第1291話 エリアボスに挑むのは
黒の統率種だけど、俺らの味方の傭兵の龍のオリガミさんが、赤の群集の群集拠点種のサツキの乗っ取りに成功! これで、次の段階に進められる!
「あ、そうだ。これを言っておこうと思っていたんだが、すっかり忘れていたな……」
「ん? 富岳さん、何か重要な事があった?」
「まぁ重要と言えば重要だな。……ここから先、もう死んだ奴のこれからの戦場への戦線復帰はほぼ無理だと思ってくれ。正直、俺らが間に合ったのも相当な無茶をしてギリギリだったからな」
「……マジ? あ、でもここまで進んだら……戻ってくるだけの時間が取れないそうもないのか」
「そういう事だ」
当たり前といえばすごく当たり前な事だけど……重要な内容であるのも間違いない。もうかなりエリアの南の端まで近付いているから、今から安全圏に戻されたら……戻ってくるのは、無茶にも程があるよな。
「富岳さん、ここまで来るのにどんな無茶をしたのかな?」
「基本はケイさん達のスチームエクスプロージョンと似たような理屈だ。ただ、推進力に使ったのは海エリアの人の海流の操作になる。即座に使い切るつもりの最大加速を、何人もで分担してだな。一部はわざとスチームエクスプロージョンを使って、他の群集の気を引いているぜ」
「本当に無茶してるな!?」
「え、それをケイが言うのかな?」
「正直、俺らの方がよっぽど無茶を――」
「どっちがより無茶をしてるとか、そういう比較はしてないからな!?」
俺らが無茶な移動をしてるのは承知済みだし、その上で富岳さん達がここまで来た方法も無茶だって話だから! 無茶をせずして、この競争クエストに勝てるか!
って、それはいいとして……その無茶をする為の、この海エリアの人の多さか! でも、ある程度は陽動して引きつけているみたいだけど、これだけの規模を察知されずに移動出来るのか?
「富岳さん、他の群集からは……?」
「全く見つかってない訳じゃないが、あの湖での戦闘のおかげで意識がこっちに向いてないってのも大きかったぜ。……ただ、赤の群集も青の群集も、それぞれに違う動きを見せているから要注意だ」
「……気付いてない訳じゃないけど、別の目的の為に動いてるからスルーしたってとこ?」
「おそらくな。青の群集は十中八九、カズキの捜索で間違いないだろうが……」
「……赤の群集は……どういう狙いか……まだ分からない?」
「あぁ、そうなる。ま、サツキへの反応で、その辺も多少は推測が出来てき始めたがな」
サツキを奪い返す様子もなく、弥生さんとシュウさんが行方知れずで、エリアボスの止めを狙う可能性があるとなれば……今の赤の群集がすべき動きは必然的に限られてくる。
「赤の群集は戦力を集結させずに、逆に分散させてる状態で合ってる?」
「あぁ、合ってるぜ、ケイさん。ただ、その動きに合わせた対応策は打てないでいる……」
「下手に分散させる訳にもいかないし、そうなるだろうなー。カズキの捜索の為に散らばってる青の群集との潰し合いに期待したいとこか」
「そうなってくれれば、灰の群集としては最善な状況なんだがな。あと、インクアイリーに関してなんだが……」
「……え、まだ動いてたりする?」
「動いているといえば、動いているぜ? まぁ個人単位で乱入勢みたいに暴れているのと、もう参戦意志を失って無抵抗で撃破されるか逃亡するってのに分かれている状態だ。まぁ集団としての統率は失ったみたいだな」
「あ、そういう流れか……」
ふぅ、まだ立て直しを狙ってきていて、大々的の抗戦してくる訳ではないっぽくてちょっと安心。……流石にあの事前準備をしまくったっぽい場所でインクアイリーの本体の構成メンバーっぽいのをあれだけ倒せば、立て直しは困難だろうしね。
群集と違って安全圏がないから、バラバラにランダムリスポーンになってるだろうし、立て直そうとしても情報伝達すら困難なはず。
「……でも、まだ油断は出来そうにないかな?」
「あのコトネってタカの人は、近くにいたらまた襲ってきそうなのです!?」
「……来たら……返り討ちに……するまで!」
「集団としての統率が無くなった代わりに、個人での大暴れには要注意みたいだね」
「そっちも、赤の群集や青の群集と潰し合ってくれれば助かるんだがな」
「確かになー。そういう動きって、観測出来てたりは?」
「あるにはあるみたいだが、観測出来ているのは灰の群集も巻き込まれた時の場合だからな。あぁ、もう赤の群集も青の群集も、完全に共闘は終わったものとして通達されているぞ。まぁ灰の群集もだが」
「それ、初耳なんだけど!?」
「まぁ今初めて伝えたからな。ついさっきの話だから、ヨッシさんもまだ知らなかっただろ」
「あ、うん。私も今聞いたとこだね」
「……なるほど」
ヨッシさんが確認していた段階ではまだ共闘終了の告知は無かったみたいだし、今が初耳になって当たり前か。そもそも、インクアイリーの動きが明確に終わったのが確認出来ないと、共闘終了の通達は出来ないよねー!
「さて、今の範囲で分かってる戦況の変化はこんなもんだ。何か質問はあるか?」
「あー、エリアボスの討伐はどうなる? 戦力や指揮は?」
「それは今の段階ではなんとも言えないってとこだ。ベスタさんとレナさんがトンネルを通ってきてる状況だから、そのまま弥生さんとシュウさんと遭遇すれば動けないだろうし、逆に離されてしまえばエリアボス戦に回って来れる可能性があるからな」
「……指揮に関しては、ベスタの手が空くかどうか次第か」
「そうなるな。もしベスタさんがネコ夫婦の抑えに回る事になれば、ケイさんに総指揮を任せるそうだぞ? ミズキの防衛をしながらやってくれってよ」
「マジか!? あー、でもそうなるのか」
ジャングルで1回、総指揮の経験があるから実績から考えるとそうなりますよねー!? 戦力に関しては、ベスタも含めてその場に到着した人で即興で用意しなきゃいけなさそうだよな。
「散らばってない赤の群集と青の群集の集団はどんなもん? エリアボスの討伐に人は回してきそうな感じ?」
「……その気配は今のところはないな。見つけられてないだけか、もしくは……」
「エリアボスを仕留めるのは、私達、灰の群集に押しつけた……かな?」
「あぁ、その可能性は十分ある。どこかの群集が必ず倒す必要があるが、自分達で倒さなきゃいけない訳じゃないからな」
「ですよねー!? あー、サツキを乗っ取った以上は、その役目が灰の群集に回ってきたって事か……」
ちっ、赤の群集も青の群集も、押し付ける方向で作戦を練ってきたか! 青の群集は流れ的にそうしたって気もするけど、赤の群集はそういう流れを元々決めてた気がするんだけど!?
多分、本命はサツキの確保とミズキの異形化だったんだろうけど、それが失敗した時の副案として用意してそうだよなー!?
「ケイさん! ミズキの瘴気への染まり具合が1段階下がりました!」
「おっ、マジか、フーリエさん!」
「はい! でも、完全に元に戻すのには、まだまだ時間がかかりそうです!」
「ほいよっと! それじゃそのまま継続して、ミズキの正常化を進めてくれ!」
「はい! みんな、頑張っていこう!」
「おう!」
「この調子でやるっすよ!」
「どんどん、いっけー!」
「さっさと戻しちゃわないとね!」
フーリエさんが確認役をやってるからか、俺へと報告がきたけど……まぁそこはいいのか? ベスタが来れなきゃ俺が総指揮みたいだし、富岳さんもすぐ近くにいるし、特に問題もない?
「ベスタさん、ミズキの正常化は上手くいきそうだ。ただ、時間がかかりそうだから、その辺はどこかで時間を稼いで……あぁ、今更隠す必要はないと思うぜ。あー、そうか。そういう手があったな」
ん? 富岳さんがベスタへと報告してるのは分かるんだけど、こっちをチラ見してくるのは何でだ? というか、そういう手ってどういう手?
「ケイさん、俺らの方と連結PTを組んでくれ。直接それで連絡を出来るように、今人数の調整をしたところだ」
「あ、そういう手段を話してたのか。それは了解……って、今のリーダーは俺じゃないぞ。これ、俺にPTリーダーを変えといた方がいい?」
「いや、そこは別に誰でもいいが……今は誰がリーダーだ? こっちの申請の問題があるからな」
「今はアルさんがPTリーダーなのさー!」
「お、そうか。アルマースさん、処理を頼む!」
「おう、了解だ!」
<富岳様のPTと連結しました>
<蒼弦様のPTと連結しました>
あ、連結PTってオオカミ組とも……いや、PTメンバーの構成を見る限り、蒼弦さんはいるけど、オオカミ組じゃないな。構成メンバーは富岳さんがリーダーになっているPTに、ベスタ、レナさん、ダイクさん、風雷コンビになってるのか。
それで蒼弦さんがリーダーになってるPTに、ラックさん、シンさん、ツキノワさん……あ、地味に桜花さんがいる!? え、これは意外なんだけど……いや、不動種だからって連絡役に加われない訳でもないのか。あと1人は知らない人がいるけど、『マルイ』さんか。
「ベスタ、この状況で俺ら6人そのまま入れても大丈夫なのか?」
「あぁ、構わん。いちいち富岳を通して連絡する方が、よっぽど面倒だ」
「……まぁそれは確かに。流石に桜花さんがいたのは意外なんだけど、メジロでの参戦? それとも、桜の木を纏樹で動かしてきてる?」
「俺はメジロでの参戦だな。つっても、情報の中継役として安全圏にいるだけぜ。ま、何か伝達や必要な情報があれば、俺の方で処理するぞ」
「なるほど、そういう役割か。それは了解っと。それで……話した事がないけど、マルイさんがあの黒の統率種のオリガミさんを傭兵に承認したPTの人?」
