第1281話 機会を狙って
レナさんが単身で凍った湖内部に飛び込み、外からは獲物察知で分かる範囲の状況の偵察。そして、その間は灰の群集は紅焔さん達の連結PTが、赤の群集は弥生さんとシュウさんのネコ夫婦が、青の群集はジェイさんと斬雨さん達を筆頭にしたメンバーが時間稼ぎ中。
人数的には青の群集が1番多い気がするけど、ネコ夫婦が1番インクアイリーを抑えているような……。相変わらず、とんでもないな!?
「ベスタさん、戦力をここに集めてるってどのくらいの規模かな? それに、ここだけじゃないよね?」
「あぁ、まぁな。ここと、エリアボスの出現が予想される場所の2ヶ所へ分散させているところだ。数は、ここよりももう片方が多いぞ」
「あ、やっぱりそうなるのかな!」
「それ、ここで言っちゃっていいやつ?」
すぐ近くにウィルさんもジャックさんもいるのに、通達中で意識が逸れているだろうけど……聞こえたらマズい内容な気がするんだけど。
「別に構わん。どうせ大規模に動かせば察知されるし……もう、同様の動きがあるのは察知済みだ。なぁ? ウィル、ジャック」
「……毎度思うが、平然と会話をしながらどれだけの情報を同時に処理してるんだ、ベスタさん!? リアルタイムで報告を受けたばかりの情報じゃねぇのか、その辺!」
「ジャックさん、それがベスタさんの1番の強みだ。戦闘に巻き込めていないと、その余裕は削れん……」
「くっ!?」
あのー、なんで赤の群集と青の群集の仕切りのトップ側の人が揃って悔しそうにしてるんだ? というか、戦闘中でなければウィルさん辺りは同じ事を確実にやってるよなー!?
どちらかというと、既に動きを察知されているという情報を誤魔化そうとしたような印象を受けるんだけど……赤の群集は、何か企んでいる?
この場での戦力は人数的に赤の群集が1番少ないし……もしかして、サツキを確保するのは優先していない? どこかの群集の群集支援種を異形化させるのは必須だから、異形化させる方向で作戦を立てているとか? 他のリバイバルのメンバーの姿は1人もないし、インクアイリーの殲滅後に何か仕掛ける準備をしている可能性は高そうだ。
「さて、お喋りはここまでだ。……始まるぞ」
ベスタのその声と共に、断続的に複数の爆発音がして地面が軽く揺れた!? これ、湖の中での出来事か!? 一体、何発爆発させた!?
「……盛大にやれとは言ったが、派手にやり過ぎじゃねぇか! あー、ケイさん達がスチームエクスプロージョンを移動によく使ってるからか、異常にあれを使いたがる奴が多いんだが……?」
「そう言われても、知らないから!?」
ジャックさんの双頭のオオカミからの地味に多い視線が痛い!? でも、青の群集のそんな事情は本当に知るか! スチームエクスプロージョンでの移動とか、もうどこでも普通にやってるじゃん!
「……今のでも、まだ残っている氷がとんでもないのさー!?」
「どんな強度をしてるんだろうね、あれ」
「……謎かな?」
そこそこの広さがある湖だけど、その表面を塞いでいる氷はやっぱり異常な硬さ。……この氷、どのくらいの厚さがあるんだ?
「……紅焔さんと……2人がかりで……ギリギリ……貫通。……相当……分厚い。……多分……2メートル以上?」
「え、そこまで分厚いのか!?」
「そもそも軽く流してたが……ケイ、この湖の深さはどうなっているんだ?」
「あー、矢印を見る限りでは相当深いっぽいけど、実際の深さが分かりにくいんだよな。……ちょ、待った。これって表面の氷以上の範囲があるみたいなんだけど!?」
「……なに?」
「さっきの多数の爆発で吹っ飛んだらしき白い矢印と黒い矢印があるけど……それが俺らの真下近くまで飛んできてる!」
ちょと待てや、この光景! 湖が元々深かった可能性はあるけど、横にも広がってるのはどう考えてもおかしいだろ! そういうギミックが湖にあった可能性は否定出来ないけど、この状況でその可能性は楽観的過ぎるから!
「なるほど、レナからはそこまで報告は上がってなかったが、内部を拡張しているのか。元々、群集支援種を連れ去ってここに持ち込む算段だったのかもしれないな」
「……そうっぽいなー。ベスタ、これってエリアボスが出てくる場所に向けて、地下トンネルを掘られてる可能性は?」
「……否定は出来んな。その出口の捜索も、もう片方の動きに加えておくか」
「あー、やっぱりそうなるよな」
インクアイリーのプレイヤースキルの水準が相当高いのは、ここまでの流れで分かっている。群集が大きく動かないと競争クエストが進まないという話があったけど、それ以外にも昨日の段階で動き出さなかった理由はこの辺の下準備があったからなのかも?
