第1285話 強行突破


 ジェイさんの発案した手段で、インクアイリーが足止めとして展開している偽装の霧とダイヤモンドダストの中に突入! ……状態異常の効果が強いのと発動時間が長い分だけ、火の拡散魔法で部分的に相殺出来てはいるね。


「……『並列制御』『ファイアディヒュース』『ファイアエンチャント』」


 他の属性でこれが出来るかは……出来なくはないだろうけど、属性同士の相性的に火属性ほどやりやすくはなさそう。とりあえず突っ込みはしたものの、偽装が混ざってるのもあって視界が悪過ぎる!


「風音さん、どんな感じだ?」

「……そんなに……効果が……保たない! ……思考操作で……発動に……切り替える! ……集中……させて!」

「……ほいよっと」


 今の反応で分かったけど、思った以上に風音さんの余裕はなさそうだ。出来るだけ一気にこの中を抜けていった方が、負担も少なくなりそうだな。

 チラホラと飛んでくる火魔法は、風音さんのアブソーブ・ファイアに吸収されるか、相殺出来るだけ使ったら消滅している状況か。進めば進むほど、その影響は低くなるのかもね。


「アル、出来るだけ急いで抜けてくれよ!」

「分かっちゃいるが、風音さんが火魔法で取り除いた場所までしか行けねぇからな!? そこから出たら、これはヤバいぞ!」

「……まぁそうなるか」


 アルが通って進めるだけのスペースを作れているだけ、状況としては申し分ないか。今はアル自体を小さくする訳にはいかないし、進める範囲を広げるのは現実的じゃないな。

 でも、今の状況では思った以上に風音さんの負担が大きいし、何か出来る事を……って、そういやこの状況、ジェイさんと会話が出来ないんだけど!? あー、どうする?


 おいこら、今のタイミングでフレンドコールって誰だよ! 邪魔する気なら……って、ジェイさんじゃん!? あー、その手があったか。ともかく今すぐに出るのみだ!


「すみません、喋れない事への対処を忘れていました」

「……こっちもその点を見落としてたから、まぁお互い様って事で。みんな、これ、ジェイさんからのフレンドコールだ!」


 この辺は説明しないと、何をしているのかがさっぱり不明になるだろうからね。返事らしい返事は特にないけど、まぁあんまり喋り過ぎていい状況でもないか。

 ちょっと声の大きさは控えめにして喋っていようっと。ファイアボムもあちこちで放たれてるから、多少の声は掻き消されるだろうけど、その辺は念の為!


「今の状況はどうですか?」

「一応進めてはいるけど、思った以上に進むのが難しいぞ。風音さんへの負担が大き過ぎる割に、中々進めていない……」

「いえ、それは視界が悪いからそう感じるだけのはずです。元々、それほど広範囲ではないですからね。……強行突破するには広いですが」

「……へ? あ、これって距離感が狂ってるのか!」

「えぇ、少し前に体感してきたところですから、その点を忠告しようとしたんですけども……つい、言い忘れてしまいまして」

「その辺、先に言ってくれない!?」

「ですから、こうして急いで伝えている訳ですよ」

「あー、なるほど」


 確かに言われてみれば、見通しが悪いだけでダイヤモンドダスト自体の効果範囲は劇的に広いはずはないよな。ここの湖の表面を全て覆ってはいるけど、湖自体がそもそもエリアの一部として用意されている小規模なもののはず。

 あれ? もしかして、どこからが湖で、どこからが陸地なのかの判別も地味に狂わされてる? ……ヤバい、正確な湖の端の位置の判別がしっかり出来ていた自信がなくなってきた!?

 今、湖の上のどの辺だ!? 半分くらいは進んだ? いや、反対側に突き抜けてもダメだし、下に抜けないと意味がない。くっ、視界が悪過ぎて上下の感覚すら分かりにくくなってきてやがる!


 げっ!? 獲物察知の効果が切れたけど、このタイミングで再発動はするべきか? 地味に邪魔な表示量にはなってきてるんだけど、方向を見失わないようにしつつ、ミズキとサツキの位置と染まり具合の確認――


「はっ!? ケイさん、アルさんの下を防御してください!」

「ほいよっと!」


 これはハーレさんの危機察知に反応ありか! そりゃまぁ偽装の霧が一緒に展開されているなら、敵から俺らの位置は丸分かりだよなー!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 121/122 (上限値使用:1): 魔力値 303/306

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 102/122(上限値使用:1)


 上下にどれほど進んだかの感覚が分かりにくくなってるけど、流石に重力のある方向までは変わらない! だから、目視で操作してから、シンプルにアルのクジラの真下に持っていって、追加生成で防げばいい!

 この大勝負で、応用スキルの出し惜しみは無しだ!


「おし! 結構な操作時間を削られたけど、とりあえず何かの攻撃は防いだぞ! てか、今のはどういう攻撃!?」

「見えないから分かりません!」

「ケイ、私が下に回って目視で確認するかな!」

「任せた、サヤ! でも、絶対にアルから離れるなよ!」

「うん、それは分かってるかな! それじゃ行ってくるね!」

「ほいよ!」


 風音さんの火の拡散魔法の広がりに合わせて、サヤがクジラに沿って移動していく。正直、サヤの行為はリスクはかなり高いんだけど、この状況はそうも言ってられない。

 あ、俺の展開してる岩の上に乗ったっぽい? なんか妙に接地面が広い気がするけど……あぁ、多分これはクマで寝っ転がってる状態か。


「位置に付いたかな!」

「サヤ、下はどうですか!?」

「……こっちも視界が悪くて、風音さんが消し飛ばした先は全然見通せないかな? え、この辺って……もしかして……?」

「……サヤ?」


 何か気になる事でもあるのか、サヤの言葉が途切れたけど……一体何をしてる? あ、サヤの竜のHPが少し減った……って、攻撃された!?


「ケイさん、今はどういう状況になっているのですか? 岩の操作を発動していたようですが……」

「下から敵襲だな。完全に気付かれてるけど、まぁその辺は想定の範囲内!」

「……まぁ気付かれないはずもないですね。斬雨のチャージにもう少し時間はかかりますが……その時間は確保出来そうですか?」

「あー、ちょっとなんとも言い切れない感じだな。……チャージが完了したら言ってくれ。攻撃出来そうなら、その状況にする」

「えぇ、了解しました」


 サヤの竜が攻撃されたにしてはハーレさんが反応してなかったし、その辺がハッキリしないと、ジェイさんと斬雨さんの攻撃の可否も判断しかねる。……サヤ、一体何があった?


「ケイ、ここはもうダイヤモンドダストの範囲からは抜けてるみたいかな? 多分、氷の操作だけだと思う」

「え、マジで?」

「多分だけどね。竜で少し触れてみたけど、ダイヤモンドダストならHPが減るくらいじゃ済まないはずかな?」

「あー、さっきの竜の弱り方はそういう……」


 実際に竜で触れてみて、氷の操作かダイヤモンドダストかの判別をした訳か。冷気に弱い竜だから、少しでも触れれば昇華魔法のダイヤモンドダストなら凍結や凍傷になる可能性は高いはず。……氷の操作なら大丈夫という保証もないけど、可能性自体は下がるか。


「っ!? 急に霧が晴れたかな!? あ、これって――」

「ケイさん、また下から攻撃が来るのさー!」

「またか!」


 次の攻撃が来る事自体は不思議じゃないけど、その前にあったサヤの反応はどういう内容!? てか、岩でもう1度防ぐけど、サヤはそれで大丈夫なのか!?

 うおっ!? 間髪入れずに続々と衝撃……って、1発当たるごとに操作時間の削れ方が凄まじい!? これ、拡散投擲か、サンドショットみたいなタイプの攻撃か! ちっ、岩の操作での防御が破壊された!?


「ケイ、再展開は待って聞いて! 今のは攻撃の為に私達との間の氷の操作を退けている感じかな! もう、敵の真上!」

「マジか!?」


 思った以上に、もう敵の目前まで来てたっぽい。ははっ、距離感覚が狂うってジェイさんが言ってたのは本当かよ! もうそこまで来てたとは思わなかった。


「風音さん、もう一踏ん張り、頼んだ! ジェイさん、チャージはまだか!?」

「……任せて!」

「あと少しですが……動き出すなら、もう始めて構いませんよ。狙いを見つけるのに、少し時間が必要でしょう?」

「あー、そりゃそうだ! アル、合図をしたら真下に向けて旋回して突っ込むぞ! サヤ、ハーレさん、即座に狙いを見つけてくれ! ヨッシさん、合図をしたらジェイさんと斬雨さんを覆ってる氷塊を解除で!」

「了解なのさー!」

「すぐ、そっちに戻るかな!」

「了解!」

「無茶な挙動だが、まぁいつもの事か!」


 サヤがすぐにアルの木の根元に戻ってきたし、しっかりと掴まったのは確認。さーて、それじゃアルの言う通り無茶な挙動での戦闘を始めますか!


 合図は……風音さんが拡散魔法を使って、氷の操作の範囲を抜け切って、全員が下の様子を視認出来るようになった時。今の段階で下まで氷の操作を展開していないのは、不都合な点が多いからだろうし、突っ切りさえすれば追いかけて包んでは来れないはず。

 無所属の白のカーソル同士ならPTか連結PTの範囲内ならダメージは出ないように出来るんだろうけど……多分、そこから外れたら無所属同士ではダメージが出る。それに、黒の統率種やそれが率いる瘴気強化種にまで影響があるだろうしな! ……よし、見えた!