「は、はい! すごい場違いな連結PTにいる気がするけど、そうなりますよ!」
「そう緊張するでないわ、マルイさん! なぁ、疾風の!」
「リラックスは大事だぜ、マルイさん! なぁ、迅雷の!」
「は、はい!」
うっわー、緊張しまくってるのが声で丸わかりだな、マルイさん。……まぁメンバーが凄い事になってるし、その気持ちは分からなくもないけどさ。
「それはそうとして、富岳。今は、どの辺まで移動が済んでいる?」
「今、赤の群集が話していたトンネルの出口があるという湖の上を通り過ぎた頃合いだ。もうそろそろエリアボスが出現しそうな場所に辿り着く」
え、もうそんな位置まで……あぁ、マジだ。少し後ろにそこまで大きくはない湖っぽいのが見えている。てか、本当にこんなものまで作り上げてたのか、インクアイリー。
水が少なくてトンネルの出口みたいなのは見えるね。ふむふむ、明らかに爆発で出来たようなクレーターが隣にあって、そっちに湖の水が流されてるっぽい。トンネルがすぐに見えるように、湖の水を抜いてる最中か。
「おぉ!? 本当にトンネルがあるのです!?」
「……広いトンネルではなさそうだけど、ここまでの距離を考えるととんでもない事をしてるかな!?」
「……エリアの縦の距離の5分の1くらいの距離を掘ってるよね、これ」
「あー、もしかしてインクアイリーにも、土の操作Lv10持ちがいるとか?」
「可能性としてはあり得そうだが……確認する手段もないぞ?」
「ですよねー。そういう情報ってどこかから出てたりしてない?」
「んー、わたしの知る限りではいないかな? でも、絶対とは言えないし……ラックさん、心当たりはあったりしない?」
「私もその辺の心当たりは特になし! 桜花さんはどう?」
「俺の方も似たようなもんだが、そもそも氷の操作Lv10や水の操作Lv10ってのも情報は無かったからな。土の操作Lv10を持ってる人がいても不思議じゃないぞ」
「そりゃそうかー」
まぁ何でもは情報がある訳じゃないって話だね。それにしてもトンネルの位置的に完全に水中っぽいし、これを見つける方も大概無茶苦茶だな!? あー、ここから赤のサファリ同盟の誰かがいないか、見えないもんか?
うーん、分からん! 赤の群集のプレイヤーはそこそこな数がいる状態だけど、戦闘態勢に入ってる訳でもないな。……こっちに気付いてないとも思えないけど、やっぱりエリアボスを倒すまでは手出しはしてこない気か?
「富岳、一旦そこで動きを止めろ。ケイ、そこから獲物察知でトンネルの中の反応を探ってくれ。動きは読まれているだろうから、隠す必要はない。ただ、すぐにでも動けるようにはしておけよ」
「ソウさん、一旦この辺で留まる! 下の湖の様子を確認するが、すぐに動き出せるようにはしててくれ!」
「了解だ! 発動中の海流の操作は、この周囲を回るように動かせ! 合図があれば、即座に方向を変えて動けるようにしておけよ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
おー、一気に海流の流れが円を描くように変わったね。途中から移動速度は落ちてた気はしてたけど、今の流れはそれほど速くもないな。まぁ俺らが着水した時の勢いを続けるのは負担が大きいし、ミズキの正常化にはまだ時間もかかるしね。
って、そこは今は置いておこう。俺は、とにかくベスタに頼まれた事をやっておこうっと。効果範囲的に、多分トンネルの出口付近であれば察知は可能なはず。……既に通り抜けた後でなければ、ここで待っていれば反応は拾える可能性は高い! 妨害されている可能性もあるけど、それはそれで貴重な情報にはなるはず。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 117/122(上限値使用:1)
色々と情報を聞いている間に、行動値は全快だね。魔力値もアイテムを使う必要もなかったくらいに全快になってるけど、それはあくまで結果論だから気にしない。
途中で戦闘になる可能性はいくらでもあったんだし、その状況に備えての回復でもあるから結果的に無駄になったとしても、無駄遣いではないもんな。
さーて、今は獲物察知の反応を確認していこう。湖で作業している赤の群集の反応は当然出てくるね。えーと、他には……ふむふむ、トンネルがありそうな部分には特にそれっぽい反応はなし。
妨害されている可能性は……その近くに黒い矢印が表示されているから、それも無さそう?
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