第1290話 今の戦況
ミズキを確保して、あの湖から逃亡には成功! とはいえ、油断出来る状況じゃないし、むしろ本番はここから!
とりあえず変な形で固定になってたのを解除して……よし、これでいい。さて、移動は全面的に委ねた形になったけど、現状の色々を確認しとかないと!
「今、灰の群集の状況ってどんな感じだ? ミズキは確保したけど黒く染まったままだし、サツキの方はどうなった?」
「ケイさん、その辺の疑問はもっともだが、順番に説明するから落ち着いてくれ」
「……あ、すまん、富岳さん」
少し焦りが出てたのか、早口になってたし今のは反省。……こういう時に冷静さを欠いては駄目だ。ちょっと落ち着いて……ふぅ、とりあえず大丈夫か? 怒涛の展開の連続だったから、妙に気が昂ってる気がするよ。
「とりあえず1番身近なとこから説明するぞ。黒く染まっているミズキだが、これはおそらく纏浄で『浄化の光』を使えば戻せるはずだ」
「……はず? え、推測段階!?」
「他のエリアでの競争クエストでも検証が全然足りてねぇんだよ、このパターン。明確に確認出来てるのは『瘴気収束』で黒く染められる事まででな」
「あー、確認する機会そのものがかなり限定されてるもんな。……そこまで試す機会がなかったのか」
「そういう事だ。まぁ、『瘴気収束』で黒く染められるなら、対になる『浄化の光』で戻せる可能性は高いはずだ。根本的に暴走状態は瘴気に染まっているのが原因だしな」
「今まで何度もしたように、瘴気には浄化の力で対抗なのさー!」
「ハーレさんの言う通りって事だ。まぁ実際にやってみないと分からんが、その辺は準備してきているからな」
なるほど、まぁ分の悪い賭けではないか。少なくとも、殺してランダムリスポーンさせて瘴気の影響を抜く前に、試すだけの価値はある。その為の人員も……って、細長いコケと、それを掴んだトンビが見えるような……。
「って、フーリエさんとシリウスさんか!? あ、フェルスさん達もいるのか!」
霧の偽装を突破した後に分かれたっきりだけど、ここでまた会ったか! ヘビなコケのフーリエさんとトンビのシリウスさんのコンビ、カエルのフェルスさんと、ハリネズミのレインさんと、スイカのミドリさん……今日はひたすら一緒に行動してるっぽいな!
その5人組が海エリアの大きな魚の人達の上に乗ってきてるのか。ふむふむ、見知った相手がフーリエさん達ってだけで、他にもやってきてる人もいるみたいだな。
「さっきぶりです、ケイさん! まぁ僕は纏瘴を使ったので無理ですけど、シリウス達が『浄化の光』を使ってミズキの正常化を試す事になってます!」
「時間がどれくらいかかるか分からないんで、すぐに始めます! 『纏属進化・纏浄』!」
「俺らもやるっすよ、レイン、ミドリ! 『纏属進化・纏浄』!」
「当然だっての! 『纏属進化・纏浄』!」
「ふふーん、強くなくても出来る事はあるもんね! 『纏属進化・纏浄』!」
「「「「『纏属進化・纏浄』!」」」」
「一気にやれ! 早い分にはどれだけ早くてもいいからな!」
「始めるぞ! 『浄化の光』!」
「「「「「「「『浄化の光』!」」」」」」」
俺らの左右に並走……走ってないから、これは違うか。とりあえず並んで泳いでた大きな魚の人達の背に乗ってたプレイヤー達が一斉に纏浄をして、『浄化の光』を使い始めた。8人体制で、同時に瘴気の排除をやるのか。
えーと、今の状況は海流が3本並んで流れてる状況で、その上で移動しながらの作業になるんだな。上にも他の海流が何本かあるから、他にも戦力はいるっぽい。
「あ、少しずつだけど黒く染まったのが抜けてきたぞ! フーリエ、識別で確認してくれ!」
「うん、分かってるよ、シリウス! 『識別』! ……まだ駄目みたい! 黒の暴走種のまま!」
「まだ駄目か! こりゃちょっと時間がかかりそうだけど、それでも少しは薄れてきてるっぽいし頑張るぞ!」
「みんな、意地でもやり切るっすよ!」
「「おー!」」
「「「「おう!」」」」
なるほど、フーリエさんは変化の状況を確認する役割なんだな。まぁ『浄化の光』を使ってる人がやるよりは、手が空いている人がやるのが適任か。今だと制限がかかって纏浄が使えないフーリエさんは、状況として最適だったんだろうね。
「……流石に即座に戻せる訳じゃなさそうだが、そもそも黒く染めるのにも時間がかかったって話だしな。しばらく様子を見るしかないか」
「だなー。富岳さん、その間に他の状況を聞いても?」
「あぁ、そうだな。ただ、その前に……ソウさん、移動完了までの指揮権は完全にそっちに任せるぞ! 俺はグリーズ・リベルテに今後の動きの予定を伝えていく!」
「おう、任せとけ!」
あー、大勢が集まってる状況なんだし、そういう指揮系統の明確化は必要だよな。……俺らは今は大人しく説明を受けておく段階って事か。
