第1269話 共闘中に現れた異形


 複数人の黒の統率種に率いられた瘴気強化種への対処で、赤の群集と青の群集と俺らで分散する形で共闘へと入ったけど……このスケルトンなサルに巻き付く枯れたツルに進化する状況は想定外!

 でも、植物系なら弱点は明確だし、どう考えても見た目は燃えやすそうだからな! ……そういや、荒野エリアのボスの回転草ってどうなってんだろ? あれはあれで枯れてるもののような……って、今気にしてる場合か!


「予定変更! 風音さんの火魔法をこの異形相手に使う! アルとヨッシさん、それと周辺のフォローにハーレさんの3人で残り逃さないように対応を頼む!」

「了解だ! 行くぞ、ヨッシさん、ハーレさん!」

「了解!」

「はーい! とりあえずシカを仕留めるのです! えいや!」


 風音さんのブラックホールに捕まっているシカに向けて、溜めが終わった貫通狙撃が投げ放たれていく。おし、良いダメージが入ってる!

 ヨッシさんもハーレさんもスケルトンとの相性が決して良いとは言えないから、役割の変更をしないとこの状況は厳しいしね。向こうの状況判断は、アルに任せるって事で!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 90/122 → 90/116(上限値使用:7)


 アルが動きやすいように、俺は飛行鎧を展開してアルのクジラから離れ――


「っ!? この骨のサルとツタが逃げたかな!?」

「ちょ!? 逃すか! 風音さん、頼んだ!」

「……任せて! ……『ブラックホール』」

「よし、ナイス!」


 俺は飛び始めたばっかだったから風音さんに任せたけど、すぐに対応してくれてよかったよ。ふぅ、今のは流石に想定してなかった動きだから慌てたね。

 戦闘に入ると思ったら、即座に逃げに動くってどういう事だ? すぐに風音さんが捕獲に成功したけど、今の動きには違和感が……。


「……こいつ、もしかして『瘴気支配』で黒の統率種が直接操作してる個体か?」

「それは、ありそうかな? それなら……『薙ぎ払い』! これで、片脚の骨は外したかな!」

「ナイス、サヤ! 風音さん、拘束は俺が代わるから、その後にツタを焼き払ってくれ!」

「……倒して……良いの?」

「あー、どうせ会話にはならないだろうし、逃げようとしたって事はこの個体は重要なんだろ。そんなもん、仕留めるだけだ!」

「……分かった」


 本体になる黒の統率種はこの近くにはいないだろうけど……根本的に未成体の異形へと進化させられる個体を操作が出来る可能性は考えてなかった。

 これは……場合によっては群集支援種を乗っ取るのが、黒の統率種の統率下にある異形という事になりかねない。ちっ、インクアイリーはそれが狙いか! それにしては目の前で逃げるという行為にも違和感が……そこを考えるのは後だな。


「……どうも妙な感じだし、とりあえず動きを止めとくか。『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「ケイさん、何か変なのです! 攻撃の狙いが、私達からそのツタとサルの方に移ってるのさー! 『連速投擲』!」

「行かせないよ! 『エレクトロインパクト』!」

「本当に味方か、こいつら? おい、ケイ! そっちのは下手に瞬殺を狙わない方がいいかもしれんぞ!」

「はい!?」


 なんだか妙な流れになってきたけど、アル達が戦っている黒の統率種に率いられた瘴気強化種が、この異形を襲おうと動き出した? それにこの異形のツタとサルも、最初こそ逃げようとしたけど……今は欠片も逃げる気配がないのも変だな。

 いや、しっかりとさっきサヤが脚の外した骨を、ツタで持ち上げて元に戻してはいるのか。それって、戦えるのに……戦う意思が無いって事になるよな?


「プレイヤーだよね? どういうつもりかな?」

「……『瘴気支配』なら……存在は……知っているよ?」


 サヤと風音さんの呼びかけに対して、納得するような感じで頷いている。頷いているけど……それってどういう状況での反応になるんだ? インクアイリーに関係している黒の統率種のプレイヤーじゃないのか?

 いや、ここまでの戦いの様子を見る限り、今の戦闘はインクアイリーからの襲撃の可能性は高いはず。いくらなんでも、状況的にそれ以外は考えにくい。


 となると、この異形の立ち位置の可能性としては……イブキと同じ考えの人か! でも、その確証はないし、逃さずに仕留められる状況にはしておきたい。

 今は逃げる意思も戦う意思も見えなくとも、即座に仕留められるようにはしておくか。その上で、状況の確認だ。


「風音さん、予定通りに拘束は俺が引き継ぐ! ……伝えたい事があるなら、その後で聞く。周りへの対処も必要だから、変に暴れてくれるなよ?」


 そう言ってみれば……思いっきり同意するような感じで頷いてるよ。って、ツタで頭蓋骨だけ持ち上げて分離させた状態で頷かんでいい! そんな芸当が出来るのかよ、その状況!


