第1284話 奪還作戦、開始!
インクアイリーが用意している湖の中からエリアの南側へと繋がる地下トンネルへの割り込みをする作戦は決まった。決まったけども、それとは別にジェイさんから提案された作戦をどうするか……。
陽動自体は今まで何度もやってきてるから問題ないけど、あとは風音さんがどうしたいかだけ。作戦としては有効だろうけどね。もし、ここで筒抜けになってたとしても、警戒する方向を分散させる必要はある訳だしな!
「……みんなは……どうしたい?」
「ふっふっふ、陽動なんていつもの事なのさー!」
「あはは、確かにそうだね」
「私達はやるのは問題ないかな! だから、風音さん次第かな?」
「ま、風音さんが嫌なら無理にとは言わんぞ」
「囮とか陽動はいつもの事だしなー!」
「……そっか。……みんなが……やる気なら……やる!」
おー、やる気に燃えてるね、風音さん! さーて、予期せぬ方向からの陽動に決定だけど……まぁ陽動だと甘く見てくれたら、隙を見てツタを奪ってしまおう。
「それでは実行は決定ですね。ベスタさん、それで構わないでしょうか?」
「その決定権は俺にはないし、ケイ達がやると決めたならそれで問題ない。だが、作戦としては良い内容だ」
「それはどういたしまして」
「……ジェイ……失敗は……許さない!」
むしろ、ジェイさんが何も言ってこなかったら、ベスタに陽動を頼まれてたような気がするのは気のせい? んー、正直何度も頼まれてるから、普通にあり得そうな展開!
「……これで失敗したら、後が怖いですね」
「ははっ! 失敗しなきゃいいだけの話だろ、ジェイ!」
「それもそうですね。それでは、地下トンネルの方は任せましたよ、ジャック、スリム」
「ホホウ、お任せなので!」
「おう、任せとけ! 手持ち無沙汰な奴は、押し潰さない程度に間を空けて突入をしていく! 全員が揃っては動かず、火魔法でのダイヤモンドダストと氷の操作への攻撃は絶やすな! インクアイリーの防御が崩れ次第、上から湖に突入する奴も残れ!」
まぁトンネルなんだし、こんな大人数が全員一気に攻め込めるような広さはないもんな。ジャックさんの指示は妥当なとこだと思うけども……他の群集からの指示だと、何か裏があるんじゃないか勘ぐりたくなる。
いや、流石にジェイさんじゃなくてジャックさんが出した指示だし、それはないか? まぁもし何かあったとしても、ベスタがいるなら対応してくれるだろ!
「湯豆腐、紅焔、ちょっと来い!」
「了解っす、リーダー!」
「俺らになんか作戦がある感じか!」
「あぁ、そうなる。蒼弦は仕留められて送り返されているから、オオカミ組の指揮を引き続き湯豆腐に任せる。この場での攻撃指示を続けてくれ」
「この状況を継続っすね! 了解っす!」
「それと、この作戦が完全に済む前に蒼弦達が引き連れているメンバーが辿り着いた場合、俺へフレンドコールを入れろ。状況次第になるが次の指示を出す」
「それも了解っす!」
あー、蒼弦さんは死んで安全圏に戻ってしまってるのか。……確か俺らの元へと増援に来ててくれたはずだけど、その後に弥生さんとシュウさんが現れてたから……仕留めたのはネコ夫婦なのかもね。まぁ絶対とは言えないけど。
「紅焔達、飛翔連隊はこの場で連携しやすい相手を選んで連結PTを組んでこい。俺と一緒に中へ突入するぞ」
「ん? 俺らが自由に選んでいい感じか?」
「あぁ、そこは任せる。敵本陣への攻め込みだ、動きやすいメンバーを選べ。選ばなかった奴は後から、湖の上から攻め込んでもらうからな! そのタイミングはオオカミ組の指示に従え!」
「おう、了解だ! おっし、そんなに時間はねぇから急ぐぜ! ライル、カステラ、辛子! 俺らの知り合いに当たっていくぞ!」
「まぁ、選ぶ基準はそうなりますか」
「知り合いねぇ? この場でいるとなると……あぁ、チラホラいるな」
「サクッと選んでいこうっと!」
あんまりボーッと見てる訳にもいかないんだけど、同じ戦場での味方の別働隊の動きは把握しておいた方がいいからなー。細かい動きまでは把握は困難だけど、基本的な方針くらいは把握しておかないと、お互いに邪魔になったらいけないしね。
とりあえず状況としては、オオカミ組の湯豆腐さんがボスの蒼弦さんの代役でこの場の指揮、ベスタと紅焔さん率いる即興の連結PTがトンネル側からの突入部隊か。
青の群集が人数を制限せずに指示を出したから、ベスタは意図的に人数を絞って連携が取りやすい方向に絞ったんだな。
ここで赤の群集がどういう動きをするかが気になるけど……地味に厄介なのは既に弥生さんとシュウさんが中にいる事か。なんとかそれをこっちの作戦に組み込めないもんかな? あれだけの戦力が、共闘とは関係なくサツキの奪還のみに割かれるのは痛いし……。
「……ケイ、時間的に猶予はどれくらい残ってるんだ?」
「あー、今は8割くらい染まったとこ。途中から少し速度が落ちてるから、下での戦闘も多少は妨害にはなってるはず」
「なるほどな。ジェイさん、すぐに動き出すか?」
アルが染まり具合を確認してきたのは、強襲をかけるタイミングを決める為か。今すぐにでも攻め込みたいとこではあるけど、より効果的なタイミングを探った方がいい。
ただ、不確定要素はやっぱり弥生さんとシュウさんか。俺らの強襲を利用して、そのまま連れ去られるのだけは避けたいんだよな。約束しているのは共闘であって、停戦じゃないからなー。……まぁだからこそ、俺らもコソコソと裏でツタを奪う作戦を考えたり出来る訳だけど。
「……そうですね。どうせならギリギリまでインクアイリーに黒く染めてもらうのもありですが、その辺はどうします? ウィルさん?」
「……そこで俺に話を振ってくるのかよ。おい、待て!? 揃って、俺の方を見てくるな!?」
おっ、ジェイさんも俺と同じ事を考えてた? というか、みんな揃ってウィルさんを見ているし、まぁ警戒するよねー。よし、この流れは利用出来る!
