第1289話 ミズキを連れて
もう何がどうなってるのか、正直把握し切れないほどややこしい状態だけど、なんとかアルが吹っ飛ばされてきたミズキを根の操作でキャッチ!
「ヨッシさん、俺らはもう南に向かってひたすら逃げればいいのか!?」
「うん、そうなるよ! ただ、サポートが入るから――」
「行かせるか! そこで止まってやがれ、灰の暴走種!」
「はいそうですかって、止まってられるか!」
苛立たしげな声と共に、スミからの狙撃が飛んできてるけど、アクアボールの残弾が少し残ってたからそれで迎撃! ふぅ、なんとか全弾使い切り!
「ちっ! ジェイ、ジャック! 近くにいるカズキの捜索部隊をこっちに回すぞ!」
「こちらは手が離せないので、その辺の判断はお任せします!」
「ジェイに同じだ!」
「増援がこようが、突破させるなよ! オオカミ組!」
「「「「「「「おう!」」」」」」」
なんだかサポートはあるっぽいけど……今、足止めをしてくれている人達ではない? いや、もしかすると上空に偽装した誰かが待機……可能性はありそうだけど、今のところは降りてくる気配もないな?
あー、よく分からないけど、ともかく移動の準備はしといた方がいいか! どういう風なサポートかは分からないけどさ!
「風音さん、スチームエクスプロージョンの発動準備! 俺は固定に回る! アル、何があっても落とすなよ!」
「……うん!」
「ケイこそ、ヘマするんじゃねぇぞ!」
「こんなとこで失敗してられるか!」
ジャングルでのボスの横取りみたいな真似はもうさせる気はない! 俺らにミズキを運んでいけというのなら、それを完遂させるまで!
「ヨッシ、私達はどうすればいいですか!?」
「……周囲の警戒かな?」
「それは後で! ケイさん、スチームエクスプロージョンは初速だけでいいってさ!」
「ほいよ! どっちにしろ、状況的に初速にしか使えないけどな!」
何人も発動要員を乗せて移動準備をしてる訳じゃないんだから、出来るの初速のみ。その後は……アルは根で捕獲を続ける必要があるから、俺が水流の操作で流していくしかないか。
でも、アルのクジラの下にミズキをぶら下げているから、それもそれで難しい? えぇい、今はそんなに呑気に考えてる場合じゃないか。そもそもまだ湖の上まで出れていない――
「うぉっと! ケイさん、吹っ飛んでけ!」
「……え? ちょ、紅焔さん!?」
シュウさんのストームの中で、小さくなった紅焔さんがクルクルと回りながら巻き上げられていってるんだけど!? あ、でもこれってそういう事か!
あー、無茶をするし、無茶な事を伝えてくるな、紅焔さん! でも、その意図は分かったよ! 読み違えてたら痛いけど、多分これは間違っちゃいない! それに声を出して伝えたのは、他の意図もあるはず!
「っ!? 弥生、急いでキャンセルを!」
「うん! でも、これは間に合わないかも!?」
慌ててシュウさんのストームを止めようとしてるけど、紅焔さんが身を張って作ってくれようとしてるチャンスを無駄に出来るかっての! レモンを1個取り出して、すぐに齧れる状態にしておいて……よし、紅焔さんの眼がこっちを向いた今だ!
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 109/122(上限値使用:1): 魔力値 213/306
紅焔さんにしっかり見えるように、大きめの水球として生成。慌ててシュウさんがストームを弥生さんにキャンセルしてもらったみたいだけど、それも狙い通りのはず!
「風音さん、アルのクジラの顎に衝撃魔法でひっくり返せ! みんな落ちるなよ!」
「おい、待てや!?」
「……うん! 『アースインパクト』」
「「きゃっ!」」
「無茶苦茶なのさー!?」
よし、アルのクジラが背中を向けた状態になった! ははっ! しっかりと掴んでないと落ちるけど、間違っても今のミズキにダメージを与えさせる訳にはいかないからな!
「やれ! 灰のサファリ同盟!」
「みんな、いっけー!」
「「『アースクリエイト』『岩の操作』!」」
「「「「『アースクリエイト』!」」」」
よし、やっぱり来た! 先にサツキとあの黒の統率種の龍の人を岩で保護してから発動した人と一緒に吹っ飛ばしてくるとは思わなかったけど、そうしないと死にかねないからか。
「しまった、これは!?」
「およ? 弥生の事以外で、シュウさんの焦った声は珍しいね!」
「……レナさん、からかって――」
<『昇華魔法:スチームエクスプロージョン』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/306
なんだかシュウさんの焦ったような声が聞こえてきたけども、それは今はどうでもいい! スチームエクスプロージョンの爆風の直撃をアルのクジラの背中で受けた状態で真上に吹っ飛んでるけど、ミズキの状態は……よし、HPは減ってないな!
