第1266話 囲まれた状況
流石はウィルさん、やっぱり侮れない人だな。うーん、完全に周囲を囲まれてしまってる状態だけど……この包囲って、即興のものか? それにしては、動きが統率され過ぎている感じもするんだけど……。
「さて、状況が状況だ。1つだけ情報交換をして、その後この場はお互いに見逃すってのでどうだ?」
「……ウィルさん、それを受けなきゃ俺らをこの場で仕留めるって状況だよな?」
「それは否定はしねぇぜ、ケイさん。……だが、それに旨味がないのも分かってるだろう」
「……ですよねー」
ただ仕留めるのが目的なら、囲んだ状態になった時点で何も言わずに襲い掛かればいい。でも、そうならずに囲んでいる状況をわざわざ教えてきた。……まぁ簡単に仕留められる気もないけど、それはウィルさん達も承知のはず。
となると……元々、妙に反応がない場所を探ろうとしてる相手を誘き出すのが目的か? ライさんは、誘き寄せた後に包囲網を完成させるまでの時間稼ぎが役割だったのかも。
その上で情報交換を持ち掛ける計画? うーん、ウィルさんの場合だと、それだけじゃなくて裏にも何か仕込んでそうなんだよな。
「この提案は、お互いに悪い話でもないはずだ。インクアイリーが色々と動いている現状では各群集を動かしている顔見知りほど、信頼はしやすいからな」
「どうもウィルさんがそういう発言をすると、逆に警戒したくなるよなー!」
「おいこら! どっちの味方だ、ライさん!」
「いやー、客観的な事実としてだな? 俺を助けてくれたのには感謝だけど、そこは信頼の担保で捕まったままの方がよかったんじゃね?」
「……ウィル、流石に否定がし切れんぞ」
「賛同してたのに、ルアーまでかよ!」
えーと、なんだか助けられたはずのライさんから苦情が出てるっぽいけど……これはどういう流れ? まぁライさんの意見には全面的に同意だけどさ。
「あー、手順をしくじった気もするが……ケイさん達は、情報交換をする気はあるか?」
「……こっちは既に話してるようなもんだし、話すならそっちからって事なら考える」
「ま、それは違いねぇな。そういう事なら、こっちから話を切り出させてもらおうか」
俺らの方からは、ライさんから反応を引き出す為に連れ去られた群集支援種の話は出している。実際、ライさんは赤の群集の群集支援種のサツキが連れ去られたって言葉に反応してたしな。
「俺ら、赤の群集の群集支援種であるサツキが何者かに連れ去られているのは明言しておこう。その上で聞くが、灰の群集のミズキも連れ去られたという認識で合っているか?」
「あー、それで合ってるぞ」
「……即答か。灰の群集の手口ではないと思っていたが、やはりその読みは間違ってなかったみたいだな」
「その感じだと、赤の群集での作戦でもないっぽいな? ……いや、そういう自作自演という可能性も否定出来ないけどさ」
こういう言い方でわざわざ疑っていますと伝える必要もないんだけど、ウィルさん相手だとそうした方がいいだろ。そういう意図がないとしても、牽制を入れておかなければ……どこかに偽情報を流し込まれかねないしなー。
って、あれ? 共同体のチャットの項目が光って――
「はい! ウィルさん、ちょっと質問です! 私達を誘き出す為に、ライさんが餌になってましたか!?」
「あー、そこは誤解があるな。ライさんには、この場所への偵察を頼んでいたんだよ」
「それだと、私達がそこへ通りかかったって感じですか!?」
「ま、そういう事になる。ケイさん達の存在を察知してから、包囲に切り替えたからな」
「おー! そうなんだー!」
なるほど、そういう流れか。それはともかく……ハーレさんの強引なこの流れの変更は、共同体のチャットの方を見ろって事だろうね。
気になる内容であるのは間違いないけど、俺が言葉を切っても不自然じゃないようにだろうな。よし、手早く確認してきますか!
ヨッシ : ケイさん、ハーレが時間を作るから確認出来たら読んでね。ライさんの姿を確認してから、今の状況は群集へと報告済み。偽の情報でも構わないから、とりあえず情報を得てきてくれってさ。多少は情報を開示しても問題ないそうだよ。
ふむふむ、簡潔な内容が書き込まれていたか。ヨッシさんは妙に静かな気はしてたけど、ライさんが出てきた時点ですぐに報告へ切り替えたんだね。
軽く前の書き込みログを流し見してみれば、ハーレさんが不自然じゃない内容の話題選びをしてたっぽいな。とりあえず、赤の群集から偽情報でもいいから情報を出来るだけ仕入れてこいって事か。
「元々、灰の群集のやり口ではないから疑ってはいなかったんだが……群集としての方針の確認は出来たか、ケイさん?」
あー、意識をそっちに戻したら、確認をしてたのが完全にバレてるよ。まぁこういう手段は他の群集でも使うだろうし、情報が大事なのは分かりきってるんだから、そりゃバレるよねー。
「……変に探り合いをするだけ、今は時間の無駄か。お互いの群集の、群集支援種がどこかに連れ去られているのは確定でいいんだな?」
「あぁ、それはさっき言った通りだ。お互いに見つけ出す必要はあるが、それに関しての情報交換をする気はあると考えていいか?」
「まぁなー」
とはいえ、俺らがミズキが連れ去られたのを把握したのは割とさっきの話。探す上で有力な情報は……それほどないんだよな。
あるとしたら、ミズキが連れ去られた時の霧に覆われた部分の情報くらいか? そういや霧の偽装や、無所属の『瘴気共鳴』とやらの存在は知ってるのかは気になるね? ……ちょっとカマをかけてみるか。
「今はウィルさん達、赤の群集が仕込んでた事じゃないと仮定して話すけど……そうなると仕掛けてきたのは、青の群集か? インクアイリーだと、2つの群集の群集支援種を連れ去るとかは無理だろ」
「いや、可能だぞ、ケイさん。いくらなんでもそれはインクアイリーを甘く見積もり……なるほど、ハッタリというか、カマをかけてきたな?」
「え、そうなのか!? ……ケイさんも油断ならねぇな!?」
ライさんは気付いてなかったけど、ウィルさんにはあっさりとバレたかー。いくらなんでもバレるの早過ぎない?
でも、これで意図的に情報を伏せようという意図は無さそうだなー。この件はインクアイリーが仕掛けてきている可能性も、十分なほどある訳か。
「灰の群集があの霧の偽装に関して、何も知らないとは思えないからな。連れ去られた事を把握してるのなら、連れ去られた時の光景は把握しているはずだ。ケイさん、何か否定要素はあるか?」
「いや、何にも? 実際にカマはかけたし、霧への偽装は把握済みなんだなー。ただ、これだけは本当に確認。インクアイリー、それだけの事が出来る規模って考えていいのか?」
「……確認出来ている戦闘のタイミングから、本体のインクアイリーを含めて参加人数は3桁に軽く届きそうだ。正確な人数は分からんが、それだけいれば不可能な範囲ではない」
「……そんなにいるのかよ」
3桁に届くって、連結PTを4つ用意してもまだいける人数だよな。PT単位で考えればもっと増えるし、ちょっとした大規模な共同体レベルじゃん。
群集のような1つの勢力として見るには少ない人数かもしれないけど、あくまで観測出来る範囲での人数でこれなら、実際の人数はもっと多い可能性があるな。……本当に厄介だな、インクアイリー!
「ただ、この手のやり方は青の群集もやりかねんからな。インクアイリーだけに警戒すればいいとは言えないだろうよ」
「そりゃルアーの言う通りだなー。てか、赤の群集としては青の群集とインクアイリー、どっちの可能性が高いと思う?」
「まだどっちとも言えないって見解だったよな、ウィルさん」
「あぁ、そうなるが……ライさん、それは迂闊に言い過ぎだ」
「おっと、すまん!」
へぇ、ウィルさんとしては今の情報は伏せておきたかった部分なのか? まぁどっちとも言えないと判断したって事は、インクアイリーと青の群集、両方が実行出来るだけの手段を持ち合わせている確信があるからこそか。
その根拠になる事は……俺らにとっては、昨日の青の群集との総力戦と、インクアイリーからの安全圏への襲撃になる。でも、どっちも赤の群集は関わってはずだけど……どこからか情報を仕入れられた? それとも、それ以外に確信するだけの何かがあったか?
「それはそうとして……灰の群集のミズキも、偽装した霧らしき何かに覆われて上空へ連れ去られたという認識で良さそうだな。どういう風に連れ去られたか、まだ言ってないのに気にしないって事はそういう事だろう?」
「……ご明察の通りで」
あー、しまった! そこは同じ手段だと思って、特に追求しなくていいとスルーしちゃてた!? くっ、知らない事だと思わせるには、知らないフリをしないとあっさり見抜かれる!
「なんか、ウィルさんもケイさんもお互いに出し抜こうとしてねぇ!?」
「ライさん、競争クエストってそういうものかな!」
「いやまぁ確かに、サヤさんの言う通りだけどよ!? 今くらい、お互いに手札を見せ合ってもいいんじゃね!?」
いやー、それが出来ればいいんだけど……ウィルさん相手に隙を見せれば、今みたいにあっさりと見抜かれるしなー。ぶっちゃけ開示しようとする情報を見抜かれるまでならいいけど、そこに罠が仕掛けられる可能性を考えたら……気が抜けられない!
「……思った以上にケイさんに警戒されてるみたいだな。とりあえず必要最低限の情報は得られたから、今回はこのくらいで終わりにしておこう。ケイさん、それでいいか?」
「まぁ俺らとしても、赤の群集の群集支援種が同じ状態になってるのが分かったので十分だしなー」
それに、赤の群集も霧の偽装に関しては同等レベルで把握しているのも何となく分かった。インクアイリーか青の群集か、どっちかにその偽装での攻撃を受けたのかもね。
別に氷の操作Lv10でなくても、俺らが試してみた氷雪の操作と発光の組み合わせでも十分なほどに偽装として通用はする。……流石に操作系スキルLv10の存在については話題には出せないしなー。下手すると、灰の群集にはその正確な情報がまだ存在していない事を見抜かれかねない!
