第1262話 黒の統率種の仕様


 それから色々とイブキに情報を聞いてみて分かった事といえば、瘴気の渦での1回の転移でカーソルの2割程が黒く染まる事、死んだら2割が帳消し、『瘴気共鳴』の効果を得られるのは10分単位で1割ほど使う事、有益だった内容はそのくらいだな。

 他は……話を持ちかけてきたインクアイリーの相手の名前を聞いたりもしてたけど、そもそも姿を隠してて名前どころか相手の種族自体が見えなかったとか?


 後は、分からないか、答えられない事ばかり。まぁ仕方ない部分はあるよな。何でも知ってるとは元々思ってないけど、一切が不明でしかなかった情報が色々手に入ったんだから十分過ぎる成果だね。


「おっ、またちょっと霧が濃くなってきたか。あー、身動きが取りにくくなるから嫌になるぜ……」

「ん? そういや、イブキは『瘴気共鳴』は使ってないのか?」

「今はなー! あと1回でも転移出来たら、黒の統率種になるってのに使ってられるかよ! ちょっと前に消費したばっかだしなー」

「あー、そりゃそうだ」


 カーソルの形状が四角錐の底面を繋げたような形だから分かりにくいけど、今は8割くらいになってるはず? 本人ならステータス表記で正確な割合は分かるみたいだけど、パッと見じゃ分からんわ!


「さてと、思った以上に時間はかかったし、俺はそろそろ行くぜ!」

「あ、一応色々と聞かせてもらったし、対価の上乗せは――」

「無所属の俺が言うのもなんだけどよ、今回は無所属には勝たせるな! それが俺の上乗せ分の要求だ!」

「……本当に無所属が言う事じゃないけど、そんなものは言われるまでもないわ!」

「わっはっは! それでいいって事よ! それじゃフーリエさん、頼むぜ? 俺が黒の統率種になって、インクアイリーの邪魔をしまくってやらぁ!」


 よっぽどイブキとしても、インクアイリーのやり方が気に入らないみたいだなー。まぁ1番不快な状況になってるのは、無所属の乱入勢や各群集への傭兵の人達だろうしね。

 個々人での考え方の違いはあるだろうから、インクアイリーに味方する人もいるんだろうけどね。でもまぁ、1番一枚岩ではないところからの反感は……場合によっては痛い目を見るかもなー。イブキみたいに明確に群集への敵対を選んでいた人が、こうして情報提供をしてくるくらいだしさ。


 さーて、ここでイブキを仕留めて裏切るのも可能だろうけど……それは流石にしたくないし、要望通りの対価を払いますか!


「フーリエさん、瘴気の渦を作ってやってくれ」

「はい! それじゃいきますよ、イブキさん! 『瘴気収束』!」

「おっ、きたきた!」


 そうして纏瘴中のフーリエさんが、瘴気を収束していき、瘴気の渦が出来上がっていく。……よし、これで転移は可能になったはず。


「イブキ! 次に会ったら、ぶっ殺してやるから覚悟しとけ!」

「はっ! 戦力を集めて、今回は羅刹を返り討ちにしてやるよ! ケイさん達も、他の連中も、次は敵だからな! わっはっはっは――」


 その笑い声と共に、イブキは瘴気の渦の中へと消えて転移していった。この転移では行き先がどこになるかは分からないみたいだし、どこでどういう風に進化するのやら……。

 でもまぁ、最後のあれでこそイブキって感じだよな。情報提供をしにきた方がらしくなかったもんだ。


「……これは、俺が使っても黒く染まるはずだな。ケイさん、俺も黒の統率種に進化して情報を探ってくるのはどうだ? 俺だという合図を予め決めておけば、進化した後に意図的に倒されて戻ってこれる可能性はあるぞ?」


 うーん、羅刹がそれを試すか。選択肢としてはありなんだろうし、事前に黒の統率種への進化後に個人を判別出来るようにして、狙って倒していけば元には戻れるはず。だけど……。


「それは悩ましいとこだな……。今からそれは、時間的にどうなんだ?」

「……流石に1から始めるには厳しいか」

「そういう事だなー」


 時間に余裕があるのなら試したいけど、いつどういう動きがあるかが分からない現状ではそこまでの時間を割くのはリスクが高い。有益な情報は得られたとはいえ、イブキとのやり取りで思った以上に時間を使ってしまってるし……。


「ハーレさん、特に急ぎの情報は上げてなかったし、目立った動きは――」

「動きはあるけど、邪魔しないように黙ってました!」

「え、そうなのかな!?」

「……あはは、動きはあったんだ?」

「動きはあるんかい! え、どんな内容!?」

「まぁ何もない訳もないだろうが……ぶっちゃけ、俺らの方も動きの1つだしな」

「……ここも……重要?」


 あったというのが、どういうタイプの動きだ!? どこかの群集が大々的に作戦を動かしたのか、それともまたインクアイリーが仕掛けてきたのか、クエストそのものが進んだのか……どれかによって、大きくこれからどう動くかが変わってくるぞ!

 いや、アルや風音さんが言ってるけど、さっきまでのイブキからの情報収集もかなりの重要情報ではあるか。そこから派生した内容で、大元になるここの流れを変に止めないようにって可能性もあり得るな。


「大きな動きは2つなのさー! 1つは、私達が関わってたイブキさんに関係する流れなのです!」

「具体的には?」

「時雨さんの所在が確認出来たそうです! あえて殺されまくって、黒の統率種から元の状態に戻ってきた状態なのさー!」

「マジか!?」


 まさかの時雨さんの、通常状態への復帰! それにイブキの件が関わってるとなると……あぁ、なんとなく読めてきた。もし、そうなのだとすると……インクアイリーが名前を出してたのは、やっぱり撹乱が目的か。


「もしかして、時雨さんがイブキさんの言ってた事の裏付けをしてくれてる?」

「ヨッシ、今はそれで正解なのさー!」

「今はって事は……少し前から何か動きがあったのかな?」

「うん! 黒の統率種で動いていた時にベスタさん達と偶然遭遇したらしくて、直接色々と伝えられたそうです! 時雨さんは黒の統率種でまだ動くつもりだったみたいだけど、自分の名前をインクアイリーに使われて怒ってたのさー! これ以上の利用を防ぐ為に、大急ぎで元に戻るように動いてたそうです! それに遭遇した人も仕留めるように動いてたってー!」

「……それは……当然!」

「まぁ、それはそうだろうなー」


 レナさんがリアルで確認に行くか悩んでたとこで、直接遭遇して事情を説明したらそうもなるか。レナさんなら黒の統率種になろうとも何かの手段で見分けてはきそうだし、その辺に進展があったのはナイス!


「ほう、時雨は傭兵に戻ったんだな。それならさっきの提案は無用だろうし、俺はそろそろティラノに戻すか」


 あ、そっか。羅刹のさっきの黒の統率種への進化の提案は、黒の統率種での固有の情報を探る為のもの。それを持ってる時雨さんが傭兵として復帰してきたなら、情報は既に手に入る状況だよな。

 もし時雨さんが裏切っていたのなら既にその対処はされてるだろうし、そうなってないのなら問題はなかったって事だろう。


「ほいよっと。そういや今回は羅刹はどう動いてる? ソロ? それともどこかの共同体と一緒?」

「あぁ、それか。今回はモンスターズ・サバイバルの連中と一緒に動いていたが……状況が状況だったから、今は待ってもらっている」

「あー、なるほど。状況は分かったし、わざわざ来てくれてありがとな!」

「イブキが来たとなれば、そのまま放置も出来なくてな。とはいえ、予想以上に想定外な事態にはなったが……まぁ必要以上に待たせる訳にもいかん。動きは気になるが、それは戻ってから確認させてもらうとしよう」

「ほいよっと!」


 という事で、カメレオンでログインしてきていた羅刹は、ログアウトしてティラノへと戻していった。群集所属のプレイヤーだと安全圏に戻されるけど、そうならないのは傭兵の特権だな。

 まぁ、そっちに意識を裂き過ぎても駄目だし、もう1つの動きとやらを確認していきますか! 俺らもこれからどう動くか、それをしっかり考えていかないとね。


「さて、ハーレさん、もう1つの大きな動きはなんだ?」

「そっちの前に、時雨さんの話はまだ途中なのです!」

「あ、まだあったのか!?」

「……言い出すタイミングを逃してたのさー!」

「あー、なるほど」


 うーん、羅刹としては無言で立ち去る訳にもいかなかったんだろうし、かといって長々とこっちに居座ってる状況も良くなかっただろうから……何とも言い難いとこだな!? まぁ、流石にそこは仕方ないか。


「……どんな情報が……あるの?」

「ふっふっふ、黒の統率種で出来る事の仕様の話なのです!」

「まぁその件なのは当然か」

「思っている以上に興味深い内容だぞ、ケイ」

「って、アルも見てるんかい!」


 いやまぁ、まだ次の行動方針を決めて動き出せていないんだし、羅刹とのやり取りで変に中断してしまってたから、自分で見ておくのはありと言えばありだけど!


「簡単に要約するなら、統率が出来る個体は雑魚敵の残滓か瘴気強化種の2種類で、同時に10体まで。統率した個体が死なない限りは解除はされない代わりに、任意での解除は不可。仕留められても、10分は個体の追加は不可。基本的にはヨッシさんの強化統率みたいな自動戦闘でのモードの切り替えだが、1体のみ遠隔同調のように操作する『瘴気支配』が可能……ってとこか」

「え? 直接の操作が出来るのか!?」

「ま、再使用時間は10分あるみたいだし、1体につき1回しか出来んらしいがな。……それでも厄介は厄介か」

「ですよねー!?」


 制限はかなりあるみたいだし、1体につき1回しか使えないのなら操作はぶっつけ本番にはなるはず。似たような種族で事前に練習するにしても……流石に色々と無茶があるよな。


「ただ、その操作する時は本体がかなり無防備になるそうです! 自動戦闘で、敵だけ指定してフルオートが1番楽だってー!」

「え、そうなのかな?」

「遠隔同調みたいなものなら、下手な人が使うと逆にデメリットになりそうだね」

「あー、遠隔同調のデメリットと似たようなもんか」

「……同時の……操作は……意識が……散りやすい?」

「そういう事なのさー!」


 同時に2体の操作が可能になる遠隔同調だけど、あれに類似した仕様なら……まぁ相当に癖が強いな。でも、使う人が使えば相当厄介な事になる仕様でもあるか。


「ちなみにフルオートは普通の敵の動きと対して変わらないそうです!」

「そこはまぁ実際に戦ってみた感じでの印象と同じかな?」

「あはは、確かにそれはそうかも?」

「……攻めて……きた時……敵の……数は……?」

「10体は超えていたか……? いや、全体像は把握し切れていなかったし、何とも言えないな」

「黒の統率種が何人かいた可能性もあるのかな?」

「ないとは、言い切れないよね」

「そこが地味に厄介な部分なのです!」

「……マジかー」


 俺はインクアイリーの無所属のプレイヤー達を相手にしてたから、その辺は正確には分からない。分からないけど、黒の統率種が複数人いた可能性もあるとはね。……個人じゃなかったから、合図としての『時雨』という可能性もあるのか。

 うーん、色々と状況を分かりにくくする為に用意したのがあの偽装の霧? いや、待てよ? そもそもあの場に、本当に黒の統率種自体がいたのか? 仕様的には……げっ、これは確認しとかないと!?


「アル、ハーレさん、その『瘴気支配』をしていられる時間制限は!?」

「1体1回限りだから、時間制限はないそうです! 任意で解除するか、仕留められるまでだってー!」

「おそらく安全圏へと強襲を仕掛けてきていた中に、黒の統率種の本人はいないって推測は出ているぞ。気にしてるのはそこだろう?」

「やっぱりか!? あー、そういうが芸当が出来るのかよ……」


 くっそ、本体は離れた場所で隠れておいて、『瘴気支配』とやらで遠隔操作して、残り9体を自動戦闘で引き連れて動くのが良さそうな仕様だな。しかも、それが複数人? 何の冗談だよ、おい!


「その有効範囲はどのくらいまでだ? まさか距離まで無制限って事はないよな?」

「それは調べ切れてなくて分からないそうです! ただ、本体が死んでランダムリスポーンになった時には、統率した個体を集合させる事も出来るんだって!」

「黒の統率種になったら、『瘴気収束』が自由に使えるようになるらしくてな。それで瘴気の渦を作り出して、統率個体を転移させてくる事が出来るらしい」

「……それは相当厄介そうかな」

「数の不利を、スキルで大きく埋めてきてる感じだね」

「……みたいだなー」


 『瘴気収束』を自由に使える状態なら、さっきのイブキがしていったような転移も自由に出来るって事か。その上、10体の敵を従えて、それと共に転移まで可能。……この辺、いか焼きさんが予め知ってる可能性があるんじゃないか?


「青の群集、いか焼きさんからこの手の情報を得てる可能性は?」

「知っているものと判断しておくって状況にはなってるみたいだな。ま、そうでなくても……誰かしら、試してる傭兵はいるんじゃねぇか?」

「ですよねー」


 少なくとも、灰の群集では時雨さんが試してる訳で……他の群集が試して情報を得ているものとして考えておいた方がいいか。まぁ傭兵と群集の間で連携が取れていればだけど……その辺はどうなってるのやら?


「ちなみに時雨さんに関しては、イブキさんの発言を全部事実だと断定したとこで話は終わりなのです!」

「ふむふむ、イブキの情報は完全に裏が取れたのは重要だな」

「そうなるのさー! それに関連して、強襲してきたインクアイリーの動きの整理をしているのが大きな動きの1つなのです!」

「あー、なるほどね」


 インクアイリーの安全圏への襲撃から始まって、イブキの情報提供と時雨さんの傭兵としての復帰で色々と情報が揃ってきたんだな。なんだか情報が出る度に、インクアイリーのヤバさ具合を実感するんだけど……。

 まぁ今はそれは置いておいて、もう1つの大きな動きを確認していこうか! 今の話と並行して動いている内容であれば、相当重要な流れにはなってそうだしね。

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