第1282話 共闘を利用して
黒の統率種になったらしきコトネっぽいタカが、未成体らしきツタの敵を持ってきた事で作戦が動き出していく。表向きは赤の群集と青の群集と共同でのインクアイリーの撃破。
その裏では……俺らに頼まれた未成体のツタの生捕りと、それに成功したら赤の群集の群集支援種であるサツキの異形への進化を狙う。まぁそこまで上手くいくかは……実際にやってみるまで分からないか! あくまで共闘は崩さず、共闘が終わった後への動きだけどな。
「……ちっ、氷花! 様子見をしていた連中が動き出したぞ!」
「分かっています! ここが正念場でしょうし、こちらも迎え撃ちますよ! サイ、次の段階へ移行を!」
「あははははははは! 防戦一方だったけど、ようやく反撃開始かなー!?」
「えぇ、そうさせていただきますとも! 『アイスクリエイト』!」
「これはっ!? 斬雨、皆さんも下がってください! ダイヤモンドダストが来ます!」
「分かってるっての!」
「おわっ!? 動きが!?」
「紅焔!? くっ、これは凍結と凍傷狙い!?」
「『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』! ……湖面の氷の消失と同時に、氷の昇華魔法かい。氷花さん、これを狙っていたね?」
「……それはお教えしませんよ。まぁ結構な数が、巻き込まれてくれたようで何よりですが」
インクアイリーの撃破に動き出した途端、湖の上がキラキラと乱反射するダイヤモンドダストに覆われて、視認性が一気に悪くなった!? なんとか回避したらしきジェイさんやシュウさんの声は聞こえてきたけど、逆に紅焔さんは直撃を受けて、焦ったようなライルさんの声も聞こえてきている。
ちっ、攻め込もうにも……これは厄介過ぎる。下手に突っ込めば、あっさりと行動不能になりかねないぞ!? 対処するには、それこそ纏氷辺りでも使って寒さ対策をしないと……。
「火属性持ち、無差別で構わん! 魔法を叩き込んで、ダイヤモンドダストを削り切れ! ベスタさん、ウィルさん、異論はねぇよな?」
「状況が状況だから、それで問題ないだろう。ただ、それでダイヤモンドダストが消えたからといって、突っ込む際には油断するな! 持続時間と状態異常の確率が高い分、威力は控えめだがそれでも昇華魔法だ! 何人体制で、何回使ってくるか分からない事を意識しておけ!」
「あー、ジャックさんやベスタさんに先に言われたが、動きはそんなもんだ! 多少は巻き込まれても文句は言うなよ! インクアイリーへの攻撃に集中しろ!」
それぞれの群集の指揮のトップの3人からの指示は、今は同じものになるんだな。人によって対応策が変わってくるんだから、全体への指示としてはこれくらいが妥当か。
「ケイ、俺らはどうする?」
「視界が悪い状態を逆に利用したいとこだけど……どうするか。少しだけ考える時間をくれ」
「……あんまり時間はないだろうから、急げよ。あと、必要ないだろうからもう『発光』は切っとけよ」
「……え? あ、発動しっぱなしか!?」
偽装してた時に発動したのが、弥生さんとシュウさんから逃げるのに必死でそのままになってたわ! 今は変に目立つだけでいらないから切っておかないと!
<『発光Lv5』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 114/114 → 114/119(上限値使用:4)
よし、とりあえずはこれでいい。さてと、それじゃ全体的にダイヤモンドダストで足止めを受けている間に対策を考えようか。……その前に、これはしておいた方がいいな。ただし、他の群集の人には聞こえないように小声で!
「風音さんは火魔法で攻撃はしといてくれ」
「……使って……いいの?」
「ここで相殺にしっかり動いてるように印象付けとく。その上で出し抜いていくつもりでいてくれ」
「……分かった。……『ファイアクラスター』」
よし、今ので風音さんには意図は伝わったようで何より。しっかりと俺らのこれからの動きも伝わってるみたいだし、他の群集へ印象付けるなら使い手が限られるクラスター系の魔法が最適だよな。
風音さんが火魔法を得意としているのはバレているのに下手に何もせずにいたら、それこそ変に疑われかねない。さて、今のうちにこのどさくさに紛れて突っ込んでいく算段を立てないと……。
「よし、ダイヤモンドダストが薄れてきたぞ! もう一押しだ!」
「消えちまえ! 『ファイアインパクト』!」
「おっしゃ、消え……って、またダイヤモンドダスト!?」
「これ、俺らを進ませない気か!?」
「纏氷で……って、成熟体用の進化の軌跡がねぇ!?」
「使い捨てじゃない輝石の方を持ってるやつは、それを使え!」
「氷属性持ちで突撃班を編成していくのはどうだ!?」
「いや、人数はこっちの方が多いんだ! チマチマ火魔法で削らず、こっちは火の昇華魔法をどんどん叩き込めばいいだろ!」
「ちょ!? どさくさに紛れて、攻撃してきたのはどこのどいつだ!?」
「おい、待て! 巻き添えは気にするなって通達があっただろ!?」
「巻き添えって、中にいた場合だろ!? なんで離れてるここで当たるんだよ!」
「喧嘩してる暇があるなら、攻撃してよ! 全員が火魔法を持ってる訳じゃないんだよ!?」
「だー! 面倒くさい状況にしやがって!」
インクアイリーへの総攻撃を始めたとこなのに、いきなり崩れかけてるんだけど……。これ、大丈夫か?