って、ちょい待った!? 獲物察知の効果が切れそうな直前にそういう反応が出るのかよ! 情報交換は終わりになったから、こういう動きをし始めるか!?
「ウィルさん、なんで包囲が狭まってきてんの!? このまま1戦やる気か!?」
「いや、待て待て! こんな指示を出してねぇ! おい、何があった!?」
「ちっ、なんで全体が下がってきている!? ダメージも入っているのか! 一体、何があった!?」
「返事が来ないのはなんでだ!?」
これは……ウィルさんの狙いではないっぽい? むしろウィルさんもルアーもライさんも混乱してるみたいだし……ちっ、悪いタイミングで
獲物察知の反応が切れたし、正確な状況が分からん!
「ケイ、どうなってる!?」
「俺としても、意味不明な状況! これ、灰の群集のみんながやってるって事は!?」
「そういう情報はないよ! でも、各自の判断で動いてるだろうし、可能性はあるかも!」
「あー、俺らが囲まれてるのを見つけて、それを助けようって流れはあり得るのか。とりあえず効果が切れた獲物察知を再発動する! サヤとハーレさんは周囲を目視で確認で!」
「はーい!」
「任せてかな!」
何が起こっているのかそれを正確に把握しない事には対処が出来ないもんな。あー、水がまた邪魔だな。もう状況的には必要ないし、元に戻しとくか。さっきみたいに再度操作する必要もないしなー。
他の場所での戦闘の余波がここまで影響してきてる可能性もあるし、現状確認を最優先で! 湖の水は普通に置く感じで、元に戻しておく。アルが半分くらいは持ち上げたままだし、これでも大丈夫だろ。よし、これでいい。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 94/122(上限値使用:1)
再び反応を確認して……って、この反応は!? 赤い矢印はどんどん湖の方へと押されている感じだけど、それをしてるのはこれか!
「これ、黒の統率種に統率された瘴気強化種からの襲撃だ! しかも、相当な数がいるから、黒の統率種は1人じゃないぞ!?」
「っ!? このタイミングで、襲ってくるか!?」
「……インクアイリーが……仕掛けて……きた?」
「分からん! 白い反応は特に無し!」
だー! どう見ても反応的には10体以上だし、イブキから聞いた黒の統率種での限度10体を超えるから、複数人いるのは確定! タイミングを合わせて攻撃してきた事を考えればインクアイリーの可能性は高いけど……これって青の群集の傭兵集団って可能性もあるんだよな!
「ケイさん、よく複数人だと分かったな? どこでその情報を仕入れた?」
「ウィルさん、詮索してきてる場合か!」
なんかさっきまでの慌て方と違って落ち着いてるな!? 今はまだ赤の群集で囲んでいた人達が襲われているだけだし、ここで俺らが逃げの一択を選んでも――
「……状況は一応把握出来た。どうやら黒の統率種が集団で襲ってきてるみたいだな。青の群集の傭兵の可能性もあるが……黒の統率種になった傭兵だけなら、無所属集団だという定義は出来る。ルアー、共闘は成立するぞ?」
「なるほどな。ケイさん、協議での取り決め通りに灰の群集へ共闘を要望するが……応じる気はあるか?」
「なんかそれって屁理屈じゃね!?」
あー、でもインクアイリー相手への共闘ではなく、無所属集団への共闘だから……条件としては満たすのか。
どっちにしても青の群集だという確証はどこにもないし、無所属集団として黒の統率種を仕留めた方がいいのは間違いないな。……もし仮に青の群集の傭兵だとしても、似たような穴を突いてるようなもんだし、気にするだけ無意味な気もするしね。
「なんでここで襲ってきたのかは気になるし、その共闘は受けた! あと、単純に共闘の実績作りで!」
「ははっ! そうしてくれると助かるぜ、ケイさん! やるぞ、ルアー、ライさん!」
「「おうよ!」」
赤の群集の傭兵の人へ、灰の群集のプレイヤーが共闘を受け入れずに攻撃したって事もあったしね。ここで実際に共闘を行ったという事実もあった方が、後々になって色々と動きやすいはず!
「みんな、赤の群集との共闘を開始! 殲滅目標は黒の統率種が率いている瘴気強化種! 可能であれば、黒の統率種も仕留めるぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
さーて、思わぬ形でウィルさん達との共闘する流れになったけど……これ、赤の群集の自作自演って事はないか?
さっき俺が言ったように、それこそ共闘の実績を作る為にとか? いやいや、その可能性は流石に……ないよな!? ウィルさんの場合だと、それがあり得そうなんだけど!?
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