第1276話 切り抜けるには
シュウさんと弥生を相手に、全力で逃げ出しても逃げ切れないとは思わなかった。冗談抜きで、よく峡谷エリアでこのネコ夫婦に勝てたな!?
いや、慌てずにあの勝てた時の事を思い出すんだ! あの時の状況にこそ、この窮地を脱するヒントがあるはず! 確か……ハーレさんの『狙撃Lv10』が弥生さんの意表を突いた形になって、少し隙が出来たところへ俺が猛攻を叩き込んで、そこからシュウさんが弥生さんを庇う感じで総崩れに……って、簡単に再現出来るかー!
シュウさんは弥生さんが、弥生さんはシュウさんが、お互いにピンチになれば冷静さを崩すっぽいけど、言うのは簡単だけどやるのは厳し過ぎるわ! 同じ手が通じる相手じゃないしなー!?
「わー!? もう追いつかれるのです!」
「ちっ! これ以上、速度はどうしようもねぇぞ!?」
ヤバい、ヤバい、ヤバい! もう行動値は余裕がないのに、追いつかれたら本格的にどうしようもない! この場で有効な意表を突く手段なんて……無ければ、今この場で用意するしかないか!
考えろ、考えろ 、考えろ! 今この場にある手札で、シュウさんと弥生さんの想定を超えるだけのものは何が出来る!? ……よし、一か八かだ! マップにあるこの位置までなんとか行けたら、多少は状況が変わる可能性はある! 正直、賭けだけど! 状況次第では更なる窮地に追い込まれるけども!
「アル、俺に水の攻勢付与!」
「は!? おい待て、それは――」
「時間がないから急いでくれ! 安定した手段は思いつかないから、賭けに出る!」
「……ケイに賭けるからな! 『アクアエンチャント』!」
俺の周りへと水の攻勢付与の水球が3つ漂い出して、その過程としてアルの乗っていた水流は解除になった。でも、これが狙い!
「……ここで減速かい? 弥生、警戒していくよ。ケイさんが大技を仕掛けてきそうだしね」
「何か企んでそうだもんね。でも、逃しはしないよ!」
水流の操作を切って、俺への攻勢付与で迎撃を考えてると思ってるんだろうけど……まぁそれじゃ意表は突けないからなー! やるのは、こうだ!
「風音さん、みんなの固定! アル、180度旋回してそのまま突撃!」
「は? あー、ともかくやるしかねぇな! 『旋回』『重突撃』!」
「……っ! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
「くっ! これは!?」
「避けるよ、シュウさん!」
よし、この状況で真正面に向き直った弥生さんとシュウさんがビックリしてる様子だな! かなり無茶な挙動だけど、風音さんの固定が早くて助かるわ! 生成出来るだけの魔力値は回復してたみたいで何よりだし、これだけじゃ賭けにも足りないから次の1手といこうか!
「「ケイさん!?」」
「ケイ!? それってどうする気かな!?」
アルのクジラの背に向けてハサミを突きつけているのを見てみんなの驚きの声が聞こえてくるけど、まぁそこは気にしない! というか、気にしてる場合じゃない!
<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 4/113(上限値使用:9): 魔力値 153/306
そのまま逃げていて逃げ切れないなら、逃げ方を変えるだけ! ギリギリだけど、それが出来るだけの行動値と魔力値はまだ残っているから、とりあえずアルを地面に叩き落とす!
「わわっ! ストップ、ストップ!」
「……これは思い切った事をするね」
よし、思いっきり森へとアルが突っ込んで、重突撃で木々をどんどん薙ぎ倒していってる。それに、真下への急な移動で弥生さんとシュウさんは俺らを通り過ぎた状況! ははっ、この逃亡経路は流石に予想外だったっぽいな!
「ケイ、まだ何かあるならさっさとやれ!」
「当然!」
分かってるね、アル! 今の状況では、ただ単に強引な形で森に降りただけ。弥生さんとシュウさんからの追跡から逃れられた訳じゃない。まぁこれからやる事でも逃げ切れる訳じゃないし……だからこその賭けだ。
でも、もしこの先に誰かがいるとすれば……味方なら増援が頼めるはず! 青の群集なら強引に巻き込めばいいし……避けたいのは赤の群集だけがいる状況! インクアイリーがいたら、共闘に持ち込む!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 3/113(上限値使用:9): 魔力値 150/306
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 1/113(上限値使用:9): 魔力値 147/306
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/306
あー、かなり魔力を消費した後だから威力は控えめだけど……まぁ状況が状況だから仕方ない。ともかく、盛大に放水しまくって目の前の木々を薙ぎ倒していくまで!
