第1278話 大量の瘴気の渦
イブキらしき禍々しい瘴気を纏った緑色の龍の放っている瘴気魔法が、上空へ大量の瘴気の渦を次々と作り出していく。この状況、完全に想定外なんだけど!?
ちょ!? 今ので作られた瘴気の渦から何かが出てきている!? ヤバっ、これは相当厄介な状況を――
「わっ!? なんかイブキさんにそっくりな龍が出てきたのさー!?」
「……え? あ、マジだ。え、だとすると、さっきまで戦ってたのって……」
……あれ? さっきまでって、本当にイブキと戦っていたのか? 今出てきたのが本当のイブキで、戦闘中の元々は風属性っぽいし黒の統率種の龍はまた別の人……?
いや、戦ってたいたのは本当にイブキで、今出てきた人が別人って可能性も――
「ハーレも、ケイも、今はそれを気にしてる場合じゃないかな!? 次々と無所属が出てきてるこの状況、どうにかしないと!」
「あっ、そりゃそうだ!」
「でも、どうしますか!?」
「瘴気魔法で大量に出来た瘴気の渦なら、纏浄にして浄化魔法で――」
「おや? これはそのような理由で発生していると? ふむふむ、それは興味深い。その方法、試してもらってみてもらっても?」
「……っ!? ……インクアイリー! ……『ファイアインパクト』」
「おやおや、いきなりで驚かせたみたいだね」
ちょ!? いきなりどこから現れた、この透き通ったクラゲの人!? というか、名前が『ライブラリ』ってなってるし、前に遭遇した何を考えてるのかよく分からないインクアイリーのメンバーの人じゃん!?
うげっ!? どこから出てきたかもよく分からないのに、風音さんの攻撃をあっさりと躱し……いや、水で受け流しているのか!
「ライブラリ! 消滅方法よりも継続時間の確認をお願いしてもよろしいですか!?」
「おやおや、氷花じゃないか。僕としては、可能性を提示された消滅方法が気になるんだけどね? 群集の人に頼むのが不本意なら、自分で――」
「いきなり出てきた相手と話をするとは随分と余裕じゃねぇか! 『拡散投擲』! 灰の暴走種もボサっと戦闘を止めてんじゃねぇよ!」
「……くっ!」
スミのそんな大声が響いて、一瞬止まっていた戦闘が再開されていく。……あー、今のはスミの言う通りだな。まだ瘴気魔法を止められていないし、これ以上瘴気の渦が増えてどんどん転移してこられてたまるか!
この龍、乱入勢のイブキなのか、インクアイリーの指揮下にある奴なのか、どこかの群集の傭兵なのか、その辺の区別が全く出来ないけど……ともかく、まだ放たれてる風の瘴気魔法を止めないと!
「ケイ、とりあえず殴って止めろ!」
「分かってる! って、これじゃキャンセル不可なのかよ!」
3、4撃目になる双打連破の吹き飛ばし効果で、放たれて続けている瘴気の混ざった風の瘴気魔法の向きこそ変わったものの、キャンセルが出来そうにない。効果が切れるまで、このまま出し続ける状況が続くのか!?
「ちっ、キャンセル不可ときたか。ケイ、俺が纏浄をして浄化魔法を使うが、いいな!?」
「それしか手段がなさそうだから、頼む! それまでこのクラゲと龍は俺らで――」
「僕は邪魔はしないから、浄化魔法での瘴気の打ち消しを見せておくれ?」
「……はい?」
「必要なら、僕がその龍の相手をするけども?」
何言ってんだ、このライブラリって人!? この龍が何者なのかは分からない状態になってるけど、どう考えてもインクアイリーにとっては都合が良い状況なのに……それを潰す手伝いをする!? いやいや、訳が分からないんだけど!?
だー! 無駄に惑わされてる場合じゃない! そのまま言葉を鵜呑みにするのも危険だけど、邪魔をしないと言うのであれば――
「ライブラリ! 今度なんでも検証に付き合うので、ここはその瘴気の渦を消させないように動いてもらえませんか!?」
「ほう? 氷花としては珍しい事もあるね? ふむ……」
「っ! アル、急げ!」
「分かっている! 『纏属進化――」
「……予定変更。さっきは邪魔しないと言ったけども、邪魔をさせてもらう事にするよ」
「ちっ!」
アルのクジラのヒレに、水魔法を叩きつけてきたのか! 少しでもダメージが発生してると纏属進化の実行は不可能だし、邪魔しないという発言を翻すのが早過ぎる!
インクアイリーを信頼していないけど、それでもこの手のひらの返しっぷりは酷い気がするわ!
「言った事を覆すのが早過ぎるのさー! 『狙撃』!」
「ここで仕留めて、邪魔はさせないかな! 『爪刃乱舞・火』!」
「おっと、これは危険だね? 『スライム化』」
「「……え?」」
ちょ!? サヤとハーレさんの攻撃は当たったはずなのに、完全にクラゲの身体をすり抜けた!? いや、違う! さっきまでHP表記だったのが身体体積って表記に変わってるから、生存条件を切り替えたのか!?