「……ツタで……繋がっていたら……骨の分離が……可能?」

「どうも、見た感じではそうみたいかな? これって、こういう事も出来るって警告なのかな?」

「あー、そうかもな。まぁその辺は後で、とりあえず拘束していくぞ!」


 中途半端な拘束じゃ、このタイプの異形の攻撃は抑えきれないって事でもありそうだよな。……ツタを使って攻撃範囲の拡大なんて芸当が出来るとは、実際に見ないと分からんわ!

 これを正確に捕獲するとなると……ちっ、各部位の骨を動かせないようにしなきゃいけないのか。岩の操作でまとめて固めると意思疎通に問題がありそうだし、今回はこれでやってみよう。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 90/116(上限値使用:7): 魔力値 262/306

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 88/116(上限値使用:7): 魔力値 259/306

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 間違っても昇華魔法にならないように、離れた位置に生成して……ここから、こうだ! 岩で固めるのが手っ取り早いけど、それだけだと問題が出るなら、少しアレンジすればいい。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 69/116(上限値使用:7)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 63/116(上限値使用:7)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 頭部以外は岩で完全に固めて、頭部だけは土の操作で4つの大きめな石で押さえるようにしておく。これなら多少の動きの融通は利くだろうから、意思確認をしたい時に石の方を緩めればいいだけだ。


「サヤ、風音さん、今のうちに他の瘴気強化種の撃破に回ってくれ!」

「分かったけど、ケイも油断はしないようにかな!」

「……油断させる……演技の可能性も……まだある」

「その辺は分かってる! いざとなったら、一気に骨を砕くからな!」


 この状態でも、まだツタだけは普通に動けるだろうしね。でも、支配進化の可能性が高いし、傀儡側のスケルトンのサルの骨を完全に砕いて戦闘不能にすればツタも弱体化するはず。

 最悪でも岩の操作で全身の骨だけ外してしまえば、仕留め切れずともアルの海水魔法か、風音さんの火魔法を撃ち込んでもらうまでの時間稼ぎは可能だ。あー、でも先に識別はしておくべきだったかも?


「サヤ、そのキツネは魔法型だから削るのはお願い! 『アイスインパクト』!」

「任せてかな! 『連爪刃・閃舞』!」


 おー、赤い体毛のキツネがどんどんサヤの銀光を放つ爪で斬り裂かれていっている。さっきアル達が様子が変だと言ってた時に相手をしていたシカは仕留め終わっていないみたいだし、これは全部撃破までそう時間はかからなさそうだな。


「相手は俺らだっての! 『ルートスキューア』!」

「アルさん、ナイスなのさー! 『魔法弾』『略:ウィンドインパクト』『連投擲』!」

「……トドメ! ……『アースインパクト』」

「こっちもトドメかな! 『爪刃乱舞』!」


 あ、イノシシとキツネはほぼ同時に撃破完了か。ふぅ、とりあえずこれで俺らの割り当て方向の敵の始末は終わったね。

 北の方から盛大な爆音が聞こえたけど、ジェイさん辺りがスチームエクスプロージョンを使ったっぽい? まぁ戦闘中なんだし、爆音が聞こえてもおかしくないか。


「他の戦場がどうなってるか気になるけど……まぁ今は増援に向かえる状況でもないな。さて、どういう立場の人なのかを聞いてもいいか?」


 俺のその問いに合わせてサルの頭の骨を押さえている石を緩めれば、了承の意思を示すように頷いている。

 こういう感じのやり取り、何度目だろうね? まぁ喋れないからと言って、意思疎通が出来ない訳じゃないのはありがたいけどさ。


「それじゃまずは確認だ。インクアイリーの一員ではないんだな? こうして大人しく捕まっているのも、わざとで合ってるか?」


 うん、この質問にも思いっきり頷きまくっている。インクアイリーの事はちゃんと把握してるみたいだし、イブキみたいにやり方が気に入らないとかそういう感じなのかもね。まぁその辺も一応聞いておくか。


「えーと、念の為に確認だけど……乱入してきている無所属の人だよな? インクアイリーのやり方が気に入らないって感じ? そういう人は他にもいたんだけど……」


 って、ちょい待った!? この質問には凄い勢いで首を横に振ってるんだけど、それじゃもしかして灰の群集へ傭兵に来てる人か! まさかのイブキじゃなくて、時雨さんと同じパターンだった!?