それにしても……防御的な動き方をしてるのに、ダイヤモンドダストの状態異常になる確率の高さを利用して、こんな足止めの仕方をしてくるとは! 本当、厄介だな!
<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 114/119 → 114/122(上限値使用:1)
魔力集中の効果切れか。まぁ使いそうな状況じゃないからこれはそのままでいい……って、獲物察知の効果も切れたから、こっちは再発動しとかないと!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 109/122(上限値使用:1)
よし、これで……ぶっちゃけ、もう傭兵が動き出してるし、ダイヤモンドダストを囲むようにそれぞれの群集の人が散らばってて、どれがどれだか分からんわ! あー、反射的に発動し直したけど……これは無意味というか……むしろ邪魔かも。
「囲まれているのは分かっていた割に、湖の中から戦力を出してこないと思ってはいたが……こういう仕込みか。ベスタさん、ジャックさん、これは共闘が逆に動きを阻害しているぞ。使える戦力に偏りが出過ぎている」
「……共闘を妨害し切れないと判断して、逆に足並みが揃いにくいようにしてきているな。……仕方ない、下にいる傭兵を中心にしてまずは昇華魔法の発動を妨害していくのが無難だろう」
「あー、ベスタさん、灰の群集としては不本意か?」
「……傭兵は人数差から、赤の群集と青の群集に任せる範囲が大きくなるからな。レナ、羅刹達の傭兵組と共に昇華魔法の妨害に回れ。あぁ、不本意だが、この状況で下手な強行突破は目的を見失いかねん。少し無茶を言うが、偵察をしつつ妨害に動いてくれ」
ベスタとしても、この状況で他の群集の傭兵に頼るしか手がないのか。あー、まさか共闘がこういう形で仇になるとは思わなかった!
でも、レナさんも動いているし、群集への指揮は全面的にベスタに任せて、俺らは託された作戦をやっていこう。あくまで共闘の範囲内で……この制約、仕方ないとはいえ、キッツイなー。
んー、この状況で下手に突っ込めばダイヤモンドダストを打ち消す為に放っている火魔法が当たりかねないし……って、あれ? あ、そうか。風音さんなら、当たってしまっても問題ないのか!
「……紅焔さん達、一体どうなったのかな?」
「ダイヤモンドダストで見えません! というか、ダイヤモンドダストだけじゃなくなってる気がします!」
「ん? ハーレさん、それってどういう意味だ?」
「そのままの意味なのさー! 多分だけど、あの安全圏で襲ってきた偽装の霧も展開されてるのです!」
「はい!? え、マジで!?」
ちょ、いくらなんでもそれは……いや、可能性としてはあり得るのか? 見た目は似ているし、そもそも同じ氷での魔法の物だ。あの時の霧の操作精度があれば、ダイヤモンドダストに混ぜながらでも発動は可能なのかも。
「……そういえば、さっきからダイヤモンドダストが消える気配が無くなったか?」
「実際には消えてるけど、消えてるのに気付けない状況になってるのかも?」
「……厄介な……状況」
くっ、あの偽装の霧をこんな風に使ってくるのか! 昇華魔法を破るには相殺するか、発動者を攻撃してキャンセルさせる必要があるし、氷の操作を破るには黒の刻印で剥奪するか、操作時間を削り切る必要がある。
それを何人かで分担して回復を挟みながら実行は……準備さえしていれば、不可能ではないか。いつから考えてやがった、インクアイリー!
これを突破しようと思えば、おそらく昇華魔法の連発での強行突破が1番有効だけど……それだと今度は共闘が邪魔になってくる。多少の巻き添えは覚悟出来たとしても、連携なしに死ぬレベルの攻撃を何発も受ければ……共闘は瓦解する。1発ならどうにか出来ても、何発もは無理だぞ!
ちっ、人数が多くて、指揮系統が統一出来ないからこそ小回りが利かなくなってる状況じゃん! ベスタが消極的に、他の群集の傭兵に頼る手段を取るはずだよ!
「……ふぅ、なんとか切り抜けられましたか」
「厄介な真似をしやがるな、インクアイリー共!」
「あー、死ぬかと思ったぜ……」
「……実際、半分も生き残っていませんけどね」
あ、ジェイさんと斬雨さんと紅焔さんとライルさんの4人がヨロヨロと飛んできて、近くに墜落した? え、なんでこの4人? あ、カステラさんや辛子さんも一緒にいるから、全滅した訳ではないっぽい?
でも、他のメンバーの姿はないし……生き残ったのは灰の群集では飛翔連隊の人達だけなのか?