このライブラリって人、単純なクラゲじゃない? 確かこの生存条件はスライムで見た事がある。体積さえあれば、生き残れるというものだったはず。
「さて、纏属進化の妨害を狙うならこれくらいが丁度いい。『並列制御』『アクアクリエイト』『ポイズンクリエイト』! あぁ、毒性は極めて弱いから、そこは心配はいらないよ」
「いや、そういう問題じゃないからな!?」
ダメージ判定は発生するんだから、毒性の有無は関係なしに厄介なんだよ! 毒霧が届く前に、これを大急ぎで解除しないと! えぇい、まだ双打連破を使い切ってないから次のスキルの発動が出来ない!?
とりあえず適当に龍を殴っとけ! でも、邪魔にはならないように上に向けてで!
「『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』! ケイさん、ドサクサに紛れて僕らを攻撃かい?」
「あはははははははははは! ……勝負の続きは、後でだよ?」
「いや、そういうつもりはないから!? 今のは単なる事故だから!」
しまった、真上に殴りつけたつもりが朦朧が入ったみたいで、そのまま共闘の戦闘中の場所に瘴気魔法の影響が出たっぽい!? ぶっちゃけ、毒霧で見えてないけど!
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 10/107 → 10/113(上限値使用:9)
間に合わなくて飛行鎧の強制解除が防げなかった! 変な落ち方をしないように着地して……てか、まだ止まらないのかよ、この瘴気魔法!?
ちっ、確か龍が倒れたのはこの辺のはず。最後の2撃、食らっとけ! あ、手応えありだし、何かがポリゴンになって砕け散っていったから、今ので仕留められたっぽい。
あー、そういや毒を浴びた割に……毒を受けた気配はないな? うーん、このポイズンミストで視界は悪くなったけど……これは、このエリアの霧とはまた別物だから、灰の刻印で見やすくなったりはしてくれないか。
「ケイ……どうするかな? 抗毒魔法がなくても毒は受けてないから、毒性は本当に薄そうだけど……」
「どうもそうっぽいなー。アル、排除したら即座に頼む!」
「おう、了解だ!」
「……ふむ?」
毒性が強ければ危険な事にはなるけど、毒性が弱いのであれば手段はある。ポイズンミストなら暗視で多少は見えるようになるけど、それよりは毒霧そのものを消した方がいい。
<行動値上限を10使用して『アブソーブ・アクア』を発動します> 行動値 10/113 → 10/103(上限値使用:19)
地味にヨッシさんが黙っているのが気になるけど、状況が状況だからみんなに報告をしてくれてる途中な気がするよ。今の状況、どう考えても異常事態だしな!
その状況を打破する為にも、アブソーブ・アクアを展開してポイズンミストの水部分だけ吸収してしまえ! これだと濃縮された毒が雨みたいに降ってくるけど、まぁ毒性が弱いなら大丈夫なはず。
あー、うっわー。視界が晴れたと思ったら、地上にも瘴気の渦が大量発生してる。しまったな、これはちょっとやらかしたかも……。
「『纏属進化・纏浄』! おい、ケイ? なんで瘴気の渦の大量発生場所が2ヶ所に分かれてる?」
「それ、わざとじゃないから! とりあえず上空のやつを消してくれ!」
「……今はどうこう言ってる場合でもないか。『並列制御』『浄化の光』『アクアクリエイト』!」
上空に発生していた瘴気の渦が多かった場所に、温かな光を放つ滝が生成されて打ち消していっている。……アルの木とクジラのHPが一気に消し飛んでるけど、これが浄化魔法のデメリットだから仕方ない。仕方ないけど、それをフォローするのが今の俺らがするべき事!
「みんな、アルの浄化魔法の発動が終わって回復するまでは守り切るぞ!」
「もちろんかな!」
「今度は、その体積を吹っ飛ばすのさー!」
「……守り……切る!」
「了解! あ、今の状況は報告完了ね!」
「ナイスだ、ヨッシさん! ちっ、全部は消し切れそうにないか!?」
あー、俺が途中で方向を大きく変えちゃったせいで、瘴気の渦が出来てる位置がズレて……1回の浄化魔法だけでは消滅し切れなくなったっぽいな。……なんだかすみません!
