの消耗なはずだし、その分だけ凶悪だ! ……コケが本体な俺としては、絶対に受けたくない毒だよね。


「またカエルが出てきたのさー!?」

「それならまた剥奪かな!?」

「……そう……みたい?」


 猛毒の操作に向かって飛び跳ねてきたカエルに触れた瞬間、毒が消え去っていく。やっぱり、弱点になる攻撃の操作に対しては剥奪を使ってくるのか。役目を終えたカエルは、さっきと同じで即座に消えていくんだな。

 黒の刻印で剥奪している間は、異形のサツキからの攻撃を受ける回数も増えている様子だね。なるほど、今回のは積極的に群集支援種を利用した方が楽そうだ。


「ケイさんの読み通り、特性『旗頭』持ちは通常の制限は無視してくるか。同じ刻印系スキルは1分間、再使用は不可なはずなんだがな」

「ボスならではってとこだろ、富岳さん。大人数で攻略が前提なら、それくらいの調整はしてくるって」


 支配種や同調種なら……いや、共生進化でも簡略指示まで使えるようになっていればもう1枠のキャラのを使う事で2種類の刻印は使えるけどさ。アルの言うように1体だけのボスがその辺の制約を無視してくるのは仕方ないんだろうけど、富岳さんの言いたい事も分かる!


「ま、そりゃ違いねぇな。ただ、躱そうと思えば躱せそうだな、あのカエル」

「確かにそれはそうかも? ソウさんか、ヨッシさん、もう1発いけるか? 次はカエルを躱して本体に当てるつもりで!」


 エリアボスで通常の範疇に収まらないというのは、まぁ分かる。でも、無制限ではないはず! 水分吸収での耐久性や避けられそうなカエルの動きから考えても、どこかに限界があるのは確実だ。


「あー、どうせなら同時でいいんじゃねぇか? 何発までなら、同時に剥奪出来るかも知っておきたいとこだしな」

「それは確かにそうかもね。ケイさん、どう?」

「そりゃそうだ。それじゃソウさん、ヨッシさん、同時によろしく!」

「了解! さっきと同じ毒で『ポイズンクリエイト』『猛毒の操作』!」

「おうよ! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」


 ヨッシさんの操作するバスケットボール程度の大きさの猛毒の球と、ソウさんの操作するクジラすらも流せそうな規模な海流が迫っていく。さて、この同時攻撃、巨大レンコンはどう対処する!?


「カエルが2匹、同時に出たかな!」

「ヨッシ、躱すのです!」

「もちろん! あ、やった!」


 おぉ、見事に跳んだカエルを躱して、溶解毒が巨大レンコンに直撃! おっ、目に見えてHPが減ったな! そこに追撃で異形のサツキのツタも打ちつけられて……それでも、HPの減りは良くないか。

 うーん、やっぱりこの巨大レンコンはかなりの耐久型だな。攻撃はほぼ無いようなもんだけど、こっちからのダメージが全然ダメだ。


「ソウも躱せ!」

「ちょっと海流を大きくし過ぎたか!? あ、消された。てか、躱した方がこっちに来るのか!?」

「……何やってんだよ、ソウ」

「呆れた風に言うなよ、ジンベエ!? ある程度の規模がないと海流の操作にならないのは分かってるだろ!」

「まぁ仕方ないか。同時に剥奪の2つの発動が確認出来ただけでも十分か」

「だなー。ソウさん、お疲れ様!」

「……おう」


 なんとも不満げなソウさんだけど、今のは本当に仕方ない部分はあるもんな。ヨッシさんが躱したカエルが、まさか更に海流の操作の方に跳んでいくとは思わなかったしさ。

 ジンベエさんが言ってる同時発動の確認も十分な成果だし、それに加えて躱した後にも使ってくるのが分かったのもありがたい。


 これで4回連続の剥奪と、2個同時の剥奪がある事は判明。まだ上がある可能性もあるけど、近接攻撃なら地面の中に引っ込んで、完全な弱点にならない程度の魔法の攻撃ならそのまま受けるか、分身体で防御をするのが現時点で分かる範囲の行動パターンだな。

 弱点にはならなさそうな他の属性の操作系スキルだとどうなるか気になるけど……そこまで試していたら、無駄に時間がかかり過ぎそうだから、やめとこう。多分、この耐久性なら無視されるだけな気がするしね。よし、それじゃ海エリア勢の海流の操作での一斉攻撃を――


