第1296話 攻略手段の模索 前編
なんとか異形のサツキの行動を誘導して、巨大レンコンを再び引っ張り出すのには成功。……まぁ今はまた異形のサツキの根が埋まっているけど、そこは気にしないでいいや。
「おっ、今度は巨大レンコンに攻撃が届くようになったか」
「だなー。また埋まってるけど、届いているなら放置でいいかも?」
「とりあえずはそれでいいんじゃねぇか?」
「だよなー!」
今の異形のサツキの攻撃回数自体はそれほど変わらないけど、距離が近付いた分だけ攻撃が当たる回数が増えてきている。とはいえ、巨大レンコンのHPの減りが悪い……いや、そうでもないか。
本体はろくに反撃こそしてないけど、レンコン製の分身体の数が増えて、異形のサツキへと攻撃を仕掛け始めてるね。分身体は相変わらず4足歩行の動物で、体当たりがメインの攻撃っぽい。んー、攻撃にあんまり威力はない感じ?
「ねぇ、ハーレ? 残ってた水が随分と減ってないかな?」
「そんな気はするけど、元々水が抜けていってるからよく分かりません!」
「え、そんな変化があったのか?」
「……ある気がするんだけど、自信はないかな」
「同じくなのです!」
「マジかー」
確かに完全には抜け切ってはいない湖の水だけど、その量が変化しているかどうかは……判別が難しいわ! 元々、赤の群集が水を抜いてる最中だったんだし、それはまだ続いてたはず。
うーん、湖の水を元に戻すのは現実的な手段ではないし、何よりも回復に使われる水は無い方が良さそうだ。……あれ? そういや赤の群集が水を抜いているって状況だったけど……よく考えたら、それを始めたのは赤の群集とも限らないのか?
「えっと、知ってる人がいたらでいいんだけど、ちょっと確認。ここの湖の水を抜き始めたのって確実に赤の群集?」
「およ? ケイさん、もしかしてそれ以外の可能性も考えてる?」
「まぁなー。これ、元々インクアイリーの別働隊が水を抜いてて、それを目撃した赤の群集が怪しく思って引き継いでる可能性もあるのかと思ってさ? ……それに無所属固有の要素は、完全には分からないじゃん?」
「……それは確かにケイの言う通りだな。群集の影響下にない完全な黒の統率種なら、クエストの概要の中で何か提示されていた可能性はある」
「あ、そっか。その辺は済んだ事で流しちゃってたけど、そもそも最初の発見は赤の群集だもんね。その湖にトンネルが繋がってるのが偶然じゃなければ……水を抜いてる事にも必然性はあったのかも!」
「マルイ、その辺りをオリガミに聞いてみてくれ。そもそもどうやってこのエリアボスの場所が分かったか、その辺を重点的にだ」
「わ、分かりました!」
可能性を考えてみたら、思いっきりベスタとレナさんが食いついてきたね。まぁ俺もてっきり赤の群集が始めたものと決め付けてたけど、元々インクアイリーの別働隊が動いていたっぽいしな。
それを赤の群集が見つけて、そこからトンネルの発見に繋がっているのなら……この推測は、見当違いのものではないはず。とはいえ、目撃者がいるかどうかは怪しいところだし、ヒントになり得るのは黒の統率種に進化して、ツタを経由して群集支援種を実際に操るところまで進めたオリガミさんの言葉か。……喋れる状態になればいいんだろうけど、すぐには戻れないだろうしなー。
もし、今の状態がインクアイリーがエリアボスの撃破の為に用意していた手順の1つだとすれば、このまま水を抜いてしまうのが正解なのかも。……そうか、リコリスってトカゲの人が水の操作Lv10を持ってたんだし、湖の水そのものの置き換えを狙っていた可能性もある?
それに彼岸花が持っていた氷の操作Lv10もあるから、足場問題もどうにかなるはず。……魔法産の水へと置き換えて回復を封じ、氷の足場で引っ張り上げて、湖の底に戻れないようには出来るな。
それにこの巨大レンコンの攻撃には苛烈さはないけど、どう見ても相当な耐久寄りのボスだしね。まず回復手段を封じるというのが必要な手順な気がする。
というか、水が抜ける位置に湖があるというのもある意味、ヒントなのか? 今まであんまり意識してなかったけど、それが出来るという事は他の位置より少し高めの場所にあるもんな、この湖。
「ケイ、総指揮を任せた以上はあんまり俺の方から口出しする気はないが……その水を抜く事自体が攻略手順の可能性もあるぞ」
「それ、今考えてたとこ。これ自体が攻略手段か」
ベスタも同じような事を考えてたっぽいし、これは水を減らす方向へ動いた方が良さそうだな。今はややこしい状況にはなってるけど、それがボス攻略の途中段階だと考えれば、それ相応のやり方はある! となれば、今するべきはこれだな!
