第1298話 攻略手段の確定
色々と重要な役割をしてくれていたオリガミさんが、更に重要な情報を持ってきてくれた。ここまでの攻略手順が間違っていないというお墨付きはもらったし、下手に青の群集の動きが活性化する前にエリアボスの巨大レンコンを仕留めていきますか!
それにしても、黒の統率種にそんな情報があるとは欠片も思ってなかったよ。そりゃ赤の群集が湖の水を抜いたりしてる訳だよ、本当に! インクアイリーとか関係なく、手順通りにやってただけかい!
「あ、オリガミさん、ここからの手順って分かる?」
「いえ、分かるのは群集支援種を乗っ取って何をすべきかまでですね。残念ながら具体的な討伐手段までは分かりません……」
「……流石にそこまでは分からないか。まぁ何が効くかまでは分かったし、ここまでの攻略手順が間違ってないのならそれで十分だな!」
「あ、あまり必要ない情報かとも思いますけど、少し本体の手順とは違うところはありますよ。雑魚敵のレンコンの排除は手順にはなく、元々はそれを足場に使って巨大レンコンに近付く事となってましたので、岩の操作で即席の足場を作ったり、木で足場の代用にするのは良い機転かと思いますよ」
「あ、そうなのか?」
「はい。足場を確保しつつ、湖の水を抜くのが最初の手順になっていましたからね」
「……なるほど?」
ん? そうなると赤の群集はそれを分かった上で、先に水を抜いていた? あ、足場になる雑魚敵のレンコンのハスの葉が無くなってたからか! そこはやっぱりインクアイリーの影響があるっぽいな、これ!
まぁその辺は置いておこう。今の段階で判明したのは、溶解毒と海水は明確に有効で相応の対策は取ってくる。その対策している間は割と無防備。HPは水分吸収で回復していて、近接攻撃を仕掛ければ地面の中に逃げ込む。
「オリガミさん、地面に逃げ込んだ巨大レンコンは異形のサツキが引っ張り出してくれるという認識で問題ない?」
「それが役割となっていたので、届く距離になっていれば問題はないはずです」
「ちょっと、質問をいい?」
「ヨッシさん、どした?」
「えっと、その役割って言い方が気になってね。オリガミさん、それって誰かと一緒に戦うのが前提になってるの?」
「……言われてみればそうですね? あ、だから黒の統率種に通知が出るのかもしれません」
「……黒の統率種同士で……協力して……戦って……倒す?」
「おぉ!? それなら通知が行くのも納得なのです!」
あ、そういえばそうか。普通に群集としては協力して戦うからサラッと流してたけど、黒の統率種同士は連携する為に情報が共通化されている? って、ちょっと待った。それだと……ちっ、これは大急ぎで伝えとかないと!
「警戒すべきはインクアイリーとは関係なしに無所属か! 近くにいる人達に通達! 黒の統率種がエリアボスを仕留めに集まってくる可能性があるから、瘴気の渦を見つけたら即座に纏浄を使って消滅させてくれ!」
ここはあえて他の群集にも伝わるように大声で! ……もう完全に終わったと認識した後だから、ここから共闘なんて話にはならないだろうけど、赤の群集や青の群集にとっても良くない状況だろうしな!
まぁ傭兵を送り込んでくる可能性もあるけど、その前に黒の統率種を徹底的に潰すまで! 赤の群集と青の群集は、今の指示でお互いに邪魔し合いつつ、無所属の妨害にも動いてもらおうか!
