第1268話 揃う三つの群集


 どう考えても、俺らを狙っていた攻撃でコトネを仕留めて登場してきた斬雨さんとジェイさん。相変わらずの上空から斬ってくる奇襲が好きだな、おい!

 あ、でも今回は斬ったというよりは貫いていたから、斬撃じゃなくて刺突なのか? なんだかジェイさんが岩で固めてるし、岩の操作で推進力を増してるような感じがするんだけど……。そもそもこれって……。


「……ジェイさん達は、霧の偽装で近付いてたのか?」

「まぁそうなります」

「あっさりと認めたな!?」

「スミからの報告を聞く限り、隠す意味は無さそうですしね。それに……姿は見せませんけど、私と斬雨だけなはずがないでしょう?」

「見えないだけで、他にも上空にいそうなのさー!?」

「ま、そりゃあの偽装が使えるなら、そうもなるか」

「……そりゃそうだ」


 これはどう考えても、まだ上に他のメンバーが待機している宣言ですよねー。見上げてもさっぱり分からないし、霧に偽装してる状態で確定だろうな。

 獲物察知の反応が出てないのは、上空過ぎるからか……今まで考えてなかったけど、獲物察知の妨害には上下への有効範囲もあるからか? どっちも可能性はありそうだけど、後者の可能性の方が高そうな気がするよ。……昨日の岩のドームの件もあるしね。


「それで、俺らへの奇襲をやめた理由は? 今の上空からの攻撃なら、誰か1人……それこそアルを仕留める事も出来たんじゃね?」


 サヤと風音さんは、赤の群集と共闘して黒の統率種が従える瘴気強化種との戦闘中で離れている。だから、次の攻撃を仕掛けてこないうちに可能な限り、サヤと風音さんの存在に気付かれないように情報を伝えておく。

 それにインクアイリーがいようとも、俺らへの奇襲が成功する可能性は高かったはずだけど……止めた理由が純粋に気になる。


「さて、それはこれからの話次第にはなりますが……インクアイリーが仕掛けてきているので間違いはないですか? 先ほど、誰かを仕留めていましたよね? ……異常にあっけなさ過ぎるくらいに」

「ぶっちゃけるけどよ。ケイさん達を狙いに来たのは間違いないが、さっきの攻撃で狙おうとしたのはそっちだからな? その辺、ちょっと事情を教えてくれや」

「斬雨さんが狙ってきたの、私達じゃなかったんだ!? だから危機察知に反応が無かったんですか!?」

「おう、そういう事になるぜ」

「……なるほど」


 俺らは全然隠れる事もせずに大々的に探りに動いていたから、そこを狙ってきたのは間違いなさそうだけど、攻撃の標的が俺らではなかったのは嘘じゃなさそうか? さっきの攻撃は明確にチャージ系の攻撃だったから、多少のタイムラグがあるのは説明出来るしさ。


「……おい、ジェイさんがここに何の用だ?」

「おや、誰か赤の群集と共闘しているとは思っていましたが……まさか、ウィルさんでしたか。聞いていますよ、赤の群集が何かを探し回って動いているという話は。灰の群集にも同様の動きがあるようですが……さて、何がどう動いているのですか? 灰の群集の方は、予想外の戦力も投入しまくっていますしね」


 なんかウィルさんが戦闘を切り上げてきて、一触即発の雰囲気なんですけど!? まさか、こんな形で全群集の所属プレイヤーが揃うとは思わなかった。

 てか、その予想外の戦力って多分、まだ成熟体になってない人達の事なんだろうけど、それに関しては俺は無関係なやつだから! ……ジェイさんの今の反応的に、地味にアイルさん発案の作戦は効いてるっぽいな。


 それはそうとして……アクアクラスターはまだあと数発だけど、全部は撃ち切ってはいないのはどうしよう? 照準となる水滴があちこちに点在してる状況になってるし、ここで残りを使って奇襲って手段もあるけど……まぁ多少は待機させられるし、今はそのままにしておくか。


「灰の群集の予想外のあれは置いておくとして……青の群集には色々と言いたい事や確認したい事はあるが、今はそういう余裕はないんでな。ケイさん達は今、俺ら赤の群集との共闘中だ。邪魔をするなら……排除させてもらおうか!」

「いえ、邪魔する気はありませんよ。それに共闘が成立しているのであれば、条件的には私達とも成立するものですよね? 聞きたい事があるのはこちらも同じですし、今は私達も加えての共闘で手早く片付けるのは如何でしょう?」

「……なるほど、青の群集もこの共闘に混ざる気か」


 青の群集の傭兵が今襲ってきている数人の黒の統率種の可能性を考えてたけど……この感じでは違いそうだな。あの妙な感じのクラゲの人が指示を出してるような気はしないし、コトネがここまでやってきたのが完全な偶然とも思えない。

 まだインクアイリーの本命がどこかに残っている可能性があって、指示を出しているのかも? まぁ黒の統率種の仕様を考えると、本体がここにはいないという可能性もあるけど……。


「……ケイさん、状況が状況だから手短に聞くぜ。青の群集とも共闘、灰の群集としては今の状況で受け入れる気はあるか?」

「青の群集の仕業とも考えてたけど、その可能性は除外でいいや。どっちにしても、黒の統率種……少なくとも統率されている瘴気強化種は全部始末したいから、受け入れで!」

「よし、なら赤の群集もそれでいい。ジェイさん、そういう事だ。まずは攻めてきている黒の統率種の統率個体の撃破を最優先する! 出来れば黒の統率種自体も仕留めたいが、そこは状況次第だ」

「えぇ、それは承知しました。……共闘を受け入れという事は、この状況は赤の群集の自作自演の可能性は薄まりましたか」


 おー、ジェイさんもその疑惑は持ってたのか。でも、これから共闘しようって流れでその発言は必要? いや、ウィルさん相手には牽制も含めて言いたくなる気持ちは分かるけど。


「……そういう疑いもかけてきてたのか」

「えぇ、まぁ共闘に関しては信頼性を作る為にも、成立させたという実績は欲しいですからね。自作自演ではなく、本当の共闘の方が信憑性は増すので、この機会をありがたく利用させてもらいますよ」

「ジェイさん、それが狙いで俺らへの奇襲をやめたな!?」

「……個人的には絶好の機会だったんですがね。インクアイリーが想像以上に危険そうなので、個人的な事情は今は捨てておいただけですよ」

「あー、そうですか」


 共闘の話がなければ、斬雨さんの攻撃を受けてたのは俺らだったか……。あの攻撃はかなりの速度だったから……避け切れるのか? 斬るのではなく、刺す攻撃にしてたし……いや、今はそれを考えてる時じゃない!


「さて……この場に黒の統率種の本体がいればいいのですが、正直それは期待薄でしょうね。ウィルさん、北側は青の群集で引き受けますので、東と西の方へ赤の群集は下げていただいても?」

「……あぁ、それは了解だ。下手に混ざるよりは、その方が安全だろうしな」

「それでは、そのように。これより、赤の群集と灰の群集との共闘に入ります! 私と斬雨で撹乱しますので、上方からの強襲を!」

「さっさと始末をつけてやろうじゃねぇか!」


 うっわ、姿は確認出来てないけど、この2人が撹乱しながら上空からの攻撃ってとんでもないな。……って、呑気に考えてる場合でもないか。

 ジェイさんがそういう感じで戦闘の状況を組み立てるなら、俺らもそれに合わせた方がやりやすい。もし、他にインクアイリーの一員が隠れていたとしたら、まぁ姿を現した時に対処を考えよう!


「ウィルさん、俺らも分散させてた戦力を一ヶ所に集めて南側に行く! この状況なら、明確に対処する方向を分けた方が安全だしさ」

「……巻き込むリスクを考えればそうなるか。よし、なら片付いた後に、湖の中央に戻ってくるのでいいな!?」

「それで問題なし! ただ、状況次第ではそのまま離れるぞ?」

「……まぁ追撃が必要であればそういう事もあるか。おし、ならそれで決まりだ! 赤の群集、北側にいる奴は西側へ、南側にいる奴は東側へ回れ! ルアー、西側の指揮は任せるぞ。俺は東側に回る!」


 共闘での戦い方をジェイさんに決められてしまった感じにはなったけども、3つの群集が入り乱れて攻撃に巻き込まないように動くよりはこの方がいいはず!

 てか、ジェイさんが即座にそういう指示が出せるって事は、結構前から状況を捕捉されてた? ……あー、俺らはやっぱり偽装して隠れながら進んだ方がよかったのかも? まぁいいや、それを考えるのは後!


「サヤ、風音さん、俺らもそっちに合流する! それまでは移動する赤の群集の人達をフォローする感じで動いてくれ!」

「……うん! ……行かせない! ……『ブラックホール』」

「分かったかな! そこ! 『薙ぎ払い』!」


 具体的にどう戦ってるかの様子は見えないけど、風音さんがブラックホールを使ったなら動きを封じるのが狙いっぽいね。サヤの薙ぎ払いは、ブラックホールに向けて敵を吹っ飛ばすのが目的かも?

 あの2人なら、黒の統率種に従っていても、自動で動く個体の相手は複数でも動きを止めるくらいは問題ないはず!


「アル、サヤと風音さんの所へ向かうぞ! あと、余ってるアクアクラスターはここにいるみんなへ『水の刻印』にしとく」

「……最後の派手な発動がまだだと思ってたら、撃ち切ってなかったのか」

「仕方ないだろ!? あそこで斬雨さんとジェイさんの乱入は想定外だったんだから!」

「ま、確かにそれもそうか。とりあえずさっさと移動するから、移動中に無駄になってる分を手早く使い切っちまえ。『高速遊泳』!」

「ほいよっと!」


 無駄って言い方は気になるけど、まぁ確かに無駄になってるのは事実だから仕方ないな。完全に無駄にしない為に残ってる分を『水の刻印』に変えるだけだし、現状で水属性への耐性を上げて意味があるのかは分からないけど……とりあえず使い切らないと他のスキルが発動出来ないから、手早く済ますまで!

