第1293話 エリアボスの出現
この競争クエスト……いや、2回目の開催の競争クエスト全ての中でも最後も最後。ここまで来るのにかなり手間取った気がするけど、あと少しでエリアボスの出現だ!
「……来る……よ!」
「みたいだな!」
灰の刻印があっても遠くまでは見通せないから、さっきまで聞こえていたのは破壊音だけ。でも、異形へと姿を変えたサツキの姿が見えてきた。
「なんか、ツタと木が一体化してないかな!?」
「わー!? ツタがなんか凄い数になってるのさー!?」
「……根の操作みたいに、あちこちに伸ばしまくってるね。わっ、あっさりと普通に木をへし折ってるよ」
なんというか……凄い光景だな、これ!? 枯れたようなツタなのに、それが何本もミズキの幹どころか、木全体に絡みついている状態だな。
ツタの存在感は薄いかと思ったけど、成熟体に進化してとんでもない事になってんな!? 瘴気も溢れてきてるし、怪物感が凄まじい!
「……こうして見ると、巨大なガジュマルみたいな姿だな」
「アル、ガジュマルって何!?」
「あー、沖縄辺りにある巨大な木だ。こう、何本もツタがぶら下がってるような感じのがあるんだよ。まぁその辺の話は今はいいだろ」
「そりゃそうだけど、だったら今話題に出さなくてもよくね!?」
「すまん、すまん。……とりあえず、今は目の前に集中しようぜ」
「……ほいよっと」
今は本当に余分な事で脱線してる場合じゃない。目の前の事に全力で集中! まだツタに乗っ取られた異形なサツキの動きは止まっていないけど、どこで止まる? 止まったところで攻撃を始めて、そこからエリアボスが登場のはずだ。
「あ、止まったかな!」
「ちょ、待った!? 止まったのって、トンネルがあった湖の目の前じゃん!?」
「わー!? 瘴気が一気に膨れ上がったのさー!?」
「湖の底に攻撃をし始めたね!?」
「……おい、ケイ? なんで変哲もない湖が襲われてるんだ?」
「俺に聞かれても知らないっての! どう見ても、水がないだけの湖だし……」
おかしいのは湖なのに水がない事だけど、それは赤の群集が水を抜いているからこそで……いや待て? なんでここまで湖の水を全て抜いている? インクアイリーの作ったトンネルの出口を見えるようにするのはいいとしても、いくらなんでもこれは過剰過ぎやしないか?
「ベスタ! この湖、元々の形や深さを知ってる人っていないか!? ただの偶然だとは思えないんだけど!」
「湖があるという目撃情報しかなかったはずだが……何かありそうだな。ラック、桜花、その辺りの情報収集を頼めるか? 場所が場所だから、単純に情報が足りてない可能性もあるからな。知ってる奴がいないか探してみてくれ」
「うん、分かった! 赤の群集、何か分かった上でやってそうな感じだしね!」
「……赤の群集にも、インクアイリーにも弄られてない状態のこの湖か。目撃者がいればいいんだが……とにかく、やってみるしかないな」
「ラックさん、桜花さん、任せた!」
インクアイリーがこの湖までトンネルを繋げていたのが、何か明確な意図があって……赤の群集が水を出しているのにも、何か理由があるのだとしたら、それは突き止めておいた方がいい情報! ただ、その情報が手に入るかどうかは未知数か。
改めて湖を見直してみるけど……元々の水位はどんなもんだ? なんというか、異形と化しているミズキが泥濘に足……というか根を取られてそれ以上進めない状況っぽいし、あの辺は元々の湖の周りの沼地部分か?
『グァアアァアァァアアァァ!』
そんな声とも言えない雄叫びを上げつつ、ツルを伸ばしまくって、まだ水が抜け切れていない湖底に突き立てていっている? ここにいるエリアボスは、湖の中にいるのか?
「ケイさん! そこにはハスの花は大量にあるか!?」
「ハスの花なんて、欠片もないぞ! って、桜花さん!? そう聞くって事はもしかして、元々はあったのか!?」
「あぁ、割とあっさりとその辺にランダムリスポーンした事がある傭兵の方から情報が出てきた。湖を埋め尽くさんばかりのハスの花が生えているちょっと変わった場所だったらしい。というか、そういう場所がもう1ヶ所あったらしくて……それがインクアイリーが根城にしてた湖だとよ!」
「ちょ、そんな場所が2ヶ所もあったんかい!」
「一応、他にもそういう場所があるかどうかの確認中だ! まぁいくつかありそうな気はするが……どれだけの情報が出てくるかは分からんな」
「いや、それだけで十分! エリアボスの正体も、なんとなく掴めてきたしな!」
「だろうな! 俺にも何となく予想は出来てるしな!」
「ですよねー!」
ここまで情報が出揃えば、推測材料はオフライン版に存在する。ハスの花は水場にあって……その水場の底の土の中に本体は埋まっている! 即ち、レンコンがエリアボスの正体! ハスの根がレンコンだしな! いや、正確には茎だっけ?