「なるほど、無所属はとりあえず倒せばいいんだな」
「もう共闘は終わってるって話だし、下手に他の群集がいても動きを合わせないように注意だね!」
「作ってる足場の破壊はさせないように動くぞ! 空中はエリアボスの攻略指揮班に任せとけ!」
「灰のサファリ同盟の人達、何かする事はない?」
「可能な人は木を斬り倒すか、斬り倒した木を湖の横まで運んでくれ! そこから先はこっちでやるから! 水分吸収持ちは、足場を進んで湖の水分を無くしてくれ!」
「了解! よーし、運ぶのを手伝うぞー!」
「あ、なんか植物系の人が多いと思ったら、水分吸収か! おし、手伝うぜ!」
「どれも無理だから、周囲の警戒をしてようっと。瘴気の渦は見落とさないよ!」
「もう終盤も終盤だし、先に使っておいちゃえ! 『纏属進化・纏浄』!」
「ちょ!? それは気が早くない!?」
「いいの、いいの! 変に隙が出来るより、見つけたら何か出てくる前に速攻で消滅させるから!」
「おし、俺もやっとくか! 『纏属進化・纏浄』!」
「瘴気の渦を見つけらた、すぐに連絡をよろしく! 『纏属進化・纏浄』!」
なんだか予想外に、みんなが次々と纏浄を使っていってるね。まぁ瘴気の渦を実際に使われる前に消してしまうのが1番安全だから、ありと言えばありか。多分、纏瘴をここから大々的に使う展開はないだろうしさ。
とはいえ、浄化の力は反動があってスキルを使う度に自分にダメージが行くから、運用には注意してもらわないとね。まぁこの辺は言わずとも問題はないか。
「少し遅れたが到着だ! なぁ、疾風の!」
「オリガミさんが先に行ってるとは思わなかったぜ! なぁ、迅雷の!」
「おっ、風雷コンビも来たか!」
これでこの場に龍が4人か。まぁだからなんだって話ではあるし、龍だから飛び抜けて他の種族より強いって訳でもないからなー。
てか、地味に風雷コンビはまだ来てなかったか。てっきり来ているものと思ってたけど、そういや見た覚えもなかったよ。
「ケイ、風雷コンビはこっちの戦力にもらうのは構わんか?」
「ベスタの方に? それは別にいいけど……風雷コンビだと目立たない?」
「いや、むしろそっちに意識を割かせるのが目的だ」
「あー、なるほど」
一緒に動かすというよりは、上を飛ばせて盛大に警戒してもらおうってのがベスタの狙いか。確かに、その戦力としては申し分ないよな。
「風雷コンビ、こちらの別働隊として動く気はあるか?」
「もちろんだ! なぁ、疾風の!」
「断る理由がないな! なぁ、迅雷の!」
「なら、ケイ達と一緒にいるように見せかけて、指揮権は俺が持っておく。俺の指示が最優先だが、何も指示をしていない場合はケイに従って動いておけ」
「「了解だ!」」
風雷コンビは俺らの方の指揮下に入っているように見せかけて、その実態としてはベスタ達の別働隊か。……下手に風雷コンビのみに対する指示は出さずにおこうっと。まぁ今回の主力は風雷コンビじゃないし、なんとかなるだろ。
「ケイ、まだ何が有効か試すかな?」
「……流石に全部洗い出してる場合でもないし、HPの減少で行動パターンが変化するだろうし、適度なところで切り上げないといけないんだよなー。フーリエさん、ミズキの正常化はどんなもん?」
「あと2割くらいです!」
「結構進んだな。おし、それじゃ本格的にエリアボスの攻略を始めるぞ!」
「分かったかな!」
弱点としては毒は強力だけど、毒持ちで人を集めるのは微妙なところか。出来なくはないけど、即興で集めるにはどの程度の時間がかかるか、予測が難しいね。となれば……メインで使うのはこっちだな。
まだ一斉攻撃は試せてないけど、まぁどこかで剥奪を使うには限界はくるはず。それは実際に戦いながらでいいだろ。それに、これなら他の用途にも使えるはず。
「ソウさん、海エリア勢はもっと人数は?」
「近くに来てる連中は結構いるはずだし、必要とあらばいつでも動けるぜ。シアン達もこっちに向かってるしな」
「それじゃシアンさん達が到着し次第、海水の操作をメインに使ったエリアボスの攻略を始めるぞ」
「おし、了解だ。シアン達を筆頭に、海エリアの連中に伝えておく」
「よろしく!」
モンスターズ・サバイバルの人達が排水は一気に進めてくれたし、灰のサファリ同盟を筆頭に、斬り倒した木を利用して泥濘んだ場所の水分を吸収していってるのは助かる。この手際の良さなら、完全に乾くのは割とすぐだろ。
あ、そういやあれってどうなんだ? 普段はそんなに目にする事はないし、エリアボスで発生するかは分からないけど……今回のこれだと不安要素にもなり得るね。
よし、その為の策も今のうちに用意しとくか。多分、この手の人なら結構いるだろうしな!
「ケイさん、海水で仕留めていくのか?」
「そのつもりだぞ、ジンベエさん。水もどんどん抜けていってるし、抜け切ったら今度は海水で満たしてやる!」
「なるほど、その為の海エリア勢の大量動員か。黒の刻印の剥奪も、数で押し切ろうって算段だな?」
「そういう事だな! ただ、行動パターンの変化も考慮して……ラックさん、桜花さん、毒持ちの人を集めておいてくれない? 可能なら、電気魔法も使える人で」
「ん? そりゃいいが、なんで電気魔法もだ?」
「あっ! ケイさん、それって敵の纏属進化対策だね! 条件的に確かに満たすかも!」
「ラックさん、正解! そうなったら、より電気に弱くなるから、毒と電気の2つで攻める!」
「そういう事なら、すぐに呼びかけるね!」
「そういや、そんな手段もあるって聞いたな!? ……それで、成熟体用の進化の軌跡は集められねぇか? いや、まぁそれはいい。とりあえずその条件でメンバーを集めてみるわ」
「よろしく!」
なんか桜花さんがボソリと言った内容が気になるけど……成熟体の敵の纏属進化を誘発させてから、そのドロップとして進化の軌跡を得るってのは試してなかったのか? あー、そこまで試すような余裕は、ぶっちゃけ無かったのかも。
なんだかんだで俺らがテスト明けで戻ってくるまでは停滞状態だったんだし、成熟体の数も不足してたんだからなー。その後からは競争クエストが開始なんだから、色々と試していくのはこれからか。
「すっかりと存在を忘れていたが、よく覚えていたな、ケイ?」
「あ、アルも忘れてたのかな?」
「今、ケイさんが言って初めて思い出しました!」
この反応、地味にみんなも忘れてたな!? まぁそういうのが発生したのを見たのって、結構前だしなー。我ながら、今のタイミングでよく思い出したもんだ!
「……確か、生成魔法の中に一定時間以上、放り込むと発生するんだよね?」
「条件的にはそのはず。ぶっちゃけ、思い出したのついさっきだけどな。まぁエリアボスで発生するかは分からないけど……」
「……その危険性を指摘しようと思っていたんだが、これはツッコむところか?」
「ジンベエさんに指摘される前に対処には動いたから、ツッコミはなしで!」
言われて初めて気付いたならツッコまれても仕方ないけど、そうじゃないんだからツッコミはいらん! さて、攻略の主軸にするスキルは大体これでいいだろ。
「……刻印系スキルは……どうするの?」
「そこがちょっと問題なんだよなー。そもそも、黒の刻印を打ち込めるかどうか……」
「近接で近付けば、俺が近付いた時みたいに引っ込む可能性があるしな。中々厄介な状況か」
「そう、それ! 分身体に当てれば効果が出るのか、それとも本体に当てなきゃいけないのか、それによって変わってくるから……」
富岳さんの言う通り、下手に近付いての黒の刻印の実験は引っ込まれる危険性がある。分身体に刻むので有効なら楽なんだけど、そこまで単純な話なのかっていう……。
「必要とあらば、戦力の整理をしている間に試してくるが?」
「さっきのオリガミさんへの攻撃を見ると、ここから単独で離れるのは結構危険だぞ? 集中的に遠距離から狙われかねないし……」
「……あぁ、そうか。そういう危険性もあるんだな」
「そういう事。動くなら、大人数で動かないと……」
さっきのオリガミさんへの攻撃は、赤の群集と青の群集のどっちからの攻撃なのかは分かっていない。……エリアボスの討伐そのものを邪魔してきてる感じではないけど、状況次第では手を出してくるのは分かったからな。
「あ、その件でちょっといい?」
「ん? レナさん、何か見つけたりした?」
「んー、まぁ見つけたというよりはちょっとした疑問だねー。……オリガミさんって、どこの何者? ちょっとケイさん、聞いてみてくれない?」
「はい? え、レナさん、それってどういう――」
「……わたしの面識がない人がいるのは、まぁ別に不思議じゃないだけどさ。聞いている限り、普通に傭兵として動いてくれていそうな人を羅刹さんや北斗さんや時雨さんが知らないって不思議じゃない? 風音さんだったら、オリガミさんの事を知ってたりする?」
「……ううん……知らない人」
「オリガミさんは、いい人ですよ!?」
「ごめんね、マルイさん。でも、流石にここは確認しておきたくて――」
「レナ、変に疑いをかけるのはよせ」
「ベスタさん、疑ってる訳じゃなくて、今のオリガミさんみたいな動きをしそうな人に心当たりがあってね。もしその人なら、理由次第だけどちゃんと味方だよ」
「……何?」
そういえば黒の統率種に進化した人に心当たりを聞いた時、誰も心当たりがないって言ってたもんな。でも、今になってレナさんからその心当たりが出てきたって事か? ……それが、さっき襲われていた理由に繋がる?
「オリガミさんを『博士』って呼んでみたらいいよ。それで、反応があるなら……わたしの知ってる人。もしそうなら、さっき狙ってきた相手も見当が付くね」
「ケイ、悪いが少しやってみてくれ。……流石にスルー出来ない内容になってきた」
「……ほいよっと」
どうにも妙な流れになってきたけど、その『博士』という呼び方は……シュウさんが言ってた覚えがあるんだよな。それも、インクアイリーに対して……。
人が揃うには少し時間がかかるし、まだ湖の底も乾き切ってはいない。……戦闘開始までに、少しだけ聞く余裕はあるか。
「……『博士』さん?」
「どうして、ケイさんがその呼び名を……あぁ、先ほどから妙な様子でしたが、レナさんがそう呼べと言いましたか?」
「ちょ、マジで反応した!? オリガミさんは、インクアイリーの1人か!?」
半信半疑で聞いてみたけど、味方と思っていた傭兵の人がまさかの敵かよ! もう壊滅状態になってるはずなのに……まだ終わってなくて、何か企んでるのか!?
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