「アル! ヨッシさん!」

「おうよ! 『旋回』『突撃』『旋回』!」

「了解! 氷塊の操作、解除!」


 急な角度の変更と突撃での移動を繰り返して落ちそうになったけど、なんとか無事にダイヤモンドダストと偽装の霧の突破は成功! 見渡す必要があるから、アルが適度に斜めにして見渡せるように角度を調整してくれたのはナイス!


「ジェイさん、まだ岩は開くなよ?」

「分かっていますよ。標的を見つけてから……ですね?」

「そういう事! サヤ、ハーレさん、任せた!」

「はーい! 彼岸花……爬虫類の尻尾を持つ、リスの人を探すのさー!」

「聞いた限りの内容なら、戦闘のど真ん中にはいないはずかな!」


 一気に開けた視界で、戦場を見渡していく。ちっ、拡張しているのか思った以上の広さと深さだな!? あちこちで乱戦中だし、明かりらしい明かりもない。妙に暗い一画があるからあれが多分、ミズキとサツキを黒く染めている真っ最中の……って、そこの暗闇が消し飛んだ!?


 ははっ、今のはシュウさんの仕業か! あと僅かで黒く染まり切るミズキとサツキだけど、その寸前でシュウさんと弥生さんが大暴れを始めたみたいだな。

 しかも、しっかりと光源まで用意してくれたっぽくて、一気に明るくなった。……この光源、なんだろう? シュウさんの全身が光ってるけど、それを薄く広く光の操作で広げている感じか?


「くっ、突破されましたか! グレン、サイ、上の対処を優先して――」

「……無茶を言うな、氷花! ……ちっ、入ってきていたのか、あのネコ夫婦!」

「おわっ!? ちょ、トンネルが崩れて……げっ!?」

「『げっ!?』とは言ってくれるな、インクアイリー。色々と暴れまくってくれたのは……まぁ、するなという縛りはないからどうこう言う気はないが、それ相応にやり返される可能性は考えていただろうな? 散々引っ掻き回された状況は、ここで終わりにさせてもらおうか!」

「あーあ、ベスタさんに言いたいところを全部持っていかれちまったか」

「……号令で混乱を招くような事を言っておいて、よく言うぜ、ウィルさん」

「灰の群集のベスタ!? それに、ウィルとジャックまで!?」

「さーて、わたしもそろそろ本気で暴れさせてもらおっかなー。……あっさりとダイクは倒されちゃったし、その分は取り返しとかないとねー。ねぇ、氷花さん?」

「いなくなったと思ったら、まだレナさんが生きていましたか!?」


 おっと、どうやらベスタ達の別働隊もほぼ同時に到着か。後は、この偽装の霧を排除してしまえば、上からももっと人員が投入出来る!


「おいおいおい!? 氷花、こりゃヤバいんじゃねぇの? 瘴気魔法を使って死んだ奴が戻ってきたって、ここまで突破されたら――」

「……それくらい分かっていますよ、サイ! 彼岸花、ここからは――」

「っ! ケイ、見つけたかな!」

「ほいよ! ジェイさん、サヤの魔法が目印だ!」

「分かりました。行きますよ、斬雨!」

「おうよ!」

「いくかな! 『略:エレクトロボール』!」


 サヤが竜で狙いをつけたのは……ただの湖底にある岩っぽいものだけど、サヤが見つけたと言うならあれが『彼岸花』のはず。俺じゃ分からないけど、その発言を疑う理由は皆無だよ!


 ジェイさんが2つの細長い岩で鞘状にしていたものを広げて、斬雨さんのタチウオの頭側に固定していっている。あー、なるほど。あそこから一気に加速させて、推進力に変えようって魂胆か。


「ちょ!? そっちはヤベェ!?」

「……ちっ、間に合うか!?」

「コトネ!? いえ、任せます!」


 おっと、一気に加速を始めたジェイさんと斬雨さんに向かって禍々しい姿のタカが向かっていってるけど……なんか、いつの間にか、ハーレさんが岩の上に乗ってる!? え、なんで?


「ハーレさん!? いつの間に乗ったのですか!?」

「そこを気にしてる場合じゃないのです! 『看破』! あそこなのさー!」

「はっ! はっきりと見えるのはありがてぇな!」

「それに邪魔はさせないのさー! 『拡散投擲』!」

「……助かりましたし、ここは余計な事は無しにしましょうか。仕留めますよ、斬雨!」

「当たり前だっての!」


 おー、ハーレさんが一気に迫って来ていたタカの動きを乱したな! 倒せた訳ではないけど、直線的に進んでいる最中にこの回避行動を取らせたのは十分な成果!

 そのまま、姿を現したトカゲっぽい尻尾を持つリスを仕留めてしまえ! 頭を抱えて蹲ってるけど、このタイミングならもらった!

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