 いやいや、それならここからは声を落としていかないと不味い! ちっ、なんでよりによって共闘の真っ最中にそういう人がやってくる!?


「ケイ、拘束は緩めるなよ。悪いが……他の群集の人がくれば即座に仕留めて誤魔化させてもらう。それでいいな?」


 声を可能な限り抑えたアルのその提案に、スケルトンのサルの人は力強く頷いている。……なるほど、この状態なら味方であっても仕留める事は可能だもんな。

 出来れば誤魔化す必要がないのがいいんだけど、赤の群集も青の群集もあの戦力ならそう時間はかからず殲滅を終えてくるだろうね。動きが普通の敵と変わらないのなら、苦戦するような人達ではないしさ。


「ハーレ、周囲を警戒かな。誰かに聞かれたら、厄介な事になりそうだし……」

「他の群集の人には聞かせられないもんね!」

「……少し……暴れておく?」

「今は戦闘を続けてる風に思わせた方がいいかもね。ケイさん、それでいい?」

「確かにそれはそうだけど、獲物察知で丸分かり……あー、俺が拘束したまま回避していくから、攻撃を受けてもらうのは問題ないか? 当てさせはしないからさ」


 おし、この提案にも頷いてくれている。敵の反応が1つあるのに、それが全然動かずに戦闘音だけ聞こえるのも不自然過ぎるからな。……まさかこんな形で偽装が必要になるとはね。


「俺が固めてる岩と並んで飛んでいくから、みんなはギリギリ当たらない感じにしつつ、周囲の木々を巻き込む感じでよろしく! 赤の群集と青の群集には、黒の統率種が直接操作してた相手がいたって言えば納得するだろ」

「ま、嘘ではないしな。ケイ、避けるのをミスるなよ?」

「……まぁそこは善処する」


 どこまで観測されているか分からないし、誤魔化し切れるかも分からないけど……ともかく、偽装戦闘を開始!

 その中で言葉が通じない状況で質問をして情報を聞き出さないといけないんだから、大変過ぎるわ!


「いっけー! 『連投擲』!」

「『ポイズンクリエイト』『強化統率』! ハチ2号、『遠距離攻撃』!」

「……『ファイアクラスター』」


 ちょ!? みんなして、全力じゃね!? 待て、待て、待て! これ、全力で避けなきゃ並んで飛んでる俺の方まで強制解除になるやつじゃん!? 地味にヨッシさんの統率個体の攻撃が本当にサルとツタ狙いになってるんだけど!


「ちっ、すばしっこいな! ケイ、動きが少しでも鈍った時に岩で拘束しろ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「このサルの人、動きが早いかな!?」


 サヤとアルは声だけだけど、完全に戦闘中だと思わせるような内容になってるな!? えぇい、下手な芝居じゃ見抜かれかねないから、ここで変な手抜きは出来ないか!


「ちょこまかと、素早いんだよ! ……これだけは確認しときたい。未成体のそのツタが、重要なのか?」


 全力で避けながら、全力で演技に乗っかりつつ、小声で質問って忙しいな!?

 でも、共闘の今の状況で他の群集に知られずに聞き出すにはこれしかないもんな!? すぐに他の誰かが聞ける状況になるとは限らないんだから、このチャンスを逃してなるものか!


 今の質問に対しては、頷いているから肯定だな。どうしても伝えておかなければならないからこそ、こんな無茶な状況でも突っ込んできてたんだろうね。


「……それで、群集支援種を乗っ取る事は可能か?」


 これには頷いた後に、ツタで『?』っぽい形を作って出してきたから確証は無しっぽい。でも、反応の早さから考えてその可能性は考えていたみたいだし、それが伝えたかった事なのかも。


「……その件は、インクアイリーも把握している? というか、群集にその情報が伝わらないように画策してるのか?」


 おっと、これには盛大な頷きが返ってきた。なるほど、だからこの状況になった時点で俺らから標的が変わった訳か。このやり取りをさせない為に、即座に仕留めてしまおうと――


「ケイさん、時間切れなのです!」

「こっちに飛んできているタカの瘴気強化種と、それを追いかけてきてる斬雨さんとジェイさんが見えるかな!」

「……マジか!」


 なんとか最低限、必要な情報は聞けたけど……もう少し色々と聞きたかったとこだな。あー、ツルでサルの頭を突いているし……さっさと仕留めろって事か。

 なんか申し訳ないけど、そうするしかなさそうな状況だな。……すまん、名も知らぬ味方の傭兵の人!

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