「す、すみません! じゅ、重要な、情報が!」

「マルイさん、そんなに慌てなくても大丈夫だぞ?」

「あ、す、すみません、ケイさん」

「いやいや、謝る必要はないって。それでどんな情報? オリガミさんから何か聞き出せた?」


 まぁ身振り手振りでの意思疎通だろうから、そこまで大きな情報は言えないだろうけどね。それでも分かる範囲の事があるなら、重要な情報になるもんな。


「い、いえ! いや、話は聞けてなくて……でも、それよりももっと大事な――」

「マルイ、落ち着け。何を伝えたいのか、サッパリ分からんぞ」

「あ、ベスタさん、マルイさんが落ち着かない理由ってあれかも? ほら、何度も襲いかかってきて無防備に倒される黒の統率種の龍の目撃情報」

「……さっきから情報が上がり始めたそれか。マルイ、これはオリガミ本人か?」

「は、はい! 色々聞いていたら、途中で中断してすっ飛んで行っちゃいまして! 今、元に戻ったとフレンドコールがあったところです!」


 ちょ、まさかのオリガミさんの傭兵への復帰!? 確かに本人から直接聞けるのが、状況としてはありがたい!

 黒の統率種のままでいる理由も無くなって、意思疎通も難しいから、元に戻る方を優先したんだな。その状態だとマルイさんが慌てる理由もなんとなく分かるわ。


「……なるほどな。マルイ、今オリガミはどこにいる? それをしたという事は、直接説明する気があるって事だろう?」

「えっと、それが運良くランダムリスポーンで南の方に出たと言ってたので、そっちに加わるそうです! あ、空飛ぶクジラを見つけたそうです!」

「え、もうこっちの近くに来てるのか!? サヤ、ハーレさん、オリガミさんを探せ!」

「あ、もう見つけたかな」

「南側の下から、こっちに目掛けて飛んできてるのさー!」

「意外と早かったな!?」


 念入りに探すまでもなく、あっさりとこっちに来ている状況だったわ! って、ちょっと待て! なんか地上から銀光が見えるし、オリガミさんが狙われてないか!? ちっ、間に合えよ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値5と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 117/122(上限値使用:1): 魔力値 291/306

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値10と魔力値15消費して『土魔法Lv5:アースウォール』は並列発動の待機になります> 行動値 17/122(上限値使用:1): 魔力値 291/306

<指定を完了しました。並列発動を開始します>

<『複合魔法:アースプロテクション』が発動しました>


 オリガミさんと銀光の見える位置の間にアースプロテクションを展開! 飛行しているところを狙っていて、銀光があるなら高確率で投擲攻撃のはず!


「オリガミさん、後ろや下は見ずに一直線でこっちに来てくれ!」

「分かりました! 防御、助かります!」


 ん? ミズキの確保の際には無茶な突っ込み方をしてたし、もっと乱暴な感じの人をイメージしてたけど、思ったよりも丁寧な感じの返事がきたぞ? ……やっぱり実際に話してみないと、人は分からないもんだなー。

 まぁそう呑気に考えてる場合ではないか。とりあえずアースプロテクションに何かが着弾したけど、かなりの衝撃があったから多分『爆散投擲』か。複合魔法にしてなければ耐久値が足りてなかったかも……って、次々と飛んで当たって耐久値が削られてきてる!?


「どうもどこかの群集はオリガミさんからの情報を遮断したいみたいだし、みんなも防衛に回ってくれ! 俺らの元まで辿り着けば、流石に攻勢は緩むはず!」

「了解なのさー! サヤ、複合魔法でいくのです! 『略:ウィンドウォール』!」

「分かったかな! 『略:ウィンドウォール』!」

「……破られたら……次を展開する!」

「あんまり大量に発動させても邪魔になるだろうしな」

「了解! でも、この状況で狙ってくるって……黒の統率種には、どういう情報があるの?」

「その辺は聞いてのお楽しみだな!」


 ちっ、俺の展開したアースプロテクションはもう破壊されたか。でも、そのすぐ後ろでサヤとハーレさんが展開したウィンドプロテクションで投げられた小石を逸らしているから、防御としては問題なし。

 そうしている間に、オリガミさんの龍が俺らの周辺まで到着したな。……攻撃が止まったか?


「ソウさん達、海エリア勢で周囲の防衛を頼む! ちょっと予定は変わったけど、大急ぎでオリガミさんの話は聞いておいた方がいいっぽいしさ」

「……だろうな。お前ら、攻勢は緩んだけどいつ攻撃が再開になってもおかしくないから、しっかりと守り抜くぞ!」

「「「「「「おう!」」」」」」


 よし、大急ぎだったからさっきは自分で防御に回ったけど、ここから先はソウさん達に任せてしまおう。その間に、俺はオリガミさんから情報の確認だ。……今の攻撃って可能な限りすぐには聞かせたくないような内容を、オリガミさんが持っているって事だろうしね。


「みなさん、今のは助かりました! ……大急ぎで伝えるべきだと思ったのですが、この感じですともう既に他にも伝わってるようですね」

「そうっぽいけど、そんなに重要そうな内容?」

「……おそらくは。すみません、本当ならミズキから離れてすぐに元に戻っておくべきでした」


 ん? それって、ついさっきまではそうするべきと判断してなかったって事か? マルイさんにオリガミさんから話を聞いてもらおうとして、その必要性に気付いて大慌てで動き出した?

 いや、どうもそういう感じでもないな。なんだかオリガミさん自身が結構焦ってないか?


「はい! 他の群集は既に知ってそうなのはなんでですか!?」

「ついさっきまで知らなかったのですが、この黒の統率種の固有クエスト……名前は簒奪クエスト『未開の地の強奪:未開の霧の森』というのですが、進行状況が黒の統率種の間で共通化しているみたいでして……。先ほど、青の群集のカズキを黒の統率種の誰かが乗っ取った通知が出たんですよ」

「えっ!? それは大事なのさー!?」

「ちょ、それって!? もしかしてオリガミさんが乗っ取ったのも、他の黒の統率種へ通知されてた!?」

「……えぇ、おそらくそうなります。それとこれは推測にはなりますけど、私の簒奪クエストの進行状況ではボスの攻略手順のヒントも出ていたんですが、その情報も伝わってる可能性があります。どこにエリアボスがいて、どういう手順でボスを登場させたらいいかくらいの情報は……」

「マジで!?」


 ちょ、待った!? いくらなんでもその情報はビックリ過ぎる! ちっ、他の群集が手を出してこないのは、もうその辺の情報を把握済みだったって事か!?


「あ、この内容はベスタ達にも話した方がいい――」

「いや、富岳が競争クエスト情報板に会話を書き起こしてくれているから気にしなくていい。そのまま続けろ」

「手際いいな、富岳さん!? そういう事なら了解っと!」


 富岳さんが全然会話に入ってこないと思ったら、そういう事をしてたとはね! ナイス判断だし、良い仕事をしてくれる!


「オリガミさん、クエストの手順として分かる範囲は、具体的にどういう内容になってるのかな?」

「分かるのは『エリアボスの潜伏場所』と『どういう手段で出現させるか』と『どういう手順で倒していくか』の3つですね。マルイさん達から聞いた限り、正解の手順を進んでいたようなので気にしていなかったのですが……すみません、他の群集にまで情報が行っている可能性に気付かず!」

「あー、まぁそこは気にしなくていいけど……これは確認。その情報が出たタイミングはいつ?」

「……私がサツキを乗っ取ったすぐ後ですね。それを元に、この位置まで誘導をしてたので。……途中で制御からは外れてしまいましたけど」

「なるほど、そのタイミングか」


 となると、その時に他の黒の統率種の人へ攻略手順は伝わったと考えて良さそうだな。……無所属は初めは『乱入クエスト』で参加してきて、そこから『簒奪クエスト』へと進んでいく? 傭兵の場合は、直接『簒奪クエスト』から始まるのか?

 時雨さんからクエスト名を聞きそびれてたけど、黒の統率種になった時点で『簒奪クエスト』に切り替わると考えるのが無難だな。言葉での意思疎通は不可能になる黒の統率種だけど、何者かから与えられるこのクエストを通じて共通の目的で動くようにはなってるのは想定外だったね……。


「ケイ、さっきの攻撃は赤の群集と青の群集、どっちからの攻撃だと思う?」

「あー、カズキが乗っ取られたなら青の群集じゃね? 今の情報は多分どっちも持ってるだろうけど、俺らに知られたくないのは占拠の手段を失った青の群集だろ。アル的にはどういう見解?」

「俺も似たようなもんだな。カズキを乗っ取ったのは、赤の群集の傭兵ってとこじゃねぇか?」

「……それなら……青の群集が……エリアボスの……討伐の……邪魔をして……くる?」

「その可能性は高くなってきたな。桜花さん、その辺の動きの変化が出てないか、色んな場所での報告に気を付けてくれ!」

「了解だ! 死んで戻ってきている連中には、その情報収集に回ってもらう!」

「それでよろしく! 具体的な動きがあったら、ベスタの方に任せるので問題なし?」

「あぁ、それで構わん。ケイ達は目の前のエリアボスを倒す事に集中しろ」

「ほいよっと」


 さて、赤の群集や青の群集に大きな動きがありそうだけど、俺らは変わらず目の前の事に集中! ここまでの攻略手順が間違っていないというお墨付きがあるのは、ほんと大きいよな!

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