第1267話 赤の群集との共闘


 なんだかウィルさんの自作自演の疑惑があるような気がするけど、その根拠はどこにもないから……今は気にしないでおこう。

 ともかく、襲ってきている黒の統率種に率いられている大量の瘴気強化種を仕留めてしまわないと! どういう相手だとしても、俺ら灰の群集にとっては倒さないといけない相手ではあるしね。それはそうとして……。


「……ウィルさんとルアーが一緒にいる場合だと、どっちが指揮権は上なんだ?」

「それ、今聞く事か!?」

「いや、ライさんのそのツッコミも分かるんだけど、指揮系統って大事だからな!?」


 共闘をしようって状況で、誰が指示を出しているのかが不明な状況は危険だしな! ルアーがリバイバルのリーダーで、ウィルさんはそこの作戦参謀になるんだから、微妙にどっちが上に行ってもおかしくないから!


「色々な決定の最終判断は俺がするが、咄嗟の戦闘指揮はウィルだと思ってくれていいぞ」

「そういう事だ、ケイさん。まぁこっちはこっちで勝手に動くから、そのアルマースさんが持ち上げたままの湖の水の処理さえ先に言っててくれればそれでいいぜ? ケイさん、空中で落下する前に操作し直すとか、無茶な事をやってたそうだしな」

「……そりゃどうも。とりあえずその辺も了解っと」


 持ち上げた水が獲物察知の発動で邪魔だったから、思考操作で大急ぎでやっただけだけどなー。やった時には誰からも何の反応もなかったのに、地味に報告してたな、ライさんめ!


「各自に通達だ。囲んでいた灰の群集とは共闘が成立したから、そっちからの攻撃は気にせず目の前の敵の殲滅に集中しろ!」


 そのウィルさんの言葉を聞いてから戦闘音があちこちからし始めたし、獲物察知への反応も一気に増えてきた。……この共闘、一緒に倒す為のものじゃなくて、襲ってきた相手と俺らを同時に相手をしない為のものか。


「……凄い……人数に……囲まれてた?」

「そうみたいなのさー!?」

「霧で見通せなくなる距離を保ったまま、これだけの人数がいたのかな」

「……あはは、ある意味襲ってきてくれて助かったのかもね?」

「確かに、ここまでの人数がいたとは想定してなかったな……。それで、ケイ……この水は結局どうすればいいんだ? 流石にあんな曲芸みたいな操作はよくやらんぞ?」


 味方からも何も言われてなかったけど、曲芸扱いだったんかい! いやまぁ変にそういう話が出来る状況でもなかったけど……それは今も同じだよなぁー!?

 まぁいいや、そこを気にしても仕方ない。あれは変に状況を変えたくないけど、だからといってそのままだと邪魔だったからやっただけの事。今はアルがそれをする必要はないけど……実際、どうしたもんか?


「……このままばら撒いてサヤとヨッシさんの電気を通してって言いたいけど、そうすると赤の群集を絶対に巻き込むし……共闘になった以上は普通に湖に戻すのが無難か。ウィルさん、それで良いか?」

「おう、そうしてくれるのが俺らとしては1番ありがたいとこだ! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「ほいよっと!」


 湖の中にいて纏水中っぽいライさんや、川魚のルアーに関しては元々気にする必要はない事だし、ウィルさんは小石を足場に空中へと退避したから巻き込む心配はなし。

 敵としてなら積極的に巻き込んでいくとこだけど、共闘が成立した現状で避けられない事態以外では出来るだけ自重しないとね。……青の群集のスミには色々やってしまったけど、避けるのが難しい事態ではあったし、そもそもやられ返されてるから気にしない!


「アル、そういう事でよろしく!」

「おうよ!」


 という事で、アルが操作していた水が盛大に落下して水飛沫を上げて……って、そのまま操作を解除した!?


「……は?」

「アル、随分と雑に落としたな? でも片方だけ?」

「今のは俺がやった訳じゃねぇ! 誰かに操作を剥奪されたぞ!?」

「ちょ!? え、マジ!?」


 そうなると、水の操作に触れた敵がいるはず! でも獲物察知にはそんな至近距離での反応はないし、目視でも分からん!


「あー!? 透明になってるクラゲが、空中を漂ってるのさー!」

「完全に油断してたかな!? 『看破』!」


 クラゲの身体は透き通っているのが多いけど、ここまで完全に先の景色が見えるまで透き通る個体もいるのかよ! でも、サヤの看破で擬態は破ったから……。


「って、白いカーソル!? アル、湖の水で覆ってしまえ! サヤ、ヨッシさん、そこにサンダーボルト!」

「海水程じゃねぇが、電気を通さない訳じゃねぇしな! 逃すかよ!」

「サヤ、やるよ! 『エレクトロクリエイト』!」

「分かったかな! 『略:エレクトロクリエイト』!」


 ここで白いカーソルのクラゲが出てくるって事は、インクアイリーの可能性が高い! それもこのタイミングで出てきたんだし、これ以上何かを仕掛けられる前に速攻で仕留める!

 アルが操作する湖の水の中に取り込んだクラゲの人へ、昇華魔法のサンダーボルトの落雷が次々と落ちていく。……ちっ、地味に霧を伝わって威力が分散してるっぽい? ただ、そこまで広範囲に影響を及ぼす訳ではないのか。


「ふむふむ、霧には多少の電気魔法の威力を分散させる効果がありと。減衰幅はそこまで極端に酷い訳でもなく、かといって分散したといってもそれが攻撃になるほどではないみたいだね。いやはや、狙った通りにサンダーボルトを使ってきてくれて助かるよ」

「……はい?」


 盛大に攻撃を受けながら、HPがどんどん減っている状態で何を言ってるんだ、このクラゲの人!? ……え、もしかしてサンダーボルトを霧の中で使うとどうなるかを確認するのが目的!?


「それぞれが自由に動いているし、思ったよりも仕留められて位置がバラバラになってしまって試そうにも試せなくてね。確実にサンダーボルトを使える風雷コンビとやらを探していたんだけども、ここで丁度いい相手がいたもの……おっと、今回はこれで失礼するよ」

「はい!?」


 ちょ、そのまま何もしないままHPが尽きて死んでいったんだけど!? 何、今のクラゲの人の反応!? え、あれが競争クエストの参加してきている人の戦闘時の反応なのか!?


「……なんだったんだ、今のクラゲの人は?」

「分からん! でも、インクアイリーの一員なのは間違いなさそうだったけど……」

「……あまりにもあっさりと仕留められ過ぎて、謎過ぎかな?」

「今の言葉をそのまま捉えると、霧の環境下での電気魔法の影響を調べたかったみたいだよね? ……思惑通りに、攻撃を誘導させられた?」

「あぅ……そうなりそうです……」

「……厄介な……相手?」

「あー、そう考えると、相当厄介な相手かもしれないな……」


 今回はすぐに仕留められたけど……完全に俺がどういう指示で攻撃に動くかを誘導されていた状況かよ。しかも、霧の中でサンダーボルトが周囲へどう影響を与えるかを、周囲で囲んでいる赤の群集で試したな!?

 名前は……あー、白いカーソルを見た時点ですぐに攻撃判断を下したし、その後は言動が予想外過ぎてしっかりと見ていなかった! 


「ケイさん達! 今のクラゲが気になるのは分かるが、それは後にしてくれ! 『並列制御』『根の操作』『爪刃乱舞』!」

「そりゃそうだよなー!」


 霧で薄っすらとシルエットが見える程度だけど、少し離れた位置からそんなウィルさんの声が聞こえてきた。インクアイリーの一員が今のクラゲの人だけとも限らないし、慎重にいかないと……。


「ヨッシさんは魔力値を回復! サヤは風音さんに乗って近くに寄って、赤の群集の人には当てないように強襲!」

「了解!」

「……サヤさん……乗って」

「風音さん、よろしくかな!」


 サヤはそのまま戦えるから問題ないけど、ヨッシさんはいきなり魔力値を使い切ってしまったもんな。警戒してるからこそ、初手で一気に殲滅した。

 したけど、あれが誘導されたものだというのは……いや、それは今は考えないでおこう。それはこの場を乗り切ってから考えればいい事だ。


「俺とアルは後方支援で、ヨッシさんもある程度回復したら俺らと一緒にやるぞ! ハーレさんは周辺警戒を頼む! さっきのクラゲがどこから出てきたかも分からないし、奇襲に備えてくれ!」

「了解なのさー!」

「ケイ、俺は水を下ろしておくぞ!」

「それで頼む!」


 よし、みんなへの行動指示出しはこれでいい。ハーレさんもサヤと風音さんと一緒に強襲へと送り出したかったけど、この状況で危機察知持ちを分散させる訳にもいかないからな。


 狙っていく相手は……俺が決めるよりは、共闘してる人に聞く方が早いか! どうしても大声を出す事にはなるけど、このタイミングでフレンドコールをする方がリスクは高いはず。

 敵に聞こえる事にはなるけど、まぁそれは逆にこっちの戦力を一ヶ所に固める事も出来るから、どう使うかはウィルさんの判断に任せよう!


「ウィルさん、戦力の追加が必要な方角を指示してくれ! そっちへ俺らが回る!」

「それなら湖の南側へと回ってくれ! 何人かやられて、少し手薄になっている!」

「ほいよ! サヤ、風音さん、頼んだ!」

「行ってくるかな! 『魔力集中』!」

「……すぐに……辿り着く! ……『高速飛翔』」


 1個だけレモンを齧ったサヤを乗せた風音さんが、一気に加速して湖の南側へと進んでいく。あの2人の強襲なら、相当強力になるはず。


「ケイ、俺らは動かないのか?」

「同じ方向には行くけど、一気に全員で動くのを避けたくてな。さっきのクラゲが1人とも限らないし……目的が謎過ぎるからさ。奇襲への警戒の為に、ちょっと戦力分散。ハーレさん、周囲の確認を念入りに頼む」

「……なるほど、全員で不用意に突っ込むのも危険って判断か」

「そういう事。だからサヤ、風音さん、どっちが襲われたとしても、後からフォローが出来るようにしていくぞ」

「あ、そういう狙いなのかな!」

「……分かった」


 安全圏の前が襲われた時は、俺が単独で動いていたからこそ切り抜けられたという側面もある。相手の出方が他の群集を相手にするよりも遥かに読みにくいから、下手に全員が固まってそのまま全滅って状況だけは避けたい。

 って、なんか西の方から白いカーソルが凄い勢いで近付いてきてるんだけど!? ちっ! やっぱり何かが――


「あはっ! あははっ! 木を背負ったクジラ、見ーつけた!」

「わー!? コトネってタカの人が、凄い勢いで突っ込んで来てるのさー!?」

「俺らの方に来やがったか! ケイ、どうする!?」

「そんなもん、返り討ちにするしかないだろ! 俺とハーレさんで動きを乱すから、アルが捕獲してくれ! ヨッシさんは強化統率と魔法で防御を任せた!」

「おうよ! 『自己強化』!」

「はーい! 『魔力集中』『連投擲』!」

「了解! 『アイスクリエイト』『強化統率』! ハチ1号、『防衛行動』!」


 他に誰かインクアイリーがいる可能性は考えたけど、ここであの安全圏を強襲してきてた1人がいるとは思わなかったわ!

 でも、無所属なら戻される安全圏もないから、この近くに飛ばされていたのかも……。あー、もう! なんかそれは運が悪い気がするぞ! ともかくそんな事を考えている暇はないし、サヤと風音さんの方も戦闘が始まったみたいだし、ここは俺らで切り抜けるまで!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値10と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 100/122(上限値使用:1): 魔力値 276/306

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 80/122(上限値使用:1): 魔力値 246/306

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 既に魔法砲撃は発動中だから、両方のハサミから魔法砲撃にして撃ち放つ! 多分1撃も当たらないだろうけど、回避行動に専念させるのが目的だから問題なし!


「あはっ! あははっ! そんなの、当たりはしないよーだ!」

「だったら、これなのさー! 『白の刻印:増加』『拡散投擲』!」

「無駄、無駄、無駄ー!」

「えっ!? 今のを躱されたのです!?」

「どういう回避能力をしてやがる! アル、捕まえられそうか!?」

「駄目だ! 流石に早過ぎる!」


 風魔法と風の操作を使っての無茶な軌道変更を扱いこなしてるな、このコトネって人は!? でも、俺らへの攻勢に移ってくるほどの余裕まではないか。瘴気汚染は……そういや死んでも重度の場合だと回復しないんだっけか。ろくに回復しない状況で、この奇襲かよ!

 まぁサヤが一度倒してるんだし、一撃でも当てれば仕留められる状態……って、ちょっと待てーい! このタイミングで、その反応が出るんかい!


「あはっ! あははっ! このギリギリでの回避、いいねぇ! でも、倒せたらもっといい――」

「ふん、勝手に人の獲物を奪おうとしてんじゃねぇよ! インクアイリー!」

「……え? がふっ――」


 上から銀光と白光を放つタチウオが、凄い勢いでコトネを貫いて湖の中へと突っ込む寸前にHPが全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。そして、それをやった斬雨さんとジェイさんが湖の中から浮かび上がってくる。


「……折角の奇襲の機会を変な形で失いましたか。まぁ状況が状況のようなので仕方ないですが、ケイさん、これは共闘の真っ最中と考えてよろしくでしょうか?」

「どういう登場の仕方をしてんの!? 確かに赤の群集と共闘中だけどさ!」


 青い矢印の反応が2つ同時に現れたと思ったら、また空からの斬撃での奇襲かよ! 今のタイミングで、そういう攻撃をしてくるって……元々狙ってたのは、どう考えてもコトネが元々の狙いじゃなくて、俺らだよなー!? 

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