「あ、そういや風音さんは回復……って、もうしてた!?」
「どっちかというと、ケイの方が回復がいるだろ。ケイだって昇華魔法をぶっ放したんだからな」
「……そういやそうだった」
戦闘状態ではなくなったから自然回復でそれなりに回復はしてきてるけど……それでも魔力値が空っぽになってたのは間違いない。……駄目だな、思った以上に今の状況では落ち着けてなかったみたいだぞ。
「無茶な状況が続いてたし、ある程度は仕方ないよ。はい、ケイさんもどうぞ」
「サンキュー、ヨッシさん!」
おっ、いつか作ったはちみつレモン乗せのカキ氷か。これ、魔力値が20%も回復するから、一気に回復させたい今には都合がいい! 自分で普段持ってるのは、固定値での回復か、良くて10%の回復くらいまでだしな。
戦闘中では食べにくいこれが出てきたって事は、食べて落ち着けって意味合いもあるのかもね。……ふぅ、本当に落ち着いていこう。緊張感は大事だけど、それで過剰に消耗してたら判断ミスをしかねないし……。
「おし、話を続けていくぞ。とりあえず、気になってる状況の赤の群集のサツキについてだ」
「……いきなり話の腰を折って悪いけど、富岳さんの同じPTの人がリアルタイムで情報のやり取りをしてたりする?」
「あー、冷静になったらすぐにその可能性に思い至るのか。まぁケイさんの読み通り、そういう状況だ。俺の入っているPTが、今の各地の状況の伝達役を担ってるからな」
「なるほど、それなら最新情報が分かる状況になってるんだな」
「そういう事だ。その状況を踏まえての話だが、今のサツキは灰の群集の傭兵に来ていて、黒の統率種になっている『オリガミ』って人が乗っ取った状況になっている。これから異形への進化を始めるところだな」
「あー、そういう状況か」
あのイブキによく似た風属性の龍の人の名前は、『オリガミ』さんなのか。ははっ、しかもサツキを乗っ取った状態とはいいね!
でも、イブキに似てる人となると……一度俺らが殺しちゃったりしてないよね? あー、その可能性が否定出来ない!
「それ、赤の群集から盛大に狙われるんじゃないかな? ベスタさん達、大丈夫?」
「……あー、そこが少し不安要素にはなってきていてな。赤の群集の攻勢が激しくなると想定していたんだが……思いの外、攻撃が控えめだ。ネコ夫婦もどこかに姿を消したらしい」
「ちょ!? え、それって大丈夫か!?」
「……正直、何とも言えん。青の群集も下手な消耗を避けて、ケイさん達がこっちに逃げた後は人を引かせたようだしな。……ただ、赤の群集も、青の群集も、距離を保って監視はしているのは確認出来ている」
ふむふむ、さっきまでいた湖での戦闘はとりあえずは沈静化した状態か。……弥生さんとシュウさんの姿が消えたのは凄い不安要素だけど、無駄な消耗を避けて監視に移っている状況も中々に厄介だな。
「完全に赤の群集のサツキを、エリアボスの出現に使うつもりみたいだね」
「それって赤の群集は、占拠はどうするつもりですか!?」
「多分、エリアボスのトドメを取ってそれを使う気……って、その為に弥生さんとシュウさんが姿を眩ませたのか!?」
「おそらくケイさんが思った通りの動きだろう。運搬手段はまぁ事前に準備していれば爆破の連発でいけるだろうしな。ネコ夫婦の有力な逃走ルートとして、インクアイリーが用意していた地下トンネルが怪しいと考えている状況だ。今はベスタさんとレナさんが、トンネルを進んでいる最中になるぞ」
「確かに、ありそうな話かな?」
「……あの2人……相当……強い……」
「あのトンネルをそういう風に使ってくるか!」
弥生さんとシュウさんが潜んでた時にミズキやサツキを隠したりしてたけど、それ以外にも企んでた事があったっぽいな。……あー、作戦の立案って誰だろ?
弥生さんとシュウさんの2人で決めた可能性もあるんだろうけど……ウィルさんが考えてそうな内容でもあるよなー。今思えば、トンネルの出口を見つけたって情報も赤の群集から出てきた情報だし……元々知ってたって事は、流石にない? うーむ、他に赤のサファリ同盟の誰かが来てたら、探しあてる事くらいは簡単にやりそうだし……何とも言えないか。
「ん? どうした、ベスタさん? あぁ、ケイさんに伝言か。おう、伝えとく」
「あれ? 連絡要員って……ベスタ達との連結PTか!?」
「おう、そうだぜ」
「……考えてみれば、それが1番最適なところかな?」
「ですよねー。それで、ベスタから俺に何か伝言?」
「そのまま伝えるぜ。『弥生がお前達を逃さなかった理由が分かるか?』だとよ。あー、確か逃げ切れなかったって話だもんな」
弥生さんが俺らを逃さなかった理由……って、あれか! 不確定だけど、可能性だけは考えてたやつ! あー、でも確実性は微妙だぞ? えぇい、ベスタにはそれを踏まえた上で伝えても大丈夫だろ!
「心当たりはあるけど、絶対という確証はないという念押しをした上でだけど……弥生さんは『飛翔疾走Lv10』を持ってる可能性がある! いや、Lv10かどうかは分からないけど、少なくともそんな印象があるくらいの異常な速度で空を駆けて追いかけてきてた」
「なっ!? それ、マジか!?」
「あっ!? ……ごめん、その辺の事は報告し忘れてたと思う。……私は私で色々焦っちゃってたのかも」
「ヨッシ、そこはある程度は仕方ないかな!」
「あー、まぁ状況が状況だっただろうし、俺も仕方ないとは思うぜ。ベスタさん、不確定な情報だけど弥生さんは『飛翔疾走Lv10』を持ってる可能性があるそうだ。……あー、ケイさん、『Lv10だと思った根拠って何かあるのか?』だと」
「根拠……? あー、そういや何でだ?」
そもそも移動速度の上昇だけなら、Lv10だとも限らないんだよな。とっておきって感じの事を言ってたから……いや、それもあるけど、根拠と言うならこっちの方か。
「弥生さんじゃなくてシュウさんの方になるんだけど、『アブソーブ・アース』以外に『アブソーブ・ウィンド』も使ってきてたんだよ。根拠になるか分からないけど、Lv10だと思った理由はそれ!」
「相変わらず、あのネコ夫婦はぶっ壊れてんな!? あー、シュウさんが『風魔法Lv10』を持っていたんだと。そこからの類推みたいだぜ。……そりゃ同感だ。おう、引き続きやっていけばいいんだな」
とりあえず、今のでベスタの求めていた答えにはなったっぽいね。あのネコ夫婦がぶっ壊れているという富岳さんの言葉には、同意しかないですなー。
「……話が逸れたが、まぁベスタさんからの伝言は今ので終わりだ。あー、ここまでで何か質問はあるか?」
「はい! さっきの龍のオリガミさんは……私達が倒しちゃった人ですか……?」
「ん? あぁ、瘴気魔法で大量の瘴気の渦が発生した時の龍か。あれはオリガミさんではないっぽいぞ。……まぁ正確に会話が出来てる訳じゃないから絶対とは言えないが、傭兵として承認したPTが一緒にいて色々と頑張って会話した結果だから、ほぼ間違いないとは思うけどな」
「それは……ちょっとホッとしたのです!」
俺としてもホッとしたわ! 正直、聞きにくいからどうしようかと思ったけど、ハーレさんが聞いてくれてナイス!
となると、更なる別人という可能性もあるにはあるけど、あそこで倒した龍はイブキの可能性が高くなるんだな。……相変わらず、どういう遭遇確率をしてるんだか。
「あぁ、それとケイさん達に黒の統率種が、群集支援種を操れる可能性について伝えてきたのも、そのオリガミさんみたいだぞ」
「それって、オリガミさんがそれを今、実行に移してるって事になるのかな?」
「ま、そういう事になるな。その辺はインクアイリーの別働隊らしき相手から、未成体のツタを奪ったタイミングと、オリガミさんを傭兵に承認したPTがばったり遭遇したのが重なったのも大きいぞ」
「……色々と……偶然が……重なった?」
「どうも、そうっぽいなー。てか、あのツタはインクアイリーから奪った個体なのか!」
「俺らとしてはミズキを奪われてたんだし、その分は取り返したって事だな」
「それもそうだなー!」
確かインクアイリーの別働隊が動いてるみたいな会話は聞こえてたけど、その別働隊と遭遇した結果なんだろうね。インクアイリー自体があの湖へとツタを運んでこようとしてたもんな。
俺らが倒した龍がイブキなら、そのイブキが作り出した大量の瘴気の渦の1つから出てきたのがオリガミさんなんだろうしね。……ある意味、イブキとインクアイリーのおかげで、オリガミさんがサツキを乗っ取る為に必要な条件が整ったって事か。
「おっ、ミズキの異形への進化が済んだそうだぞ」
「マジか! それで、乗っ取った状態でエリアボスの元へ行くのは出来そうなのか!?」
「そう焦るな、ケイさん。その辺は今確認している最中みたいだが……よし、上手くいきそうだ。乗っ取ったサツキの上に龍を乗せて、南下を始めたぞ!」
「おし!」
これで、競争クエストのクリアに必要なエリアボスの出現の為の鍵が動き出した! おそらく赤の群集も青の群集も、エリアボスが出てくるまでは手を出してこないはず。
むしろ、この状況で危ないのは……俺らの方だな。いつ、どういう風に、ミズキを仕留める為に襲われてもおかしくないし、気を引き締めておかないと!
――――――
電子書籍版『Monsters Evolve Online 〜生存の鍵は進化にあり〜』の第8巻、完成!
10月29日(土)から発売です!
詳細は近況ノートにて!
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