第1294話 ボス戦、開始!


 この霧の森で出てきたエリアボスは、巨大なレンコンだった。……色々とインクアイリーが仕掛けていたみたいで、その辺の様子を確認出来そうなハスの花が欠片も見当たらないようになってたとはね!

 赤の群集、もしかしてそのハスがちゃんとあった頃を知っていた? あー、霧の中にある湖での大量のハスの花とか、率先してスクショを撮りに行く人達に心当たりがあるわ! これ、多分だけど早い段階で赤のサファリ同盟が入ってきてたな?


 まぁいい。赤の群集はこの巨大レンコンに攻撃を仕掛けてくる気配はないから、このまま戦闘を進めていこう。……でも、青の群集の動きがどうなってるかが気になるな?

 どうせなら赤の群集と潰し合いをしてくれると助かるんだけど……その辺は青の群集の群集支援種のカズキがどうなるか次第か。


「風音さん、とりあえずファイアクラスターを魔法砲撃で撃ち込んでみてくれ。火魔法の効きを確認しときたい」

「……分かった。……『ファイアクラスター』」


 さて、地味に水属性を持っているけど、もう1つの草属性とどっちの影響が大きく出ている? 火魔法が有効なら、もう少しで辿り着く紅焔さんと風音さんを中心に、付与魔法での攻勢付与や、黒の刻印での魔法耐性の低下を狙っていくんだけど……。


「わー!? なんか土の中から出てきたのです!?」

「レンコンで出来た、4足歩行の何かの動物かな!?」

「木製の分身体じゃなくて、レンコン製の分身体なんだ? これは初めて見たね」


 草花系種族の不動種自体を初めて見たけど、不動種固有の分身体の生成はこんな形になるんかい! あー、なんか太めの根が繋がってるから、見た目の違いこそあっても、木の分身体とはあまり変わりないんだな。

 とはいっても、木の分身体よりも、何の種族か相当分かりにくいわ! 4足歩行の動物なのは分かるけど、そこまでしか分からん! サヤですら分からないんだし、謎過ぎるわ!


「……分身体を……防御に……使ってる?」

「火の粉を受けにいってるし、おそらくそうだろうな。ケイ、どうする?」

「あー、どうしたもんか……」


 こっちへの攻撃は仕掛けてこない……というより、かなり上から攻撃してるから届く前に回り込まれてるだけか? 明確に風音さんが魔法砲撃で撃ってる標的の証となる火の粉は、4足歩行の何かの分身体は受けに行っているしなー。

 異形のサツキの攻撃はまともに届いてないけど、元々の湖とは様子が違うせいなのか? 水が抜かれてる分、行動パターンがそのままだと空振りが多くなってるとか?


「桜花さん、ちょっと確認。不動種の分身体って、生成するのに行動値以外に何か条件は?」

「それなら、一定量のHPを消費するぜ。ただ、水分吸収ですぐに回復出来る範囲だから、分身体を倒して本体のHPを削るってのはあんまり推奨じゃねぇぞ」

「……そりゃそうか」


 分身体の生成にHPが必要だとしても、すぐに回復されてしまう範囲じゃ意味がない。しかも、今は水が抜いてあるとはいえ、ここは元々が湖だ。水分は十分なほどあるし……いや、抜いてある分だけ上限が相当引き下げられてる?


「はい! 見えかけてる湖の底を完全に出して、更に乾燥させるのはどうですか!?」

「……手間はかかりそうだけど、ありな手段かも? ちょっと考えさせてくれ。その案は色々と試して見てからで」

「了解です!」


 今の状況だと、足場が悪過ぎて近接攻撃を叩き込むのは難しい。まぁ飛翔疾走で空中を移動してもらったり、岩の操作で足場を作るのもありではありな手段だよな。

 もしハーレさんの案を実行に移すなら、どういう手段でやる? 水がまだ結構残っているとはいえ、思った以上に見えている湖底は水気を含んで、足場の悪い湿地エリアのような感じだし……いや、そもそも元々はどういう攻略を想定されてたんだ、これ?

 うーん、赤の群集がある程度はエリアボスの推測をした上で湖の水を抜いてそうな気がするけど、いくらなんでも不動種の巨大レンコンとまでは想定してないよな。……この状況は偶発的な状況と考えた方がいいだろ。となれば……。


「桜花さん、元々のここのハスの花が大量にあった時って、湖の上に進出は出来たか確認は取れるか!?」

「あー、確認はしてみるが……具体的にケイさんが知りたい手段は、どういうものだ? 何かあるから、聞いてるよな?」

「具体的ってほどでもないけど、足場になるものがないかだな。出来れば、異形のミズキが本来なら通れたかもしれない場所みたいなもの!」

「なるほど、移動種の木が通れそうな場所だな。少し確認してくるから待っててくれ!」

「頼んだ!」


 ちょっと湖の底を乾かすのとは別な方向に気になる部分が出てきて、そっちの確認を優先してしまったけど、ここは大事な内容だろうしね。ゲームなんだから、本来想定されている攻略方法が必ずあるはず。

 プレイヤーは持ってるスキルを色々と活用させていけばどうとでもなるけど、異形のサツキの攻撃がほぼ届かないのは違和感があるしね。あー、元の環境がどんなものだったのかが気になる!