「いや、だってさ。どう考えても、弥生さんとシュウさんにここで動いてもらうのが効果的だし……なぁ、ジェイさん? ここで赤の群集が足並みを揃えてくれた方が、確実に仕留められるしさ?」
「えぇ、そこは同意しますよ、ケイさん。それに……私達、青の群集も、ケイさん達、灰の群集も、共に今の時点での最高ランクのスキル所持者を投入するのですが……赤の群集は、この状況で自分達の利だけを優先するのでしょうか?」
おっ、煽ってるね、ジェイさん! やれ、やれ、どんどんやっちまえー! アブソーブ系持ちの俺と風音さんとジェイさん、操作系Lv 10持ちのスリムさんがこの作戦の要として動くんだから、赤の群集も出してこいって要求は理不尽なものじゃない!
「……あー、分かったよ! ただ、弥生さんとシュウさんに限っては、頼んだからって指示通りに動いてくれるかはその時次第だからな! ちょっと話を通してくるから、それまでに強襲準備を済ませといてくれ!」
おし、勝った! 確かに弥生さんとシュウさんを意図的に動かすのは難しいとしても、それでもサツキを奪還する為に下に潜り込んではいる状況だ。今の状況に合わせた対応くらいはしてくれる可能性は高い!
「さて、それではアルマースさん、お邪魔しますよ」
「邪魔するぜ、アルマースさん」
「おう。みんなも乗ってくれ!」
おし、とにかく今はアルに全員乗っていこう! ダイヤモンドダストと霧に偽装した氷の操作の突破準備を開始だな!
「……大きさは……どうしたらいい?」
「あー、小型化は今回は無い方がいいか? 連発する必要があるだろうから行動値が減るのは痛いし……ジェイさん、攻勢付与をかけた方がいいと思う?」
「……可能であれば、あった方がいいでしょうね。風音さん、負担は大きくなりますが、並列制御で攻勢付与は可能ですか?」
「……それは……問題ない」
「では、それでお願いします。ケイさん、その上で行動値を半分切った辺りで、小型化でいかがでしょう? その後、アルマースさんの速度を上げて突っ込むと同時に、私と斬雨も強襲に入りますので」
「……それぐらいが無難なとこか。風音さん、その動きでいい?」
「……大丈夫!」
「おし、なら基本はそれで!」
実際に突破しながら微調整はする必要はあるだろうけど、いや待った。まだそれで終わりと決める訳にもいかなかったよ! 重要な部分がすっぽ抜けてる!
「あー、ちょっと聞いておきたいんだが……ジェイさんと斬雨さんは、風音さんの火の拡散魔法はどう防ぐ気だ?」
「……私の岩の操作で覆って防ごうかとは思っていますし、紅焔さんの時は実際にそれで防ぎましたが……攻勢付与ありだと厳しいかもしれませんね。なので、ヨッシさんの力を貸していただければと……」
「え、私? でも、私がジェイさんや斬雨さんにダメージを与える可能性もあるんじゃ?」
「普通にやればそうなりますが――」
「あー、ジェイさんの岩の操作の上から、氷塊の操作で覆うって感じか? それなら、ダイヤモンドダストも、霧に偽装した氷の操作も、風音さんの拡散魔法も、ヨッシさんの氷魔法の影響も最小限で済むしな」
「あ、そっか。私の氷には、風音さんの火の拡散魔法の影響は出ないもんね」
全く影響がない訳じゃないけど、味方の魔法なら相殺し合わないからこそ出来る話か。元々そのつもりで、同じ火魔法を持つ紅焔さんじゃなくて、俺らに話を持ってきたな?
共闘中とはいえ一応敵になるんだけど、その相手に完全に包まれる前提の作戦とか……無茶な事を考えるもんだな! これは信用されていると受け取っていいのか?
