第1277話 変わりゆく状況


 弥生さんとシュウさんから逃げる為に、ちょっと無茶をして今いる湖がいる場所にやってきた。そうしてみれば、何やらインクアイリーのメンバーが結構集まっている状況かつ、全群集での共闘が成立している状況でもあった。

 こういう形で逃げ切れるとは想定してなかったけど、まぁそういう事もあるか。とりあえず、色々と回復をしていってるところだけど……状況の整理も必要かも。


 ヨッシさんがその辺を確認しに行ってくれてるから、情報待ちだね。俺と風音さんの消耗が特に激しいから、大人しく回復優先で……。

 決して呑気にしている訳じゃなく、冗談抜きで回復しないと参戦出来る状況じゃないからなー。……少し離れたところで戦闘が繰り広げられているのを見てるだけってのも、心苦しい!


「情報確認してきたよ。既にここの話は出てきてるみたいで、近くにいる人が集まってこようとしてる最中だって。でも、あちこちで戦闘になってて、中々集まれてないみたい」

「あー、もしかして共闘になってる情報が正しく伝わってないとか?」

「それもあるみたいだけど、目の前に共闘して倒す相手がいない状況で共闘に向けて動くのが難しいみたいだね。休戦にしてここまで一緒に来るより、お互いに相手を潰して後の有利を得ようとしてる感じ?」

「それは中々厄介な状況なのです!?」

「……でも、自分達以外の戦力が集まり過ぎると……インクアイリーを仕留めた後が大変な事になりそうかな?」

「……弥生さんとシュウさんを見てると、それは否定出来んな」

「……強敵……過ぎる」

「ぶっちゃけ、そうなるよなー」


 インクアイリーはもちろん倒さなければいけないけども、そこを倒せば終わりという訳じゃないのがややこしい部分か。俺らとしては、インクアイリーとネコ夫婦が共倒れになってくれるのが理想だけど……そんなに上手くいくはずもない。


「ヨッシさん、俺らが逃げ回ってた件は?」

「えっと、逃げてた様子はあちこちで目撃されてるけど、あの2人相手だと下手に手を出す方が危険だし、他への影響は薄いから私達に丸投げになってたみたいだね。まぁこれは仕方ないんじゃない?」

「……ですよねー」


 強力過ぎる弥生さんとシュウさんを、逃げている状況とはいえ引きつけていたんだしなー。下手に手出しをするよりは、俺らが死ぬまで任せておく方が他へと戦力が回しやすいって判断は分かる。

 分かるけど、ちょっと薄情過ぎませんかねー!? いや、俺だって多分他の人がそういう状況だったなら、無茶して助けに入るよりもそういう判断をしただろうけど! ……ふー、落ち着け。自分でもそう判断するくらいなんだから、割と理不尽な怒り方をしてるぞ、俺! ……よし、切り替えていこう!


「ヨッシさん、それぞれの群集支援種の捜索状況はどうなっている?」

「その辺はようやく捜索部隊の編成が終わって捜索が始まったとこ。……私達が逃げてる間の話だから、そこまで動きは進んでないよ?」

「……そうか。体感的にはもっと長時間かと思ったが、実際にはその程度か」


 アルが気にするのは分かるけども、まぁまだ大して動きが出ていないというのは仕方ないか。俺らだって捜索方針を決定して出発する寸前に弥生さんとシュウさんからの襲撃を受けて、ついさっきまで逃げてたんだしなー。

 その割には思った以上に南下する結果にはなってるけど、まだエリアボスが出現しそうな場所には辿り着いていないか。現在地としては、南北では4分の3くらい進んだところで、東西ではほぼ中央付近。


「はい! 捜索の動き始めの中で、見つけた怪しい場所がここになりますか!?」

「うん、そうみたいだね。ここのすぐ近くにいた人達が湖を確認しにきた時に、インクアイリーが集結してるのを見つけたんだって。ただ、群集支援種がいるかどうかは未確認みたい?」

「……群集支援種を……ここから……運び出す為に……戦力を……集めた? ……それとも……本命を隠す……陽動?」

「湖が凍り付いてて中の様子が分からないから、そこは何とも言えないみたい。あ、ケイさん、ここで『獲物察知』を使ってみてほしいってさ。どうも、ここで戦ってる人達の中で持ってる人がいないみたいでね?」

「あ、そうなのか。まぁそういう事もあるか。おし、それは任せとけ!」


 獲物察知の妨害をされている可能性もあるんだろうけど、それでもこれは確実に試しておくべき内容だな。氷も水自体が透き通ってないから、中の様子までは見えない状況だしね。……この氷、なんとも嫌な感じだ。

 まだ全快には程遠いけど、他の群集には獲物察知持ちがいて、既に把握している可能性も考えられるんだから、可能な時に確認はしておくべきだな。早速やっておきますか!


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 40/113(上限値使用:9)


 養分吸収で回復速度を少し早めて、その上で成熟体での自然回復速度の上昇も合わせても、まだこの程度の回復か。中途半端な状況で参戦しても邪魔になりかねないし、もう少し回復は必要だな……。

 それは仕方ないと割り切るとして、今は反応の確認! えーと……あ、これは駄目だ。妨害されているみたいで、湖の上で戦っているのが見えている人達の反応すら出ていない状況か。


「軽く見た感じ、湖を中心にして獲物察知は妨害されてるな。ただ、ここに近付いてきてる反応は……白も黒も赤も青も灰も、全て出てる。戦闘中って感じで、中々進めてないっぽいけど」

「全てで増援が来てるのさー!?」

「……ある意味、俺らがここに来れたのは奇跡じゃねぇか?」

「そうかもなー」


 もしかすると知らない間に戦闘中の人達を吹っ飛ばして逃げてたのかもしれないけど、そこは知らん! こっちはこっちで逃げるのに必死だったから――


「っ!? 瘴気の渦かな!?」

「まだ回復が十分じゃないってのに、こういうタイミングで出てくるのかよ!」


 この瘴気の渦での転移は狙った位置には出せないみたいなのに……はぁ、文句を言ってる場合でもないか。この手段で現れるならインクアイリーの増援の可能性は高いし、黒の統率種で統率した個体を一気に送り込む為に何度も転移を繰り返してきたって事も考えられる。


「みんな、回復は不十分だけど戦闘体勢! もし黒の統率種で、統率した個体の中にツタがいれば、最優先で撃破するぞ!」

「ここに群集支援種がいる可能性があるなら、それを乗っ取る為の個体を送り込む可能性もあるって事か。だが、瘴気の渦に飛び込んだら進化するんじゃねぇか?」

「そこは実際どうかは分からないから、進化しないものとして想定して動く! リスクが高い方を想定した方がいいしさ!」

「ま、そりゃそうだな」


 あの灰の群集の傭兵の人が、サルとツタの異形で伝えてくれた重要な内容だからな。インクアイリーはその情報を得ているみたいだから、ここでミズキかサツキを乗っ取った状態で異形に進化させて、エリアボスの元まで進んでいくつもりの可能性は十分過ぎるほどにある!


「またイブキさんって可能性はありますか!?」

「あー、無いとは言えないけど、それでも瞬殺で! ただ、赤の群集と青の群集の傭兵の場合は、攻撃は無しで! ここだと、共闘が成立する相手だしな」

「はっ!? そういえばそうなのです!?」

「……傭兵相手に下手に攻撃すると、それこそマズいかな」

「特に私達はね」


 俺は共闘する為の協議に参加しているんだから、グリーズ・リベルテとしては共闘を反故にするような動きは絶対に出来ない。だから、その部分は慎重に判断しないといけないけど……よし、姿が見えてきた!


「……瘴気を纏った黒いカーソルの緑色の龍って、本当にイブキじゃね!? どういう遭遇確率をしてんの!?」

「……次に会ったら……敵!」

「あー、まぁ確かにそりゃそうだ!」


 風音さんの言ってるように、イブキとは次に会ったら完全に敵だと話してはいた。だから、この龍がイブキだろうが遠慮はいらない! 全力でぶっ倒すのみ!

 って、俺らを見て即座に飛び上ろうとしてるけど、させるか! ぶっちゃけ、ここで出てきたのがイブキの可能性が高いのは、状況判断的には1番楽でありがたいしな! 何の遠慮もなくぶっ倒せる!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv:アースクリエイト』を発動します> 行動値 39/113(上限値使用:9): 魔力値 254/306

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 20/113(上限値使用:9)


 よし、脚を岩で固めて飛び上がるのは阻止! って、あんまり回復してないのにここで応用スキルを使ったのは……まぁいいや!


「みんな、一斉攻撃! 一気に仕留めるぞ!」

「はーい! 『白の刻印:増加』『拡散投擲』!」

「了解! 風属性の龍なら冷気には相当弱いよね! 『アイスクリエイト』『氷雪の操作』!」


 おー、一気にハーレさんがダメージを与えた後に、ヨッシさんがイブキらしき龍の周囲に漂わせた冷気が動きを盛大に鈍らせていくね。風属性は氷属性が弱点だし、黒の統率種になっても元々の弱点部分が補われる訳じゃないんだな。

 おっと、暴れて逃げるのが難しいと判断したのか、俺の岩へ風魔法を撃ち込み始めたか! ちっ、土属性だと風属性との相性が悪いから、操作時間の減りが早い!?