赤の群集に所属した状態でここまで来て、霧の偽装で湖を覆い隠し、その間に湖の内部を掘り進めて、地下から直通の専用経路の用意……! 想像以上に厄介な事をしてくれる!
ともかく、青の群集の傭兵が無茶な攻撃をした結果、これが判明したのは大きいな。……氷の下、本気でどんな状況になってるんだ? てか、下にいたレナさん、大丈夫か!? ダイクさんはあっという間に仕留められたくらいだし、相当無茶な状況な気がする。
「あー、俺が聞くのはおかしな気もするが、今の攻撃って灰の群集の傭兵は大丈夫なのか……?」
「安心しろ、ジャック。羅刹達なら無事にキレている」
「全然安心出来る情報じゃないよな、それ!」
「灰の群集へ傭兵に来ている連中だ。一時的にキレてはいても、死なずに巻き込まれた程度なら共闘をするのには問題はねぇよ。……共闘が終わった後は知らんがな」
「どう考えても、そうなるよな! ちっ、遠慮なくやれとは言ったが……少しは自重しろ!」
なんかジャックさんが無茶な事を言ってるし、地味にレナさんがいるのを忘れてない? これ、どさくさに紛れて殺そうとしてません?
うーん、釈然としない部分はあるけど、そこに配慮してどうこう出来る相手でもないか。
「ほう? レナが上手く爆発を利用して身を隠したようだな。南部へ繋がる、地下トンネルありか。だが、暗くてどこまでかは分からないようだな」
「やっぱりあったか、地下トンネル!」
「はい! レナさんにトンネルの中を進んでもらって、上から掘るのはどうですか!? そこで封鎖して、使えなくするのです! もしくは、そこから突入なのさー!」
「ありといえばありな手段だね?」
「人を集めれば、出来そうではあるかな?」
このハーレさんの案、多分思いつきなんだろうけど……確かに手段としてはありなはず。獲物察知でレナさんらしき反応が近付いているのは分かるし、それが反応しなくなったとしても同じPTのベスタなら正確な位置は間違いなく分かる。
「さて、そういう案が出ているが……青の群集は、それに向いている最大の人員を出してくる気はあるか? 普通にやると、流石に時間が足りるか分からんからな」
「……それは即答しかねる。同等の手段を持つ人員を秘匿して、青の群集に負担を強いられる状況になりかねないしな」
「そうか。温存しておきたいというなら、まぁそれはそれで構わん。すまんな、ハーレ。そういう理由で、今の案は却下だ」
「あぅ……残念なのです……」
ベスタのは土の操作Lv10を持つスリムさんをここに連れてこいって要求なんだろうけど、ジャックさんには思いっきり突っぱねられたなー。まぁ当然といえば当然の反応か。
ぶっちゃけ、青の群集的にはここで無理をする価値は赤の群集や灰の群集より遥かに薄いはず。インクアイリーが勝っても面白くはないんだろうけど、それでもどこが勝って異形化してエリアボスの元へ辿り着いても関係はないもんな。
「なるほど、青の群集に『土の操作Lv10』持ちが出たという噂は、あながち間違いではないんだな?」
「……そこは黙秘させてもらおう」
「青の群集としては、堂々と教える訳もないか。ケイさん、その辺は実際のところどうなんだ?」
「……ウィルさん、なんで俺に聞く?」
「いや、なに。昨日の青の群集と灰の群集の総力戦、浄化の要所を中心にして戦ってたとは聞いてるからな。……覗き見をしに来てるのが、灰の群集のザックさんだけだと思うなよ?」
「……なるほど。なら、答えるまでもないんじゃね?」
「ま、そりゃそうなんだがな」
ザックさんがやってた事は、赤の群集もやってたって事か。まぁ不思議でもなんでもないし、それこそ赤のサファリ同盟の実力者の誰かがやってても不思議じゃないわ!
「まぁ今はその辺の探り合いをしてる場合でもないか。ベスタさん、赤の群集の傭兵の殴り込みの準備が出来たぜ」
「よし、ならばレナに瘴気魔法の発動のタイミングを――」
「ベスタさん、そのタイミングを伝えるのは青の群集の傭兵の方でやらせてくれ。……それで、さっきの分の巻き込みをチャラにしてもらえないか? レナさんには情報の収集に専念してもらいたいしな」
「……巻き込みに関しては本人達が納得するかどうか次第だから、確約は出来んぞ? それでいいのであれば、一応そう伝えておくが……」
「あぁ、それで構わない。さっきのは、俺の通達の仕方も悪かったからな」
「ならば、黒の統率種の発動した瘴気魔法を利用しての、傭兵の追加投入はタイミング合わせは青の群集に任せよう。ウィル、構わないか?」
「おう、こっちはそれで問題ねぇぜ!」
なんというか、利害関係の駆け引きが常に起こってるから気が抜けない状況だな! 湖の上での戦闘も膠着状態みたいだし、この赤の群集の傭兵の追加投入で何か変化があればいいんだけど……。
それにしても、俺らは一体いつまで待機していればいいんだ!? ちょいちょいどこの群集も戦力は集まってきてるけど、具体的にどの程度集まれば動き出すのか――
「……そろそろ戦力的にはいいだろう。合図と共に戦闘開始する。合図を待て!」
「ベスタさんに総指揮を任せた覚えはないんだが……まぁ、この際いいだろう。赤の群集、ベスタさんの合図と共に戦闘を開始する! いいな!」
「ま、ここで主導権を奪い合っても仕方ないか。青の群集も同様に動くぞ!」
ベスタにしてはいきなりの戦闘開始の宣言で強引に主導権を奪ったような感じだけど、なんだからしくないような? いや、この状況なら、このくらい強引な方がいいのかも。
ん? 北の方から何かが飛んできてる? まだ遠いから分かりにくいけど……あれってタカか? あれが来るのを……いや、脚で何かを掴んでいるような?
って、このタイミングで共同体のチャットが光り出した!? あー、どう考えてもあのタカと無関係じゃない内容だよな!
ヨッシ : みんな、声には出さないでね。ベスタさんから、私達に作戦の通達。風音さんには、安全圏に戻ってるダイクさんからフレンドコールで内緒に通達済みだって。
ケイ : ダイクさん、何気に重要な事をしてるな!? あー、まぁそれはいいや。それでどんな内容?
アルマース : ……あのタカが持っているのは、もしかして未成体のツル系の種族か?
ハーレ : そうみたいなのさー! それにあのタカ、なんだか動き方に見覚えがあるのです!
サヤ : 多分、あのコトネって人かな?
ケイ : え、マジか!? あー、瘴気汚染は黒の統率種に進化する事で克服した……?
ヨッシ : 多分そうだけど、克服の過程は今は重要じゃないから置いておいて。あのタカが未成体のツタを持って飛び去った様子が少し前に目撃されてて、ここに来るんじゃないかって推測はしてたんだ。
サヤ : それが今、実際に来たって事かな?
ヨッシ : うん、それをラックさん達が気付かれないように追跡しててね?
アルマース : このタイミングで俺らに話が来てるなら、あのタカを倒して、ツルを奪ってこいって事か。
ヨッシ : うん、内容としてはそうなるね。
ケイ : なるほどなー。
ヨッシさんがこうやって情報収集と情報の伝達をする事はよくあるけど、今回のはかなり無茶振りな内容だね。いや、無茶振りなのは割といつもの事か。
中途半端な相手だとあのコトネって人を相手には渡り合えないだろうし、他の群集も出し抜かないといけないもんな。この場合はツタを仕留めるのもアウトか? いや、そこはどうなんだ? 異形への進化に使う未成体が他に確保出来てるかどうか次第?
ハーレ : ツタを倒しちゃったらどうなりますか!?
ヨッシ : 一応、他にも確保はしたらしいからそれでもいいらしいよ。ただ、その場所がちょっと遠いから可能なら生捕りにしてほしいってさ。その上で、サツキの元まで辿り着くのが作戦。異形への進化は、他の人が実行するから私達は気にしなくていいって。
アルマース : 内容は分かったが、生捕りか……。
ハーレ : 無茶振りだけど、内容自体は単純明快なのさー!
サヤ : とりあえず、タカを倒す事が最優先かな? 他の群集に奪われそうになったり、生捕りが無理そうなら撃破?
ケイ : 状況次第だけど、それが無難だろうな。
共闘が成立している中での、未成体の奪い合いになる可能性か。……赤の群集と青の群集がどの程度の情報と準備をしてるかにもよるけど、生捕りは本当に難しいな!?
それに、あのコトネってタカが黒の統率種に進化した姿で持っているのも厄介だ。……好き勝手に動いてた風に見えたけど、この状況で連携を取るような動きをしてくるとはね。
さーて、さっきは僅かに見えていた程度のタカの姿がはっきり見えるようになってきた。……ウィルさんもジャックさんも、ベスタがあのタカの登場をきっかけに動き始めたのは、流石に気付いてるよなー!
「それでは戦闘を開始する! まずは黒の刻印の剥奪で、湖を覆っている氷の操作を消していけ! 消えたら、総攻撃でインクアイリーを仕留めていくぞ!」
「赤の群集、灰の群集に続け!」
「同じく青の群集もだ! 今の標的は、インクアイリーのみに絞っていけ!」
そのそれぞれの号令を元に、インクアイリーの討伐作戦開始だ! まぁ俺らは別枠の作戦で動く事になるけどな!
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