第1265話 湖の中には
安全圏から離れて、ミズキが連れ去られたという場所へと向かっている最中。その途中にあった、獲物察知に何も引っかからない湖真上へとやってきた。
獲物察知は効果時間切れになったけど、作戦通りにやっていきますか! 湖の中に何かあればそのまま戦闘へ、何もなければそのまま水を戻して進むだけ!
「それじゃアル、やるぞ!」
「ケイから先に指定してくれ。持ち上げた後に俺の方で指定していく」
「ほいよっと」
まぁ水の操作の指定が重なると面倒だから、順番は決めておいた方がいいな。……うーん、こうして真上へ来た時点で何かあるなら仕掛けてくる可能性も考えてたけど、それは特に何もないね? まぁやれば分かるか!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります> 行動値 119/122(上限値使用:1)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります> 行動値 113/122(上限値使用:1)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
片方で湖面の水を最大まで指定して持ち上げて、その状態でもう片方も同じように最大まで指定して持ち上げていく! 特にこれといった異変は見えないけど……いや、俺じゃ見極めきれない可能性もあるか。
「おし、いくぜ! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」
「……湖底が……見えたけど……何も……ない?」
「……ううん、そういう訳でもなさそうかな! ハーレ!」
「見えてるのです! 『魔力集中』『狙撃』!」
おっ、ハーレさんが何もいないように見える湖底に向けて思いっきり狙撃をして……って何か姿が浮かび上がってきた!? あ、カメレオン!?
「おわっ!? ちょ、相変わらず見破るの早過ぎじゃね!?」
「って、ライさんか!? なんで1人で湖の中に!?」
「さらばだ、ケイさん! 『自己強化』『飛翔疾走』!」
俺らを見て一目散で逃げ出したよ!? てか、何かあるのは間違いじゃなかったけど、まさかのライさん1人のみ!? 赤の群集、一体何を企んでいる!?
「サヤ! 風音さん! ライさんを逃すな!」
「……一気に……行く! ……『高速飛翔』」
「どういうつもりか、話してもらうかな! 『魔力集中』『共生指示:登録1』!」
「おわっ!? あ、こりゃ死んだ方が早いか!」
「えっ、全然躱さないのかな!?」
サヤとしては牽制で放ったつもりのエレクトロボールの連発を無防備……いや、わざわざ全弾に当たりに行ってる!? 纏水をしてたのか、普段より見た目が青いし、これはマズい!
「サヤ! そのまま死ぬ気だから、攻撃は――」
「分かってるかな! 風音さん、捕まえて!」
「……うん! ……『アースクリエイト』『岩の操作』」
「げっ!? あちゃー、捕まったか……」
「……ふぅ、焦ったかな」
サヤの竜の口から吐き出していた電気の球を途中で止めて、わざわざ攻撃に当たりにきていたところを風音さんが岩の操作で拘束成功。まさかあのタイミングで逃げる手段としてわざと殺されに動くとは思わなかった。
残ってたエレクトロボールは……あ、地面に向けて放っておくのか。まぁ使い切っておかないと、次のスキルの発動が出来なくなるもんな。
「……ケイ、湖の水はどうする?」
「あー、そのまま持ち上げたままで、湖底まで降りてくれ。その後、周囲を確認するのに邪魔にならない位置に適当に持ち上げとくぞ。ハーレさん、俺が少し時間を稼ぐから、その間によく観察しといてくれ」
「了解です!」
「おうよ」
小声で指示を出して、とりあえず風音さんが捕獲したライさんの元へとアルが移動。さて……ライさんが一体ここで何をしていたか、探っていきますか。まぁ大人しく教えてくれるとは思えないけど……。
「よう、ライさん。こんなとこで1人で何やってんの?」
「あー、ちょっとランダムリスポーンで逸れちゃってな?」
「いやいや、その誤魔化し方はどう考えても無茶があるよなー!? ランダムリスポーンは今回の競争クエストには無いだろ!」
「だよなー! 言ってて途中でミスったって思ったわ!」
「そこであっさり肯定するのかよ!」
何をしてたかを大人しく教える気がないのは間違いないけど、誤魔化し方を間違え過ぎてるよ、ライさん! 死んだら安全圏に送り返されるのに、そりゃミスもミスだよなー!?
「逆に聞くけど、ケイさん達は何してんの?」
「こうして、怪しいライさんを捕まえてるとこだけど?」
「見たまんまだよなー!?」
「まぁ事実だし……というか、これじゃお互いに埒が開かないな」
「だよなー! って事で、殺すならサッサと殺せ!」
「いや、それはむしろライさんにとってのメリットじゃん。流石にそれはやらないって」
「でも、このまま捕まってても俺は何も喋らないぞ?」
「……あー、どうしたもんか」
湖の中に何かある可能性を考えた結果、今の状態になってる訳だけど……このままでは、正直どうにもならないな。ライさんを仕留めるのは簡単な状況だけど、送り返す前にその思惑くらいは引き出しておきたいね。
こっちの手札を少し見せて、反応を探るか? ライさんのやっていた事の可能性って、状況次第では俺らと同じ可能性もあるんだよな。
もしそうなら敵対状態でも交渉の余地があるかもしれない。あー、あえて決めつけてかかってみるのもありか。よし、その方向でやってみよう。
「さてと……何を仕込んでた? ライさん1人で、湖の中の敵を仕留めるのは大変だっただろ?」
「……黙秘権を行使する! サッサと殺せ!」
「サヤ、周囲に他の赤の群集の人がいないかを確認してきてくれ。ハーレさんも、見える範囲を見渡して探してくれ。ライさん1人でやるのは流石に厳しいはずだし、単独でいた事にしようとしてる気がする。俺も切れてる獲物察知で探り直すから」
「分かったかな!」
「了解です!」
ハーレさんに探ってもらってはいるけど、その中で敵も追加で探してもらおう。サヤには、もしかするといるかもしれない伏兵への牽制も兼ねて動いてもらう感じで。
何も言わなくなったライさんだけど、ここで殺せと言ってもそうならないのは分かってるはず。そうなると……単純に手詰まりか、もしくはこの状況自体が時間稼ぎの可能性がある。さて、どっちだ? ……ちっ、状況を確認するには俺の持ち上げてる水が邪魔だけど……こうだ!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 108/122(上限値使用:1)
水の操作を解除してから、大急ぎで獲物察知を発動! それでもって、落ち始めた水をこれで!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を3消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります> 行動値 105/122(上限値使用:1)
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を6消費して『水の操作Lv7』は並列発動の待機になります> 行動値 99/122(上限値使用:1)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
落下してくる水を再び制御下に置いてから、近くの反応を確認していこう。えーと、あるのはライさんのものだけ。ん? てっきりライさんが獲物察知の妨害をしてるものかと思ったけど、目の前にライさんの反応があるし、湖の中には他に何もいなかったし、そうでもなさそうか?
「サヤ、ハーレさん、誰か隠れてるか!?」
「ううん、誰もいないかな! 敵もビックリするほど何もいないよ!」
「こっちも同じなのさー! ただ、湖底に足跡があるくらいなのです!」
「……足跡? どんな感じのだ?」
「多分、ライさんのカメレオンだと思うのさー! 何かを探すみたいに、あちこちを歩き回ってるっぽいのです!」
「……へぇ? ハーレさん、ナイス情報!」
「えっへん!」
なるほど、なるほど。ハーレさんには湖の様子を確認してもらって正解か。それに、湖の水を持ち上げたのも正解だったっぽいね。思ったより浅い湖だったけど、まさか湖底を歩いていた足跡が残ってるとは思わなかったよ。
何故1人でいるかは……多分、この状況から考えたら俺らが確認出来てないだけで、距離を保って様子を伺ってるってとこだろうな。大々的にライさんを助けにこないのは……大人数で湖を探っていると悟られたくないからか。
「さてと……赤の群集が探しているのは、群集支援種を隠せる場所か? それとも群集支援種が隠された場所か? ここは浅くてハズレっぽいけどさ」
「……群集支援種が関わってるのを確定にして、その2択の聞き方ってズルくねぇ?」
「そういう反応が返ってくるって事は、どっちかに心当たりはある訳か。知らないふりをしないのなら、隠された場所を探してる可能性の方が高い? 赤の群集はサツキが連れ去られたか」
「……ルアー、サツキが連れ去られてるのが完全にバレてんだけど……どうすりゃいい?」
やっぱりそっちの可能性が当たりっぽいね。ミズキを連れ去ったのが赤の群集ではないという保証にはならないけど、少なくとも同じような状況が発生しているのは間違いなさそうだ。
まぁ同じ被害を受けていると見せかけて、実は赤の群集の自作自演の可能性も否定は出来ないけどさ。それでも何かしらの情報は欲しいから、この状況は捨てる訳にもいかないだろ。
「あー、ケイさん? ルアーとウィルさんが来るんだけど、少し警戒を解いてもらう訳にはいかねぇ?」
「風音さん、変な動きがあったら殺さない程度に適当にライさんを振り回しまくっといてくれ」
「……うん」
「そりゃ解放はしてくれねぇよなー!?」
「まぁ隠れられると厄介だし? サヤ、ハーレさん、ルアーとウィルさんがこっちに来るらしいけど、変な様子が見えたら即座に攻撃に移るぞ。ただし、こっちから最初に手を出すのは無しで!」
「……気を緩めないようにしないとかな!」
「油断ならない2人なのです!」
「そういう事だな。ライさん、2人にはそう伝えてくれ」
「……あいよー。あー、ルアー? 俺は捕まったままだけど――」
ルアーへと説明をしてるみたいだけど、これはフレンドコールとPT会話のどっちだ? 可能性としてはPT会話の方が高いだろうけど……まぁ今はそこは警戒すべき部分じゃないか。
むしろ警戒すべきは、ここにやってくるルアーとウィルさんだな。特にウィルさんは、直接の戦闘でなくても何を仕掛けてくるか分からないから、警戒なんか緩められるか! そもそも2人だけでいる訳がないし、獲物察知に引っかからない範囲で他にメンバーが潜んでるだろ!
「あ、獲物察知に赤の群集の反応が出たな。とりあえず、2人分」
「ケイ、どの方向かな?」
「南側だな。まだ湖の範囲には入ってきてない辺りだ」
「あぅ……まだ霧で目視は出来ないのさー!?」
「ハーレ、警戒は緩めずに、他の方向への警戒も怠らずにかな!」
「それは当然なのです!」
「なんか警戒され過ぎてねぇ!?」
ライさんがなんか言ってるけど、あの2人相手に警戒しないなんて選択肢はあり得ないだろ! 今近付いてきてる理由は戦闘が目的じゃないとしても、対戦中なのは間違いない。
用事が終わった瞬間に、仕留めに動けるように下準備をしていてもおかしくない。……もしそうなったら、持ち上げたままの湖の水を上手く活用して切り抜け――
「わー!? 魚が突っ込んでくるのです!」
「これ、早いかな!?」
ちょっ!? なんか急激に赤い矢印の片方がこっちに迫ってきてるけど、これはルアーか!? 話をすると見せかけて、俺らへの強襲を選ぶのかよ!
「風音さん、アル、上へ飛べ!」
「ちっ!」
「……襲って……きた!?」
「『黒の刻印:剥奪』! 『ウィンドインパクト』!」
「……岩の操作……が!?」
「おわっ! 今が脱出のチャンス!」
一気に距離を詰めてきたルアーが、風音さんの岩の操作を無効化してきた!? ちっ、ライさんに逃げられたか! ルアーは……自分に風を打ち付けて速度を落とした?
「あー、待て、待て、今はケイさん達と戦う気はねぇよ。ねぇけど、味方が捕まってる状態で話ってのもやりにくいから、そこだけは解消させてもらったぜ」
「……ルアー。それで……はい、そうですかと納得するとでも?」
「逆に聞くが、ケイさんは誰か1人が捕まってる状態で冷静に話が出来るのか? それだけ警戒してるんだ、俺らがこの3人だけでなんて事は……考えてないだろ?」
「……みたいだな」
ルアーの言葉に合わせて、獲物察知の効果範囲に赤い矢印の反応が出てきた。……しかも完全に囲まれてるし、1PTどころじゃないな。ちっ、かなり計画的な動きだぞ、これ!
それらの反応の中で、1人が着実にこっちへ近付いてきている。元々反応があったやつだし、これがウィルさんなんだろうな。霧で見えなかった部分から、木で出来たようなクマの姿が現れてきたし……。
「ライに探りを頼んだ湖に、アルマースさんのクジラが向かっているのを確認した時はどうしようかと思ったが……妙な形で話す機会が出来たな」
「……ウィルさん、初めから俺らの動きは見てたって訳か」
「まぁ警戒するのはお互い様だろう。さて、ケイさん、赤の群集と少し情報交換をする気はあるか?」
「それは……内容次第としか言いようがないな」
この状況は一気に俺らが不利になったか? これだからウィルさんって本当に欠片も油断出来ないんだけど……今はお互いに情報が必要なのかもね。
さっきのウィルさんの言葉をそのまま鵜呑みにするのも危険な気はするけど、ライさんをこの湖に送り込んだ事そのものは事実のはず。……何かの罠の可能性も否定は出来ないけど、俺らを仕留めるのが目的なら絶好の機会は逃しているか。
「包囲を解除してくれっていうのは……?」
「悪いが、それは出来ない相談だ。ライを捕まえていた件もあるが、こっちとしても灰の群集を全面的に無条件で信用する訳にもいかないもんでな」
「まぁそりゃそうか……。ただ、それはこっちも同じだから……状況次第では何も話さないからな」
「おう、それでいいぜ。それでこそ、競争クエストだからな」
あー、この神経を張り詰めた状態での情報のやり取りかー。競争クエストという状況を考えたら仕方ないけど、それでもウィルさん相手にはしんどいな……。
それでも、これはやれる事をやるしかない。俺らから情報を引き出されて、向こうの状況は何も分からないという状況だけは避けて、何か決定的で重要な情報を引っ張り出してやる!
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