「風音さん、姿勢を戻したら即座に逃げで! その間に俺が固定を済ませる!」
「……うん! 『アースインパクト』!」
体勢が体勢だから、ちょっと変な形で固定する事になるかもしれないけど、そこは勘弁で! ともかく、発動に必要なだけの魔力値をレモンを齧って回復! 急げ、急げ、急げ! 今の状況は隙が多いから、可能な限り早く――
「目の前の敵は放置でいい! 今は灰の暴走種を潰せ!」
「させないよ! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」
「サツキの異形への進化班、登場であるよ! 【荒れ狂う荒波と共に、雷の刃よ、敵を斬り裂け】!」
「セリア、回収を急げ!」
「分かってるから、急かさないでよ、ケンロー! 『並列制御』『巻きつき』『巻きつき』!」
おぉ、真上からシアンさん達が登場か! って、悠長にしてる場合じゃないわ! アルのクジラが元の向きに戻ってきてるし、大急ぎで固定開始!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 108/122(上限値使用:1): 魔力値 27/306
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 89/122(上限値使用:1)
レモンで回復した分の魔力値しかないけど、固定用の生成分だけならこれで十分だ。ちょっと微妙にみんなが浮き気味だけど、その状況でみんなを固めて……よし、これでいい! ちゃんと風音さんが後方に向くようにだけは調整出来た!
「わっ! あ、固定が済んだのさー!」
「風音さん、頼んだ!」
「……うん! 『並列制御』『ファイアクリエイト』『共生指示:登録1』!」
もう何度目になるか分からないけど、風音さんのこのスチームエクスプロージョンでの緊急時の逃亡手段は役立つな! ははっ、この初速には簡単には追いつけない……って、追いついてきてた人はいるんだし、油断しないでおこうっと。
「おい、ケイ! 必要なのは分かるが、朦朧になったらどうする気だ!?」
「え? まぁそれならそれで、別にそのまま吹っ飛ばしてもいいかなーって?」
「……ミズキを落としてもよかったってか? 朦朧になれば支配進化で繋がってるから、木の根の操作も危うくなるんだが?」
「……あっ!? あー、まぁ朦朧になってないから、結果オーライって事で!」
「はぁ、今はそれで済ましておくが……次、今みたいにやる事があれば、頭側じゃなくて尻尾側にしろ。スキルの使用中でも、キャラ操作で勢いを利用してさっきくらいの方向転換くらいはするからな」
「ほいよっと!」
危ない、危ない! 結果的には朦朧にならずに済んだからいいけど、今のは地味に本気で考えてなかった危険性だったわ! だからこそシュウさんの意表を突けたって気もするけど、リスキー過ぎたのは間違いないか。……ここは純粋に反省しとこ。
「えーと、それでこれから俺らはどうすりゃいいんだ? このまま南下? ……というか、後ろは大丈夫?」
「……誰も……追ってきて……ないよ?」
「あー、とりあえずは一安心か。……いや、その油断は禁物だな」
「……違いないな。実際、この手段で弥生さんとシュウさんは振り切れていなかった訳だし、追いつかれる可能性は考えておいた方がいい」
「それはそうなのさー!」
誰でも追いつける訳ではないけど、決して追い付く手段がない訳ではないんだ。とはいえ、あの状況を脱する事が出来たのは上出来だよな!
「ハーレ、周囲の警戒を怠らないようにしておくかな! 水月さんが指揮していたみたいだし、前で待ち構えている可能性もありそうだしね」
「はーい! でも、今の状況は色々と見にくいのです!」
「あー、すまん! 変な固定になったのは分かってるけど、しばらくはそれで我慢してくれ!」
吹っ飛んでる真っ最中に、岩の固定を解除する訳にもいかないからなー。というか、具体的にどういう固定になってるんだ? 状況が状況だったから、風音さん以外は落とさない事以外に気を配れてないんだけど……。
うーん、前方で赤の群集が待ち構えている可能性もあるし、どこかに降りて、固定し直す方がいいのか? というか、結局サポートって最後のシアンさん達の事だったのか?