まぁそこはいい。この湖、インクアイリーがエリアボスのヒントになるハスを全部仕留めやがったな!? 赤の群集はそれを知っていた?
少なくとも、俺らが今気付いた事には前々から推測だけでもあった可能性はありそうだ。そうじゃないと、ここで水を抜いている理由がよく分からないし……灰の群集に押し付けてるんじゃなくて、自分達が戦いやすいように整備をしてただけか?
「みんな、ここのエリアボスは多分レンコンだ! どういう風に攻撃してくるか分からないし、サツキが引っ張り出すまでは手は出すな! ただ、赤の群集はボス戦に本格的に絡んでくる可能性が出てきたから要注意で!」
また大声で指示を出す事になったけど、これは赤の群集への牽制の意味合いの方が大きい。……さっき、赤の群集にも聞こえるような声でトドメだけを狙ってくるとか言っちゃったしさ。
それにしても……情報が足りていなかったとはいえ、いきなり赤の群集は傍観というのは読み違えたか? くっ、総指揮を任されたのに、エリアボスとの戦闘が始まる直前から指示の出し直しとか……。
「……赤の群集は……戦う場所の……整備をしてた?」
「……多分なー。あー、いきなりやらかしたかも……」
ん? でも、さっきまで普通にいた赤の群集の人達が立ち去っていってる? 声は届かないけど、なんらかの指示が出てる様子っぽいね。
「ケイ、無意味ではないから気にするな。どっちに転ぼうが、ウィルはケイの選択が間違った形になるように調整をしてくるだろう」
「そだねー。どうも今ので、赤の群集には撤退指示が出たみたいだよ。多分、エリアボスの討伐を完全に灰の群集に押し付けるので決定じゃない? これ以上の指示の変更は混乱を招くだけだから、下手に出来ないしねー」
「それ、ウィルさんの狙い通りに誘導されたって事になりませんかねー!?」
気にするなと言われても、そういう意図が見えてくれば気になるわ! 幸い、灰の群集でさっきの指示変更に動揺した気配はないけど……赤の群集に注意しろって必要以上に警戒に労力を割くようになっちゃったんじゃ……?
警戒しなくて良いわけじゃないけど、過剰な警戒はそれはそれで疲労に繋がって判断ミスに繋がるんだけど!? でも、警戒を緩めていいなんて指示をここで出せば、レナさんの言う通りに混乱させるだけだし――
「ケイ!」
「……サヤ?」
「指揮役なんだから、判断に迷うのは無し! それに反省は、全部が終わってからで十分かな! 今の状況こそ、ウィルさんの思う壺だよ!」
「そうそう、サヤさんの言う通りだよ!」
「……そっちの指揮を任せた俺が言うのもなんだが、冷静さを欠くな。それと、赤の群集を含めて他への警戒は主に俺の方で対処するから、ケイはエリアボスの討伐を主に考えろ。あくまでも役割分担だし、気負い過ぎるな」
「……すまん、意識を切り替える!」
ふぅ……冷静さを欠くのは駄目なのが分かっているのに、一度エリアボスのトドメを持っていかれているから……横槍に過剰な程の警戒をしてしまった気がする。
それこそウィルさんの狙いな気がしてきたし、赤の群集への警戒を緩めていい理由自体がどこにもなかったよ。そもそも青の群集やインクアイリーの残党や無所属の乱入勢だって、急なタイミングで出現する可能性はあるんだ。焦らされた事で、2択しかないと誘導されてたのかも……。
あー、土壇場で慌てた時は、毎回サヤに引き戻されてる気がするけど、今回も助かった! ともかく今は、目の前の状況に集中! 他の勢力への対応はベスタに任せたらいいんだから、気負い過ぎるよ、俺!
「あっ! なんか引っ張り出てきたのさー!」
<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>
<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
おし、出てきたな、黒いカーソルの上に旗のマークがあるからエリアボスで確定! ……アルのクジラを軽く超える長さがありそうなデカいレンコンだけど、よくこんなのが埋まってたな!? いや、まだ全部は出てきってなくて、まだ埋まってるのか。
太さも、アルの木の幹くらいはあるんじゃね? ……サツキを乗っ取ってるツタも、これをよく引き上げたもんだな!?
「……巨大な……レンコン!」
「やっぱりレンコンか! ケイ、識別は!?」
「俺がやって通達する! ……さて、単独か、共生進化か、どっちだ?」
ジャングルの時は甲羅の中に統率個体のハチがいたけども、この巨大レンコンの中の空洞部分に何かいる可能性もある。それに峡谷エリアのエリアボスはミマタノオロチで、頭が3つのボスだっけか。3つの頭全てにHP判定があって、同時に3体相手するのと同じって話だっけ。
元々は大量のハスがあったって情報も気にはなるし、このレンコンがボスとしてどういう要素を持っているかをハッキリさせる為にも識別は重要!