「おし、完全に水を抜くぞ! 桜花さん、モンスターズ・サバイバルの人達に指示を出してくれ。湖の水を流してる部分を拡大して、排水を強化! 中途半端な水は水の操作で排除で!」
「おっ、そうきたか! おし、伝えとくぜ!」
「よろしく!」
なんだか全然戦闘への指示が出せてないけど、まだ本格的にエリアボスを撃破していく為の情報が集まってないから仕方ない。今は仮定と推測を重ねて、攻略手順を決めていかないと!
「これで完全に水が抜けたら、また引っ込んでも次は大丈夫かな?」
「……それは……分からない?」
「そうなんだよなー。やってみない事には何とも言えない部分……」
泥濘までは無くならないだろうし、本格的にやるのならハーレさんが案を出していた湖を完全に乾燥させる方向で動かないと駄目だろう。もしそれをやるなら、せめて灰のサファリ同盟とオオカミ組の方で切り倒して放り込んできている足場が出来てからにしたい。
「ケイ、これって巨大レンコンが水を吸い取り切って、回復出来なくなる可能性はあるかな?」
「それもやってみないと何ともなー。可能性としてはありそうな気がするんだけど……むしろ、みんなで吸った方が早いか。ラックさん、灰のサファリ同盟の方で植物系の種族の人達を集めて、足場が出来次第、湖の底を乾燥させる為に水分吸収をしてもらっていいか? ……木の伐採を任せてる最中で悪いんだけど」
「大丈夫、そこは人員はあんまり被ってないから! えーと、作った足場を使って巨大レンコンの近くから進めていった方がいい?」
「多分、その方がいいはず。でも、分身体が出てくる辺りまでは根が広がってるはずだから、その範囲を狭めていく感じで!」
「うん、了解! 灰のサファリ同盟以外でも、手が空いてる人達にもその辺はやっていってもらうね」
「そこは任せた!」
「任されました! みんな、伐採は続けててー! 私はちょっと別枠の人員の整理に行ってくる!」
おし、これでハーレさんの発案の湖を乾燥させるというのは実行に移っていくね。エリアボスへの直接の攻撃にはならないけど、回復封じをしなければ延々と終わらない可能性があるし、こういう役割分担は大事!
エリアボス戦という割には地味な戦闘ではあるけど、不動種という大きな特徴がある以上、盛大に場所を変えるように動く事はないはず。だからこそ、着実にダメージを与えられる状況を作っていかないとな。
「……なんつーか、味気ない状況だな?」
「ジンベエ、それは思ってても言う事じゃないだろ!」
「そうは言うがな、ソウ? 大々的に地味な作業をしているのに、赤の群集や青の群集からの動きがこうもないのは変じゃねぇか? 少なくとも、俺ら……ミズキの正常化を妨害くらいはしてくると思ってたんだが?」
「……そりゃ、シンさんが悪ふざけに見せつつ、さっき抑えたから――」
「いやいや、多少の効果はあるだろうが……大人しく黙って見てる奴ばっかか? 知ってる奴ら、ほぼ見てないぜ?」
「あー、多少は戦ったけど、それっきりか」
ふむふむ、この辺の意見は無視しない方が良さそうな気がする。ジンベエさんやソウさんの見知った人達って事は、他の群集の海エリアの人達って事だよな。
今はどうなってるのかはよく知らないけど、どっちも一度は陸エリアとは距離を取って、独自の動きを形成してたはず。……その人達を、ほぼ見ていない?
「ジンベエさん的には、赤の群集も青の群集も、海エリアの人達が大人し過ぎるって印象?」
「簡単に言えばな。もうどっちも陸エリアとの確執は無くなってはいるが、それでもエリア固有の要素が強いから独自で指揮系統は存在しているし……何か別枠で企んでてもおかしくはねぇぜ?」
「……マジかー」
「ケイ、他の群集の動向については俺の担当だ。動きがあれば俺の方から伝えるから、お前達はボス戦に集中しろ。ジンベエにはそう伝えておけ」
「ほいよっと。ジンベエさん、その辺はベスタの方で対処するから、俺らは目の前のボス戦に集中しろってさ」
「……そりゃそうか。悪いな、変な事を言って」
「いやいや、気になるのは分かるし、エリアボス戦としても動きは地味な段階だから、その辺は仕方ないって!」
実際、上空で待機状態に入ってるソウさん達は暇な状況だろうしね。ジンベエさんに至っては、ミズキを支えている状況から動けないんだから、退屈ではあるだろうし……ミズキの正常化にはまだかかりそうだもんな。
動きが見えない他の群集の相手はベスタの方で対処してくれるとはいえ、絶対に大丈夫だとは言えないから、警戒は怠らないようにしないとね! 下手に退屈させずに、今の状況で出来る事か……。
「はっ!? 明確に水の減り方が早くなったのです!」
「あ、本当だね」
「モンスターズ・サバイバルのみんなが動いたかな?」
「おう、そうなるぜ。赤の群集が作業途中で放棄した場所を掘ってくれている状況だな。……ただ、気になる点が1つ上がってきてるぜ。放棄とは言ったが、戦闘の痕跡ありだとよ」
「……それって放棄したんじゃなくて、誰かに仕留められたの?」
「今はその理由で、周辺を警戒中だとよ。とりあえずそっちもそのつもりで警戒しといてくれや」
「……うん。……気をつけるね……桜花」
赤の群集で水を抜く作業をしていた人達が仕留められた気配ありか。ただの散発的な戦闘の結果の可能性もあるけど、エリアボスをまだ倒されたくない青の群集の妨害工作って事も考えられるな。
青の群集が黙って何もせずに見ている訳がないし、どこかのタイミングで何かを仕掛けてくるのは間違いないだろうね。青の群集はカズキを連れて来なければいけない以上、その目処が立つまではエリアボスは倒されたくないはず。……そういう意味では、ジンベエさんの心配も杞憂では済まないのかも。
ふむふむ、そういう事ならあえて隙を作ってみるのもありか? その方がベスタやレナさん達が相手の動向を探りやすいだろうしな。そうなると、どうするのがいい?
今の状況で不自然ではなく、それでいて実際に確認が必要な内容……。あぁ、これならいけるか。アルに頼むつもりだったけど、それを海エリアの人達に任せよう。
「ソウさん、海流の操作を当てるのは可能? ちょっと巨大レンコンに思いっきり当ててほしいんだけど」
「ん? まぁそれくらいはどうって事はないが、何で俺だ? さっき、アルマースさんに頼む感じじゃなかったか?」
「それはそうなんだけど、ちょっと予定変更。場合によっては、アル1人だけだと負担が大き過ぎそうだし、暇してるっぽいなら盛大に動いてもらおうかなーと?」
「……どういう場合なら、負担が多過ぎるという事態になる?」
「巨大レンコンが黒の刻印の剥奪を使ってきた場合だな。特性『旗頭』を持ってるし、どれだけの回数を打ち消せるかの確認もしときたいんだよ。ボスだからプレイヤーと同じとは限らないしさ」
「……なるほど」
内容としては、実際に本当に検証しておくべき内容ではあるからなー。毒も確認はしておくべきだろうけど、毒持ちの人数よりは海水魔法持ちの方が人数は多いはず。少なくとも、この場ですぐに分かる範囲では。
刻印系スキルの種類の確認は必須だし、弱点になる可能性の高い海流の操作なら、剥奪を持っていれば打ち消してくるはず! 毒だと、別の手段で防ぐ可能性もあるしね。
それで大人数が同時にスキルを使ったタイミングなら、何かを仕掛けるタイミングとしてはありなはず。逆にそこで何もなければ、エリアボスのトドメ周辺までは襲われる可能性は低くなる。……多分だけど。
「よし、まずは俺がやってみよう。それで剥奪されたら、続けて確認だな?」
「そういう流れで頼む! あ、そのタイミングで襲ってくる可能性もあるから、そこら辺も要注意で」
今の注意事項はしっかりと伝えておかないとね。上空だから聞かれてはいないだろうけど、念の為に小声で連絡! ……魚の人が多いから分かりにくいけど、タコの人が頷いているのは確認したから、ちゃんと伝わったはず。
「ソウ次第では、俺らの出番みたいだぞ!」
「おっ! マジか!」
「よしきた!」
「何をすりゃいい!?」
「上空を泳いでるだけだと暇でたまらん!」
「ソウ、上手くやれよ!」
「あの巨大レンコン次第だから、そういう無茶振りはするなっての!?」
ちょ、海エリア勢がわざと大きな声で何かをするようなアピールを始めたんだけど!? ……仕掛けてくるなら、仕掛けてこいって事か。
「さーて、やるぜ、ケイさん」
「任せた、ソウさん!」
「これでどうなるか、見せてもらおうか! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」
ソウさんが生成した海流が、巨大レンコンに向かって流れていく。植物系種族の弱点となる海水だけど、どういう反応を示してくるかが重要な部分だよな。
「……何か……跳んだ?」
「あー!? えっと、多分、レンコン製のカエルなのさー!?」
「レンコン製の分身体は、種族が本当に分かりにくいかな!?」
「あはは、まぁレンコン製だしね」
「そりゃそうだが……おっ、海流に呑まれ――」
「おし、海流が消えた! ソウさん、今のは自分で消してないよな!?」
「今のは間違いなく消されたから、黒の刻印の剥奪で間違いないな!」
「だよな! よし、とりあえず黒の刻印の種類はこれで確定!」
明確に海流の操作を打ち消してきたし、そこは弱点だと言ってるようなもんだな。それにしても、剥奪専用のレンコン製のカエルを用意してくるとは思わなかったよ。やっぱり不動種だからか、戦い方が独特だな。
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