 あ、そうしている間に風音さんのファイアクラスターが最後のデカいのを放つとこか。……うーん、レンコン製の分身体は、この足場の悪さでも普通に走り回ってるな。流石はレンコン製か。

 しかも分身体は、5体くらいまで増えてるし。……どれも4足歩行型で、オオカミとかライオンサイズの大きさだな。なんか風船で作った犬とか、そういうのを連想するな、この見た目!

 目印になる火の粉は、ほぼ全てが分身体に当たった感じだな。数発、鞭のように伸びて目の前を通った異形のサツキのツタに当たってるけど、レンコン本体には当たってない様子。


「……とりあえず……撃ち込む」

「頼んだ、風音さん!」


 まさか分身体を盾にして動いてくるとは思ってなかったけど、行動パターンを探る上では重要な情報ではあるね。……さて、大きな火の塊が出来て、そこから分かれて火の弾が落ちていくけど、どんなもんだ?


「おぉ! 分身体は大した事はなさそうなのさー!」

「根を切らなくても、1発で仕留められてるかな?」

「みたいだね。でも、次が湖の底から出てきてるよ……?」

「こりゃ、分身体を仕留めていくのは無駄じゃねぇか?」

「……そんな気がしてきた」


 分身体の再登場の時に少し巨大レンコンのHPが減ってたけど、すぐに全快へと戻ってるもんな。行動値は減らせられるだろうけど、特殊な特性持ちのボスだからプレイヤーよりも行動値は多いだろうし……あんまり有効打ではなさそうだね。

 レンコン本体へは当たってないから大事なとこが分かりにくいわ! うーん、もう1発、今度は避け切れないように頼もうか。


「風音さん、巨大レンコン本体にファイアインパクト!」

「……うん。……確実に……当てる! ……『ファイアインパクト』」

「おし、これなら確実に当たるか! ダメージ自体は程々だから、水属性の分だけ弱点としては耐性が増えてる感じはする……って、すぐに回復するんかい!」


 おいこら、待てーい! 異形のサツキが殆ど当たっていない攻撃の中で、数少ない当たった分で削れていたHP分まで回復してません!? あー、元々の不動種としての耐久性の高さもあるから、これは回復を封じないと厳しそうだな。

 うげっ!? 地味に異形のサツキの方までHPを回復してるじゃん。火魔法のダメージは異形のサツキの方が効きがいい感じだから、巨大レンコンの持つ水属性は結構有効に働いてるっぽいか。


 うーん、人数はいるし、遠距離からの飽和攻撃で削りまくる? 分身体を作って防御するとはいえ、数の暴力で押し切るのも不可能ではなさそうだよな。


「こりゃ、かなり耐久性が高いボスか。ケイさん、ちょっとぶん殴ってきてみていいか?」

「それはいいけど……富岳さん、何を試す気?」

「ちょっと桜花さんに確認してた内容を、今の状況へ合わせた手段を思いついたから、試してみようと思ってな。あと、近付いた時の行動変化も見ておきたいだろうしよ?」

「そういう事なら任せる!」

「おうよ! 『跳躍』!」


 思いっきりジャンプして降りていった富岳さんだけど、桜花さんに聞いていた内容か。まだその答えは出てないんだけど、まぁ朧げながらそれなりに予想は出来ている。それを今の状況に合わせるとなれば……なるほど、そういう事か。


「おぉ! レンコンの分身体を足場にして、どんどん飛び移っていくのです!?」

「富岳さん! 足場としては、そのレンコン製の分身体はどうかな!?」

「意外と踏ん張りは利くし、そのまま地面に降りるよりは遥かにマシだな! おっと、本体に近付けば、分身体も増えてくるって感じか! 足場が増えるようにはなってんじゃねぇか!」

「なるほど、そういう感じになってるんだな。富岳さん、ナイス!」

「まだちょっと気が早いがな! おら、本体は……って、待てや!?」

「あ、地面の中に引っ込んだね?」

「……逃がさない方策も必要ってか。ケイ、結構仕留めるのは大変そうだぞ?」

「そうっぽいなー。富岳さん、とりあえず戻ってきてくれ!」

「……おう」


 富岳さんは不本意な感じだけど、今の状況での行動パターンは何となくは分かった。HPが減ってくればまた内容は変わってくるだろうけど、今の状況ですべき事はいくつか分かったのはいいね。


「地味に、ハーレさんの言ってた湖の底を乾かすのが有効な手段っぽいなー」

「ケイさん、ちょっといいか?」

「蒼弦さん、どうした?」

「その乾かす案もありだと思うが、他の案も思いついてな? この競争クエストは大人数で攻略するのが前提だろう? それに、暴走状態の群集支援種も利用する事は出来るよな」

「あー、それは確かにここまでの傾向的にある内容だよな。……具体的にどういう案を思いついたんだ?」

「あの異形のサツキも姿が気になってな? 最初にツタで引っ張り出したように、完全に引っ張り出して他の場所まで移してしまうなんてのも可能なんじゃねぇか?」

「……なるほど。それは確かにあり得るかも?」


 異形のサツキ……それも操ってる側のツタを利用するというのは変な話ではあるけども、ツタである必然性がそこにあるのかも。蒼弦さん、良い着眼点!


「作戦を話し合ってるとこに追加情報だ! 流石に一般生物のハスの葉には乗れないが、一定数の黒の暴走種のハス……というかレンコンがいたそうだぜ。その葉の上なら乗れたっぽいな。ちなみにだが、今、他の荒らされた気配のない湖の中からレンコンが這い出して、そっちに向けて暴れ出してるそうだ!」

「それも数ヶ所から報告があるよ! 何もない湖が、いくつも意図的に作り出されてた感じみたい! 今、色んな場所の湖の目撃情報を整理してたら、そういう傾向が出てきてる!」

「マジか!? 桜花さん、ラックさん、情報サンキュー! その動き、特性『招集』の影響っぽいな」


 ジャングルでも城塞ガメとセットで存在していたハチが同じ特性を持っていた。それが一斉にエリア中のハチを活性化させて、自分の元へと集わせていたから、おそらくそういうスキルがあるんだろうね。


「いいって事よ! で、このレンコン共はどうすりゃいいって話なんだが……」

「あー、プレイヤーの妨害用の敵だろうから、始末しつつ、この場所を目指すように伝えてくれ!」

「なるほど、始末だな。そう伝えとくぜ」

「任せた、桜花さん!」


 さて、まだまだ情報が足りてない状況ではあるけども、それでもこの巨大レンコンの情報は出てきている。近付けば分身体が増える代わりに地面の中に引っ込んで、遠距離からの魔法攻撃の1発では有効打には遠い。

 流石は競争クエストで戦うエリアボスって感じだな。1PTや1つの連結PT程度ではあっさりと攻略出来ないように調整されているのがよく分かるわ!


「ベスタ、そっちの様子は? なんか赤の群集には動きはあった?」

「いや、赤の群集には特に動きはないな。ただ、ケイ達を観察している青の群集の一団は見つけたぞ。必要ならこっちで仕留めておくが?」

「あー、今はいいや。変にベスタ達の動きがバレない方がいいだろうし、青の群集もボス戦に介入しない気なら、それはそれでいいよ。ぶっちゃけ、トドメ直前までは専念できる今の方が都合はいいし……」


 まぁトドメに関してはベスタ達の方でなんとかしてくれるって話だし、全面的に任せられるからこそだけどね。インクアイリーと戦ったので実感したけど、共闘状態から一転して敵対になるのはしんどいからなー!


「それもそうだが、まぁ介入する様子があれば流石に手は出すぞ。そのつもりでエリアボスの討伐に集中してくれ」

「ほいよっと!」


 ベスタ達の会話もちょいちょいは聞こえてはいるんだけど、小声だし、頻度が多い訳でもないし、内容は断片的だからなー。まぁ今のは進捗状況の確認って事で!

 フーリエさん達によるミズキの正常化は……半分を過ぎた頃みたいだから、まだ結構かかりそうだな。あんまりボスを早くに倒し過ぎても占拠出来ない状況だから、ミズキの状況もしっかり把握しておかないとなー。


「……ところで、この引っ込んだ巨大レンコン、どうやってまた引っ張り出せばいいんだ? 時間経過で出てくると思ってたんだけど、そうでもないっぽいんだけど……」

「どうするんだ、ケイ?」

「……マジでどうしよう?」


 何か良い案をくれよ、アル! 湖の底を乾燥させるにも、異形のサツキ利用して引っ張り出させるにしても、再び姿を表させないと……って、ヒントはそこか! 元々、乗れるようなハスの葉があったのなら、異形のサツキが近付く手段はそこのはず。

 よし、その辺をなんとかするのから始めるか! 思いっきり、異形のサツキが足を取られて進めなくなってるし……というか、まさか乗っ取られて暴走中の群集支援種へのサポートが必要になるとは思わなかったわ! この辺、湖の水が抜けてる事の悪影響なんだろうね。

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