「……相変わらず狙いを読むのが早いですね。まぁその通りですが、ヨッシさん、頼めますか?」
「そういう事なら任せて!」
よし、これで不安材料は潰せたはず。後は、実際に動きながら微調整で! ……なんか今回はジェイさんに主導権を持っていかれてるけど、後が微妙に不安だな!
いや、今はインクアイリーを倒すのが先か。後の事は、この作戦が成功してから考えればいい。多分、そこまで時間の猶予はないだろうけど、終わってない事をしっかりと終わらせずに油断してたら失敗に繋がるから、気を引き締めていくぞ!
「ジェイ、今回はどれで行く気だ?」
「……そうですね。不用意に傭兵の方々を巻き込むのは混乱を招きますし、刺突系でピンポイントにインクアイリーだと分かる方を狙っていきましょうか。ケイさん、スミから聞いていますが、『彼岸花』というリスの方が危険そうですね? 他の方が守るように動いた、非戦闘員だとか」
「あー、まぁそりゃ聞いてるよな。青の群集として、何か知ってる事や感じる事ってない? 俺らとしては、この偽装の霧を作ってる張本人だって読みなんだけど……」
「……こちらも同じような結論ですね。最優先の標的をその方にしようかと思っていますが、サヤさん、ハーレさん、探すのはお願い出来ませんか?」
「……絶対に見つけられるとは限らないけど、任せてかな!」
「本人が見つからなくても、怪しそうな場所は見つけてみせるのです!」
「えぇ、お願いしますね」
攻撃の標的も、一応はこれで決まり……って、あれ? 俺以外はやる事が決まったけど、地味に俺のやる事が決まってない!?
いや、むしろここで明確な役割は決めてない方が色々なフォローに動きやすいか。突破出来たとしても、その先がどういう状況かも分からないし――
「弥生さんとシュウさんは、これからの動きに合わせて動いてくれると確約出来たぞ!」
「よし、それならばいい。ケイ、そっちの準備はいいか!?」
「あ、問題なし! ベスタの方は!?」
「こっちの準備は既に出来ているし、他も問題なさそうだな」
ベスタの周囲にはこれから穴を掘るスリムさんと、紅焔さん達の連結PT、ジャックさん率いる青の群集の一団、ウィルさん率いる赤の群集の一団という感じか。
一団といっても控えめにしているのか、それぞれ連結PT2つ分にも満たない程度だね。まぁ地下トンネルがものすごく広い可能性は低いだろうから、ある程度絞っていくのは当然だな。
「合図の後に、ミズキとサツキのインクアイリーからの奪還作戦を開始する! 最優先事項はインクアイリーの撃破! 群集間での奪い合いは、その後でだ!」
そのベスタの声に応えるように、みんなの声が上がっていく。今はまだミズキそのものを動かすような真似は出来ない……というか、するなという宣言だな。
まぁ今はそれが優先なのは間違いない。こうやって作戦を詰めている間にも染まり具合は9割に届こうとしているし、足の引っ張り合いをすれば……それこそインクアイリーにミズキかサツキのどちらかが乗っ取られてしまう。それだけは避けないと!
「ウィル、合図は任せた」
「おう。作戦開始だ、野郎ども! サッサと共闘を終わらせて、灰の群集も青の群集もぶっ倒すぞ!」
「おい、ウィルさん!? その号令は――」
なんかウィルさんがとんでもない号令をかけてきたな!? あー、それと同時に上空から爆発的な勢いで広がっていく炎……エクスプロードが放たれたか。これが開始の合図って事なんだろうけどさー!
「……まったく、どさくさに紛れてやってくれましたね! まぁ文句は後で言うとして……始めますよ! 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」
「はっ! あのウィルさんの言葉、後で思う存分返してやるまでだ! 『魔力集中』『白の刻印:守護』『貫通刺突』!」
「おぉ!? なんか細長い岩を2つで挟んでるのさー!?」
「なんだか、岩で出来た鞘みたいかな? あ、ジェイさんも岩の中に埋まるのかな!」
「えっと、これを氷で覆えばいいんだよね。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
サヤが鞘って言うと変な感じもするけど……まぁそこはどうでもよすぎる話だから置いておこう。斬雨さんは白光と銀光の両方が見えたから、今の段階でもうチャージに入ってるんだな。
てか、ジェイさんは岩をアルの木にも引っ付けて、ジェイさんも斬雨さんも完全に自分の視界は閉ざしてるのか。
そうしないと防ぎ切れないってのはあるんだろうけど、かなりリスクを負う真似をしてるなー。共闘中とはいえ、ここまで全面的に状況を託されるとも思ってなかったよ。
「アル、出発! 風音さん、攻勢付与をかけて火の拡散魔法を連発で! インクアイリーを潰すぞ!」
「おうよ! 『自己強化』!」
「……まずは……突破する! ……『アブソーブ・ファイア』『並列制御』『ファイアエンチャント』『ファイアディヒュース』」
さーて、インクアイリーの撃破及びミズキとサツキの奪還作戦、俺らは正面突破での陽動を開始だ! まずは、また再発動してきたダイヤモンドダストの突破から!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます