第1280話 凍った湖の内部
紅焔さんと風音さんが、ジェイさんからの過剰魔力値の供給を受けて、凍っていた湖の表面に穴を空けた。……よく考えると、あれだけの攻撃だったのに穴が空いただけで済むのもおかしいな?
その異常な耐久性……全く心当たりがない訳じゃない。昨日の青の群集の岩で組み上げられたドームも異常に丈夫だったし……Lv10に至った操作系スキルは、耐久性も上がるのか?
いや、構造を複雑化させて強度を増していたっぽいから、それをこの氷でも実行している? それこそ、何層にも分けてパズルを組み立てるような感じで……。
「紅焔、飛翔連隊とその臨時メンバーはジェイ達と連携して湖面のインクアイリーの抑えに動け! 風音は戻って、回復をしておけ!」
「……分かった」
「おうよ! 行くぜ、野郎ども!」
「「「「「「おう!」」」」」」
「さーて、また大暴れするよ! 辛子、ライル!」
「少し前まで戦ってた相手と共闘ってのも変な感じだがな!」
「とりあえずは足止めですね!」
おっと、風音さんが俺達の元へ戻ってきて、紅焔さん達は戦闘に入ったか。この動き、少しの間の時間稼ぎが目的っぽいね。
俺は俺でベスタに言われたように、中の状況を確認していこう。多分、ベスタはその情報を元にして何か作戦を立てるんだろうしさ。……俺達の回復時間を確保するのも狙いな気がする。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 54/113(上限値使用:9)
えーと、湖の内部の反応は……げっ、白い矢印や黒い矢印が思った以上に大量にあるし、水中じゃなくて空洞なら普通にこのまま戦闘が出来る状況の人ばっかりか!? それに矢印の伸び方的に、かなり深いぞ。
それに、赤い矢印と灰色の矢印が1つずつある。これってどう考えても……群集支援種のミズキとサツキだよな? やっぱり連れ去っていたのは、インクアイリーだったか!
「どうだ、ケイ? レナから敵が大量にいると報告は入ったが……上にいる敵と比べて、どの程度違う?」
「あー、そういう比較をしたかったのか。ちょい待って、内部以外もすぐに確認する」
なるほど、群集所属の人が少なければ少ないほど、この状況での比較はやりやすくなるもんな。その辺も元々戦ってた人達を下がらせた狙いの1つか。紅焔さん達の動きはスルーでいいとして、その上で人数を確認!
えーと、湖の上までで止まっている矢印の数は、多いと言えば多い。比べてみれば……白い矢印は同等数と考えても良さそうだけど、黒い矢印の数が圧倒的に違うな。
「無所属状態のメンバーは極端な数の違いはなし。だけど、黒の統率種……正確には率いられた個体の数が数倍はいるかも?」
「はっ!? もしかして、さっきの瘴気魔法での渦の大量発生を使われた可能性もありますか!?」
「すぐ側で見ていた連中がいるんだ。実行していないと思う方が無茶だろうよ」
「アルマースの言う通りだ。レナが今それを実行中なのを見つけて報告が来たところだ。レナ、もういい。流石に1人ではその数を相手にするのは厳し過ぎるから出てこい」
あー、動き回って白い矢印や黒い矢印の位置を変えている灰色の矢印があったけど、どう考えてもレナさんだよな。単独でこの中に突っ込んでいく……ってちょい待った。ダイクさんも一緒に行ったはずだけど……もしかして、もう仕留められちゃった?
まぁこれだけの戦力差だと、そうなっても仕方ないか。今入った場所に戻ってこようとしてるレナさんの方が無茶苦茶なだけ――
「出しませんよ、レナさん! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』! サイ、下にいる戦力で足止めをして下さい!」
「およ? あ、閉じ込められちゃった?」
「んー、レナ? 助けは必要?」
「あー、それは大丈夫! ここで弥生に助けてもらうのも、なんか違うしねー!」
「……氷花! ……今から閉じ込めたところで、意味があるのか!? 『爪刃乱舞』!」
「無駄でしょうが、わざわざ逃していいという事にもなりませんよ! というか、ここに強力な人が揃い過ぎでしょう!?」
「……ちっ!」
「おや、そんなに悠長に話していていいのかい? 『ウィンドインパクト』!」
「シュウさんに言われたくはありませんけど!」
「……違いない!」
「インクアイリーにまで言われているじゃないですか、シュウさん! 『アースクラスター』!」
「のほほんとした雰囲気のまま、これだけやられりゃ言いたくなるのも分かるがな! 『連閃』!」
インクアイリーの氷花とグレンの2人が言い合ってるけど、それで戦闘を継続出来ているんだから凄まじいな。他のメンバーは……あー、中には寡黙なだけで、無茶苦茶な動きをしてる人も何人かはいるんだな。最初はいなかった人達な気はするし、瘴気の渦から転移してきたか。
でも、全員が全員その水準にいる訳じゃない。……でも、湖の下にいる人の水準は不明か。湖面にあった瘴気の渦は使い果たしたのか、時間切れなのか、どっちか分からないけど、消滅はしたっぽいね。
さてと湖の内部の状況は大雑把にだけど把握は出来た。でも他の群集もいるから、まだ明確に言葉にはしていないし……そこの情報はどうしたものか?
「ベスタさん、ジェイから話は聞いている。ここで確認が出来た情報の開示があるのが、休戦と共闘をしてここまで来た条件だとな」
「あぁ、そうなるな」
ちょ!? ジェイさんと斬雨さんは戦闘中だけど、代わりにジャックさんが近付いてきて、そんな事を聞いてきた!?
あー、グレンが青の群集のカズキを仕留めたみたいな事は言ってたけど、ここまで戦闘をせずに一緒に移動してくる条件を用意してたのか。
「ベスタ、それって教えて不利にならないか?」
「いや、状況的には教えようが教えまいが大差はない。インクアイリーが守り切らない限り、この情報が分かるのは時間の問題だ」
「はっ、確かにな。インクアイリーの殲滅が終われば、全群集が入り混じっての潰し合いにしかならねぇか」
「あー、それは確かに……」
ジャックさんの言う通り、ここでインクアイリーを潰せば……その先に待っているのは、ミズキとサツキの争奪戦。自分のところの群集支援種は無傷で助け出して、そうでない方は異形への進化を狙う事になる。
青の群集は少し条件が異なるけど、異形へと進化させて誘導役にするのは狙ってくるはず。ランダムリスポーンになったカズキの捜索に人員を回す必要はあるだろうけど、どこの群集もここへ全戦力を集結させる事が出来る訳じゃないから問題にはならないか。
「その話、赤の群集も一枚噛ませてもらおうか。共闘してる状況だし、抑え込んでいる一員もいるんだ。問題ないだろう?」
「……ウィルか。どうせ、既に赤の群集の方で確認済みだろう?」
「まぁな。だが、それは青の群集も同じだと思うがな?」
「だろうな。ケイ、これはもう形だけの確認みたいなものだ。さっさと内容を言ってしまえ」
「ま、そういう事だ。その方が今、この場での動きはしやすくなるからな。その後の事は、その時だ」
もう色々とウィルさんもジャックさんもベスタもぶっちゃけ過ぎだけど、ここに至ってはどこも隠す気はないか。……共通の敵になるインクアイリーを確実に潰す為の、最後の確認ってとこだなー。
「俺が獲物察知で確認したのは、赤の群集の反応と灰の群集の反応が1つずつ。離れた位置ではなくて、近くに並んでいる感じで、それを囲むように無所属の反応が多数。位置的には、穴が空いた場所の少し北の方だな」
もうこの情報を隠す必要なさそうだし、端的に分かっている事を伝えていくのみ。そこからのやり取りは、ベスタがいるんだから任せても大丈夫だろ!
「俺から内部へ突入したレナからの報告も伝えていくぞ。一緒に突入したもう1人は即座にやられたが……ケイの獲物察知で分かった通り、ミズキとサツキは並んで捕獲されている状況だ。ただ、捕獲と言ってもダメージを与えないように大勢で囲んでいるだけで、今の時点では強引な拘束はしていないそうだ。まぁこの湖そのものが、大きな檻の役割を果たしているようだが……」
「……馬鹿みたいに頑丈な氷のようだが、それについては?」
「そこまでは知らん。ジャック、むしろ、そちらの分析を聞かせてもらってもいいか?」
「いや、こっちとしても分かってるとは言えないからな。今のは余計な事を聞いた」
あー、これはベスタもジャックさんも、どういう風にやっているかの見当は付いてるな!? その上で、説明する気はないからこうやって突っぱねてる状況か!
まぁ確実な正解を知っているのはインクアイリーだけではあるから、知らないというのは決して嘘ではないだろうしね。推測の域は出ていない状況のはず。
あ、なんか黒い矢印が増え出したんだけど……これ、瘴気魔法を使って瘴気の渦を作り出したな!? ちっ、そりゃ作り方を見てたら実行に移してくるか! これも伝えた方が――
「話を戻すぞ。ジャック、ジェイからの伝言は聞いているか?」
「あぁ、傭兵を使っての強襲作戦だな。だが、そんなに都合よくいくのか?」
「……ベスタさん、それは黒の統率種の瘴気魔法で瘴気の渦が大量発生するのを利用した作戦か? 青の群集の傭兵を、それで送り込む算段をしている?」
「察しがいいな、ウィル。それに思い至るという事は、多数の入り口が同時に出来ているのも観測済みか」
「まぁここでの目撃情報のタイミングと合わせて考えればな」
あ、他の場所で入り口が大量発生してた状態なんだ。まぁ転移の出入り口なんだから、出口が大量に生成されたら、そりゃ入り口もどこかに同じ数は生成されるよねー!
その作戦って、今みたいにインクアイリーが瘴気魔法を使ってきたのを利用して……って、まさしく今じゃん!
「ベスタ! 今、まさに瘴気魔法を使ってるっぽいんだけど!?」
「あぁ、レナから報告は上がっている。それにもう灰の群集の傭兵は、近くの入り口を探しに向かわせた」
「あ、そうなのか」
話しながら、色々やってるのは相変わらずのベスタだな! もう話が進んでいるのなら、入り口さえ見つけてしまえば羅刹や北斗さんや時雨さん……それ以外にも、人数は少ないけど灰の群集に傭兵に来てくれている人達が強襲を始めるんだな。
インクアイリーがその危険性を全く考えていないとは思えないけど、さっきの様子で瘴気の渦の大量生成は初めて知ったっぽいし、そこが付け入る隙になれば助かる!
「……なるほど、インクアイリーがあれを使うかどうかを懸念していたが……使う方を選んだか」
「外から戦力を増強するよりも、内側から戦力を増強した方がいいという判断だろうな。ただ、どうやってそれを伝えているのかが気になるが……」
ジャックさんが気にしてる事の方法は……ぶっちゃけ、群集の中にいる協力者な気がする。どこかの共同体のチャットでも使われれば、外から確認する手段はないし……。
「ジャック、ウィル、それぞれの傭兵に動員はかけられるか? 入り口が近くに出現していればになるが……中へと強襲を仕掛けるチャンスだ」
「……正直、乗ってくるか分からんがやってみよう」
「不安な返答だな、ウィル? ベスタさん、青の群集はその動きで問題ない。いか焼きが説得してくれて、協力的な状況になっているからな」
あー、いか焼きさんは元は無所属で、今は青の群集の所属だもんな。青の群集へとやってきた傭兵達と、青の群集をまとめてる人達との橋渡しをしても……って、それは赤の群集も同じじゃね!?
「……ウィルさん、不安そうなのは演技か? 実は、全然問題ないとか?」
「あー、いや、ケイさん? 別にそういう訳じゃないんだがな……」
「だったら、その不安そうな理由を言ってもらおうか! インクアイリーの傭兵利用の作戦を潰すのに、色々苦労して動いたんだしな!」
インクアイリーの存在の発覚から、色んな人にあれこれと探ってもらったり、手回しをしてもらってるしな! それなのに、ウィルさんというか赤の群集は、聞かなきゃそのままスルーを決め込もうとしてたんだし、その分の追求くらいはここでさせてもらおうか!
「分かった! それは確かに色々とあったし、説明はする! でも、先に話を通させてくれ! 時間はもうそんなに無いだろ!?」
「あぁ、時間なら心配はいらんぞ? 場合によっては、レナが瘴気収束を連発して入り口を作るからな」
「よし、時間の問題は解決……って、ベスタ!? 結構、レナさんに無茶振りしてない!?」
「出来ない事を頼んだ覚えはないぞ。それに、インクアイリーは下手にレナは仕留められんだろうからな」
「あー、下手に仕留めて報告に専念出来る状況は作りたくはないか……」
それにレナさんはインクアイリーの面々をそれなりに知っているんだし、仕留めてしまう事の方がリスクが高い状況でもあるんだな。……レナさんの顔の広さと、プレイヤースキルの高さと、観察力を全て活かした突入作戦か!
「あー、すまん。作戦の事は先に話しておいたんだが……先走って動いた連中がいたようだ。……既に突入しているとの事だ」
「何をやってるんだ、ジャックさん……」
「いや、構わん。ここから傭兵を送り込み、作戦を開始する! ウィル、赤の群集の傭兵を動かせるなら早くしないと乗り遅れても知らんぞ」
「そうくるのかよ! あー、青の群集の傭兵に出し抜かれているって理由で、俺への反発を突っぱねるか。よし、それならあいつらも動くはずだ!」
なんかサラッとウィルさんへの反発とか聞こえたけど、不安そうにしてた理由ってそれか!? そういや『リバイバル』が『インクアイリー』と裏で繋がってる疑惑が出るのを嫌がってた気もするけど……もしかして、灰の群集や青の群集からじゃなくて、赤の群集の傭兵の中でその疑惑が出たとか?
あー、色々と隠そうと動いていたのが仇となって表面化してきてるのかも? その可能性はありそうだよなー。うん、本当にありそう。
「あ、ベスタ。俺らはどうすればいいんだ? まだ待機?」
「ケイ達はもう少し回復に専念しておけ。攻め込むのは、もう少し戦力が集まってきてからだ。傭兵達の作戦は、その前の撹乱だからな」
「なるほど。そういう事なら了解っと!」
今はインクアイリーを潰す為に、戦力を集めてる最中なんだな。ここでどれだけの戦力を集められるかで……その後の結果も色々と変わってきそうだね。
いや、そこまで考えるのはまだ早い。インクアイリーは甘く見ていい相手じゃないんだし、まずはミズキを取り戻せる状況まで持っていかないとな!
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