「サヤ、ハーレさん、俺が破壊し切れなかった邪魔な木の排除を頼む! ヨッシさんは防御を任せた!」
「このまま森を破壊しながら突っ切る気かな!? 『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『爪刃乱舞・風』!」
「『連投敵』! はっ!? この先にも湖があるのです! そこなら、群集支援種を探してる誰かがいるかもしれないのさー!」
「要はそこまで逃げ切ろうって事だね!」
「それで正解! 真上を通り過ぎていったのは多分気付いてるだろうし、この破壊音でも近付いているのは分かるはず! 味方さえいえば、なんとか打開策にはなる!」
ぶっちゃけ、あの状況から出来る事はこれくらいしか思いつかなかった! だけど、逃げてる最中に通り越した場所に、ミズキの捜索場所の1つの湖があったのはラッキーな状況ではあるからね!
リスクはもちろんあるけど、このまま逃げ切れずに仕留められるよりはよっぽどマシだ! 赤の群集がいるなら、もう仕留められるのは覚悟して乱入して暴発でも使ってサツキの捜索の邪魔でもしてやろうじゃん!
「無茶な賭けだな、おい!? 味方がいるのを祈るしかねぇな。だったら、速度を上げるぞ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「……揺れまくってるけど……固定は……任せて!」
「おわっ!? あ、破壊してない範囲の木に掴まって速度を上げてるのか!」
「無茶に無茶を重ねないと、現状はどうにもならんからな!」
「確かになー!」
もうこれでどうにもならないのなら、完全に万策尽きて仕留められるだけ! いっそ、初めから逃げずに真っ向から戦った方が良かったのかもしれないけど……襲われたタイミングが悪過ぎたし、今更言ってもどうしようもない!
「あはははははははははは! 凄い逃げ方をしてくれるね!」
「ここまで逃げに徹されるとは思わなかったけど、逃げるにしても無茶苦茶な手段を使ってくるものだね。……ただ、状況次第では仕留められるか分からなくなってきたよ? さっき、この先の辺りは見ただろう?」
「あー、そういえばそうだねー。だったら、その前に仕留めるまで!」
「させないよ! 『並列制御』『アイスウォール』『アイスウォール』!」
「邪魔な氷だね。『光の操作』!」
「え、光の収束で氷を溶かすの!?」
「近付けさせないのさー! 『連速投擲』!」
「あはははははは! 花粉弾は下手に落とせないから狙いはいいけど、甘い、甘い、甘い!」
「あぅ!? 動きが速いのさー!?」
後ろでどういう戦闘が繰り広げられてるのかが分からないけど、無茶苦茶な戦闘になってるっぽいのはなんとなく分かる! やっぱりとんでもないな、このネコ夫婦は!
てか、この先の状況を知ってるみたいな会話が聞こえた気がするんだけど!? ……あの追いかけてきてる状況で、その辺まで把握してたのかよ! あー、頼むから俺らにとって悪い状況じゃない事を祈る!
「あ、ヤバっ!? ウォーターフォールの効果切れ!?」
「あと少しで湖だから、そこは任せてかな! 『双爪撃・風』!」
「サヤ、ナイス!」
よし、サヤが飛ばした風の刃で斬り倒された木の先には湖が見えた! なんとか目的地まで逃げ切れたし、他のプレイヤーが結構いる様子!
「おし、森を抜けたぞ!」
「ケイ! 灰の群集の人はいるかな!」
「どうもそうっぽいな!」
なんだか戦闘中っぽいけど……赤の群集や青の群集もいる? って、ちょっと待て!? 氷属性の桜の木を中心にして、白いカーソルのプレイヤーが複数人いるって、この状況はもしかして――
「あーあ、仕留めきれなかったなー! 『インクアイリー』って、今回は本当に邪魔だよねー! ねぇ、そう思わない、氷花さん?」
「っ!? 『アイスウォール』! どういう登場の仕方をしてくるんですか、弥生さん!?」
「あはははははは! まぁこっちにはこっちの事情があってねー?」
「くっ! 『赤のサファリ同盟』が共闘で動くとは想定していませんよ!」
ちょ!? 俺らを追い抜いて、弥生さんが氷の桜の氷花って人に攻撃を仕掛けていった!? え、普通に話しているし、なんか知り合いっぽい?
「僕らとしては別にインクアイリーは無視してもいいんだけど……ケイさん達はリベンジ相手ではあっても、友人でもあるからね。この場は、群集としての共闘を優先させてもらうよ。『アースクラスター』!」
「とんでもない鬼ごっこを続けているのが見えたと思ったら、ここで共闘か。『赤のサファリ同盟』と『グリーズ・リベルテ』の双方は、この場で共闘に参加という認識で構わないな!?」
えっと、呼びかけてきたのは……あ、青の群集のジャックさんか! 俺が選んで突っ込んできた場所だけど、状況がイマイチ飲み込め切れてないけど……それでもインクアイリーへの対処の為に共闘が発生中だというのは理解出来た。だったら、ここでの返事はこれしかない!