「おっと、拘束は破らせねぇぜ? 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「アル、サンキュー!」

「ここで逃す訳にもいかねぇからな」


 アルの生成した水で俺の生成した岩を覆う形にして、風魔法への防御にしてくれたな。まぁ捕まえているのが脚だけだし、生成量が多くないから水の操作で十分な範囲!

 状況的に複数人での袋叩きではあるけど、競争クエストで人数差に文句をつけるのは無意味だしね! まぁそもそも喋れない状況だし、喋れても人数差を理由に見逃しはしない! ……人数が少ない方が不利とも限らないのは、ちょっと前に痛感したところだしな!


「『略:突撃』『爪刃双閃舞・風』! あ、これはあんまり相性が良くないかな!?」

「……属性を……変えた方が……いい? ……『ファイアウィークン』」

「これが終わったら変えるかな!」


 あー、サヤは風属性にしたままになってるから、地味に相性が悪いみたいで思ったほどのダメージが出ていないっぽい。まぁ風属性の追撃でも一応は物理攻撃ではあるし、直接斬りに行ってるから問題になるほどではないけどさ。

 連撃中だから、途中で属性を切り替えようにも終わらなければ無理か。風音さんが魔法砲撃にして『火属性耐性低下(特大)』にしたけど、これが操作属性付与での属性にどれだけ影響があるのか……そういや、知らないな?


 おっと、脚に緑色の魔力集中が出たって事は、脱出を最優先にしてきたか。それなら力を入れて破壊してくるタイミングで……よし、今!


「おぉ!? 岩が消えて、蹴りが空振りになったのさー!?」

「おし、成功! アル、根での拘束に切り替え!」

「おうよ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」


 わっはっは! 拘束を破ってくるのが分かっていれば、そのタイミングをズラして空振りにする事も出来る! 逃げ切れなかった逃亡の後で少し鬱憤も溜まってるから、その八つ当たりを少しさせてもらおうか!


「今度は鱗を飛ばしてきたかな!? 『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『爪刃乱舞・火』!」

「サヤ、ナイスだ!」

「追撃、いくかな! 『連閃・火』!」


 アルの根を断ち切ろうと飛ばしてきた鱗を、サヤが見事に全部叩き落として、そのまま竜を足場にイブキらしき龍へと斬り刻みにいった。

 おぉ、明確にさっきまでと威力が段違いだな! この感じだとファイアウィークンでの火属性の耐性低下も結構効いているっぽい? どうも操作属性付与の属性ダメージにも有効みたいだし、これは良い事を知った気がするね。


「結構効いてはいるが、流石にこうも暴れられると根の操作だけだと拘束し切れんぞ?」

「あー、確かになー」


 まだみんな回復し切ってないから、大技を連発出来る状況じゃない。ここで昇華魔法まで使ったら……流石に後がキツい。一応半分以上は削れてはいるから、ここからアクアウィークンで水属性の耐性を下げて、水の付与魔法で攻勢付与をかけつつ、白の刻印の増幅で一気に――


「わっ!? 何か仕掛けてくるのです!?」

「これ、瘴気魔法じゃない!?」

「ここで、それかな!?」


 くっ、龍の口に禍々しい瘴気と風が生成されていく様子が魔力視で見えてるから、瘴気魔法で間違いないか! ……サヤは、タイミング的に無理そうだし、大急ぎでこれだ!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 20/113 → 20/107(上限値使用:15)


 思考操作で飛行鎧を展開して、一気に龍の口の前に! 魔法でやって耐え切られても困るし、吹き飛ばし効果があるスキルでいく!


<行動値を10消費して『双打連破Lv1』を発動します>  行動値 10/107(上限値使用:15)


 サヤに頭を殴り飛ばしてもらいたかったけど、連閃の最後の一撃を振り切ったタイミングじゃ無理だったからな!


「余計な悪足掻きはここまでだっての!」


 狙いは口からの延長線上だろうから、顎を下から殴り飛ばして上を向けてやる! よし、ギリギリなんとか間に合った! って、キャンセルになってない!? 少し殴るタイミングが早くて……あれ? そもそも瘴気魔法って、昇華魔法と同じように強制キャンセルって出来たっけ?


「おい、ケイ! 瘴気魔法の直撃は凌いだが、放たれた上がなんか変だぞ!?」

「……上? って、なんか瘴気の渦が大量に出来てるじゃん!?」

「……これは……何が……起きたの?」

「はっ!? 既に瘴気たっぷりな黒の統率種って、瘴気汚染はどうなりますか!?」

「え? それは……汚染になりようがないかな!?」

「……これ、もしかすると黒の統率種が瘴気魔法を使った時の固有の効果なのかも!」

「その可能性、高そうだよなー!?」


 ここにきて、まだ知らない要素が出てくるんかい! てか、なんだかイブキらしき龍の動きが完全に止まって呆けてるっぽいけど、やった本人自体が想定外って反応だな!? ……これ、どうなんの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る