第1264話 安全圏から離れて
色々と決めたようでいて、実質的には特に何も決まってないまま、割といつも通りの臨機応変での動きに決定。いや、決めようにも情報が足りなさ過ぎてどうしようもないから仕方ないよな!
「それで……ケイ? 結局、どの方向に行くんだ?」
「とりあえず何かヒントがないか、ミズキが連れ去られた場所まで行ってみよう。どこかに移動するとしても、起点はそこだしさ」
何をするにしても、判断材料になる情報が必要だ。ミズキが連れ去られた場所と灰の群集の安全圏への直線上は1番いない可能性が高いけど、そこを逆手に取って隠してくる可能性は否定出来ないしね。
『灯台下暗し』って言葉もあるくらいなんだから、意外と身近な部分が盲点となる可能性はある。……どこの勢力の仕業か、それが分からない以上は色んな可能性を疑っておくべきだろ。
「ま、確かにそれはそうだな。移動速度はどうする?」
「慎重には行きたいけど、あんまりゆっくり過ぎても意味がないから……水流で流すのは無しとして、自己強化と高速遊泳の2つくらいまで? あ、風音さんは高速飛翔だな」
「おし、ならそれでいくか。『自己強化』『高速遊泳』!」
「……サヤさん……どうぞ」
「風音さん、よろしくかな!」
「……うん! ……『自己強化』……『高速飛翔』」
サヤが風音さんの黒い龍の背に乗り、移動開始! 位置的には森の少し上を風音さんが飛んで、その上をアルが泳いでいく感じになったね。まぁあんまり高過ぎても下が見えないと意味ないし、このくらいが丁度いいだろ。
「それじゃ私は本格的に情報収集に移るね。ハーレ、索敵はよろしく」
「任されました! あ、ヨッシ! やっと落ち着いてきて、色々とみんなが動き出してるみたいだから、要注意なのです!」
「あ、そうなんだ。それじゃしっかりと大事な情報を見落とさないようにしとかないとね。ケイさん、とりあえず私達の向かう場所は報告をしとくよ」
「頼んだ、ヨッシさん!」
どうやら色々と話し合ってる間に、競争クエスト情報板も落ち着きだしたか。それなら他のみんなの動きで気になる部分があれば、ヨッシさんが拾い上げて伝えてくれるだろ。
さーて、移動も始まったし、俺は俺で出来る事をやっていきますか! おそらく、ミズキを連れ去った相手は獲物察知封じはしてきてるだろうけど、逆にそれが探り出すヒントにもなる!
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 117/122(上限値使用:1)
あ、そういえば魔法砲撃を発動したままか。まぁ別に発動コストは軽いし、そのままでもいいや。とにかく今は、獲物察知の反応を見ていく!
「ケイ、周囲の反応はどうだ?」
「うーん、ギリギリ引っかかる範囲くらいに赤の群集と青の群集の反応はありだな。雑魚敵に関しては、あちこちで反応があるから……なんとも? 無所属の反応は特になしだな」
「……ふむ、そんなものか」
「まぁ安全圏に近いし、追い払いもしたから、今は下手に攻め込めないのはありそうだけどなー。……既に襲われてるんだし、油断は出来ないけど」
「そりゃ違いねぇな」
青の群集はほぼ不発に終わったとはいえ、青の群集とインクアイリーの2勢力が安全圏を狙ってきてたんだ。そう簡単に2度目の襲撃が出来る状況ではないとは思うけど、どちらも決して甘く見ていい相手じゃない。
「サヤ、ハーレさん、何か気になるものは見えるか?」
「さっき、一瞬だけど骨だけの鳥が見えました! 灰の群集のプレイヤーが倒したみたいです!」
「え、そんなのがいたのかな!? こっちからは見えなかったよ?」
「サヤの位置からだと角度的に微妙に見えないかもしれない位置なのさー!」
「……あー、鳥も骨になって出てくるのか。それに微妙な位置の違いで見える範囲も違うんだな」
視点を変えるために分散させてるんだから、まぁ当たり前といえば当たり前の話。植物系のそういうゾンビやスケルトンの存在を考えたけど、鳥という可能性もあるのか。枝に止まってミズキを操る……骨だけの鳥か。
いや、そもそも群集支援種を支配する敵は種類が固定されてるのか? ジャングルの時は全部がキツネで、スケルトンな敵に操られていたけど……あれはただの偶然で、他の種族でも支配はあり得る?
「ヨッシさん、群集支援種を支配してくる敵は、これまでの4戦で全部種族は一緒だったか、ちょっと情報の確認を取ってくれ」
「あ、うん。ちょっと聞いてみるね」
「……そうか。てっきり同じな気がしてたが、なんでもいいって可能性もあったのか」
「俺も、今それを思ったとこでさ。もし、固定で決まってるなら……これまでの傾向で分かるはず」
「傾向がある方が制限が多くて助かるが……そうでない場合が厄介だな」
「異形な敵を全て警戒しなきゃいけないしなー。まぁ傾向があったとしても、ここの霧の森での傾向が分からなきゃ意味ないけど……」
「何を探せばいいのかが分からないもんね!」
「……あはは、何を探せばいいのかが分からないのは手強いかな」
何か攻略に繋がるヒントを探す為に動いている訳だけど、程々の速度で南下していってる程度だしなー。獲物察知への反応は、チラホラと他の群集の赤い矢印や青い矢印はあるけども……戦闘中っぽい気配のものはない。
無所属の白い反応は欠片も拾えていなくて、逆に黒い反応が山ほど。あとは味方の反応もかー。密集してる訳じゃないから、所々にある空白地点は……察知を無効化してるのか、ただそこに何もいないのか、判別が難しいな。……ちょっと近場の反応がない場所に向かってみるか。
「アル、少しだけ西寄りに進んでくれ。その方向に何も反応が出てない場所があるから、様子を見に行こう」
「おうよ。獲物察知から隠れてるのか、それとも単に何もいないだけなのか、その確認だな?」
「まぁなー。マップと照らし合わせてみたら、多分その位置は水場っぽいし、警戒は強めで頼んだ!」
「了解です!」
「分かったかな!」
水場を避けているだけの可能性はあるけども、避けるような場所があるからこそ隠すには都合がいいとも言える。ミズキが連れ去られた地点まで確認に行くには時間がかかるし、その道中で出来る事はひたすらやっておいた方がいい。
「ケイさん、さっきの情報は回答がもらえたよ」
「おっ、マジか! 他のエリアでの傾向はあった?」
「全部が全部異形化した訳じゃないから断言はし切れないみたいだけど、傾向自体はあったみたい。どこのエリアでも確認出来た範囲では群集支援種の種族は一緒で、乗っ取ってくる敵の種類も一緒だったって。だから、今回も一緒の可能性は高いってさ」
「なるほど、傾向はありかー! 異形な敵ならなんでもいい訳じゃないんだな」
「既に異形な何かに進化した群集支援種がいれば、それを頼りに探れそうか」
「だなー。ミズキも探さないといけないけど、他の群集の……名前はなんだっけ?」
ベスタが言ってた気がするけど、赤の群集と青の群集の群集支援種の名前を忘れたわ! うーん、忘れてても実物を見たら分かるだろうし問題はないか?
「赤の群集がサツキで、青の群集がカズキだったかな?」
「うん、サヤ、それで正解だね。今、みんなで散ってその2体も探してるとこだよ」
「あー、そんな名前だっけ! ……目撃情報は?」
「今のところ、特になしだね。異常に見つからなさ過ぎって意見も出てるけど……もしかすると、他の2体も確保されてる可能性もあるかもってさ」
「そうなってると厄介なのさー!?」
「……可能性は……ゼロじゃない?」
「……そうなりそうかな?」
うーん、積極的に肯定したい可能性じゃないけど、否定材料が一切思いつかん! どこの勢力がやってたとしても、それを実行出来るだけの手段はどこも持っているのは確実なんだよな。
青の群集は昨日見た岩のドームがあるし、インクアイリーには大規模な霧を偽装出来る手段がある。
あれが全てだとは思えないし、別に1人でやる必要はないから、人数を用意すればスキルLvがLv10になってなくても実行自体は出来るだろ。少なくとも、赤の群集にそれが出来ないとは思えない。まぁ俺ら灰の群集でもだけど。
「あ、それとちょっと良くない情報が出てたね。赤の群集と青の群集との三つ巴戦になってた場所があって、そこに無所属のPTが出てきて共闘の条件は満たしたそうなんだけど……」
「あー、傭兵の人がいて共闘を拒んだ?」
「ううん、違うよ。まぁ赤の群集に傭兵がいたのは間違いないんだけど……その、灰の群集の人が……共闘を無視したんだって」
「……マジか」
ちっ、徹底する事は不可能とはいえ、俺ら灰の群集の中でも共闘を拒む人がいたか。……インクアイリーと繋がってる可能性もあるんだろうけど、必ずしもそうとは限らないのが厄介なとこだよな。
「それ、どうなったの!?」
「共闘をしようとした赤の群集の傭兵の人がブチ切れて、共闘は不成立になったみたい。どこが勝ったのかも分からない乱戦で、報告を上げてくれた人は途中で仕留められて、最終的にどうなったかは把握出来なかったってさ」
「あぅ……中々、厄介な状況なのです……」
「……だな」
思った以上に、共闘を成立させる事そのものが難しいか。ただでさえ他の群集との戦闘中なんだし、その中で完全な意思統一は……まぁ無茶な話だよなー。馴染みがある人が相手なら共闘もしやすいだろうけど、完全な初対面だと尚更に……。
せめて、その出てきた無所属のPTの情報がもう少し欲しかったけど、それは無茶か。インクアイリーに関係あるのか、そうでないのか――
「ケイ、湖が見えてきたから、一旦区切ってかな」
「ほいよっと。ヨッシさん、継続して情報収集をよろしく」
「うん、任せて!」
とりあえず探る予定の水場が見えてきたようなので、共闘の難しさを実感しつつも情報収集は一旦打ち切り。さて、それじゃこの辺を調べていきますか! 灰の群集の安全圏からは少し離れたし、この辺ならもうどこの勢力がいてもおかしくないしね。
「アル、風音さん、湖の真上で一旦止まってくれ。そこから調査していくぞ」
「おうよ!」
「……うん!」
という事で、減速しつつ湖の真上へ到着。……マップで見た感じだと小さく思ったけど、実際に見てみれば結構広いな。アルのクジラには狭そうではあっても、それでも泳げるくらいの広さはある。
「サヤ、ハーレさん、何か気になるものって見えるか?」
「湖と陸地の境目に、戦闘の痕跡っぽいものはあるのさー!」
「……何かに水の中まで引っ張られてるような跡かな?」
「……水中に……何か……いる?」
「それは分かりません!」
「澄んだ水じゃないから、水中までは見通せないかな? ケイ、獲物察知での反応はどう?」
「んー、水中には特に何もないぞ? 湖の周りには、チラホラと黒い反応はあるけど……」
いや、むしろこの規模の湖で無反応な方が不自然な気がする。……何かが水中で潜んでいて、獲物察知を妨害してると考える方が自然か?
「アル、水中に群集支援種を閉じ込める手段はあると思う?」
「普通にあるだろ、そりゃ。結構前だが、シュウさんがネス湖で風の操作を使って空気のある空間を作り出してたろ」
「……そういや、そういう事もあったっけ」
言われて思い出したよ、それ。確かそれぞれの群集のサファリ同盟での共同調査に参加した時だっけ。あの時に可能だったのはシュウさんだからこそだったんだろうけど、今は単純にスキルLvやステータスが上がって操作しやすくなってるだろうし、普通に使える人が増えててもおかしくはないか。
「ケイ、強襲を仕掛けてみるかな?」
「少なくとも、このままスルーはしない方がいいだろうけど……ちょっと手順を考えさせてくれ。そのままサヤが突っ込むのは、それはそれでリスクが高いしさ」
「……分かったかな」
必ずしも湖の中に何かがいるとは限らない。こういう湖は点在してるんだから、あからさまに何かあるように見せかけてるだけかもしれないしなー。その為に湖の中の敵は全て処理してる可能性も考えられる。
それに水場には罠が仕掛けられてるって情報もあったはずだし、それも無視出来ないか。湖は罠だという認識を植え付けて避けるように誘導して、本命を隠す為の安全な場所を用意している可能性だってある。
もし何も無いとしても、この湖には何も無かったという情報が大事だね。さて、そうなると……どうするのが安全だ? サヤに限らず、誰かが突入というのはリスクがあるけど、確認しないという選択肢はなしだよな。
あー、それならこれでいくか。水中だからって、わざわざ水の中に入らなくても問題ないわ。
「アル、並列制御を使って2人で湖の水を持ち上げるぞ。4つも同時に使えば、何かがあれば見えるだろ」
「……深さ次第な気がするが、その案に乗るぜ」
「おし、それじゃその手段でいくぞ! サヤと風音さんは、もし湖の中に何かがいたら強襲を仕掛けてくれ」
「任せてかな!」
「……うん!」
湖の中に入らず、湖の水の方を退けてしまう大作戦! 多少濁ってる水だから少し操作が難しいだろうけど、まぁそれでも少し持ち上げるくらいはどうって事ないだろ。
仮に湖の中に何かがいたとしても、想定してるのは水中戦か、湖の外からの攻撃だろうしね。意表を突く意味でも、これは有効な手段のはず。
「ハーレさんは、水が無くなった湖の全体を把握してくれ。何か気になる部分があれば、即座に報告で」
「了解です!」
「私は、少しの間は情報収集は中断の方がいいよね?」
「ヨッシさんはそうなるなー。今は大丈夫なタイミング?」
「大事な話をしてる最中ではないから大丈夫。……重要な情報が飛び込んでくるって意味では、まぁ大丈夫なタイミングではないけどね」
「そこを気にし始めると、離れられるタイミングは存在しないしなー」
「あはは、まぁそうなんだけどね」
いつどんな情報が入ってくるかは分からないけど、戦闘に入る可能性がある時はその辺は切り離して考えないとなー。さて、これで何か報告出来るような情報が得られればいいけど……どうなる事やら。
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