 よし、支配進化になってるアルとヨッシさんの両方の種族にもそれぞれに刻めたし、ハーレさんもリスとクラゲの両方にちゃんと刻めたな。2キャラいれば、進化の種別は関係なくそれぞれに『水の刻印』は刻めるんだな。


「ヨッシ、魔力値の回復はどうですか!?」

「半分以上は回復出来たから、戦闘には支障はないよ。ジェイさんと斬雨さんが襲ってきた訳じゃなかったから、報告と回復の両方が出来て助かっちゃった」

「堂々と回復してたもんな、ヨッシさん。報告はどんな反応?」

「警戒はしつつ、青の群集の動向も探ってくれってさ。というか、私達はやっぱり目立ってこそって話題になってるね」

「……マジで?」

「うん、強敵……それもジェイさんがよく釣れるって感じでね」

「あー、イマイチ否定出来る気がしない?」


 囮を引き受けている事も結構あるし、赤の群集と青の群集の両方に警戒されてるのは間違いないから……冗談抜きで否定要素がないわ! 今まさにジェイさんが仕掛けてきてたんだから尚更に! あー、もう徹底的に隠れるつもりで動かない限り、そうなるのは必然か。


「って、脱線して話してる場合でもないな。風音さんが見えたし、全員、戦闘開始!」

「おうよ!」

「はーい! 『貫通狙撃』!」

「少しの間、情報収集は完全に中断だね! ハチ1号、『遠距離攻撃』!」


 獲物察知の効果はまだギリギリだけど続いてるし、風音さんの姿は目視出来た。既に何体かは倒せたのか、赤の群集を追いかけていったのか、戦闘になりそうな範囲の敵の数は4体だな。

 サヤの姿も見えたし、風音さんから降りた状態で戦闘中だったみたいか。離れていってる敵もいるけど……まぁそれは赤の群集の人達の方へ向かってるんだろうし、あっちはあっちで任せればいいや。


「ケイ、この中には黒の統率種はいないかな! 全部、黒の瘴気強化種!」

「……動きは……単調……普通の雑魚と……変わらない」

「直接、操作してる個体はここにはいないって事か。その情報はサンキュー!」


 既にここまでの戦闘中に識別を済ませて、確認はしておいてくれたみたいだね。いるとは思ってなかったけど、やっぱり黒の統率種はこの場にはいないか。

 敵の種類としては、シカ、イノシシ、サル、キツネだな。特に変わり映えしない個体だけど、数が多ければそれだけ相手の戦力にはなる。だから、ここでその戦力を削ぐまで! この中で1番厄介そうなのは……。


「木を飛び移ってるサルが邪魔か。ハーレさん、溜めが終わったらサル狙いで!」

「了解です!」

「え、サルがいるのかな!? さっきまで、サルはいなかったと思うけど……」

「あー、そうなのか」


 となると、まだサヤが識別出来てない新しい敵になるんだな。木々を飛び移ってるから、他の雑魚敵が紛れ込んできた可能性もありそうだ。……俺らの人数が増えたから、こっちの回した個体って可能性もあり得るか?


「とりあえず動きは速くはないけど動き回って邪魔だから、最優先でサルを仕留める! その間、風音さんとサヤはさっきやってたっぽいブラックホールでの他の敵の動きを封じる感じで頼む!」

「分かったかな! 風音さん、またやるかな! 『薙ぎ払い』!」

「……うん! ……『ブラックホール』」


 シカの前に回り込んだサヤが吹っ飛ばして、サル以外の3体の真ん中になる辺りに展開されたブラックホールが捕らえた! よし、この感じで他の敵を留めておくのは任せ――


「っ!? なんか急に黒い矢印が伸びてきた!? って、ツタ!?」

「わわっ!? サルにツタが巻きついていくのさー!?」

「え、ここで瘴気の渦も出てくるの!?」


 くっ、瘴気の塊にツタが伸びていって、どんどん枯れていっている! まさかこの状況は――


「ちっ、このサルとツタ、どっちも未成体か! ケイ、これは――」

「多分だけど、異形への進化だろうな!」

「え、進化が始まるのかな!?」

「……異形への……進化?」

 

 うげっ、枯れていくツタを伝わってサルの肉が無くなって骨だけになってる。枯れたツタに巻き付かれたスケルトンなサルって、2体同時での進化とかありかよ!

 これ、特殊なパターンな気がするけど、ツタが支配側の支配進化か? あー、共闘中にこういう状況が発生するんかい! てか、このツタは根本的にどこから来やがった!?

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