第1271話 上空へ逃げて


 ジェイさんからの追求を避ける為に、強引な方法で逃げ出してきたけども……今になって不安になってきた!? 共闘がまだ終わってないのに、逃げ出したなんて事は言われたりしないよな!?

 多分、青の群集が相手をしてた中で1番動きを見せた相手をジェイさんと斬雨さんが追いかけたんだろうからそこは大丈夫だろうけど……赤の群集にインクアイリーのメンバーがいたとしたら厄介かも?


 だー! もう過ぎた事を考えてもどうしようもないし、呑気にしている時間があるとも思えない。今はやるべき事を手早く済ますのみ! まずはこれから!


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 38/111(上限値使用:12)


 ん? 全然反応が無いんだけど……あ、これってもしかして上空過ぎて地上までは効果範囲外なのか!? 上下への効果範囲、今まで全然意識した事がなかった気がする……。

 そうか、ジェイさんと斬雨さんが仕掛けてきた時は獲物察知妨害の範囲外に出たから反応があったのかと思ったけど、根本的に獲物察知の範囲外にいたという可能性もありそうだ。あ、でもそれって厄介な――


「ケイ、黙り込んでどうした?」

「あー、どうもこの辺までくると獲物察知が地上まで届いてないっぽくてな。擬態されてるか、獲物察知を妨害して近付いてこない限りは、結構気付きやすいとは思う」

「ほう? そりゃいい情報……とも限らないな。なるほど、ジェイさんと斬雨さんのあの奇襲はそれを使っていたのか」

「その可能性もあるけど……妨害との判別がつかないのが厄介かも?」

「……奇襲してくる……位置が……正確に……掴めない?」

「擬態もあるから元々過信も出来ないけど、そういう事になるな。まぁ今はそれをのんびり話してる場合でもないから、アル、すぐに競争クエスト情報板に行くぞ!」

「……いや、ケイが止めてたんだがな? まぁそれはいいか」

「あ、そういやそうだった」


 俺が獲物察知を使って黙り込んでたのが原因でしたよねー! って、冗談抜きで脱線してる場合じゃないわ! 大急ぎで報告をしてしまわないと! ともかく競争クエスト情報板へ行こう!


 招き猫   : ミズキは一体どこに隠されたの!? 全然見つかんない!

 ダイク   : ベスタさんとレナさんがあちこち凄い速度で探し回ってるけど、流石に広くて中々厳しいな。

 ライル   : 上空も捜索していますが、似たような動きしている赤の群集と戦闘になる事が多くて進みませんね?

 肉食獣   : さっき、少し間を空けてあった2つの爆発音はなんだ? 中央より少し北の辺りだった気がするが……。

 ローズ   : 凄い勢いでクジラが吹っ飛んで、水流に乗って上空へと上がっていましたわね? 蜜柑の木を背負ったクジラでしたし、おそらくグリーズ・リベルテの皆さんですわね!

 富岳    : それは俺も見たが……赤の群集と共闘になったって状況から書き込みが途絶えているし、グリーズ・リベルテで何かあったか?

 神奈月   : 確かに何かありそうだな?

 ディール  : まぁ何かあれば、あそこなら書き込める時間が出来れば報告にくるだろうよ。


 あー、やっぱり俺らの目撃情報自体はあったんだな。……こりゃやっぱり出来るだけ急いだ方が良さそうだ。幸い、俺らの事が話題になってる最中だしね。


 ケイ    : 話題になってたから丁度いいや! ちょっと色々とややこしい状態になってたけど、ようやく書き込める状況を作ったところ!

 アルマース : どうも俺らは目撃されてたみたいだが……追いかけてきてた相手はいるか? あんまり時間はなさそうだから、その辺が気になるんだが……。

 ローズ   : 噂をすれば何とやらですわね! 追いかけるようにタチウオが飛んでいくのは見ましたけども、それは通り過ぎていましたわ!

 ダイク   : どっかと戦闘中だったのか?

 ケイ    : あー、赤の群集のウィルさん一行と、青の群集のジェイさん一行と合わせての共闘になってて、その際に黒の統率種に進化した灰の群集の傭兵の人と遭遇したもんで……。

 肉食獣   : おいおい、どんな状況で動いてるんだ? というか、黒の統率種に進化した灰の群集の傭兵だと?

 ケイ    : 確か羅刹さんがモンスターズ・サバイバルと一緒にいると聞いたけど……その辺の人物特定を頼みたいんだけど、呼んでもらう事は可能な状態?

 肉食獣   : あぁ、傭兵絡みの話なら同じ傭兵の人がいた方がいいだろうしな。すぐに呼んでくるわ。


 よし、この場に肉食獣さんがいてくれて助かった。灰の群集に来ている傭兵の数は少ないんだし、個人名までは出してもらわなくても問題はないけど、そういう状態になっている傭兵の人がいるかどうかの確認が出来れば助かる!


○時雨    : おっ、俺以外にも灰の群集へ傭兵に来て、黒の統率種に進化した奴がいたんだな!

 ケイ    : あ、時雨さんか。イブキからの情報提供の裏付けをしてくれたのは助かった! それに、早速その情報が役立つ状況に遭遇したぞ。

 レナ    : 一旦、捜索は中止! 黒の統率種との接触があったって?

 ベスタ   : ケイ、具体的に何があった? 赤の群集に対して警戒しつつ、情報を探っている最中だっただろう?


 ケイ    : その最中に、インクアイリー関係だと思われる黒の統率種に操作された個体が出てきて、赤の群集と共闘になってなー。20体は超えてたと思うから、確実に複数人。

 アルマース : その上でインクアイリーが2人ほど出てきて、1人は迎撃したが、もう1人と戦闘中に青の群集が奇襲で仕留めてきてな? そのまま3つの群集で、黒の統率種の個体を撃破する事になった。


 柊     : なんか凄い事になってるね!?

 ラック   : 本当だね!?

 ベスタ   : ちっ、そこから逃げに徹したって事は……ローズ、ケイ達が上空へと逃げた位置座標は分かるか? 本人達の正確な位置より、周りから見た位置情報が欲しい。

 ローズ   : まだすぐ近くにいるので、それは分かりますわ! 【現在地】の場所になりますわね!

 レナ    : およ? んー、ここだとわたし達は遠いかも?

 ベスタ   : 直接向かおうかと思ったが、流石に位置が悪いか。すまんが、近場にいる人で向かえる人はその周辺に向かってくれるか? 追いかけてきたというタチウオは、おそらくジェイと斬雨のコンビだろうが……報告を終えるまでの時間稼ぎを頼む。

 湯豆腐   : 了解っす! オオカミ組のPTで近くにいるのがいるっすから、そこを向かわせておくっすよ!

 富岳    : 俺のPTも比較的近くにいるから、すぐに向かおう。共闘状態からの逃亡は、何かあったのは間違いないだろうしな。

 アイル   : あ、なんか楽しそうな状況! よーし、行けそうな範囲だし、盛大に妨害しに行っちゃうよ!


 なるほど、重要な情報だと判断して俺らへの護衛に戦力を回してくれるっぽいね。時間稼ぎが必要だとは思ってたけど、ここでみんなに増援に来てもらう事は考えてなかったし、これは単純に助かる!

 地味にアイルさんも混ざってるけど……妨害目的であれば、アイルさんが呼びかけた成熟体に届いてない人達でも時間は稼げるか。何気に死なずに結構遠くまで来てる人がいるっぽいのがビックリだけどなー!


 てか、増援が来るなら警戒してるサヤとハーレさんには伝えておかないとな。霧への偽装で下方向への視界は悪くなってるんだし、警戒しなくていい相手まで警戒させる必要はないしさ。


「サヤ、ハーレさん、みんながこっちに増援を回してくれるみたいだから、そのつもりでいてくれ。分かってる範囲で、オオカミ組と富岳さん、それとこの辺まで来てるアイルさんが呼びかけた人達」

「あ、そうなんだ? それなら分かったかな!」

「味方が来るの頼もしいのです!」


 アイルさんの名前を出して変に反応があるかと思ったけど、今は特にそういう反応はなしか。まぁ今はそんな場合じゃないから、簡潔に状況を伝えるだけで戻っておこう!


 ケイ    : 時間稼ぎの増援は素直に助かる! それじゃ報告を続けるぞー!

 ベスタ   : あぁ、そうしてくれ。

○羅刹    : 時雨以外に、黒の統率種になってる傭兵が出たと聞いたが……。

 アルマース : 羅刹さん、その辺で誰か心当たりはないか?

 ケイ    : 内容が内容なだけに、本当に灰の群集の傭兵なのかを確認しときたいんだよ。共闘中に『瘴気支配』の個体で乱入してきたもんでさ?

 ディール  : ……何? 少し前に判明した、あの個体での接触か?

 ケイ    : 場合によっては相当重要な情報。でも、それが他の群集やインクアイリーからのダミー情報の可能性もあるから、話す前に可能性があるかの確認をしておきたい。

○羅刹    : ……少なくとも、俺が知っている範囲での傭兵に可能性がある奴はいない。いないが、知らない名前の奴も傭兵にいるから、接触してきている可能性はある。時雨、そっちでは心当たりはないか?

○時雨    : 俺も似たようなもんだぜ? どっちかというと、傭兵を承認した人の方から、ログインが確認出来ない人を探った方が良くねぇ?

 ベスタ   : なるほど、それは確かにな。ここを見ているだけの人も含めて、そういう傭兵に心当たりがある人は名乗りを上げてくれ! いるかいないか、それだけで構わん!

 ラック   : ちょっと灰のサファリ同盟の方で、その辺を聞いて回ってみるね!


 残念ながら、羅刹や時雨さんには心当たりは無しか。でも、傭兵は承認した灰の群集の人がいるはずだから、そういう人とは元々接点は持ってるだろうし、ログイン状態が分かる可能性はある! 灰のサファリ同盟の方で探してくれるなら、尚更に可能性は上がるよな。

 とはいえ、すぐにそれが分かるとも限らないから……内容自体は先に書き込んでいきますか。時雨さんがいるなら、黒の統率種になった事がある人から見た意見も欲しいしね。


 ケイ    : すぐに名乗り出てくれるかは分からないから、内容自体を先に報告していくけど……ベスタ、それでいいか?

 ベスタ   : ……ダミー情報の可能性があるなら確認が取れてからにしたいが、その時間の猶予があるとは限らんしな。ジェイが動いているなら、仕留めずに報告が出来ないように妨害に徹する可能性もある。万が一に備えて、今のうちに内容は話しておいてくれ。

 ケイ    : ほいよっと。


 状況として最悪なのは、情報を伝えられないように徹底的に足止めをされる事。あっさりと仕留めてくれれば、安全圏へと送り返されて逆に報告はしやすくなるんだけどなー。

 ログアウトをして安全圏に戻るって手もあるにはあるけど、可能ならばジェイさん達を俺らの方に引きつけておきたいとこでもある。だから、今はここで話しておくのがベスト!


 ケイ    : 重要な点は2つ。まず1つ目は、異形への進化……これを黒の統率種の『瘴気支配』によって操作した個体で実行する場面を見た。

 アルマース : ツタ系の種族が、サルを乗っ取る形で進化をしていたぜ。ツタは枯れて、サルはスケルトンになっていたぞ。

 ケイ    : それでなんだけど……群集支援種を明確にプレイヤーが意思を持った形で乗っ取る事が出来る可能性が出てきたんだよ。それを伝えようとしてきたのが、その黒の統率種の人っぽい。

 招き猫   : えっ!? そんな事が出来るの!?

 ベスタ   : それが事実だとすれば、黒の統率種になっている味方に乗っ取らせる事で、安定したエリアボスへの攻撃が可能にはなるか。だが、ダミー情報なら……無駄な事を試す状況にもなるな。

 レナ    : 確かにそうなるねー。うーん、ダミー情報だと、無駄な検証をさせる事が狙いになってきそうだね?

○羅刹    : 群集支援種を実際に乗っ取れるかどうか、そこが焦点になってくる訳だな。時雨、その辺はどう思う?

○時雨    : 未成体をそもそも『瘴気支配』で扱おうとは思ってなかったけど……可能性自体はあると思うぞ。言われてみれば、実行出来るだけの条件は整うしな。

◯羅刹    : なるほどな。

◯時雨    : それと気になるのは、どうやって『瘴気収束』を使ったかだ。あれは黒の統率種の本体じゃないと使えないからな。

 ケイ    : そうなのか? あー、乱戦状態ではあったから、見落とした可能性はあるのかも……。

◯時雨    : まぁ本体の種族が擬態持ちの可能性もあるから、それは否定出来ない可能性だな。


 ふむふむ、実際に黒の統率種へと進化していた時雨さんから見ても、実行が可能なようには思える内容にはなるのか。……少なくとも、試す価値が十分ありそうだな。

 黒の統率種そのものが近くに隠れていた可能性は……まぁあるんだろうなー。あのツル自体、どこからどう出てきたのかがよく分からないし、何か隠れる手段を使っていた可能性は否定できないか。


◯時雨    : ただ、実際に試してみないと出来るとも断言はできん。あくまで可能性があるだけだ。

 柊     : 試そうにも、そもそもミズキが連れ去られていないけども!?

 アルマース : それはそうなんだが……あぁ、そうだ。赤の群集のサツキも連れ去られているらしい。嘘を吐かれていなければになるがな。

 ベスタ   : やはり、そうか。赤の群集は俺らと同じように何かを探している気配があったから可能性は考えていたが……まぁ、ここで嘘を吐いて共闘をする事も考えにくいだろう。

 レナ    : それで、ケイさん? もう1つの重要な点は?

 ケイ    : あー、インクアイリーの味方っぽい黒の統率種が従えてる敵が一斉に口封じをする感じで、その伝えてきた人を襲おうとしてきたんだよ。ただ、これは自作自演の可能性もあるから……。

 レナ    : なるほどねー。だから、それを実行出来そうな人の心当たり必要になってくるんだ?

 肉食獣   : 本当に味方ならば、重要な情報の伝達。インクアイリーの自作自演ならば、無駄だと分かっている事を試させて時間を無駄に使わせようって魂胆になるか。……中々に厄介な状態だな。


 正直に言えば、無茶な状況で伝えてきたくらいだから全面的に信頼しておきたい状態ではある。だけども、所属どころかプレイヤー名すら不明な状況で、ダミー情報を放り込んでくる可能性がある相手と戦っている以上は警戒しない訳にもいかないんだよな……。

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