「えっと、ハーレ……それって前は見えてる? なんだかリスが全部埋まってるみたいに見えるんだけど?」
「リスでは何も見えないから、クラゲの視点に切り替えてます!」
「え、そういう状況!? あー、なんかすまん……」
「状況が状況だったから、そこは仕方ないのさー! クラゲで見えるし、戦闘にさえならなきゃ大丈夫なのです!」
「……そう言ってもらえると助かる。サヤとヨッシさんは大丈夫か?」
「私は大丈夫なように位置はズラしたから、問題ないかな!」
「あの状況で、サヤの方で調整してたんだ? 私は……頭しか出てないし、後ろしか見えてないけど、まぁ大丈夫だよ」
「……なんとか許容範囲ってとこか」
ふぅ、決して良い状態とは言えないけど、それでも即座にどうにかしなければならない範囲ではないみたいで一安心。……戦闘になると、どう考えてもマズいけど。
「ヨッシさん、俺らはこれからどうすればいい? 吹っ飛んだままじゃ、すぐに墜落になるぜ。俺はミズキを離せられないから、行動方針があるなら――」
「あ、それなら多分、すぐに来ると……あ、来た!」
ん? 上から誰かが飛び降りてきて、アルの上に着地した……って、富岳さんのカンガルーと、それにくっついている小さなサンゴなサメのジンベエさんか!
上には海流に乗っている名前は知らないけどクジラの人やマグロのソウさんもいるし、他にも色々と泳いでるから海エリア勢が空から来たっぽい! 俺らは失速しつつあるから、その位置を見計らってたっぽい?
「よう、ケイさん達。……あー、固定は変わった方がいいか? いや、海流に乗せるのが先だな。ジンベエさん、頼むぜ!」
「任せておけ。アルマースさん、俺が下に付いて、その上でソウの海流の操作で流して上空へと連れて行くからな。それまではミズキを離すなよ!」
「なるほど、このまま空に上がるんだな。それは了解だ」
「おし、始めるぞ、富岳さん」
「おう! 『アースクリエイト』『岩の操作』! ……こういう状況で高所作業をするとは思ってなかったもんだ」
「同感だな。『増殖』『増殖』『増殖』『増殖』!」
ヨッシさんが言っていたサポートって、この事だったんだな。ミズキをあの場から連れ出し、その先で待っていた人達が上空へと連れて行く算段かー。
俺らが吹っ飛ぶ方角を少しでも見誤ってたら無意味になってた可能性も高いだろうに、かなり凄い博打を仕掛けてきたもんだな。でもまぁ、こうして――
「地上に敵を確認! 赤の群集の一団が待ち構えてるぞ!」
「あー!? あれ、水月さん達なのさー!?」
「……やっぱり、待ち構えていたかな!」
俺の位置からは下の森の様子は見えてないんだけど、水月さんが待ち構えてるんかい! あー、あそこで下がる判断をしたのは……俺らが何らかの手段で突破してくるって考えてたんだろうね。
「わっはっは! そんなのは想定済みだっての! 行くぜ、翡翠、イッシー、タケ!」
「……みんなは、ミズキをお願い!」
「……ここは俺らで死守する!」
「生きて、エリアボス戦に参加したかったとこではありますけど、辿り着けなければ意味がないですしね!」
「ザックさん達か!? あー、任せた!」
「おう、任されたぜ!」
他にも海エリア勢に乗っていた人が沢山いたみたいで、次々と地上へと降りていっている。待ち構えて襲ってくる相手がいる事自体、灰の群集としても想定済みか!
「ソウさん! こういう戦力は他にはどれくらいいるんだ!?」
「今、エリアボスの出現予想場所に向けて集結中だ。だから、続々と集まってはきてるが……シアン達の方にも増援に回るからな。それとの兼ね合いがあるから、正確な戦力は分からん」
「……なるほど」
「ソウ、もういいぞ!」
「おし、とりあえず海流に乗せるからな。詳しい話は後だ! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」
「ほいよっと!」
ジンベエさんのサンゴでの補強……保護……? うーん、どう言えば良いのか分からないけど、とりあえずはミズキを連れた状態で海流には乗れたようだね。流石は海エリアの人、抜群に安定した海流の操作だな。
「おっし、戻ったぜ。ケイさん、アルマースさん、どっちも操作を解除して大丈夫だぞ」
「あぁ、了解だ。富岳さん」
「ふぅ……とりあえず、危険な状態は乗り切ったっぽいなー」
とはいえ、まだまだ安心出来る状況じゃないし、本番はこれからだ。インクアイリーの目論みを潰すのは大きな目的の1つではあっても、1番の目的はこの霧の森での勝利だもんな!
その為に必要な鍵の1つである、自分達の群集の群集拠点種のミズキは確保した! 黒く染まりきっていて全く喋らない状態を何とかしないといけないけど、黒く染める手段があるなら、仕留めなくても戻す手段はあるはず!
それと、サツキの方がどうなったのかも気になるとこだよな。……その辺の話、聞いていこうじゃん!
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