「ライブラリ!? なぜ、ボーッと見ているだけなのです!?」
「ん? いやいや、インクアイリーには所持者がいなかったスキルを見れた上に、瘴気の渦を消す光景を見れているんだよ? なぜ、そこで見学を中断しないといけないんだい?」
「……はぁ、あなたという人は……いえ、こうなるのは分かっていた事ですし、これ以上は言いませんよ」
「あはははははは! 相変わらずだね、ライブラリさん! 氷花さん、地味に苦労してる?」
「……そう思うのでしたら、ここは引いてもらっても構いませんか? 弥生さん。随分と手加減をして動いているようですし、全力でやる気がないなら――」
「お断りだね! さーて、そろそろ行動値も全快したし、そういう事を言うなら、シュウさん、いい?」
ちょ!? 今まで周りを巻き込む事なく戦ってると思ったら、行動値の回復をする為に手加減して動いてた!? いや、普段通りの弥生さんの動きだと巻き添えが出るのは確実だし、その辺を抑えるのは当たり前か。
なんというか、今の流れで戦闘の動きが全体的に止まったね? インクアイリーとしても、どの群集としても、ここからの動きは決して無視出来ない状況だからか。弥生さんがどう動くか、それによって戦況が大きく変わるもんな。
今の状況、下手に弥生さんの大暴れは認めない方がいいだろうけど、それをどうやって伝えたもんか……。今いる灰の群集の人、交流が今までない人達なんだよな。
「状況が状況だから、遠慮なくとは言い辛いとこだけど……ジャックさん、弥生の好きなように暴れさせてもいいかい?」
「……シュウさん、それは巻き添えが出てもいいかという確認か?」
「端的に言えばそうなるね。灰の群集は……これは誰に確認を取ればいいんだい?」
「その判断は、グリーズ・リベルテの方で! 俺らはそっちで決めた方針に従うぜ!」
「「「「「おう!」」」」」
「ちょ、俺らが代表!?」
なんか味方だけど全然知らない人達から、この場の判断を任されたんだけど!? いや、こうして全面的に任せてくれるのはむしろ都合はいいか! 俺の判断で決められるのは大きい!
「アルさん、今のうちに回復を!」
「大急ぎでやらないと、死んじゃうのさー!」
「分かってる! 『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』!」
サヤと風音さんが周囲の警戒をしつつ、ハーレさんとヨッシさんの2人がかりでクジラの口の中に回復アイテムを続々と放り込んでいる。……妙な戦闘の停滞状況にはなってるけど、そのおかげでアルが死ぬ可能性はかなり低くなったか。
「ジャック、悪いが俺はそれには反対だ」
「まぁ俺もそう思っているが……スミ、それはどういう理由でだ?」
「本音を言えば、ただ気に入らねぇってだけだが……それを差し引いても、共闘で連携が取れなくなるのはインクアイリーに有利に働くからだな。俺らにとっては、不利にしか働かねぇ」
「……確かにな。俺と理由は同じか」
「灰の暴走種! そっちの意見はどうだ!?」
またその呼び方かよ! あー、もうそこは気にするだけ無駄として……確かにスミの主張自体はもっともな内容か。弥生さんの暴走状態は間違いなく強いけど……共闘の状況ではデメリットの方が遥かに上回るよな。
シュウさんがいる事である程度の制御は効くんだろうけど、それなら弥生さんは突出して暴れる戦力としてではなく、シュウさんと連携して共闘で足並みを揃えられる状況の方がいい。
「この件はスミに同意で! インクアイリーが有利になる状況は作りたくない!」
「だそうだぜ、シュウさん?」
「まぁ状況を考えると、そういう判断になるのは仕方ないね。弥生、今回は大暴れはなしで、連携して動いていくよ」
「うん、それで決定! 残念だったね、氷花さん。戦闘を止めたとこを考えると、私に大暴れして欲しかったんじゃない?」
ふぅ、これで弥生さんの大暴れの可能性は低くなった。本当にシュウさんがストッパーになってて、シュウさんさえいれば弥生さんとの連携も可能なんだな。
インクアイリーが戦闘を止めたのは、俺らに巻き添えの同意を出させる為か。まぁわざわざ相手の有利になるようにはしないけどな! ……瘴気の渦、変に残る形にしちゃったけども!
「本音を言えばそうですね。……簡単な相手ではないとは思っていましたが、つくづく厄介な方々が揃っているようで」
「ははは、それが面白いんじゃないかい? 氷花、僕は最初にこの件を持ち込んできた彼が来た時に言ったはずだよ。『簡単に成功出来るはずがない』とね?」
「えぇ、それは承知の上ですよ、ライブラリ。元より、ただの逆恨みの情報源には興味はありませんけど……難しいからこそ、やり甲斐があるんじゃないですか」
「まぁそこには同意するけども、この場は検証をするには少し人が多過ぎる。僕は位置を変えるとするよ」
「……本当に勝手ですね、あなたは!」
「僕らはそういう集まりじゃなかったかい? まぁ、健闘は祈っておくよ」
あー、なんか知らないけど……クラゲのライブラリって人が立ち去っていこうとしてるんだけど、これはスルーしてもいいのか!? 内輪揉めなのか、これは……?
というか、地味に逆恨みの情報源とか言ってるし、やっぱり話を持ち込んだのはドライアなのか? うーん、今はそれどころじゃないな。
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