第1283話 群集支援種の奪還作戦


 俺らがジェイさん達から逃げた時の内容を、ベスタがウィルさんも含めて暴露した。ははっ! 一瞬なんでバラしたのか分からなかったけど、ベスタの意図が分かれば、これは良い一手だな!

 この情報を知ったからには、青の群集はインクアイリーを倒し終えた後に立ち去る事が出来なくなった。少なくともミズキとサツキがどういう形になるのか、それを確認するまでは。


「さて、青の群集としては放置したい状況になっただろうが、赤の群集にもこれで情報が渡った。黒の統率種の中にそういう手段を持つ傭兵がいる可能性を無視出来るか?」

「……嫌な選択肢を突き付けてきますね、ベスタさん! くっ、それを知ったからには、インクアイリーを潰しても、あのツタと傭兵を始末してしまわなければ……!」


 そうなるよなー! さっきまでなら赤の群集と俺ら灰の群集の潰し合いを放置して立ち去って他の事に専念する事が出来たけど、赤の群集でも、灰の群集でも、どちらも狙った通りに異形を動かせるという情報だもんな。

 ただの異形になってエリアボスの元まで行くだけなら、青の群集としてはどちらが勝っても問題ないから放置して、潰し合う間にカズキを占拠の為に探し出して運ぶのに集中するのが1番都合が良い。多分、それは考えていたはず。


 でも、今はそうは出来なくなった。少なくとも、情報を灰の群集へと伝えたプレイヤーがいるのは確定情報になる。赤の群集にも情報は伝わったから、人員さえいれば実行は可能。……実行可能な人がいないと考えるには、今の赤の群集は甘く見れる状態じゃない。

 どっちにしても俺らとしては、赤の群集とは戦わなきゃいけないのは変わらないけど……1対1と、1対1対1では色々と事情は変わってくる。楽かといえば、楽じゃないけどな!


「どっちにしろ、赤の群集とはインクアイリーを撃破すれば群集支援種の奪い合いだ。青の群集にもその件には付き合ってもらおうか」

「やってくれたな、ベスタさん。これで共闘が終わった後も、青の群集を巻き込もうって算段か」

「……やってくれましたね!」

「おい、ジェイ! それが本当なら、ここで睨み合ってる場合じゃねぇだろ!?」

「っ!? ……色々と言いたい事はありますが、今は飲み込んでおきますよ! あのタカが持っていたツタ、あれをインクアイリーが群集支援種の支配に使う為の鍵ですね!?」

「あぁ、そうなる。ジェイ、斬雨、あのタカはどこへ向かった?」

「……おそらく、今はもう湖の空洞の中でしょう。急がないとマズいですよ!」

「ジェイさん、マジか!?」

「ここで嘘を吐いても意味がないでしょう!」

「……そりゃそうだ」


 状況が変わった今の状況で、そんな嘘を吐く理由はどこにもないから……本当に既にツタを運び終えた後か! あー、ここでも人数が多くなってるのが逆に仇になって……いや、まだそうでもない?

 獲物察知だと傭兵の反応と普通の群集のプレイヤーの反応が同じで分かりにくいし、正常な状態の群集支援種を示す反応もプレイヤーち同じなのがややこしいけど……異形になれば、その辺に変化は出るはず。確かジャングルで、そういう風に青の群集が偽装をしていた。


「ケイさん、獲物察知は発動していますか? 完全に乗っ取られて進化に至る前なら、黒く縁取られた赤か灰色の矢印が出るはずです。支配には抵抗するので、完全に黒く染まり切るまでには少し時間がかかるはずですし……」

「それは確認中!」


 探し方としては同じ事を考えてたっぽいけど、そういや特性に『支配抵抗』ってのもあったよなー! 最初のジャングルでの戦闘以来はその辺は見てないから、その要素はすっかり忘れてたわ!

 えーと、ちゃんと思い出せ! 確か完全に乗っ取りが終わった後じゃなければ黒の暴走種にはなってなかったはず。抵抗している段階では徐々にカーソルが黒く染まっていくから、それは獲物察知で判別は可能……って、ちょっと待て!?


「ヤバっ!? 赤の群集のサツキも、灰の群集のミズキも、両方とも黒い縁取りが出てる! どっちも乗っ取られてる最中で、どんどん黒く染まっていってるぞ!」

「……ちっ、あのタカは最後の一手としての乗っ取り要員か。どうやって黒く染めているかは知らんが、その準備は万端だったようだな」


 ベスタもそういう反応になるよなー!? 獲物察知で乗っ取ってる過程は見破られるから、下手にこれまで乗っ取りは始めていなかった? もしかすると、あの支配度を上げるだけなら進化待ちの未成体じゃなくてもいけるのか?


「……はぁ、ここで黙ってるのは流石に無しだな。『支配抵抗』の数値を上げるのは『瘴気収束』を使えば可能だ」

「ウィル、それはどのくらいの時間がかかる?」

「いつから始めているかが分からないから進行度合いは不明だが、この手段はかなり時間はかかるぜ。……複数人で同時にやれば少しは早くはなるが、正直、敵に乗っ取らせて暴れさせておく方がよっぽど早いし楽だ」

「……なるほどな。レナ、瘴気収束を集団で使っている様子は……何? あぁ、分かった。無理はしない程度にやってくれ」


 ウィルさん、その情報がポンッと出てくるって事は、その辺をどこかで確実に試してるよな!? 最後の1戦になるから、ここから先はもう不要だと判断して、協力してる雰囲気を出しつつ情報を手札として出してきてるよな!?

 いや、今の状況だとそれは本気で助かる情報だけど! ……止める手段は、それこそダイヤモンドダストの連発を突破するか、下にいるレナさんや傭兵の人達に止めてもらうしかないじゃん!


「ベスタ、レナさんはなんて?」

「いくら仕留めても、次から次へと氷の昇華魔法を使われているそうだ。雑魚敵も続々と送り込んできていて回復の時間稼ぎもされていて、対処が間に合っていない状況みたいだな。その上、闇の操作で覆われて何をしてるかが分からない一角があるらしい。かなり動きが統率されている印象だ」

「どう考えても、黒く染めてるのそこだよな!? 雑魚敵も、数がくれば厄介か!」

「あぁ、十中八九そうだろうな。それとだ、ウィル。弥生とシュウが下に降りているそうだが……その報告は上がってきていないのか?」

「……ネコ夫婦がいないとは思っていましたが、そちらに行っていましたか」


 おー、まさかの弥生さんとシュウさんが湖の下へと突入をしている状況だった! いや、待て。あの強大な戦力の2人が下に行っていたなら、状況的に大暴れしてそうだし、傭兵から報告が上がってるはず? だとしたら……。


「ウィルさん、弥生さんとシュウさんに隠密作戦でも頼んだ?」

「……はぁ、レナさんがいたら流石に隠し切るのは難しいか。昇華魔法の対処は傭兵に任せて、サツキだけを助け出すようには頼んだが……それが駄目だとは言わせねぇぞ? 全員の指揮権を渡した覚えはないからな」

「ふん、共闘中とはいえ俺らは今は敵だ。そこにケチをつける気はない」


 ですよねー。状況こそ変わってそれどころじゃなくなってるけど、俺らだって裏で企んでた訳だし……。弥生さんとシュウさんの2人でなら、出し抜いてサツキを助け出すくららいはやってしまいそうだよな。


「まったく、ケイさんといい、ベスタさんといい、ウィルさんと言い、油断も隙もありませんね……」

「ジェイさんには言われたくないんだけど!?」

「……ジェイさんがそれを言うか?」

「人の事を言えた立場か?」

「揃ってそう言いますが、私こそあなた達には言われたくありませんよ!」

「あー、ジェイ? なんだかんだでそれぞれから色々と情報が揃ってきてんだし、今はそこは置いとこうぜ? ……そう呑気にしてる場合でもねぇだろ」

「……それもそうですね」


 なんというか、こういう時は斬雨さんの方が冷静なんだよなー。てか、今の台詞は俺らにも刺さってくる内容! 冗談抜きで呑気にしてる場合じゃないな。


 そうやってる間に灰の群集は紅焔さん達といつの間にかやってきてたオオカミ組のみんなが指揮を回してるし、それを元に赤の群集と青の群集の方も連携を立て直している状況にはなってる。

 とはいえ、ダイヤモンドダストと偽装の霧が突破出来ないままの状況は継続中なのが厳しい! というか、この守りが硬過ぎるわ!


「はい! さっきはジャックさんに却下されたけど、あの案はやっぱり駄目ですか!? このままじゃ埒があかないのです!」

「……あー、あれか。状況が変わったし……ジェイ、どうする?」

「いえ、どうすると聞かれましてもそのハーレさんの言う案の内容が分からないのですが……私達の戦闘中に何があったんです?」

「スリムさんを出して欲しいという提案なのさー! この湖から、南に続く地下トンネルが掘られているっぽいのです! そこへの突入口を作るのさー!」

「っ!? そこで名前を出してくるか!? ……いや、そこを配慮する義務はないか」


 まぁベスタが名前を伏せて要求した内容ではあるけど、元々その名前を出さないというのは、あくまでもベスタの配慮でしかないからなー。

 名前を出したところで、特にこっちとしては問題はないし……状況が変わったから、突っぱねられる内容でもなくなったはず。というか、大真面目にその一手が相当有効だよな。


「……なるほど、そういう事ですか。ジャック、もう出し惜しみしている場合でもないのでは……?」

「状況が変わったし、仕方ねぇか。……一応近くには来ているから、すぐにここに来てもらうのでいいか?」

「あぁ、それで問題ない。それに、赤の群集も薄々は気付いているだろうしな?」

「ま、具体的に誰かまでは分かってなかったが、青の群集に土の操作Lv10持ちがいる可能性は考えてたからな。今回はその力を借りさせてもらう。その代わりと言ったらなんだが、赤の群集の方でそのトンネルの出口は見つけたぜ」


 灰の群集の方でも捜索はしてるはずだけど、赤の群集が先に見つけちゃってる!? これ、青の群集がスリムさんの投入を決めなかったら、絶対に伏せてただろ!?

 というか、弥生さんとシュウさんに、そのトンネルを使わせてサツキを奪還する気だったんじゃね!? ……いや、むしろそこから戦力を送り込んでる最中なのかも。相変わらず、油断できないな、ウィルさん!


「……つくづく、情報は伏せてきますね。まぁ私でもそうしますが……ジャック、こちらでの捜索は?」

「探してはいるが、まだ見つけられていない状況だな。……他の群集との交戦が多いのも原因だが、赤の群集はどうやって見つけた?」

「流石に手段までは教えられないが、状況が状況だから位置なら教えるぜ。エリアの南部の方に湖があるのは分かるか?」

「えぇ、踏破は済んでいる場所なのでそれは分かりますが……もしかして、出口は湖の中ですか!?」

「その通りだ。大きな岩で塞いで、その周りを泥で偽装して隠していたぞ」

「……ほう? そういう隠し方か」


 これだけ用意周到なインクアイリーが、普通にあっさりと見つかるような隠し方にしてる訳がないよなー。それを見つけ出した赤の群集となると……なんか赤のサファリ同盟の誰かの予感。

 あ、そうしている間にフクロウのスリムさんが飛んできた。……頭の上にカタツムリが乗っているから、共生進化の状態か。

 

「ホホウ! ジャック、ジェイ、お呼びなので?」

「来たか、スリム。悪いが、とっておきを出す羽目になった」

「ホホウ、そんな予感はしていたので。それで、何をすればいいので?」

「地下トンネルが作られているそうなので、地面を掘ってそこへ突入口を作ります。ベスタさん、正確な位置は分かりますか? 真上からスリムに掘ってもらいますので」

「それはこれから確認しよう。レナ、例の地下トンネルの中へ向かってくれ。あぁ、青の群集の手を借りて、上から穴を作って突入する。……よし、動き始めたな。これで位置が分かるから、着いてきてくれ」

「ホホウ、了解なので!」


 よし、レナさんが目印となって、スリムさんが突入する為の穴を掘る共闘作戦開始だな! さーて、俺らも――


「ケイさん、少しよろしいですか?」

「ん? ジェイさん、俺らも行った方がいいんじゃ?」

「まぁそれでも構わないといえば構わないのですが……2方向から突っ込む方が、混乱は大きくなるでしょう?」

「……あれ? それって、俺らに正面突破しろって言ってる?」

「えぇ、そう言っていますよ。風音さんのファイアディヒュースで強引に突っ切って、真っ正面から大暴れは如何です? アブソーブ・ファイアがあれば流れ弾も関係ありませんしね」


 ちょ!? 無茶な事を言い出して……って、言うほど無茶な事でもないのか。実際、そういう手段でジェイさんは紅焔さんの力を借りて抜け出てきたんだし、逆に突入する手段として使えなくはない。

 ぶっちゃけ、俺も風音さんにそうしてもらって突入する手段は少し考えかけてたけど……それをこのタイミングで、陽動としてやろうって話か。


「可能だとは思うけど、風音さん的にはどうだ? ジェイさんからの発案だけど……」

「……ジェイの……発案なのは……気に入らない」

「随分とまぁ嫌われたものですね。あぁ、ケイさん達だけには任せませんし、私と斬雨も一緒に突っ込みますよ?」

「……ただ、ジェイがやり返したいだけじゃねぇ?」

「黙っていてもらえますか、斬雨?」

「へいへいっと」


 なるほど、今の反応は図星っぽいね。ジェイさんとしても殺されかけた状況だったから、それをやり返すチャンスだとも思ってる訳か。……確かに悪い手ではないし、陽動なんて今まで散々やってきたからなー。

 でも、風音さんが了承するかどうか、それ次第だな。ジェイさんとは一緒に動けないと思うのなら無理強いが出来ないし、これは完全に風音さんありきの手段になるからね。

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