<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します> 行動値 117/122(上限値使用:1)
『オオヤドレンコン』Lv6
種族:黒の暴走種(旗頭城塞種)
進化階位:成熟体・黒の暴走種
属性:水、草
特性:旗頭、不動、拠点、大型、堅牢、統率、招集
ちょ、なんか凄い歪な構成なんだけど!? 大型で拠点かつ、統率と招集持ち!? ジャングルの城塞ガメとハチを合わせたような性能だな、おい!
えぇい、どういう攻撃を仕掛けてくるのかかなり気にはなるけど、今はこの情報をみんなに伝えるのが先! そこからレンコンの攻撃パターンを見つつ、集まってきている戦力を確認して、どう倒すかを考えないと!
「エリアボスの識別情報! 名前は『オオヤドレンコン』でLvは6! 黒の暴走種で旗頭城塞種だから、ジャングルでの城塞ガメに性質は近いかもしれないけど共生進化の個体じゃないから攻撃パターンはまだ不明! 属性は『水』と『草』で、特性はエリアボスの証の『旗頭』は当然だけど、『不動』『拠点』『大型』『堅牢』『統率』『招集』!」
初めて見る特性は皆無だけど、だからこそ歪に感じるぞ、この特性の組み合わせ! ヨッシさんの持っている『強化統率』を使ってきそうだし、『招集』はハチが持っていて、ジャングルにいた他のハチを一気に活性化させていたもんな。
もしかして、インクアイリーが根城にしていたあそこに大量のレンコンがいたのかも? ……ちっ、エリアボス戦を楽にする為に先に始末してたのか?
「特性『不動』って事は不動種なのか……?」
「草花系の種族で『大型』の特性があれば不動種にはなれるけど、敵で見たのは初めてなんだけど!?」
「待て、待て! 不動種って事は、色んな種族の分身体が使えるんじゃねぇか!?」
「げっ、もしかしてそういう特徴のボス!?」
識別情報を伝えたい事であちこちで騒めきが広がってるけど、不動種ならそういう可能性もあったか。……この特性の構成は、徹底的に本体が戦わずに、それ以外が戦う構成になってるのか?
「ケイ、どう戦う?」
「とりあえずサツキを乗っ取ったツタが攻撃を始めたから、少し様子見で! 桜花さん、こっちへの戦力の集まり状況は分かるか?」
ツタを鞭のように打ち据えているけど……呼び方がやっぱり地味に面倒だな!? 単純にツタとも呼びにくい状況だけど、サツキと呼ぶのも微妙なとこだし……異形のサツキとでも呼ぶのが1番無難か?
まぁ、そこは重要じゃないし、何を指し示しているかさえ分かればそれで十分だな。ともかく、様子を見つつ戦力の確認から! どういう戦力がいるのかが分からないと、具体的な作戦は出せないし!
「流石に到着報告がある全員の名前を出しても混乱するだろうから、馴染みがあるだろう人を中心に到着してるのを伝えていくぞ」
「頼んだ!」
「大きな集団だとモンスターズ・サバイバルの一行、シンさん率いる荒野エリア勢、海エリアのシアンさん達とマルイさん達もさっき到着してきてるぜ。もう少しで到着しそうなのがオオカミ組と、飛翔連隊と、灰のサファリ同盟の指揮下の共同体への未所属勢だな。大体の人はどこかの共同体と繋がってるから、どういう役割が必要なのかを指定してくれればこっちで割り振るぜ」
「おっ、それは助かる!」
全体を把握をするには人数が多過ぎるから、それぞれに細かい指示は出すのは無理だしね。多分、桜花さんだけでやってる訳じゃないだろうし、何がどこに必要かという判断までは俺らでやって、そこから細かい調整は各共同体やPTのリーダーに任せよう!
「ケイ、森守り達の『森林守り隊』と、ツキノワ達の『三日月』は俺の方に回してもらっているからな。あと、灰のサファリ同盟の一部……特に森林エリア支部を中心にこっちへもらうぞ」
「それは了解っと!」
ベスタが赤の群集を筆頭に他の勢力を抑えて、トドメを奪われないようにするのにはそれなりに人数は必要だろうしね。森林エリアの人を中心に選んでいるのは、ここが霧に覆われているとはいえ、1番森林エリアの人が馴染んで動きやすいからか。
森林深部の人でもいけそうだけど、森に慣れた人はこっちでも戦力に欲しいからこういう感じで割り振りになる訳だね。まぁ大々的な規模には出来ないから、そこまでこっちの戦力が減る事もないか。
さて、ここからどう動いていくのがいい? 1発デカいのを撃ち込んでみて、耐久性がどんなものか確認してみる? それとも、異形のサツキに攻撃させまくっておく? ……何をするにしても、今度は冷静さを欠くなよ、俺!
うーん、とりあえず行動パターンの変化が見たい。今の巨大レンコン、土の中から引っ張り出されてから全然動いてないしなー。異形のサツキの攻撃も、ちょっと遠いみたいで上手く当たってないし……地味にこの湖の周りの沼地が厄介かも。
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