「ジェイ! そっちはどうした!?」
「ジャックですか。随分と厄介な状況になっているようですが……私と斬雨で強行突破を試みようとしたところを、空から来たタカに邪魔されましてね。それで紅焔さんの元へと落下しまして……」
「あのタカの動き、少し見ただけだが覚えはあるぜ。俺らが仕留めた、インクアイリーの『コトネ』とかいう奴だ」
「……ケイさん達と共闘を始めるキッカケになったって奴か。好戦的だとは聞いたが……仕留めた事へのリベンジか?」
「おそらくは……」
ちょ!? ダイヤモンドダストが展開されてからコトネの姿は確認出来なくなってたけど、ジェイさんと斬雨さんを襲いに行ってた!? それって、未成体のツタはどうなった!? その件を聞きたいけど……聞くに聞けない相手だよ!?
えぇい、ともかく聞ける部分で状況の確認だ! 俺が紅焔さんに戦況を聞くのは不自然じゃないだろ!
「紅焔さん達は、何がどうなったんだ?」
「あー、俺らか? ジェイさんに燃やしてもらわなけりゃ、全滅するとこだったぜ……」
「……私達以外は、安全圏まで送り返されましたけどね。ジェイさんが落ちてきて、咄嗟に紅焔へのスキルの指示出しがなければ……私達も死んでいたかと……」
「あそこでジェイさんの指示で、紅焔が発火で体温を保ちつつ、火の拡散魔法で突破口を作らなければヤバかったぞ」
「僕ら、動けなくなってたもんね」
「……共闘中でしたからね。共に生き残る手段を考えただけの事です。……自分が焼け死ぬかとも思いましたが!」
「あー、なるほど」
ジェイさんが紅焔さん達の元へ落ちたからこそ、この6人でここまで戻ってくる事が出来た訳か。ダイヤモンドダストの状態異常ばかり気にしてたけど、まともに動けなくなる上に、連発している状況だから……中に取り残されたら、普通にあっさりと死ぬんだな。
「ジェイさん、ありがとうな!」
「……誤魔化して逃げ出した方に言われましてもね?」
「そこを根に持ってるのかよ!」
「それはそうでしょう? あの時は共闘の状況こそ終わっていたので大々的に追求はしませんけども、個人的な心境はまた別の問題ですからね」
「……あー、まぁそりゃそうだ」
「ま、ありゃジェイのやり過ぎだって気もするし、過ぎた事はいいじゃねぇか!」
「本当に過ぎた事なら、斬雨の言う通りではあるんですけどね」
ん? なんか今のジェイさんの言い方は気になるんだけど……過ぎた事だとは思っていない? あ、これってなんか嫌な予感――
「さて、灰の群集の動き出しがあのタカの出現と同時にだった気がするのと……タカの持っていた未成体らしきツタは無関係なのでしょうか? なぜ、黒の統率種が瘴気の渦での転移をせずに直接飛んでくる必要があるのか、そこも気になるのですが……その答え、知っているんじゃありませんか? あの誤魔化した件は……例えばそれを伝えにきた灰の群集の傭兵の黒の統率種で、私達、青の群集や赤の群集には知られたくなく、そしてインクアイリーは口封じに動いていたと、そういう風に考えればしっくりくるんですよね。ケイさん、この推測は如何です?」
早口で捲し立てられたけど、これって具体的に何を聞いたか以外、ほぼ正解を把握してるじゃん!? あー、俺らがあの場から逃げなきゃいけない状況と、インクアイリー関係の黒の統率種の動きから推測した内容になるのか……。
黙ったままはマズいけど、かといって正解ですと言っていい内容か!? ヤバい、近くにはウィルさんだっているし、すぐに何か答えないとそれだけで合ってると言ってるようなもんだ!?
「それで間違いないが……ジェイ、それを聞いてどうする?」
「ちょ、ベスタ!?」
答えに困っていたら、ベスタが認めちゃった!? いや、でもこの場合はもうどうしようもないのか。少なくともコトネらしきタカが持っていたツタがどうなったかを確認しないと!
「……そこでベスタさんが答えますか。どうすると言われましても、伏せられている内容次第ですね」
「内容次第か。簡単に言うなら、黒の統率種の『瘴気支配』を使って群集支援種を乗っ取れる可能性についてだな。『瘴気支配』の仕様くらいは把握しているだろう?」
「……っ!? そういう内容ですか!? くっ、なぜその可能性を見落としていたのですか!?」
「……ほう? なるほど、そういう事か。確かにそれはあの場から逃げ出す理由としては十分だな」
あー、完全に言っちゃった!? ウィルさんも食いついてるし、ここでそれを暴露するってベスタは何を考えて……あ、違う! 今だからこそ、暴露に意味があるのか!
ははっ、伏せておくべき情報を逆に暴露した事で、共闘が終わった後の青の群集の動きを制限する事が出来る! まぁ決して楽になる訳じゃないし、インクアイリーの始末が先だけどさ……。
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