「グリーズ・リベルテは共闘に参加するので問題ない!」
「私とシュウさんも、それで問題ないよー! さーて、サツキを返してもらうよ!」
「ミズキを奪うのでも問題はないけどね。この手の発案は『ライブラリ』……ではないね。言い出したのは『博士』辺りかい?」
「シュウさん、『彼岸花』さんも可能性はあるんじゃない? 実行するのは苦手だけど、発案だけならすごいでしょ? やる事、結構大胆だしさ?」
「あぁ、確かにそれはあり得るね」
「最優先目標を弥生さんとシュウさんへ変更! この2人は危険過ぎます! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」
なんだか戦場の流れを一気に弥生さんとシュウさんが持っていった感じだけど、『インクアイリー』と『赤のサファリ同盟』は思った以上にお互いを知っているっぽい?
というか、インクアイリーも結構な人数が揃っているみたいだけど、何人いるんだ? 下手に混ざると、今の消耗状態じゃ邪魔になりそうな――
「ふん、共闘をしに来たというよりは逃げ込んできたって感じじゃねぇか。灰の暴走種!」
「あー、スミのコケか。まぁ間違っちゃいないけど……あの2人を共闘に引き込んだって事でチャラにならない?」
「……それで納得出来そうな状況なのが、地味に気に食わねぇな。まぁいい、ちょっと休んでから共闘に加われ。それぞれの群集の戦力が分散してて、攻め切れないでいる。戦力は今、集めている最中だ」
「あ、そういう状況なのか。それは了解っと」
それだけ言って、スミのコケは消えていった。わざわざそれを伝える為だけに、遠隔同調にして群体塊にしたコケを俺らの方へと投げてきたっぽいな。……なんだかんだで、地味に律儀な感じ?
「……ケイ、これは思った以上に凄い状況かな?」
「なんだか意図せず、重要な場所に来た感じなのさー!」
「確かにそれはそうかも?」
サヤ達がそんな反応をしてるから状況をよく見たら、湖が凍り付いている? それを守るみたいな感じでインクアイリーっぽい白いカーソルのプレイヤー達がいて、一緒に戦う黒いカーソルの敵も沢山いて……逆に群集所属のプレイヤーの人数は決して多くはないっぽい?
灰の群集で戦ってるのは2PTほどだし、他の群集も似たようなものか。ジャックさんとスミ以外には知り合いはいなさそうだけど……インクアイリー側の戦力が異常に多いな?
「これは、もしかするとミズキかサツキが隠されてる場所か?」
「……状況的に……ありそうな……感じ?」
「正確な情報が知りたいとこだが、まずは大急ぎで回復をするのが先だ。共闘に加わると宣言した以上、いつまでも呑気にこうしてる訳にもいかんぞ?」
「……そりゃそうだ。流石に全快までは待ってられないから、半分くらいまで回復したら参戦するぞ!」
その俺の言葉にみんなが頷いている。ただ、それだけの時間をインクアイリーがくれるかどうかは分からないし、不意な攻撃が飛んでこないとも限らないから要警戒だな。
まぁ今の俺は行動値も魔力値もほぼ空っぽだから、何かしろと言われても無理なんだけどね。……ここに来るには賭けだったけど、休める状況になったのは運が良かったのかも。
「……それにしても、そのまま戦闘に入ってる弥生さんとシュウさん、ヤバすぎない?」
「……あはは、それは同感かな」
「ケイさん、峡谷エリアでよく勝てたよね!?」
「それは俺も思ってるとこだなー。いやー、でもなんとか逃げ切れ……これ、逃げ切れたって言っていいのか?」
「……なんとも言い難いとこだな。というか、無茶な逃げ方をしたもんだな、ケイ。色々と焦ったんだが?」
「結果的には上手くいったから、そこは問題なしって事で!」
「……賭けには……勝った!」
「そこはまぁ、そうだよね?」
「そうそう、全員生き残ってはいるからな!」
「……あの状況を考えると、そうなっただけ良しと思うしかないか」
「そういう事!」
色々と無茶をした自覚はあるけど、そうでもしなきゃここまで辿り着くのも無理だったしさ! ……そもそも、最初に俺を置いて逃げてくれていても良かったんだけど、まぁそれも今更言っても仕方ないから、変に言わないでおこうっと。
ともかく、今は状況が変わったんだから回復を最優先で! とりあえずレモンを齧って……っと、その前に養分吸収で行動値の回復を少し早めとこうか。
あ、それよりも前に、減りに減ってるコケの群体数も少し増やしとかないと! ……ほんと、ギリギリだな!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます