第1263話 大きな動き
黒の統率種になっていた時雨さんが、普通の姿へと戻って傭兵として復帰して色々と重要な情報を開示してくれているのは分かった。……インクアイリーのヤバさが更に際立った気もするけど、そこばかり気にしていても仕方ない。
「ハーレさん、もう1つの動きはどういう内容?」
「えっと……アルさん、これはもう動きながらの方が良い気がします!?」
「あー、そうかもしれんが……しまったな。今回は俺もハーレさんも下手に喋るのに意識を集中しながらは動けんぞ?」
「はっ!? 確かにそれはそうなのさー!?」
えーと、もうすぐにでも警戒しつつ動き出した方がいいような内容なのか? いや、それならさっきの話よりも、話す順番はこっちの方が優先じゃね!?
「今更言っても仕方ないから、手早く話して移動開始なのさー!」
「ハーレ、そんなに急ぐ内容なの?」
「もしかして、既にどこかが襲われてるのかな!?」
「えっと、戦闘はもう全部の群集を交えてあちこちで発生してるのさー! それよりも、ミズキが何かに捕まって行方不明になってるそうなのです!」
「……はい? え、仕留められて行方不明じゃなくて、捕まって行方不明!?」
「そうなのさー! 見つけて追いかけていたら、急激に霧が濃くなって、行方が分からなくなったそうなのです!」
「それってインクアイリーの仕業かな!?」
「……可能性としてはありそうだけど、そうと決めつけない方がいいかもね」
「……他の……群集の……可能性も……ある」
「今はどこが仕掛けてきたかは分からん状況で、大々的に捜索中って感じだ。前提としてさっきまでの話を頭に入れておいて欲しかったからこういう順番になったんだが……」
「あー、そうなるよなー!」
くっそ、まさかのミズキの連れ去りが発生してるとは……。赤の群集ははっきりとは分からないけど、霧への偽装に関しては青の群集も大規模でなければ可能なはず。ちっ、どこの仕業だ!?
「……ミズキを連れ去ったのが他の群集でも、インクアイリーでも、狙いは浄化の要所とエリアボスの出現に利用するのが狙いか?」
「おそらくな。ある程度の位置はこれまでの傾向からどこの群集の安全圏も存在しない方角だと予測出来ているし、可能な限り暴走状態ではない段階で近付けたいんだろうよ」
「だよなー」
少なくとも、他の群集には出来るだけ察知されない状況で浄化の要所を割り出したいはず。可能であれば、自分の群集ではない群集支援種を使いたいだろうし……赤の群集か青の群集が、そういう狙いで動いてくる?
もし、インクアイリーだとするなら……同時に全ての群集支援種を確保するのを狙ってくるのかも。いや、確かジャングルで異形へと進化したサクヤとロベルトが潰し合いが発生してたから、その辺の情報を知ってれば逆に1体に絞ってくるか? ちっ、どこが捕まえていったのかで、狙いが全然違ってくるぞ!
「この件に関してなんだが、時雨さんから最重要な内容が話されててな
?」
「あー、異形になった群集支援種を正常化しないまま占拠させるのが、乱入クエストの勝利条件とか?」
「ある程度は予想出来てたが、今ので正解だ」
「連れ去られた時はまだ正常な状態だったらしいから、異形になる前に見つけ出すように動き出してるのさー! それで、見失ったのはここから南の方なのです!」
「なるほど、そういう状況か」
まだマサキの時みたいに、骨の異形に乗っ取られてかけている状態にも達していない訳か。そうなる前に確保されたのか、何らかの手段で異形化を破ったのか……流石にそこまでは分からない状況だろうね。
「おし、それなら俺らは上空から探していくぞ!」
「そのつもりで動くが……ケイ、俺らは偽装はどうする? 必ずしも、上空にいるとは限らんぞ」
「あー……」
確かにあの偽装手段は下から上を見上げる時だけの偽装だし、イブキから聞いた『瘴気共鳴』とやらの効果で霧の中でも視界が確保出来る手段があるのなら……あまり意味はないか。効果があるとすれば、それこそインクアイリーが仕掛けてきた規模でこそ意味がある。
いや、でも霧が濃い時の偽装でなら距離が離れれば分かりにくくなるから意味はあるのか。ちっ、灰の刻印での視界の確保は便利だけど、逆にこれが実際の霧の濃さを判断する足枷にもなってるよ。
「あー、サヤ、ハーレさん、その辺の見解はどう?」
「……自分達の視界を塞ぐデメリットの方が大きいかな?」
「サヤに同意なのさー! むしろ、接近に気付かれて何かしらの動きが出た時に気付きやすくした方がいいのです!」
「……今は俺らの姿を隠すメリットは皆無か。おし、それじゃ偽装無しで行くぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
俺らの方針はこれで決定だ! あ、そういやフーリエさんとシリウスさんは……あぁ、どうやらPT会話で作戦会議中みたいだね。周囲の人達も、それぞれに改めて動き方を話し合ってる最中のようだ。
これは下手に声をかけると邪魔になりそう……いや、でも何も言わずに立ち去る方が失礼だな。
「フーリエさん、シリウスさん、俺らはそろそろ動き出すから、そっちはそっちで頑張ってくれ!」
「あ、ケイさん! はい、分かりました! 皆さんも頑張って下さい!」
「俺らも頑張ります!」
簡潔だけど、今は長々と話している場合じゃないし、これでいい! という事で、みんなでアルのクジラの背の上に乗っていく。
風音さんだけはどうしてもサイズの都合上、アルの上には乗りにくいんだけどなー。まぁそこは仕方ないし、全員乗り終わったらミズキを探しに出発して――
「ところで、ケイ、移動操作制御の再使用時間はどうなっている? どっちも被ダメを受けて強制解除になってたと思うが、偽装の話が出てたなら回復はしてると考えていいのか?」
「もう過ぎてるから、そこは問題なし!」
「それなら了解だ」
インクアイリーのメンバーとの1戦の中で使用不可になってたんだから、あれが終わってから既に10分以上は経過している。てか、もう22時の方が近いくらいだし、開戦してから30分以上は経過してるのか。
まさかまだこのタイミングで、安全圏の周辺から離れられていないとは思ってなかったけど……まぁ、中々に安全圏へととんでもないのが次々とやってきてたもんだな。
「ケイさん、どういう割り振りで動きますか!? それとどの方向に進みますか!?」
「あー、とりあえずその辺は上空に行ってからだな。見渡して見てから考える」
「はーい!」
「って事で、アル、移動は頼んだ! 風音さんは並んで飛んできてくれ!」
「おうよ!」
「……うん」
全員がアルのクジラの背中の上への移動が済んだし、いざ出発! とはいえ、ここからどういう方針で動くかを決めていかないとな。
上空にやってきて、周囲を見渡すけど……特に見える範囲には結構空中を泳いでる魚の人がいるね。でも、遠くは見通せないのは変わらないか。うーん、思ってたよりも上空に人がいるし、ミズキを連れ去った連中が全方位への偽装を施していたら厄介そうだ。
まぁ今はとりあえずマップを開いてみて動く方向を考えていこう。現在地は北側にある灰の群集の安全圏を出てすぐの場所。東には赤の群集の安全圏、西には青の群集の安全圏……で良かったはず。
それを踏まえた上で捜索範囲を絞っていくとして……まずはあるだけの情報を揃えていかないとな。群集のみんなと連携出来そうならそれがいいけど……それが可能そうかも確認しないとなー。とりあえず最優先でここから聞いていきますか!
「アル、ハーレさん、ミズキが連れ去られた位置って正確にはどの辺?」
「中央から少し南下した辺りだそうだ。その近くにある水場で、何かと戦ってるミズキを見つけたって話だぞ」
「なんか蔓っぽいのが伸びてきてて、それを必死に弾いてた感じらしいのさー! そこで急に霧が濃くなったそうなのです!」
「……ミズキが戦闘中? それって、どこかの群集が襲ってたとか?」
「そこは分かりません! ミズキが連れ去られた後、その蔓っぽい何かも姿を消したそうなのさー!」
「……なるほど」
戦っている敵の正体を確認する前に、ミズキそのものが捕まってしまった訳か。うーん、その敵の正体が気になるけど……蔓系の種族?
捕まえるタイミングを計る為に戦闘をしていたプレイヤーの可能性はあるけど、今回の競争クエストはミズキ自体が乗っ取られる可能性が大いにあるからなー。……そっちの可能性も考えないとな。
「ケイ、異形になってる蔓系の植物種族って可能性はないかな?」
「その可能性はあると思うけど、ぶっちゃけ今の段階だと情報不足だから判断し切れないなー」
「……やっぱりそうなるかな」
「……未知の……敵だし……仕方ない」
植物系の異形の敵の姿が確認されていればいいんだけど、さっきまでに情報が流れてる状態でその手の報告が上がってきてるかどうかが問題だよね。重要な内容ではあるけど、時雨さんの情報が大き過ぎる気がする。
チャットという性質上、どうやっても同時に話題に出来る内容の量は限られてくるし……まぁだからといって無駄と決めつけて確認しないのはダメか。正直、少し時間を空けなきゃ無理な気がするんだけど……。
「ダメ元で聞くけど、植物系の異形の敵の情報は出てない? もしくは、赤の群集か青の群集の群集支援種のどっちかが乗っ取られてるって情報」
「どっちもなかったのさー! インクアイリーと時雨さんの情報が落ち着かないと、その辺の状況の確認は無理そうな状況なのです!」
「どうしても大きな話題に目が行きがちになってる状況だな」
「あ、そういう状況なんだね。うーん、それなら少し様子見するしかないのかも?」
「そこは仕方ない部分なのです……」
「まぁ予想通りの状況だから、少し時間を空けますか」
今の競争クエスト情報板を使っての、他のみんなとの連携を取るのは難しい感じだね。ちょっとすれば落ち着くとは思うけど、そこまで待つよりは動き出しておいた方がいいはず。
落ち着いて連携が取れる状況になるまでに、何か少しでもいいから情報は得ておきたいね。
「アル、海エリアの人が上空に沢山来てるみたいだし、上空は任せてもいいと思う?」
「……何とも言い難いとこだな。その辺は海エリアの人に直接聞いた方がいい気がするが……戻ってシアンさん達に聞いてみるか?」
「それもあり――」
って、あー!? 思いっきり横を海流に乗ったシアンさん達が進んでいった!? ちょ、そういう動き方をする!?
「……これは聞けそうにはないかな?」
「……あはは、そうみたいだね」
「ですよねー」
追いかけようと思えば追いかけられない訳じゃないけど、あんな風に目立つ動きをしたのには何か意図はあるはず。てか、あそこまで派手に海流の操作を使ったら、偽装も何もお構いなしだな。
「それにしても……シアンさん達は随分と派手に動いたな。撹乱狙いか?」
「それもあるだろうけど、もし進行上にいたら……そのまま突っ込む気だったりしてな?」
「……あぁ、その可能性もあるか。偽装なんか知った事じゃないって動きになるんだな」
回りくどい事は考えずに、直球でそのまま勝負というのはシアンさんらしいというか……まぁ偽装潰しには有効な手段ではあるよね。結構な人数がいたっぽいし、上空の撹乱は任せてしまおう。
「あれなら、シアンさん達の動きがある近くでミズキを隠すのは避けるだろうし……って、あ、そうか。そもそも上空でミズキを隠す必要もないのか!」
「……木を……隠すなら……森の中……?」
「はっ!? 確かにそれはありそうなのです!?」
「確かにミズキを隠すとしても、上空とは限らないんだな。ケイ、探す範囲はどうする?」
「あー、範囲を絞り込むには情報が足りない!」
インクアイリーが上空から霧の偽装をしてたし、俺らも上空での偽装に使ってたから、危うく上空にしか隠さないと思い込むところだった。それを回避出来たのはいいけど……範囲を絞り込むつもりが逆に広がったじゃん!
競争クエスト情報板が落ち着くまで待って……いや、既に色々と待ちで後手に回ってしまってるから、そろそろ攻勢に転じたい。それに落ち着くのを待ったからと言って、有力な情報が出てくるとも限らないしな。
「だー! 情報がないなら、自分達で探しに行くまでだ! 割り振りを考えるからちょっとだけ待ってくれ」
「おうよ」
アルが端的な返事をして、他のみんなは無言で待ってくれている。さて、この今の色々な状況を考慮した上で、俺らだけで何かを見つける為の割り振りをするとなれば……サヤとハーレさんをどう配置するかが問題か。うーん、下方向への索敵もしておきたいし……よし、決めた。
「サヤ、風音さん、悪いけど風音さんの上に乗って別行動を頼みたい」
「いいけど、どうすればいいのかな?」
「……別……行動? ……離れる……の?」
「あー、別行動っていってもバラバラで動く訳じゃないぞ。風音さんの龍に乗った状態で、アルの真下へ行って警戒してもらえるか? 主に下方向への索敵と防御を担当してもらいたいんだけど……」
「あ、そういう事かな! うん、それなら任せて!」
「……危機察知の……分散……?」
「まぁその狙いもあるなー。あと、急な戦闘になったら強襲を2人でよろしく!」
「……任せて!」
「任されたかな!」
サヤと風音さんは地上側の偵察部隊。どうしてもアルのクジラの巨体が、真下への死角を生み出すからそこのフォローを任せよう。
「ヨッシさんは情報収集を頼む!」
「競争クエスト情報板が落ち着いたら、知らせればいい感じ?」
「そうなるなー。まぁこの辺はいつも通り、何か動きがあればで!」
「了解!」
状況次第では俺と交代しながらにはするけど、とりあえずはヨッシさんに情報収集の担当をしてもらおう! なんだかんだで最新の情報は大事だしね。
「アルはいつも通り移動役で、ハーレさんは上空側の警戒と索敵を頼んだぞ! 俺は上空の方の攻撃や防御に回るからな」
「風音さんとサヤ以外は、大体いつも通りか」
「ふっふっふ、いつも通りに動けるのが1番大事なのさー!」
「そういう事だな! 後は状況次第で、臨機応変に動いていくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「……うん!」
さて、ようやく安全圏から離れての行動開始だ! 連れ去られたミズキを見つけ出すのが最優先事項ではあるけども、他にもやるべき事は色々ある。
まぁ何に遭遇するかにもよるし、何にも遭遇しない可能性もあるし、ここからも気を引き締めてやっていきますか!
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