第1292話 大勝負まであと少し


 ベスタに頼まれた通り、トンネルの出口が見える所で止まり、上空から獲物察知で状況を確認していく。……今のところ、察知を妨害された様子もなく、トンネルの中から弥生さんとシュウさんらしき反応が出てくる様子もない。


「ケイ、どうだ?」

「反応はさっぱりだなー。黒い矢印がトンネルがありそうな位置には出てるから、察知の妨害はされてないけど……まだ距離があるのかも」

「んー、それは期待出来なさそうかも? 明かりが見えてきたんだけど、ケイさん、わたし達の反応は拾える?」

「あっ、今2人分、灰色の矢印が出てきた」

「……なるほどな。もう、あの2人はトンネルを抜けた後か」

「ありゃりゃ、1番嫌なパターンになっちゃた!?」


 今の反応を考えると、そういう事になるよね!? あー、マズいな。もうこの周辺に弥生さんもシュウさんも辿り着いてるのか……。湖で平然としてる赤の群集の人達は、それを確実に知ってるな!?


「ベスタ、この湖の周辺にいる赤の群集、一掃するのはあり?」

「ケイ達がやるのはやめておけ。それをするには、ミズキを抱えている状況は危険過ぎる」

「多分、仕掛けた瞬間に弥生とシュウさんがミズキ諸共、みんなを殺しに来るね!」

「……やっぱりやめとく」


 俺らが戦うだけならまだしも、これからエリアボスに挑もうってメンバーを減らす訳にもいかないよなー。それに、折角確保したミズキがランダムリスポーンになってしまうのは痛過ぎる。……流石にそのリスクは許容出来ないか。


「ベスタさん、それでわたし達はどうする? ここから飛び出たら、周囲は赤の群集の人達が結構いる状況だよね?」

「強行突破をするか、少し様子を伺うか、どっちかになるが……さて、どうするか」


 ベスタとレナさんの2人分の反応が動きを止めたから、トンネルの途中で立ち止まったみたいだね。今の状況で強引に突っ切るのは出来るだろうけど、それをしても大丈夫かどうかという問題はありそうな気は……って、ちょい待った!?


「はっ!? 魔力視に赤と青の反応ありなのさー!?」

「これ、スチームエクスプロージョンかな?」

「位置がベスタとレナさんの真上!? 多分、トンネルを崩す気だ!」

「ちっ、もう用済みな場所か! 突っ切るぞ、レナ!」

「了解! 赤の群集、無茶してくるね!」


 その声の直後に盛大な爆音が鳴り響いたけど……って、立て続けにまだ放っていくのかよ!? ……直前に気付いたとはいえ、この連発の回避は間に合ったか? てか、俺と同じで誰かが獲物察知で位置を把握して奇襲を狙ったな!?

 あ、俺らの方に近付くように速く反応が動いているから、ベスタもレナさんも無事っぽい。ん? でも、動く方向が変だな? トンネルがある直線上ではないような……?


「わわっ!? 地面が陥没してるのさー!?」

「ベスタさん、レナさん、大丈夫!?」

「あぁ、問題ない。むしろ、丁度いい出口が出来たくらいだ」

「湖の前に出るのも微妙だから、今ので陥没した部分から脱出したよー!」


 あー、なるほど。動きがトンネルの直線上ではないのは、もう抜け出たからか。事前に察知出来たから生き埋めにならずに済んだどころか、そこから別の出口が出来て、目の前に出ずに済んだんだな。


「あ、獲物察知の反応が消えた!?」


 くっ、まだ効果時間が残ってるのに、ここで妨害してきたか!? 俺と同じように見えているなら、今の連続爆撃は回避されたのは気付いただろうけど、追撃はしないつもり?

 いや、追撃しようにも上に俺らがいるから、下手にやるだけ無意味って判断かも。……ベスタとレナさんを仕留める事より、ネコ夫婦の所在を隠す方を優先してきたか。


「ちっ、俺らの位置確認の役目はもう終わりか。レナ、弥生とシュウがラインハルトを連れている可能性はあるか?」

「んー、ごめん! 流石にあの混戦状態だったから、ライさんの状況までは見れてない!」

「……あの状況では、それも仕方なしか。俺も確認出来ていなかったし、そこは責められる部分でもないな」

「あ、あの! すみません!」


 おっと、マルイさんが結構強引に割り込むような形で話に入ってきた。なんか緊張してるっぽいし、何か意見があっても言いにくかったのかも……。


「マルイ、どうした?」

「えと、直接話せてる訳じゃないんで確実じゃないんですけど、乗っ取ってるのがどうも変な感じみたいで! なんか『瘴気支配』が上手く機能してないタイミングがあるみたいです!」

「……何? 具体的にどういう感じだ?」

「オリガミさん、俺らに速度を合わせてくれてるんですけど、それが急に速くなっていく時があって! そういうのが何度か続いて、慌てて追いかけたら、申し訳なさそうにするんです! 『わざと速度を上げたのか』って聞いたら、否定する様に首を振ってて!」


 これ、何気に重要情報じゃね? 黒の統率種になっているオリガミさんの『瘴気支配』が緩んで、勝手に暴走している時が発生してるって事だよな。そうなるって事は……。


「黒の統率種では、完全な支配は無理?」

「ケイ、その可能性もあるが、それだけではない可能性もあるぞ。オリガミは灰の群集の傭兵だ。黒の暴走種に進化していて、ダメージが通るようになっていても……傭兵の権利を剥奪されている訳ないからな」

「あ、そうか! って事は、傭兵だと群集の影響が邪魔してくる感じなのか……。マルイさん、それってどのくらいの頻度で起きてる?」

「えと、あ、また!? すみません、ちょっとだけ待ってください!」


 あらま、ちょっとタイミングが悪かったっぽいな。でも、ベスタの言うように群集の影響を受けているのが原因で、支配し切れずにいる可能性は十分あるはず。

 それが今表面化した理由は、頻度が分かれば推測も出来る! マルイさん、早めに状況を立て直して、情報をくれ!


「おい、オリガミとやらはあれではないか!? 疾風の!」

「おっし、追いついたっぽいな! 迅雷の!」

「風雷コンビは、オリガミさんを追ってたのか!?」

「「おうともよ!」」


 力強く肯定されたけど……よくあの戦場から抜け出れたな、風雷コンビ! 正直、あそこで仕留められて安全圏に戻ってるものかと思ってた。……流石はレナさんでも捉え切れないコンビなだけはあるのか。


「風雷コンビにはケイ達が離れた後、戦闘が収まってから追わせている。流石に状況が落ち着くまでは無理だったがな。マルイ達には蒼弦達のオオカミ組も付いているが……そっちはどうなっている? 随分と静かだが……」

「あー、悪い! 共同体のチャットの方で状況を確認していたもんで、黙ってたわ! オリガミさんが乗っ取ってるサツキが森を破壊して進んでるのと、散発的な戦闘の発生で少し足並みが狂い気味だ! インクアイリーの残党か、無所属の乱入組か、どっちかは分からねぇが襲って来ててな!」

「なるほど、そういう状況か。引き続き、マルイ達の護衛を頼むぞ」

「おう、そこは任せとけ! 流石に陽動役の未成体以下の人数が少なくなってきたが、そのおかげで優位性は保ててるしな」


 そういやオオカミ組と、アイルさん発案の未成体以下での妨害組は一緒に動いてたんだっけ。……まぁスミ達を筆頭に相手にしてたなら、もうこの局面まで生き残ってる人は決して多くはないか。

 富岳さんみたいな実力者であっても死んで戻ってたりするんだし、流石にその辺は戦力的にどうしようもない。むしろ、あの乱戦の局面でよく俺らへの攻撃を防いでくれたもんだよな! その辺は感謝!


「それにしても、破壊しながらの割には速いではないか。なぁ、疾風の!」

「もう、そんなに南の端まで時間はかからなさそうだな。なぁ、迅雷の!」

「あ、なんとか追いつきました! 頻度に関しては、南へ近付くにつれて回数が多くなってる……って、また!?」

「「更に速くなったか」」


 なんか凄い光景にはなってそうだけど、声だけではよく分からんなー。とはいえ、状況は何となく分かった。


「とりあえず、サツキを抑えられなくなる頻度はどんどん多くなってるっぽい?」

「この場合、抑えられてないのはツタの方が正しいんじゃねぇか? 抗ってるのは、意思が芽生えたっぽい異形なツタだろうよ。まぁどっちでも、結果は似たようなものだとは思うが……」

「あー、それはアルの言う通りか」


 オリガミさんは異形へと進化したツタを介して、黒く染まったサツキを操ってる状態のはずだしね。結果的には大差ないんだろうけど、『瘴気支配』に抗っているのはツタになるか。

 群集支援種を乗っ取るツタを従えるって構図だから変な感じもするけど、まぁそこは今は重要じゃない。重要なのは、エリアボスに近付いている今の状況で頻度が多くなっていく事!


「エリアボスに近付けば近付くほど、制御が困難になってるのかもねー?」

「おそらくそうだろうな。マルイ、余裕がなければ無理に返事はしなくて構わん。ただ、追いつけたならオリガミへ伝言を頼む」

「何て伝えれば……いいですか!?」

「『無理して最後まで抑える必要はない。無茶だと思えば、制御を手放せ』と伝えてくれ。下手に抑え過ぎて、逆にサツキとツタとの戦闘が発生しても困るからな」

「っ! しっかりと理由も含めて、伝えときます!」

「あぁ、頼む。風雷コンビ、もしそうなった場合のサツキの状況報告はお前達に任せるぞ。……意地でも振り切られるなよ?」

「その程度、任せておけ! なぁ、疾風の!」

「この程度で、振り切られる俺らじゃねぇぜ! なぁ、迅雷の!」

「……それで喧嘩して逃げられた時には、本当に厄介なんだけどねー!」


 この風雷コンビに返事って、頼もしい返事ではあるんだろうけど、レナさんのその気持ちもよく分かる! 凄まじい連携をする風雷コンビだけど、喧嘩の真っ最中でもそれが発揮されるし、練度が落ちないのが反則的だよなー。


「あー、とりあえずサツキの現状は分かったんだが……ベスタさんとレナさんはどうするんだ?」

「……さて、どうするか。富岳、そっちから見えている赤の群集はどうなっている? それ次第になってくるんだが……」

「……さっきの連続爆破の後は、大きな動きは無しだな。精々、魔力値を回復している状況が見える程度だ」


 俺から見た感じでも、そんな様子。ん? でも、エリアボス戦を押し付けるつもりでいるなら、大人数が一気にここで回復を急ぐか? いや、どこでどういう動きになるか分からないんだし、回復する事自体は不自然ではないのかも。


「あ、回復してるんだ?」

「……即座に戦闘に移る用意は出来てそうだな。このまま合流を目指してもいいが……レナ、俺らは隠れて動くぞ」

「およ? いいの?」

「あぁ、あえて姿は見せずに弥生とシュウの動きの牽制をする。あの爆破の動きは、俺とレナが追っていたのを把握していただろうからな」

「あー、そっか。個人の判別が出来てないのに、あの規模の攻撃は不自然だもんねー! ……追いかけに行ったの、誰かに見られちゃってた?」

「その可能性は高いだろう」


 ふむふむ、ベスタとレナさんはこっちに合流はせずに、隠れて動くのは了解っと。獲物察知が妨害されている現状は、俺らが弥生さんとシュウさんを探すのに不利な状況にはなるけど、それは相手も同じ事!

 というか、獲物察知の妨害って味方の分まで妨害してしまう性能っぽいよね。まぁそうでないと、セットで運用したら一方的過ぎて凶悪過ぎるから、当然な処置な気はするけど。


「オリガミがサツキから離れたぞ! なぁ、疾風の!」

「ツタを伸ばしまくって、瘴気で木々を枯らして進んでるぜ! なぁ、迅雷の!」

「……制御し切れなくなったか。ケイ、エリアボスの対応指揮は任せるぞ! 俺はそっちへ戦力誘導と、他の群集の動きへの対応をしていく。レナは、弥生とシュウを探してくれ。エリアボスが出現した後、トドメを取り易い位置を探すはずだからな!」

「ほいよっと!」

「ただ暴走するだけの弥生なら読みやすいんだけど、シュウさんと一緒な上に、かなり冷静な弥生相手は厳しそうだけど……まぁ、やるしかないね!」


 さーて、ベスタが表に見える位置には出てこないのはこれで確定だけど、比較的近場にいるのも確定だ。……俺らもトドメを横取りされないように立ち回る必要はあるけど、そこにベスタとレナさんが回ってくれているのは頼もしいもんだよな!

 おっし、なんか凄まじい破壊音が断続的に聞こえるようになってきたし、どうやら完全に異形なツタに乗っ取られたサツキがやってきたっぽいね。


「灰の群集で声が聞こえている人、戦闘態勢に移行! もう少しで、多分エリアボスが出現する! 出現したら、その場所に集まってくれ! どうも赤の群集も青の群集も、俺ら灰の群集に討伐を押し付けるつもりっぽいけど、そこは気にせずに討伐していくぞ! ただし、絶対にトドメだけは取らせるな!」


 思いっきり大声で、間もなく戦闘開始の宣言! まだここに集まってきている他の戦力の人達がどういう状況なのかは分からないけど、もうそんなに猶予はない。

 色んな方向から雄叫びが聞こえてきてるから、結構聞こえてはいる感じだね。さーて、これで俺がエリアボス戦の指揮をやるのは後に引けなくなったな。


「……トドメの件、言っちゃっていいのかな?」

「伏せてたところで、ここで他の群集がエリアボスを倒す動きを見せなきゃすぐに分かるんだから問題無し! まぁ今のを聞いて他の群集が動きを変えてくる可能性もあるけど、それならそれで戦力を割り振りを変える必要があるから、それで混乱させられたら十分!」

「はい! ミズキはどうしますか!?」

「それは、こっちの集まってきた戦力を見て考える! 状況次第では、俺らがミズキの防衛をするからな! 富岳さん、ソウさん、この場の戦力は防衛に回す可能性が高いからそのつもりで!」

「そういう事なら了解なのさー!」

「おう、了解だ!」

「聞いたな!? ミズキの防衛、やり切るぞ!」

「「「「「「おう!」」」」」」


 この辺の会話は、湖にいる赤の群集には聞こえない程度の声で抑えめに。でもまぁ、この競争クエストの終盤での大勝負って事もあって、みんな気合いが入りまくってるな! 


「フーリエさん、ミズキの正常化はどれくらい進んでる?」

「まだ半分も終わってないです!」

「……思った以上に時間はかかってるな。浄化班は、そのまま周囲の事は気にせず続けてくれ! 絶対に、邪魔はさせないからな!」

「「「「「「はい!」」」」」」


 さーて、今からやるべき事はこれから出現するエリアボスの撃破と、そのトドメを奪わせない事と、浄化中のミズキの防衛か。また総指揮をやる事にはなってしまったけど、今度は悔いを残さないように全力で勝つのみだ!


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