第1273話 大きく動く競争クエスト
競争クエスト情報板で、大きな進展があったのが分かった。手短にそれらの情報をみんなに伝えたから、これかどうするかを急いで決めないと! 一応、説明している間に考えた事はあるにはあるんだけど……。
「大きく動き出したみたいだけど……」
「……害虫軍団が、この下にいるのかな」
「正直、戦いたくないです!」
「やっぱりサヤとハーレはそういう反応になるよね?」
ヨッシさんがサヤとハーレさんを心配してるみたいだけど、まぁそこは強引に行く気はない。特にサヤはクモがいると明確に動きが乱れまくるんだから、わざわざいると分かっている中に飛び込むのは悪手だ。わざわざ弱点だと教えに行ってどうするって話だし……。
「ハーレさんはともかく、サヤを無理に戦わせる状況にはしたくないから別の提案。アル、このまま上空を進んで南下するのはどう?」
「サヤをここで戦わせないのは賛成だ。だが、上空から進んだら……地上の状況は分からんぞ?」
「地上の方は、他のみんなに任せる!」
「……それはいいとして、俺らは何をするんだ? 何か考えがあるんだろ?」
「まぁなー! あ、サヤはクモの件は気にしなくていいぞ。苦手なものを避けるのは、別に悪い事でもないしな」
「……そう言ってくれると、助かるかな」
「私の扱いが雑な気がするのです!?」
「いやいや、ハーレさんは黒い饅頭に見えてて全然平気なんだから、そこは考慮に入れる必要はないだろ?」
「あぅ……否定が出来ないのさー!?」
本気でハーレさんがサヤと同じくらい苦手な様子があれば避けるけど、そうじゃないのは分かりきってるからなー。サヤは苦手生物フィルタがあっても駄目だけど、ハーレさんはそれで平気になるんだから判断基準が変わるのは仕方ない。
その辺を考慮した上で害虫軍団への増援には行けないけど、その代わりに出来る事をやるまでだ!
「……ケイさん……どういう……狙い?」
「カズキを追いかけている飛翔連隊を襲ったのが、どこの勢力だとしても大きな動きがあったのには間違いないだろ? だったら、別の動きも出始めるはず。もしミズキやサツキを連れ去ってたのがインクアイリーなら――」
「……なるほど、この機会に乗じて占拠に使う為に、エリアボスが出てくる場所の近くへ運んでくる可能性があるか。その経路として上空を選ぶ可能性があるから、そこで待ち伏せようって狙いだな?」
「アル、正解! まぁあくまでも、群集支援種を連れ去っていたのがインクアイリーだった場合って仮定にはなるけどさ」
「あ、そっか。もし連れ去ってたのが青の群集なら、逆にこの機会に離れた位置に持っていく可能性が高いもんね」
「そう、そういう事!」
全部説明するまでもなく、アルとヨッシさんが内容を話してくれたね。赤の群集が仮に群集支援種のサツキが連れ去られたと言っていたのが嘘だとしても、それはそれで近付けてくる動きが出るのは変わらないはず。
もちろん陸地で運ぶ可能性もあるけど、ここから陸地での戦闘が激化する可能性は高いもんな。博打ではあるけど、決して分の悪い賭けではないはず。
「闇雲に探し回るよりは、その方が確実性は高そうかな?」
「はい! 青の群集が連れ去り犯の可能性も考えて、他の場所でも似たような事をした方がいい気がします!」
「ま、それはそうだな。ケイ、この作戦を提案してくるのはありか?」
「ありというか、普通にそれはしようと思ってたとこだなー。多分、海エリアの人を中心にして上空の索敵を強めた方がいいと思う」
「だろうな。よし、話を聞きながら書き込んでくるから、そのまま続けて詳細を詰めてくれ」
「ほいよっと」
報告というか、作戦の提案の書き込みはアルに任せてしまおう。今はもう青の群集に追われる状態ではなくなってるし、ここからは競争クエストをクリアする為の条件を整える事を最優先で!
その為にもミズキを取り戻す事は必須。一応エリアボスのトドメを取って、それを新たな群集支援種として迎え入れて、そっちで占拠というパターンもあり得る。だけど……エリアボスのトドメが取れるかは不確定要素が強いから、下手に作戦には組み込まない方がいい。使うとしても、その必要が出たらだ。
「それと、ここからは偽装なしで移動しようかと思ってるんだけど……」
「はい! それはどういう狙いからですか!?」
「ぶっちゃけ、単純に移動の都合」
「え? それだと偽装しながらじゃ無理な移動をするの?」
「そうなるなー。水流の操作か海流の操作で、早めに南端まで行こうかと思ってさ。早めに行かないと意味ないし……」
「……待ち構える……には……先回り?」
「あ、そっか。追いかけていくんじゃ意味がないし、速度を上げるには偽装しながらじゃ厳しいもんね」
「そういう事だなー」
アルのクジラの影だけを隠すなら今のままでいいけど、それだと速度が出せなくなる。流れに乗って移動するとなれば……俺は海流か水流の中にいないとアルが流れられないからなー。
正直、この偽装を維持しながらダメージ判定を一切出さずに流れに乗っていく自信はない! 速度を重視するなら、尚更に!
「その場合、俺とケイ、どっちが流していくんだ?」
「1回の操作で南端まで行けるならアルに任せたいけど……操作時間、足りると思う?」
「……速度を最大まで上げるなら、多分無理だな。だったら、交代しながらか?」
「多分、そういう感じになると思う。あ、そういやアル的には水流の操作と海流の操作はどっちがいいんだ?」
「操作感自体は大差ねぇし、移動に使うならどっちでもいいぜ? まぁケイは水流の操作だけだから、そっちに合わせておくか」
「おし、ならそれで決定で!」
海流の操作の方が規模としては大きくなるはずだけど……まぁ自分の移動に使える範囲は限られるから、大差がある部分じゃないか。よし、この調子で動きを決めていこう。
「あぁ、そうだ。下の害虫軍団との戦闘には参加出来ないと伝えておいたぞ。サヤがクモが苦手な件は言うしかなかったが、そこはすまん。ただ、実際にクモのプレイヤーが何人かいるらしいから、それで納得はしてもらえたからな」
「そこは私のワガママになるんだし、問題はないかな! むしろ、行動に制限をかけてごめん……」
「そこで謝るのはなしだよ、サヤ」
「そうなのさー!」
「……気にしなくて……いい」
「ま、同じような理由で敗走してる人も結構いるから、そこは本当に気にしなくていいぜ? ある意味、赤の群集での厄介な戦力って話だしな」
「サヤは近接なんだし、特に影響は大きいしなー! その辺は気にするな!」
「……あはは、そうなのかな? みんな、ありがとね」
単純な強さでは測れない、ある意味では精神面への攻撃力が高い集団なのは間違いない。……俺だって、単独なら平気だけど集団化されると流石に厳しいものがあるしね。
赤の群集にそういう集団がいるのは判明してるけど、その手の集団って灰の群集や青の群集にもいそうではある。いるかどうか、確認する気は起きないけども! あー、ある意味では青の群集のヘビ軍団が同系統にはなるのか? ……あんまり考えたくないな、それ。
まぁ今はそこを深掘りしてても仕方ないか。急いで移動の準備をして、待ち構えられるように急いで移動しないとな!
「あ、風音さんは元のサイズでアルのクジラの頭から木の部分にかけて俺の岩で固定するつもりだけど、それでいける?」
「……自分で……固定出来るよ? ……戦闘になるなら……自由に動けた方が……いいかも?」
「あー、そういやそうか。それじゃ、風音さんはそれでよろしく!」
元のサイズの龍はかなり大きいから、これで固定するのはギリギリもギリギリだからなー。その状態で俺が固定するよりは、いつでも風音さんの意思で解除出来る方が動きやすいか。
風音さんの発動するスチームエクスプロージョンで何度も移動してたから、そのままの流れで俺が固定する気になってたよ。でも、風音さんは黒い龍の方でログイン中なんだから、自分で岩で固定が出来るよなー。その辺、すっかり抜け落ちてたよ。
「ケイさん、1つ質問です!」
「ん? ハーレさん、どうした?」
「風音さんのスチームエクスプロージョンで何度も飛んでいくのじゃ駄目なの? 今の移動は風音さんの魔力値の回復の時にやればいい気がするのです!」
「途中での周囲の確認も兼ねてるからサヤとハーレさんには、そこで頑張ってもらうぞ?」
「待ち構えるのが目標だけど、途中で見つけたらその場で強襲って事かな?」
「そういう事になるなー」
「おー! そういう事なら了解なのです!」
既に青の群集は、自分達の群集支援種であるカズキの元へ動いているのは確実だろうしね。それに対抗する手段として、赤の群集が同じように動いてくる可能性は高い。
ぶっちゃけ、何も起こらないまま南端まで辿り着けるとも思ってないし、途中で戦闘は発生する前提で考えていた方がいい。だからこそ、この手段でもある。
「他の群集も同じように動いてくる可能性もあるしなー。風音さんのスチームエクスプロージョンは万が一の離脱に使う事もあるから、そのつもりでいてくれ」
「……うん」
「要は、ここまで逃げてきた時と同じって事だね?」
「……それ、大人しく逃げさせてくれるのかな?」
「逃げるタイミングで、何か仕込まれる気がします!?」
「あー、確かに同じ手法が通じるとも限らないか……」
ジェイさんを相手だと想定するなら……俺らの進行上に、尖った岩で生成してきそうだよな。もしくは、斬雨さんを回り込ませてそのままカウンター気味に切り裂くか……。
あー、これは相手次第でどうとでも変わってくるし、そもそもその時の人数差によっても大きく変わってくるな。気になる部分ではあるけど、いくらでも手段は考えられるから、考えるだけ無意味か。
「まぁそこは相手次第なとこはあるから、考え過ぎても仕方ない! そういう状況に陥って時に改めて指示は出すって事で!」
「了解です!」
「分かったかな!」
「まぁそれしかないよね」
もう臨機応変に対応するしかない部分だから、ここはこれでいい。移動前に他に決めておくべき事は――
「それじゃ、私は情報収集を担当していたらいい? 偽装が無くなって、大きく状況が動いている最中ならその方がいいよね?」
「だなー。ヨッシさん、任せた!」
「うん、任されたよ」
俺から頼む前に、ヨッシさんから言ってくれたのは……まぁ完全に定番化してる役割分担だからなー。さて、これで俺らの動きの割り振りは終わりっと!
「アル、すぐにでも出発したいけど……いけそうか?」
「もう少しだけ待ってくれ。提案したのが……よし、シアンさん達と灰のサファリ同盟の海原支部の方で指揮を取って上空の捜索隊を組んでくれる事で確定だ。安全圏付近と、南端のボスが出現する可能性がある辺りに向けて俺らと同じように動いていくようになったぞ」
「おっ、そうなったか!」
「それと連携して陸でもエリアボスが出てくる方向と安全圏へと向けての捜索になる。未成体のプレイヤーが進化前のツタ系の種族を集めて行く事にもなったな。これでミズキが見つかればいいんだが……」
「ここから先は、激化していきそうなのさー!」
「ミズキを見つける為にも、頑張るかな!」
「だなー!」
どこの勢力も勝ちを確定させる為に大々的に動き出すのは間違いない。まぁこれまでも大々的には動いているけど、激化するのは確実だよな。
俺らが勝つには、どうやったって連れ去られたミズキを見つけ出して奪い返す必要があるけど……ここからどうなる事やら。……ある意味では、ミズキを連れ去ったのがインクアイリーの方が都合はいい状況ではあるけど、そこもまだ不明。状況的に都合がいいだけで、奪い返すのは一筋縄ではいかないだろうなー。
って、出発しようってタイミングでこういう反応が出てくるのかよ。赤の群集で2人の反応……なんか嫌な予感がするな。
これは下手に戦わない方がいいかも? 下にいるオオカミ組や富岳さん達は……どうなった? 動き始めて離れたのか、それとも……って、考えてる場合じゃない!
「真下からこっちに近付いてくる赤の群集の反応が2つ! ヨッシさん、霧の偽装は解除で! アル、相手にせずに引き離すぞ! みんな、移動の準備を大急ぎで!」
「え、このタイミングで2人かな!?」
「それ、嫌な予感がするのさー!?」
「……『アースクリエイト』『岩の操作』」
「偽装解除は了解! 情報収集は、ここを離れてから始めるね!」
「ケイ、偽装の解除がしにくいだろうから、最初の水流の操作はそっちに任せるぞ! 『自己強化』『高速遊泳』!」
「任せとけ!」
アルが南に向けて泳ぎ出したのと、ヨッシさんの氷雪の操作が解除になったのを確認してから、俺も移動開始! 元のサイズに戻った風音さんが自分を固定しているのも確認したし、俺も偽装用のものを解除してアルに乗って――
「あはははははははは! 見つけた! 見つけた! ケイさん達、リベンジしに来たよー!」
「峡谷エリアで負けた分、取り返させてもらうよ?」
「げっ!? やっぱり弥生さんとシュウさん!?」
赤の群集の2人だからもしかしてと思ったけど、やっぱりこのネコ夫婦か! てか、弥生さんがリベンジ狙いで思いっきりテンションが上がりまくってる状態っぽい!?
ちっ、この状態からアルのクジラの背に戻るのが難しいな!? 一旦、飛行鎧を解除しないと生成してる岩が大き過ぎてダメなのに……あ、でもこの状況で使える手もあるか! これで少しでも隙が出来ればありがたいんだけど……。
<行動値を3消費して『閃光Lv5』を発動します> 行動値 106/111(上限値使用:12)
今は偽装用に光源を広げるようにした状態だから、そこからの閃光で目潰しだ!
「あはははははははは! そんなもの、効かないよ!」
「ですよねー!」
小石を足場に迫ってきている弥生さんの前には、閃光を無力化する為のブラックホールが展開されている。まぁ風音さんが使うものよりは小さいけども……それでも、やっぱり効く訳がなかったか。
いきなり厳しい状況に追いやられたな、これ! 弥生さんとシュウさんの相手をしながら、飛行鎧を解除して、再展開して、離れ始めているアルの元に戻る必要があるのかよ!
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