第1270話 ややこしい状況
灰の群集の傭兵だと主張しているっぽい人が、黒の統率種が直接操作する個体として目の前で異形へと進化を遂げて、俺らへと捕まっている状況。ツタでサルを支配して、その状況で進化をするというかなり特殊な状況でもある。
色々ともっと情報を聞きたいけども、こちらへ向かって他の黒の統率種が操作してるっぽい個体と、それを追いかけてくるジェイさんと斬雨さんの姿が近付いてきているから……時間切れか。
本人もさっさと仕留めろという感じでサルの頭の骨をツタで何度も指し示してるし、他の群集には知られるなって事だな。
「……その情報、色々と活用させてもらう。助かった」
小声でこれだけは伝えて……本気で邪魔な奴は仕留めさせてもらおうか! 今回は、共闘というよりはお互いの邪魔をしない為って感じで、インクアイリーと関係していそうな瘴気強化種の集団相手に分散して戦っていた。
その状況なのに、俺らの方へと明確に向かってくる瘴気強化種のタカがいるとなれば、口封じ狙いなのは明白だ。だったら、俺らにちゃんとその情報が伝わってないと思わせた方がいい!
「ようやく捕まえた。このまま潰れろ!」
だからこそ、あくまで敵対してる風を装って……操作時間を一気に使い尽くすつもりで、サルの全身の骨を砕くまで!
よし、バラバラに折れて、サルの方のHPは無くなった。微妙に骨が残っているのが気にはなるけど、後はツタの方を仕留めるのみ! おそらくこれは支配進化になるから、これで大幅な弱体化は発生しているはず。識別出来てなかったのが、ちょっと痛いかもしれないけど……。
「風音さん、焼き尽くせ!」
「……うん。……『ファイアクリエイト』『炎の操作』」
風音さんが大々的に炎を上げて、ツタの方を焼き尽くしていく。枯れた状態のツタは、普通の植物の状態の時よりもよく燃えてるっぽいな。……全然勝っても嬉しい状況ではないけど、完全にHPが尽きてポリゴンとなって砕け散っていったか。
「ジェイ、やるぞ! この逃げ方、何かを企んでやがる!」
「分かっていますよ! ただし、動きを止めるまででいきますからね!」
「って事は、タイミングは俺の方でだな! おらよ! 『串刺し』!」
なんだか徐々にそんな会話が大きく聞こえるようになってきたけど……って、目の前に斬雨さんが突き刺さったタカが一緒になって落ちてきた!?
「……ジェイが……来た。……何事?」
「わわっ!? 斬雨さんがタカを串刺しにしてるのです!?」
「……青の群集は北に行ったんじゃないのかな?」
地面に縫い付けるようにタカを刺してるタチウオと、タチウオの頭側を岩で固めたジェイさんのコケを背負ったカニの状態か。……これは、岩の操作で加速させた上で刺突攻撃をしてるっぽい?
「おや、皆さんお揃いで。……こちらにいた敵は全て倒したようですし、先程の上がっていた火柱は風音さんのものですか。……ふむ、ケイさん達が戦っている場所へと向かっていた訳ですか?」
「はっ! わざわざ自分で操作してる個体で、逃げる訳もねぇよな?」
「明らかに何らかの意図があるようですが……ケイさん達には何か心当たりがありますか?」
そのタカは明らかに口封じを狙った動きなのは確定だけど……それを青の群集に教える訳にはいかないよなー。あくまでも共闘なのはインクアイリーに対してのもの……まぁ協議をした際には無所属集団を相手にって話だけど、それ以外での協力関係は競争クエストだから利害関係が一致しない限り無いようなもんだしなー。
根本的に敵対してる状況なんだから、この重要な情報を教える義理はない。……というか、わざわざ教えなくて済むように状況を整えたんだから教える訳にいくか!
「いきなりこっちまで来て、心当たりとか言われても困るんだけど……そもそも、なんでジェイさん達はこっちまで来てるんだ? てか、その串刺しにしてるタカはどうしたんだ?」
状況は大体は分かっているけど、ここは徹底的に誤魔化すのみ。……ジェイさん相手にどこまで誤魔化せられるは分からないけど、優位に進める為には教えられない情報だ。
既に青の群集が知っているという可能性もあるけど……それで情報的な条件はようやく五分。知らないのであれば、俺らにとって有利になる。……あくまで、確認した内容が事実ならだけど。
「……何も特に変わった事は無かったと、そういう事でしょうか? あぁ、このタカでしたら『瘴気支配』でのプレイヤー自身の操作個体かと。この辺の情報は知っていますよね? 時雨さんが元に戻ったという情報は得ていますよ」
「その辺、筒抜けかよ! あー、その実例の操作した個体がこのタカだとして……それがなんでこっちまで来てんの?」
やっぱり青の群集は『瘴気支配』の事は知っていたか。しかもそれを伏せずに、時雨さんの状況を把握した上で堂々と開示してきた。……何かあったと明確に疑われてるな、これ。
「何か隠していますね、ケイさん?」
「まぁなんでもは教えられないし、対戦中に隠し事があるのはおかしくないだろ?」
「それは確かにそうですが……ふむ、今回は徹底的に隠すつもりのようですね。……こちらの方から聞ければいいのですが、教えてはいただけませんか?」
「ちっ! こいつ!?」
ジェイさんが斬雨さんが串刺しにしたままのタカへとそう問いかけたけども、タカは拒否するとばかりに暴れ回って……意図的にダメージを増やして、すぐに死んでいった。
ちっ、暴れながら周囲を見渡してたし、隠さなければならない状況があったって事を裏付けるような仕草をしながら死んでいくな! 誤魔化しにくくなるじゃん!
「……今の反応を見た限り、この場に駆けつけて隠さなければならないものがあったようですね。さて、何を掴んだのか……教えていただきましょうか!」
「断る! 共闘での俺らの割り当て分は終わったし、すぐに離脱するぞ!」
「時間を稼ぐから、急ぐのさー! 『拡散投擲』!」
「大急ぎでここを離れないとね! ハチ1号、2号、『妨害行動』!」
おー、氷属性での『妨害行動』だと氷の拘束魔法で閉じ込める感じになるのか。って、そこを考えてる場合じゃないや。
「これは『強化統率』ですか!? くっ、厄介な! 『略:ファイアインパクト』!」
「ちっ、逃すかよ! 『乱斬り』!」
何かあれば、即座に逃げるとは決めていた。これ以上ジェイさんと下手に話している方が危険だし、ウィルさんまでやってきたら、もっとややこしい事になる。既にこの場での共闘での役割は終えたし、共闘を終えた後はそのまま戦闘になってもおかしくないから、ここで逃げる!
即座にみんながアルのクジラと木の隙間へと移動して、逃亡準備を開始! 風音さんも固定出来るように小型化してくれたから、固定をしていこう。
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 62/116(上限値使用:7): 魔力値 256/306
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 43/116(上限値使用:7)
よし、ヨッシさんの統率個体のハチでの妨害と、ハーレさんの拡散投擲で出来た時間の猶予で、大急ぎでみんなを岩で固定は完了! 後は、即座にここから離れるのみ!
「風音さん、ジェイさんと斬雨さんを巻き込みながらで!」
「……うん! 『並列制御』『ファイアクリエイト』『共生指示:登録1』!」
「なっ!? くそっ!」
「斬雨、すぐに離れます!」
盛大な爆音を轟かせながら、風音さんが魔法砲撃にしたスチームエクスプロージョンを発動! どうせならそのままジェイさんと斬雨さんを巻き込んで仕留めてしまいたかったくらいだけど……流石に直前で回避されてたな。
とはいえ、なんとかあの場からの脱出は成功! ……成功だけど、この後の事は全然考えてないわ!
「ケイ、逃げ出したのはいいが……逃げ切れるのか? ジェイさんなら追いかけてこれるだろ?」
「その可能性もあるけど……ぶっちゃけ、あの場でウィルさんまで揃うのは避けたかったから離れた方が良かったからなー。ジェイさんとウィルさんの2人掛かりで情報を狙われたら、流石にキツい……」
「……なるほどな」
どっちか1人だけでも厳しいのに、あの状況にウィルさんが加われば……下手すれば連携して情報を引き出そうとしてきたはず。そうなったら、あの状況で誤魔化すのは無理だったし、結局逃げるしか手段がなくなりそうだもんな。
正直に言えば、群集支援種が連れ去られている件で少し青の群集に探りを入れたかったけど、それ以上に重要な情報なんだから逃げで正解って事で!
「ところで、この後はどうするのかな?」
「あー、とりあえず吹っ飛ぶとこまで吹っ飛んで着地するか……もしくは、水流でも用意して空を飛ぶ方に軌道修正するかだけど……アル、どっちがいい?」
「それなら、一度上空へ退避するか。ケイ、それで報告を済ませるのでどうだ?」
「よし、ならそれでいこう! 上空まで行ったら俺とヨッシさんで霧の偽装で!」
「その方が良さそうだね。うん、了解」
問題は無事にそこまで進むかどうかだけど……盛大に目立つ形で逃げてきたからな。目撃されてないと思う方が無茶だし、あんまり時間は稼げないと思った方がいい。
「おし、ならすぐにやるぞ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』!」
「アル、よろしく!」
という事で、アルが生成した水流の上に着水! 下り気味の水流を用意して、あえて勢いは削がないようにしてるみたいだな。まぁ上空へ一気に上がるなら、この勢いを殺すよりは利用する方がいいか。
「ちっ、思った以上に勢いが凄いが……これでいけるか!?」
「おぉ! 上空へと伸びる水流なのさー!」
ジェットコースターにでも乗ってるかのように、途中から急激に上昇していく水流に乗って上空へどんどん迫っていく! まぁジェットコースターとの違いがあるとすれば、先が途切れてるって事くらいか!
「水流はここまでだ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」
「おわっ!?」
「わー! 跳ねるのです!?」
くっ! 勢いを全然削がずに上空まで一気に上がったから、多少は速度は落ちてるけど、結構な勢いのままだな!?
上下に水のマットを展開して、衝撃を吸収させてるけど、多少は反発力を持たせてたか。何度かアルのクジラごと跳ねてはいたけど……とりあえずそれで勢いはなくなったね。
って、なんかさっき俺らがいた方から爆音が響いたんだけど!? このタイミング、無関係だと思う方が――
「ケイ、偽装を急げ! ジェイさん達が追いかけてくるぞ!」
「分かってる! ヨッシさん、霧の偽装をやるぞ!」
「了解! 『アイスクリエイト』『氷雪の操作』!」
大急ぎで偽装をしないと……いや、この方向に逃げた事自体はもうバレバレだし、どのくらいの距離を逃げたかも分かってるから、完全に隠し切るのは無理だな。
だから、これはあくまでも見つかるまでの時間稼ぎの手段。その間に報告さえしてしまえば、その後にそのまま戦闘になっても問題ないって事で!
という事で、みんなの固定を解除してアルのクジラの腹部と、ヨッシさんが生成した霧への偽装用の氷雪の間に移動。それで、これだ!
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 43/116→ 43/111(上限値使用:12)
結構な上空まできたし、この高さなら最初に実験をしてたくらいの場所のはず。……自信はないけど、多分!
だから、最大の明るさで発動。まぁこれだけじゃ意味がないし、急ぎつつも慌てないように展開していかないとな!
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 43/111 → 43/117(上限値使用:6)
光源になるコケが下を向いて必要があるから、仰向けになった状態で飛行鎧を解除! そして、落下する前に大急ぎで再度発動!
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 43/117 → 43/111(上限値使用:12)
ふぅ、まさか最初に高過ぎる位置で試した時のが参考になるとは思わなかったけど、まぁ結果オーライって事で! とりあえずこれで偽装は完了。
「さてと、そこまで隠れ続けられるとも思えないから手早く済ませていくけど……誰が報告に行く?」
「ケイ、これは移動せずにやるのか? それとも少しでも移動はするか? 移動しないのなら、俺が行ってくるが……」
「あー、そこはどうしたもんだろうなー」
移動しながらだと、アルと俺とヨッシさんの3人は報告には行けないよな。でも、この場合だと変に移動しない方がいいのか? 下手に動いても、気付かれる時にはすぐに気付かれるだろうし……ここに留まって少しでも消耗を回復させた方がいいのかも?
「よし、ここで大人しくして気付かれた時には迎撃する方向で考えよう。って事で、サヤとハーレさんは警戒に回ってくれ」
「はーい!」
「任せてかな!」
「風音さんは魔力値の回復を最優先で!」
「……うん!」
「ヨッシさんは……そういや統率個体のハチは?」
「あれ? そういえばいないような……あ、距離が離れ過ぎたから自動解除になってるんだ」
「あー、そういう仕様もあったのか」
なるほど、あの移動には統率個体は着いてこれずに置き去りになって解除になってしまったんだな。地味に知らなかった仕様だけど、まぁそこは仕方ない。
「とりあえずヨッシさんは、氷雪の操作の維持を頼んだ。俺はアルと一緒に報告に行ってくる」
「あ、ケイさんも行くんだね?」
「別に俺だけでも構わんぞ。てか、ケイが離れて大丈夫か?」
「大丈夫とも言えないけど、直接色々と聞きたいからさ。ぶっちゃけ、あの情報をそのまま鵜呑みにしていいかも気になるし……一応、獲物察知は発動して確認はしながらにはしておくぞ?」
「……なるほどな。今回の情報はケイもいた方がいいかもしれんし、それでいくか。だがまぁ、獲物察知で反応を見落とすのだけは勘弁してくれよ?」
「そこは注意しとく!」
あくまでも競争クエスト情報板は、ウィンドウが出てくるだけで周囲の様子が完全に見えなくなる訳じゃない。意識が分散してしまうリスクはあるけど、それでも今は直接報告と情報収集をしたいからね。
あのサルとツタの異形がこの競争クエストの攻略の鍵になり得る可能性はあるし、もし偽情報なら……非常に遠退く可能性もある。そこを見極めたいとこだよなー。
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